幕間1.姫の晩餐
シュトリヤ視点、まだ婚約者を選んでいる最中のお話
わたくしの、というより王配という立派な役職の人間を選出するのにミィスにとっては5日しかないだなんて本当急かすわよね。
わたくしたちは以前から会っているからもう少し親睦を深めているのだけれど、それにしたって短いと思うわ。
お父様がさっさと譲位したいようだし仕方がないけれど。
そんなに急がなくてもいいのにって思うのだけれど、わたくしの誕生日に、つまり成人と同時に戴冠したいのね。
その準備を考えると本当もうぎりぎりっていうことはわかっているのだけど。
今日もわたくしの執務のあと、夕食をテミスラと2人で摂ることになっているわ。
正直他の2人よりも砕けた話ができるし楽しみですらあるわ。
「今晩は、今日も麗しいシュトリヤ姫」
「ありがとう、テミスラ。誰もいないし目を戻してくれてもいいのよ?」
といってもマリアと近衛騎士はいるけれど、この2人は知っているから問題はないわ。
「君が望むなら。」
わたくしの少しひねたというか遠回しな要求もすんなり聞いてくれるところは一番スマート。
歳の関係かしらと思ったけれど、候補者3人の中では一番年下だものね。
一番デキると思うのだけれど。
「貴方の目は…ミィスとは違うわよね」
今すぐに思い浮かべることのできるほど見てきたミィスの瞳ほど濃い黄金色ではなく、少しだけ淡いシトリンのような色をしている。
「金にも色々あるようだね、僕はミィスより少し薄いかな?」
「ええ。けれど…綺麗よ」
思わず褒めてしまい、あわてて顔を背ける。
こんなふうに褒めるつもりはなかったの。
けれど、回を重ねるごとにこの人わたくしとの仲を確実に深めてくるのだもの。
懐に入るのがうますぎるわ。
そう言うところも少しだけミィスとの、というか勇者の血筋を感じるわ。
「お褒め頂き光栄だよ。」
にこりと微笑む顔はミィスと似ても似つかないのに、どうして少し胸が高鳴るのかしら。
「そうだ、今日はシュトリヤ姫が好みそうなお茶を持ってきたんだ。食後にどうかな?」
「ええ、ありがたくいただくわ。」
こういう贈り物の趣味もいいのよね。
贈り物を外したことがないセレネルを彷彿とさせるのよね、それを思い出すと腹立たしく思うけれど。
「よかった。少し長く一緒にいられるね」
さらりとこういうことを言ってしまうところよこのテミスラ!
思わずカッと顔に熱が集まったのがわかってしまったわ。
竜人化して角を露わにするようになってからの悩みなのだけれど、折角顔にはでないように訓練してきたのに、角がほんのり赤くなるのよ。
マリアに指摘された時は圧し折ってしまおうかと思ったわ。
(何で出来ているのか硬すぎて無理だったのだけど)
この角ってどうしたら制御できるのよ。
爪や髪と同じで意識なんていかないのだけれど!
多分今も赤いのだわ。
マリアがハンドサインで知らせてくれているから。
ただ、知らせてもらったからってどうしようもないのだけれど。現状。
「貴方は…わたくしと話していて楽しいの?」
自分でもわかっているけれど、プライベートのわたくしなんてミィスのことしか考えていないわ。
だから必然的に雑談が全てミィスのことになってしまうのだけれど。
「そうだね、僕もミィスのことを沢山お話できるのは嬉しいからね。」
それに、と一度言葉を切ると、殊更にゆったりとした笑顔を向けられる。
うっかりその笑顔にときめいてしまったわ。
顔がいいのよこの男!セレネルともスカンとも違うタイプだけれど。
儚げで正統派の王子様タイプとでもいうのかしら。
「時々見られるシュトリヤ姫の素顔も可愛らしくて好きだよ」
わたくし気づいてしまったの。
こういう、女性扱いっていうのかしら?
