表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
終章.執着と言う名のあいの形
88/94

8.戴冠式のお話

そしてそれから2月後。

今日はシュトリヤの戴冠式と、婚約発表会がある。

陛下はシュトリヤを見捨てたことをずっと悔やまれていて、シュトリヤが帰ってきたときに譲位を決めていたそうだ。

わたしなら必ず竜人(ドラゴトロピー)化の手筈を整えてくるから、という信頼の篤さはありがたいけれど。

国民に好かれているし、まだお若いから残念ではあるけれど、乗っ取られかけた責任だと言って聞いてくれなかった。


本日18歳になるシュトリヤが王都初の女王となる。

その情報が王都や同盟各国に広まり連日お祭り騒ぎだ。



その所為で、だと思うのだけれど、わたしはまだセレネルに婚約の証を渡せていない。

シュトリヤに、

「ふさわしい場を準備するから少し待ちなさい」

と言われているのだ。


その時のシュトリヤはぱちりとウインクを添えてくれてとってもかわいかったのだけれど。

嫌な予感がばしばしする。


だって、勇者として参加するのだと思って登城したら、前に贈られて絶対に着ないと誓った白のドレスが準備されていたから。

(しかも前より更にグレードアップしていた)


その時点で察した。

わたしこれ絶対みんなの前で返事させられるよね!?

さすがのわたしでもわかる。



しかもシュトリヤとおそらく陛下たちの企てで、セレネルともあれから2月全く会えていない。

連日のお祭り騒ぎのせいで警備に駆り出されているからだ。

そのつもりでわざわざあの日の次の日に発表したのだろう。


副隊長であるアナトーレも同じく多忙でアンブローズが気の毒だと思っていたのだけど、奴は勝手に魔法で会いにいっていた。

ずるい、大魔導士め。

セレネルは隊長だし、第一隊は任されている範囲も広いのでどうしても忙しい。

更に式典の準備も重なりあの仮眠室が大活躍しているそうだ。


という話をアンブローズから聞いてちょっと腹立たしかった。



この2月で皆は色々な道に進んでいるのにわたしはそれを眺めているだけになっていて、少し寂しくてもどかしい。

それも今日で終わるだろうか。


八つ当たりで魔物を狩るのをそろそろやめたいところ。

(暇さえあれば10区でクスィラさんと狩りをしていた。お金がものすごくたまった。)


