幕間2.風穴と成就
5.東の果ての国のお話 のミヤビとエリューが二人きりで話したこと。ミヤビ視点です
ミィスに家に置き去りにされてもて、エリューと二人きりになった。
とりあえず落ち着こうと、お茶を淹れる。
黙ったままのエリューを見ながら、ついさっきの出来事を思い浮かべた。
つまりエリューは拙のことをそういう目えで見とったってことで。
え、いつからやろ。
全く気付かんかったわけやけど。
ミィスの感じからすると前々からやしみんな知っとったってことかな。
ミィスのことなんも言えへんやん…!
思わず顔に集まった熱を冷えた手で冷ますように触れる。
淹れたお茶をエリューに差し出す。
「ありがと」と小さな声で礼を言ってはくれるけれど、こっちを見てはくれへん。
よく見たら顔が赤いんやけど、これってスキルの所為やなかったん!?
「まず確認やけど」
「うん」
「エリューはあんなに嫌がっとった鬼人の枠にまた入る、でええん?」
嫌で家族から抜けたはずやったのに。
拙の所為でまたその枠に縛るなやんて絶対に嫌や。
「うん、そうじゃないとボクにはなんの影響力もないってわかったから。ミヤビのこと攫ってあげられない。」
「そんな、拙なんかのためやったら」
言いかけた言葉を「違うの」と遮られる。
「ミヤビのためでもあるけど、元々はミィスの力になりたくて。前から考えてたんだよ。」
ぽつぽつと話すエリューは年齢そのままの10歳なんやけど、考えはほんまにしっかりしとって大人びとる。
「鬼人ってミィスを"主"って決めちゃったでしょ?だから暴走してミィスに求婚する輩を今スカンが処理してるんだけど。ボクもその過剰な興奮っていうの?を止めたいんだよね。」
スカンが言ってたんってこれやな。
そんなひどいん。
「ミィスはいつか収まるって思ってるんだけど、ボクはそう思わない。実は成人の儀式ってやつをスカンに先にやってもらったんだ。今は主がいるから隠す必要はないって。」
これはスカンの手に負えんようになったってことやないん。
「ボクはミィスに慣れているから大丈夫だけど、もうほとんど神様なの」
「そんなになん?」
「その神様に求婚しちゃうんだから鬼人って馬鹿なんだけど」
ふふっと微笑むエリューはもうあまり鬼人への嫌悪感がないらしい。
「ボクもわかっちゃったからね、主がいる安心感っていうの?」
「やっぱりそうなん?」
「もし主がいなければおかしくなっちゃうだろうなっていうのはわかったよ。だからって今までのことがよかったとは思わない。だからボクがきちんと管理したいって思ったのもあるよ。折角ミィスが解決してくれたのに、繰り返すわけにはいかない」
大好きなミィスのことを護りたくて鬼人の長になることは考えてはったらしい。
ほんまにしっかりした10歳やわ。
ミィスのことを主やって認識しても、それを微塵も悟らせへんってことは
きっとそれだけエリューの心が芯を持ってるいうことなんやろな。
「その肩書がミヤビの隣に立つ権利になるなら、ボクは更に上を目指すって決めたんだ」
「上?長より上ってこと?」
「ただの長じゃないってこと。スカンみたいに長の中でも一番の長。鬼人の中では総長って呼んでるんだけど。」
どうやらあの出鱈目な強さに至るつもりらしい。
スカンはその強さと権限で、『我に勝てぬ者は主に直接声を掛けることを禁ずる』なんて言うてはるみたいや。
それでも連日戦いを挑まれるそうやから、どうも戦い好きってだけやなかったんやなあ。
「せやけど、それはやっぱり拙が迷惑を…」
大の大人が情けないやんか、10も下の子おに助けられるやなんて。
「迷惑なんかじゃないよ!!」
がばっと立ち上がり、拙を真っ直ぐ見つめる。
ああ、そうか。
拙もあほなんやなあ。
人の目ぇを見るんが怖なって、ミィスの目しか見れへんくなって。
すっかり気づかんかったけど。
エリューの新緑のように鮮やかな緑の瞳がすっかり紅く染まってる。
【真紅】、これを発動してまうほどに真剣やったんやな。
今まで気づかず無碍にしてきた拙を、まだ好きやって言ってくれるんやったら。
今更で悪いけれど、少しずつエリューのことを好きになっていってもええやろうか。
一先ずは、その素直さと芯の通った心の強さに。
「ボクはミヤビのことが好きだよ。だから、外堀から固めたの。もう逃がさない、よ?」
真剣な真紅の瞳に射抜かれて、どきりと心臓が跳ねたんがわかった。
ああもう、ほんまに格好悪いなあ、拙は。
「ほな拙はその囲いにエリューも入って貰えるようにせいぜい頑張らなあかんな、まず無職じゃ格好もつかんしなあ。」
くす、と笑みを零すとぽかんとした顔を返される。
押すんはいけるけど押されたらこんな可愛らしい顔してもらえるんやね。
初めて知ったわ。
スキルのせいやない好意をこんなに向けてもろて無碍にするほど人でなしやないつもりやし、男として責任はとらなあかんと思っとるよ?
