第92話 門を叩いた
〝時の回廊〟から王都の港区に降り立ったクレハは、まず船舶の管理棟へと向かい、プイス行の船便を抑えた。
不幸だったのは王都からプイス行の船便は、日に数本しか出ていないこと。
幸いだったのは一時間後に発つ船便に空きがあったことだ。
急いでいてもいなくても、一時間待つことに変わりはない。この時間で必要なものを準備しようとクレハは考えた。
なにせ急いで飛び出してきたので修行用の袴に道着、草履のままだ。
鬱蒼とした(と記されていた)〝魔女の庭〟を踏破するには、最低限の準備を整える必要があるだろう。
管理棟から出たクレハは港区を静かに歩き出す。
生活の拠点を王都に構えているクレハだが、そういえば港区を歩いたことは、数えるほどしかなかったことに気付く。
とは言っても、普段から歩き慣れている北区と比べれば、人通りこそ少ないが街並みにさしたる変化はない。
強いて言うのならば、白い壁に赤い屋根をした建物が多いのが王都の特徴だが、港区はそれが特に多いくらいだろうか。
後は飲食店も多い。ビオラと何度か足を運んだことはあるが、新鮮な魚介類を使った料理の数々は塩が少し強いものの美味だった記憶がある。
港区に来る者の大半が仕事で来る者たちばかりなので、それを狙ってのことだろう。
クレハは往来を静かに歩き、その中で最初に目に入った服屋の門を叩いた。




