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光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
終章.執着と言う名のあいの形
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7.夕日に照らされたお話

今日はアナトーレとアンブローズのデートの当日。

だけれどわたしは残念ながらそれどころではなかった。


今日の夕方セレネルに呼び出されている。

と心的負担に耐えかねて朝起きてきたエリューに思わず吐露したところ

「やっとだね!!」

と叫び方々へ連絡していた。


みんなはどんな用件か既に知っているようだ。

わたしが色んな事に忙しくしていたから気を遣わせてしまっていたのだろうか。

とても嬉しそうだけれど、セレネルの婚約者はみんな知っている人だったりするのかな。

この喜び様はきっとおめでたいことで、他に思いつかないからそう決めつけてしまっているけれどあながち間違っていないと思う。



事実を突きつけられるのが怖く、わたしは生まれて初めて現実から逃げだした。

つまり、この件についてこれ以上触れるのをやめた。

我ながら情けない、けれど嬉しそうなみんなには聞けなかった。

わたしの情けないところを見てほしくもなかった。




今日はシュトリヤが無事竜人(ドラゴトロピー)化してからちょうど1か月でもある。



アンブローズの役割をわたしに譲ってもらって、アナトーレにアプローチできるようになった。

今頃成長した姿のアンブローズをアナトーレは見て驚いていることだろう。


エリューは堂々とミヤビに迫るようになった。

鬼人は情熱的だ、ミヤビが連日押されているのを見るのは楽しい。


スカンさんは相変わらず世話を焼いてくれるけれど、頻度は落ちた。

虫退治というので忙しいらしい。


そのスカンさんが、息を切らせながら我が家を訪れた。

わたしと目が合うや否や肩をガッと掴み、

「我が主、腑抜けている時間はないぞ!!くっ事前に連絡を寄越せと言ってあったのだが」

と揺すられた。

え、何。


何故かぼんやりしていたわたしを置き去りにして、てきぱきとエリューとミヤビに指示を飛ばしている。

しばらくして転移陣からマリアさんが以前みたことのある王宮騎士を連れて現れた。


「すまぬな、我ではそなたを美しく着飾ることはできぬ。彼の者であれば姫ほどとは言わぬが其方を美しくできよう?」

とほほ笑まれ、よくわからないまま頷いた。

マリアさんの手腕はよく知っている。


「其方にはまだわからぬだろうが、ひとつだけ。」

スカンさんは何故かわたしの顔をみて苦笑を浮かべながら、

「あれの執着は我以上だ、気を付けるのだぞ、ミィス」

と忠告してくれた。

何の忠告なのかはわからないけど、「覚えておきます」と返事をしておいた。



スカンさんはやり切った顔をして、再び忙しそうにエリモスへ戻って行った。

「今宵は宴だな」

とかなんとか。

セレネルとスカンさんって祝い合うほど仲良かったんだ。



嵐のようなスカンさんを見送ると、マリアさんがわたしの手を引く。

「ミィス様、姫様より言付けを承っております。」

こくり、と頷くとマリアさんがその伝言を一言一句そのままシュトリヤの声で再生した。

「『わたくしは行けないから、マリアを貸すわ。いい、かわいい格好をするのよ』以上です」

この再現度の高さ、マリアさんって獣人だったのか。

尻尾も耳も見えないから知らなかった。


「ということで、こちらをお預かりしております」

端末から取り出した一着のワンピースを手渡された。

軽い素材でできた、少しの風でふんわりと裾が広がってしまうような。


普通の女の子が着る服だ。

わたしは着たことがない。


「こ、こんなの着れないよ…!?」

「時間がありませんので失礼いたします」

わたしの抗議の声を一切無視し、エリューに服を剥かれてマリアさんにワンピースを着せられていた。


何この連携。

何この早業。


呆気にとられているうちに、メイクや髪型、アクセサリまで全て整えられていった。

エリューも心得ていたように動いていたのだけど、打ち合わせとかしてた?



準備が完了しいつものように聖剣を持ち、家を出ようとしたところで、

「それは流石に無いんやない?」

「ミィスのお馬鹿!そんなの持っていかないの!!」

とミヤビに道を阻まれた上にエリューにそれを取り上げられた。



いや確かにお相手の女性を怖がらせてしまうかもしれないけれど…

わたしこれでも勇者なんだけど…


といい澱めば、「今から少しだけ勇者(やくめ)は忘れて。行ってらっしゃい」

とエリューにふわりと微笑まれた。

ミヤビにも笑顔で見送られ、疑問が溢れてくる。



もしかしてわたしが思っているようなことじゃないのかもしれない。

けど、お祝い事みたいだし…

わたしだけが分かっていないようで、もやもやしてくる。

他にセレネルからされる話に心当たりなんてないんだけど。



マリアさんと王宮騎士に送ってもらい、約束の東の塔へ到着した。

ここは王都で一番見晴らしの良い高台にあるけれど、第一隊の管轄だから許可がなければ入れない。

人払いをするにはもってこいの場所だ。



まだセレネルは来ていないようで、案内された塔の最上階から夕陽に照らされた王都の街並みを眺める。

緩やかな風が撫でる度にふわりと揺れるワンピースの裾が心許無い。

そわそわと落ち着きなく手すりを何度も撫でた。



それが50回を超えた頃。

「ミィス、待たせて済まない」

少し息を切らせて現れたセレネルは、私服だった。

最近ずっと忙しかったそうだけど、今日は休みだったのだろうか。


それとも婚約者とのデートだったり?

