第102話 「お待たせしました」
「オレ?」
「そうそう、あんただよ。なぁ、兄ちゃん、この辺で女を見なかったか」
「どんな? 女ってだけなら、そこいらにいくらでもいるだろ」
ルーイなりに下手に出て穏便に済ませようと思った結果がこれである。
これで挑発する意図は本人に微塵もないのだ。
当然、受け取る側はそうではない。
案の定、男の眉がぴくりと動いた。不機嫌、というわけでもなさそうだが、心中穏やかではあるまい。
「……あぁ、聞き方が悪かったな。金髪の蒼眼で背丈が「いや、見てないな。それにオレはさっき王都に着いたばっかで、そういう知り合いはいないんだ」
男の声を遮って言う。
男は更におもしろくなさそうに目を細めたが、舌打ちを一つだけして告げる。
「そうか、そりゃ悪かったな。ちょいと人を探しててな」
「こっちこそ力になれなくて悪かったな」
まったくそうは思っていないだろうことは、誰の目にも明らかな物言いだったが、男はそれ以上なにも言わずに仲間たちの元へと戻っていった。
男は一度だけ振り返って、睨むような目を向けてきたがルーイは気付かないフリをした。
「なんなんだ」
先ほどまでお上りさん全開で気を良くしていたのが台無しだ。
男たちは往来の真ん中で堂々と何やら話し込んでいる。迷惑極まりないが、注意するような勇気ある庶民は誰もおらず、皆が皆見て見ぬふりで集団を避けるように歩いていく。
やがて男たちはあちこちに散開していき、背の高い男も含め、一人残らず姿を消した。
「お待たせしました」
そこでようやく用事を済ませたクレハが服屋から出てきた。
ルーイが目を向ければプイスから持ってきたトランクがなくなっていた。どうやら買い物ではなく、トランクを預けていたらしい。
先ほどまでのやり取りをわざわざクレハに伝えることもないだろう、とルーイは何事もなかったかのように平然と返事する。
「んじゃ、行くか。」
「はい」
二人は港区を歩き出す。
歩き出して然程も経たずに、クレハが声を掛けた。
「何かありましたか?」
「何かって?」
「機嫌が良くないようなので」
先ほどまでは建物や行き交う人々に、きょろきょろと忙しなく視線を向けていたルーイが、今はただ正面を向き無言で歩み続けている。
クレハが疑問に思うのも当然のことだった。
「……なんでもない。ちょっと変な奴に絡まれてただけだ」
「そうでしたか。確かに王都はプイスと比べれば人口は比較になりません。その分、少し変わった方も目に着くかもしれませんね」
その後も二人は無言で歩き続けた。
クレハはルーイの態度に疑問を持ちながらも、特に何も言及することはなかった。




