第101話 「よぉ、兄ちゃん」
空にかざした拳を下ろしたルーイの視界の端を、何かが素早く横切った。
服屋と隣の建物の間の小道、とも呼べないような細い路地を何かが、まるで猫のようにするっと入っていったのだ。
ついで、がらがらと金物が落ちるような音が鳴り響いた。
「?」
ルーイが首を傾げていると、往来を慌ただしく駆ける、いかにもな様子の破落戸たちが現れた。
「いたか!?」
「こっちにはいねぇぞ!」
「くそっ! どこ行きやがった!」
人目もはばからない馬鹿丸出しの大声は、ルーイの耳にもしっかりと届いていた。
破落戸たちは忙しなく辺りを見回している。
誰の目から見ても、関わり合いになりたくない集団であることは明らかで、通りを歩く人々はその集団を避けるように行き交っている。
(厄介ごとか)
そう感じながらもルーイは視線を向けていた。
関わり合いになりたくはないが、初めての王都で気分が舞い上がっているのも事実だ。
喧嘩と花火は王都の華、と何かの本で見たことがあったような気もする。
これが噂のそれか、と凝視していると、破落戸たちの中でも、一際背の高い男と目が合ってしまった。
騒ぎ立てるその他大勢の男たちとは、明らかに纏っている空気が違う。そう感じたルーイが咄嗟に目を逸らすも時既に遅し。
男は往来を歩く人々の間を縫うように、ルーイへと近付いてきた。
「よぉ、兄ちゃん」
声色で察する。こいつは絶対にまともな奴じゃない。
ルーイの野性的な勘がそう告げていたが、ここで無視を決め込むようであれば、更に事態はややこしくなるだろう。
数瞬前の自分の失態を悔いながらも、なるべく下手に出て穏便にを済ませようと決意し、ルーイは男の声に答えた。