貴族が着るフォーマルな私服姿のセレネルを見たのはいつ振りだろうか。

どこか高級料理店へ行くような服装に、つい色々考えてしまう。

素直にかっこういいと思ってしまったら負けな気がして。



けれど、他に人影はなく1人で来たようだ。



あれっと思うのと同時に

「やっとお前に伝えられる」

と、跪いてとろりと微笑まれて。



手を取るわけでもなく、一歩離れて跪く作法をわたしは一つしか知らない。

そして()()に思い至った瞬間、みんなの態度に漸く合点がいった。



どっとわたしの顔に熱が集まる。

わたしはとんだ勘違いをしていたようだ。

通りでみんながわたしをデートに送り出すような態度をとるわけだよね!!



じっとわたしを見上げるセレネルの顔は、半分夕日に染まっている。

とても眩しいけれど、その目元が赤く染まっているのは夕日のせいではなさそうだ。




「俺に、お前の生涯を預けてくれないか」

蕩ける笑顔のままそんなことを言われて、脚から力が抜けてしまいそうだ。

ぐっと踏みとどまり、もう取り繕っても遅いだろうけれど真っ赤になってしまっただろう顔を少し手で隠す。

触れた頬が燃えるように熱い。


「俺をお前の唯一にして欲しいとは言わない。」

わたしがシュトリヤを大切に想っていることはきっと誰よりセレネルが知っていることだ。


「だが、俺は世界で誰よりも、何よりもお前を大切に想う」

わたしを最優先にしてくれるところにセレネルの優しさと想いの大きさの片鱗が見える。


「お前が俺を庇ったあの日から、俺の心はお前だけのものだ」

蕩けるような、わたしが好きなその笑顔はあの日からずっと。



ぱかり、とわたしの目の前で開いた小さな箱に納められたそれは。

どうやらチョーカーのようで、既に返してしまったアンブローズの魔具に似ている。

レース状のリボンの部分が既に銀色に染まっているので、セレネルが魔力を込めたのだろうか。


そこに、小さな金の宝石…はないのでおそらく魔宝玉で彩られたチャームが飾られている。

ニフタ家の花紋である守護(ブローディア)の花。


石の色はわたしの目の色とほぼ同じだ。

これを探してくるのは相当苦労したと思う。

それだけ、沢山、長い間想い続けていたという。


わたしは今までずっと、十数年この大きすぎる愛情に気づかなかったのかと愕然とした。

もしかして、いやもう確実にわたしは向けられる愛情に鈍感なのだろう。


そして今更ながらに気づいてしまった。

セレネルからの愛が幼い頃から当たり前のようにあったから気が付かなかったけれど、

わたしのこの気持ちも、ずっとずっとあったのだ。

当たり前のように、ずっと居たから気が付かなかった。



ぐっと拳を握り、わたしは一歩踏み出す。



これを受け取って、わたしも言うのだ。

作法ではお返しのアクセサリと共に、だけれどわたしはもうこれ以上セレネルを待たせたくない。



わたしの気持ちを一番に尊重してくれたセレネルを、今度はわたしが大切にしたい。



だから、婚約の証をこちらへ捧げ持つその手ごとわたしは包む。

今日に限って素手で居るようで、その燃えるように熱くなった手の体温を直に感じ取る。



「わたしの中にずっとあった気持ちを漸く自覚したの」

わたしも幼い頃からずっとずっとわたしの隣で支えてくれていた貴方のこと。


「待たせてごめんなさい。」

自分のことなのに気づかずにいてごめんなさい。


「シュトリヤと同じくらい」

この世界でわたしが一番に想うと自信を持って言える気持ちと同じくらい。


「わたし、その…せ、セレネルのことが、好き。この世界で一番すき」

命をかけてもいいって自然に思えるくらいだから。



「そ、その、先にお返事だけ」

恥ずかしくなり視線を逸らすと、立ち上がったセレネルにぎゅっと抱きしめられる。

「必ず幸せにする」

「わ、わたしも、セレネルを幸せにしたい」

もう貰うだけでは嫌だから、わたしも沢山あげたい。


「俺はお前が居るだけで幸せだ」

抱き締められたまま、耳元で囁かれて遂に足から力が抜けた。

完全にセレネルに体重を預けることになってしまい、魔力がぼふぼふと漏れてしまっている。



「あっけど、後継ぎとか…!」

「そんなことを気にしてたのか?子供がたくさん産まれれば問題ない」

わたしが悩んでいたことをたった一言で終わらされ、少し釈然としない。

けれど、何も問題がなかったならいいのだ。