ミヤビはこのまま無職では情けないと、在王都キョウ国大使に名乗りを上げた。

鎖国気味だったお国柄、今まで不在だったのだ。

これでもっとしっかりと国交を持てるとシュトリヤが喜んでいた。


今日はご高齢の皇陛下の代わりに皇子殿下がいらっしゃるそうで、その仕事で忙しい。

もちろんサツキ(おにい)さんも同行されるはずなので、王都で会う手段を自分で手繰り寄せたことになる。

「ミィスの綱手なしじゃ無理やったで、ありがとう」とお礼を言われたけれど。

あくまでミヤビの実力で、わたしは口添えしただけだ。


エリューは正式にミヤビの婚約者となり、2人は先日特区に引っ越してしまった。

しかも連日スカンさんと訓練をしているそうで、なかなか会ってくれない。

「立派なレディになるからそしたら見てね!」

だそうで寂しい。

いつかマナーとかそういうのはわたしに頼ってくれるそうなので、それを楽しみにしていたい。



更にアンブローズも2人に倣って特区に引っ越した。

2人きりで住むのは確かにアナトーレにも申し訳ないし、グリゴロス家へ婿入りする体裁が必要だ。

アルケー家は今はもうないけれど、立派な上級貴族だった(獣人の長だったし当たり前だよね)のでシュトリヤが爵位を復活させてくれるそうだ。

なんだかんだであの2人も順調でわたしは嬉しい。

アンブローズは毎日日課のお墓参りに来るので話ができるけど、9割がたアナトーレのことだ。

残りの1割は結界の稼働についてだけど今のところ何の問題もない。


そしてシュトリヤとは端末でやりとりはできているけれど、

当然今回の主役なので一番忙しく、会うことも長い話もできていない。



わたしだけが、宙ぶらりんで足元が揺れている。

王宮騎士にもならずに、このまま魔物狩りをしていては勇者としてあまりに格好悪すぎる。

これじゃあ勇者というか狩人(ハンター)だ。

いっそ騎士の試験をもう一回うけようかな。


はあ、と溜息を吐きながらドレスを着せられてゆく。

城の侍女たちがわたしを気遣うように見てくれるので、無理やり落ち込む気分を吹き飛ばす。

彼女たちにこんな姿を見せてしまうなんて、勇者として失格だ。


どんなに今のところ格好悪い勇者でも、せめて矜持だけはしっかり持たないと。

背筋を伸ばし、にっこり笑う。



今日を乗り切ったら、わたしは就職活動をしよう、そうしよう。



頭の中で職業の候補をいくつかピックアップしたところで、準備が整った。

侍女たちに礼を言い、今日はエドに聖剣を持ってもらう。

ぷるぷると小刻みに震える手で受け取るのはウィルと一緒だ。

ちなみにウィルはセレネルについているらしい。


「エド、何度もいいますがその剣をそんなに怖がる必要はないですよ」

「無理です」

即答されてしまい苦笑を返す。

価値はあるだろうけど、その剣に認められなければ少しも切れない剣だ。

盗むような人が認められるとは思えないし、気負う必要はないのに。


「ところでわたしは何も知らされていないのですが」

ちらりとエドを見るとどっと汗を出している。

かわいそうになってきた。

「あああああ主と認めているミィスさんに隠し事をすることは万死に値するのですが…!!」

そこまで。

「どうか御慈悲を…!!」

と泣きそうな顔で言われてしまってはわたしはこれ以上何も言えなかった。


人選がずるいよね。

ウィルはつつけば口を滑らせそうなタイプだけど、エドは真面目だから自害しそうだもんね。

うん、だから腰の剣を抜こうとしないで。

そして彼らのわたしを崇める度合いが少しも下がっていないのでそれにも気落ちした。



"主できてうれしいフィーバー"(エリュー命名)はいつ終わるんでしょうか。



「ミィスさん、その…どうか頑張ってください。これしか言えず申し訳ありません」

膝を折るエドに、苦笑を返す。

「ありがとうございます。行きましょうか」

時間らしいので呼びに来た王宮騎士に続いて城前広場へ出た。


貴賓来賓がずらりと並び、一般の市民は今日は立ち入れないが、周囲に詰めかけていることは気配で感じる。

勿論映像は端末や各地の大モニターから見ることができる。



何故かわたしの入場は最後だったようなのだけど、普通身分順じゃないのかなあ。

白目になりそうになるのを必死に堪え、貴族風スマイルで切り抜ける。



その途中で、ミヤビとエリューが着飾って座っているのが見えた。

小さいエリューのほうが堂々としていてそれが微笑ましい。


そういえばアナトーレの姿は見ていない。

王宮騎士の第一隊のメンバーは全てこの広場内に確認できるのに。

フェガリさんとセレネルは陛下たちの横に控えているし。


と思ったらその奥でしれっとした顔をしているアンブローズと並んでいた。

王宮騎士の制服を着ているけれど、臨時で警護でも頼まれたのだろうか。



促された場所は最奥で、ここも一番偉いひとが座るところなんじゃないかなあと冷や冷やしながら着席すると戴冠式の始まりを告げる音楽が鳴り響いた。


王宮楽団による正式なファンファーレと共に、広場内外からわっと歓声が上がる。



王陛下が設置された壇上へ上がると続けてシュトリヤが壇上へ向かう。

白く輝く美しい竜の角は光を返して煌めき、

ドレスの裾から時折除く麗しい鱗はエメラルドの様に眩く。

艶めく薄緑の髪も、いつもと違って結い上げられ、可愛らしい雰囲気は一切なく端麗という言葉がふさわしい。


ゆったりと一歩一歩歩み、わたしの前を通り過ぎるとき、ちらりとこちらを見てくれたのが分かった。

笑顔を返すと、シュトリヤも少しだけ目を細めて返事をくれた。



そのまま陛下の前に跪き、少し頭を下げる。

陛下はご自身を飾っていた王冠をセレネルの持つ台へ乗せ、フェガリさんの持つ台からティアラを受け取る。

女性用のデザインものを今回作ったのだけれど、石はわたしが用意した。

シュトリヤに似合うものを全力で探してきたのでわたしも満足している。



それをシュトリヤが授かると拍手が沸き起こった。

わたしも倣って拍手を贈る。

「ここに、王都(アラマ・フォズド)第30代王にシュトリヤ・クレーオ様が就任されたことを宣言いたします」

宰相が述べると、シュトリヤがすっと立ち上がった。


「本日よりわたくしが王都を総べる王となります。」

穏やかな口調で嫋やかな笑顔を浮かべて話し始めるシュトリヤは本当に美しく、皆が目を奪われているのがよくわかる。


定型的な言祝ぎを述べ、「いくつか併せてみなさまにご報告を」と前置きがある。

「まずわたくしのこと。本日を以て、わたくしはテミスラ・マズと婚約することと成りました」

テミスラさんが前へ出て、婚約の証をわたしたちに示した。

王家の決まりでどちらも指環だ。


テミスラさんが持つのは蒼い宝石のものだけれど、中に金が隠れている。

知っていないと分からないと思うけれど、光の反射の加減でたまに金色が見える。

親友と兄のために何かしたいと申し出たところ、相応しい石を献上する栄誉を賜ったのだ。

シュトリヤのほうの石はテミスラさんが探したはずだ。

さすがにそこに介入するほどわたしは野暮ではないつもり。



びっくりするほどこの発表をあっさりと終わらせ(もちろん歓声は大きかったけれど)、その場にシュトリヤだけが残る。

そして、こちらを見たのがわかった。

うん。この場でやるんだね。

わかったやってやろう。




わたしは戦に向かう気持ちできりっとシュトリヤを見返した。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