年下の女の子にここまで覚悟させてもたんやから。
茨の道を歩かせるってわかってるんやから。
「せめて幸せにはさせてほしいやん、拙の手で」
「えっまって、いいの?勝手に言っておいてなんだけど…ボクと結婚してくれるの!?」
顔を真っ赤にしたまま詰め寄るんはかわええなと素直に思えるし。
きっとこのままエリューの真っ直ぐな愛情を受け取っとったらすぐ絆されると思うんよね。
「エリューに相応しい男になれるように頑張らせてもらうな?」
小さくても勇敢で、何より素直で美しいこの少女の横に並ぼうなんて、情けない拙には途方もない夢かもしれんけど。
「そしたら改めて求婚させてもろてもええかな?せめてそれは拙から」
まだ10歳の少女に触れることは躊躇われて、一歩下がって跪いて願う。
「う゛ぁっ、え、あ、は、はい!!」
強制的に蕩けたあの目ではない、素直な好意を孕んだその瞳。
褐色の肌を紅葉させて小さく肩を震わすその姿。
ああ、これはあかんな。
今は幼いこの姿もあと5年もすれば美しく色づいてしまうやろう。
その時が来るまで拙が我慢せなあかんかもしれんな。
取り急ぎ、セレネルにでも耐え方を聞かな。
あと王都式の求婚方法やな。
出遅れてしもて堪忍やけど、どうせこの気持ちがこじ開けられるんはわかっとるし。
それなら後悔せんように動くまでや。
ここからはなるべく格好ええとこだけ魅せれるように気張るから。
今までの記憶を上塗りしていけるように。
その決意の証に、触れるだけの口づけを頬に落とした。
――後日。
「ってことで拙は何か職につきたいんやけど」
結局ミィスに頼ってまうことになるけど、仕方ない。
王都に綱手なんてあらへんし。
「あ、それじゃあキョウ国大使はどう?」
「え、居らんの?」
いくら鎖国気質やからて最大の同盟国に大使おかんってどういうことなん、自分の国やけど。
「ミヤビから離れたくなかったとか?」
「やとしたらほんまに拙はキョウを出るべきやねえ」
傾国やなんてアンブローズはんは言ってたけど、ほんまにそうやわ。
「宰相に聞いてみる。ミヤビがやってくれるなら多分王都としても助かると思うの。前にキョウ国となかなか連絡が取れなくて困るって宰相が言ってたから。」
「ほなよろしゅう、ごめんな迷惑かけてもて」
「頼って貰えてうれしいよ!あ、試験はあると思うけど」
「むしろないと不安やわ」
それより、とにっこり微笑むミィスに身構える。
いやわかっとるよ。
「エリューのこともうだいぶ好きでしょ」
「拙そないにわかりやすいかな!?」
思わず叫べば嬉しそうににこにこと。
ちょっと腹も立つしぴこん、とおでこを指で弾く。
痛いって全然痛そうやないんやけど。
「ミヤビをっていうかエリューを見てたらわかるよ。かわいいよねえ」
「それはほんまに。」
「ふふ、すっかりめろめろ」
からかうように笑ってはるけど、心から喜んでくれてるんがよおわかる。
「ミィスは前から知っとったんやね」
ミィスは、いうかミィスですら。
「失礼なこと思ったでしょ。気づくよエリューはわかりやすいんだから」
ぷく、と頬を膨らませて怒っているポーズだけ見せてくるけど迫力は皆無やで。
「エリューの保護者として言わせてもらうけど!」
「なんやろか」
腰に手を当てて仁王立ちするこの立ち方、エリューがやるやつやんな。
「きっキスはまだ早いから!!!」
顔を真っ赤に染めてわざわざ言うことちゃうやんなあ。
ちょおっとほっぺにちゅっとしただけやん。
まあそれでも顔を真っ赤にするエリューがほんまにかわいかったんやけど、それは拙だけが知ってればええしな。
「あと2人とも幸せになって」
ふっと顔を緩め、優しく微笑むその顔は、相変わらず聖女みたいやなと思った。
そんなミィスの祝福を受けるんやから、きっとうまく行くと思うんよ。
「ありがとう、ミィス」
色々ひっくるめて礼を言えば、あんまり嬉しそうに笑うから。
こっちのほうが貰ってる気持ちになってまうんよね。
いつかエリューと一緒に全部返すから、その時は受け取ってな。