ほっと息を吐いた。



わたしの魔力が落ち着いた頃、箱からチョーカーを取り出して手渡してくれる。

「これを、見てくれ」

細かく施されたレース部分。

「こ、これ!!」


がばっと顔を上げるとこくりと頷かれる。

「アンブローズ殿に頂いた」


「…ありがとう、セレネル…!ありがとう!!」

『幸福を祈る』という短い一言だけだったけれど、アンブローズから残る形で"わたしに"なにかもらえたのは初めてだ。

あまり自分を遺したがらないのは、彼が取り残される側だからだったけれど。

それももうなく、普通に生きることを決めたのだとわかり嬉しくて仕方がなかった。


「ああ、その顔が見たかった」

セレネルが齎してくれた喜びが尊くって、感情がもう制御できなくて。

思わず抱き着けば、セレネルも嬉しそうに微笑み返してくれた。




初めてわたしは"普通の女の子"ができた気がした。

ここまで見守ってくれた仲間のみんなにも、今すぐ大好きっていいたい気持ちでいっぱいだ。






そのままセレネルに連れられて家に帰ると、みんなが居た。

どうやらスカンさんが奔走してくれたらしい。

次々にお祝いの言葉をくれる。


みんなやっぱり知ってたというか気づいていたというか…!

知らなかったのわたしだけだったんだね!!


「セレネルくんにならミィスを幸せにできると思うよ。けれど、何かあったら言うんだよ」

テミスラさんは穏やかな顔でほほ笑んでくれる。


「何かあったら言ってくださいね」

とテミスラさんと打って変わって心配げなバルドさん。なぜ。

というか二人とも"何かあったら"って何かあるのかな。


「あれは人の身には過ぎる愛をもっているようですから。」

どうやら竜が心配するほどのものらしい。

「ちゃんと受け止めて返すって決めたから大丈夫だよ」

どんなに大きくっても。


「また街へおいで。みんなで祝福するよ」

クスィラさんの申し出に有り難く頷く。

あの街は穏やかでとても居心地が良い。


()()ありがとう」

アンブローズにチョーカーを指して言えば、ふいっと目を逸らされる。

「頼まれたからな」

なんて言っているけれど、気持ちはわかっているつもりだ。


「あれに耐えられなくなったら我を頼るといいぞ」

悪戯っぽく笑われて、思わず吹き出す。

セレネルの愛情の大きさってみんなが知っていたんだなあ。

「男ならば尊敬する域に達するほどの偉業を成し遂げた男だ。」

謎の評価の高さに首を傾げる。なんかあったっけ?

「ああ、知らぬ方がよい。とにかく我を頼るのだぞ」

再三言われたのでとりあえず頷いておいた。



「よかったです。うまくいって」

そっとわたしの頭を撫でてくれるアナトーレの手に擦り寄り堪能する。

「アナトーレのお話もあとで聞かせてね」

と囁けば、少し首を赤くして、「ええ。聞いてください」と言ってもらえた。


ミヤビには、「スカンにも言われたやろけど、拙も頼ってくれてええからな」

首を傾げると、「ミィスにはわからんことも拙らやったらわかるかもしれへんやろ」

とのことで、確かに。と頷いた。


男性陣の心配の掛け方がなんだか異様なんだけれど。


「ミィス、絶対しあわせになってね」

ぎゅっと腰のあたりに抱き着いたエリューが温かい。

「うん。エリューもね」

と返せば、無言でこくりと頷かれた。

エリューはまだ小さいのに逞しい。



そして、お忍びで来ていたシュトリヤ。

と言っても城直通だからいつもの格好だけど。

「やっとくっついたわね!わたくし一体いつになるのかしらってずっとそわそわしていたのよ!」

ぷん、と腰に手をあてて怒るポーズをとるシュトリヤ。

かわいい。


「ふふ、幸せにならないと承知しないわ。もし何かあればセレネルを一撃で再起不能にしてあげるからね」

多分本気のその言葉に、思わず笑ってしまった。

「そんなのわたしだって。シュトリヤが幸せにならないなら全力で叩きのめすよ」

誰をとはまだはっきり言えないけど。お兄様を。






こうしてみんなで賑やかにご飯を食べて、おしゃべりをして。

とても幸福な時間は瞬くように過ぎてしまったけれど、宝石のようにキラキラとしたこの日のことを、

わたしはきっといつまでも鮮明に思い出せるだろう。








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