本気の。
受けたことがなかったのよ。
つまり、慣れていないのね。
だから仕方がないわよね、もう。ええ。
繕うのをやめて、手で角を覆うことにしたわ。
「あなたは…そういうところミィスと似ているのかしらね!!」
顔を背けてみたけれど、余裕たっぷりの笑いが漏れているわ!聞こえているわよ。
この人たらし!
「ああ、ごめん。ミィスほどではないつもりだけど」
しかもミィスの天然と違って自覚しているのよね、質が悪いわ!
ミィスの前では穏やかな兄を演じているようだけれど、どうやらこちらが素のようなの。
ちょっと性格が悪いんじゃないかしら、こっちの勇者!
「さすがに20年もあれば、自分が少し特殊なのかもしれないって気づくよ。それに実直なミィスの家系とこちらの家系は少し違うし」
「ミィスは絶対気づかないわ。あの天然たらしっぷりすごいんだから」
じとっと睨んでみても楽しそうに笑うだけで肩透かしを食らう。
「確かにミィスは気付かないだろうね。ふふ、そこが可愛いよね。」
わざとだと思うのだけれど、この男はきちんと"可愛い"を使い分けるの。
ミィスに対しては花を愛でるように。
(ただしその花は世界で一輪だけの特別な花だけど)
わたくしに対してはたっぷりの恋情を込めて。
そろそろわたくしも気づいてきたのだけれど、
この男しっかりわたくしのことが好きなの。
初めはミィスのことが大好きなシスコンだと思っていたのに。
「けど今は、人たらしなんじゃなくて僕は貴女を口説いているんですよ」
不意にする真剣な眼差しもずるいわ。
だいたい微笑んでいるのに。
こんなときだけ。
どうしましょう、わたくしこの姿ミィスに見せられないわ。
「僕だけに見せてくれるなんて光栄だな」
心の中を読まないで頂戴な、わたくしの姫としての矜持を壊されてしまうわ。
「僕は【賢者】が使えるんだけど」
ええ、スキルの話よね?突然なにかしら。
「実は常時発動型だから意識しなくても大まかな感情が読めるんだ。最近できるようになったんだけど」
ぱちり、とウインクされて思わずデザートスプーンを圧し折るところだったわ。
なにそれ!聞いてないわ!
「詳しくわかるわけじゃないよ。姫が今、照れているんだなってことはわかるけど」
含んだように笑うその笑みを今すぐやめなさい。
撃ち殺してしまいそうになるわ!
「照れ隠しが物騒だな、かわいいよ。」
ふふ、と笑いながら本当に出してしまったわたくしの銃口に笑顔を向ける。
「けど」
その笑顔を深めながら銃をそっと取り上げてマリアに渡してしまう。
「食事には無粋だから仕舞っておこうね」
髪を一房だけ取りそっと口付けられる。
「どうか僕を選んでほしい。姫のこと、ミィスくらいには好きだって言える自信があるから」
「わ、わたくしが決めるんじゃないもの」
つんと顔を背ければ、それ以上触れることはないけれどわたしの手を取りお茶用のテーブルにエスコートされる。
じっと見つめられているようなので、渋々その金の瞳を見ると
嬉しそうに微笑まれる。
ほんとう、何よ、何なのよこれ。
み、ミィスもこういうアプローチをうけたりしたのかしら。
あの男に。
だとしたらわたくし以上にミィスの方がダメージが大きかったでしょうね。
だってわたくしよりきっと初心だもの。
「姫もかなり、だと思うけどな」
だから心を読まないで頂戴な。
少し現実逃避くらいさせて、余裕がないのよ。
確実に他の2人と違うっていうのはもうかなり前からわかっていたけれど。
少し悔しいからまだそれだけは内緒にするわ。
わたくし負けるのって嫌いなのよね。
「そういうのフラグっていうんだよね」
「なあに?何か言ったかしら?」
「姫はかわいいなって言ったんだよ」
「な、なによ知っているわ!」
ミィスがいつも言ってくれるんだから!




