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光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
終章.執着と言う名のあいの形
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6.初恋を託すお話

アナトーレのアンブローズのデートの日まであと1日。

今日はシュトリヤのお相手を決める日だ。


彼らに会ってからたった5日で本当に決めてもいいのだろうかという不安で一杯だけれど、なんだか甘い雰囲気になりつつあるミヤビとエリューを見ていると少し心が落ち着く。

そのうち2人で住むとか言いだしそうだな。


明後日のデートプランを練るために単身街にでかけたアンブローズも気にはなるけれど、大人だしそちらは放っておこう。

数百年ぶりだけど大丈夫かな、と思わなくもないけれど。




よし、と気合を入れて登城した。

「シュトリヤ、久しぶり。」

「ええ、久しぶり。あら、元気がないかしら?」

一目みただけでわかるなんてさすがシュトリヤだ。

元気がないと言うか、決断が怖いと言うか。


なんでもないよと首を振り、用意してくれていたお茶の席に着いた。

「ねえミィス。先にわたくしの意見をいってもいいかしら」

「もちろんだよ、シュトリヤの希望も聞きたい」

シュトリヤの希望とわたしの希望が合致すればそれが一番いいけれど、シュトリヤの希望のほうが大切だと思う。


「そう、それならば言うわ。わたくしテミスラが一番…その、好きになれそう、よ」

まさか"好き"になれるとは思わなかった。

「ど、どうして?カラさんもランスロットさんも悪い人ではなかったよね?」

「ええ、勿論。2人ともとても素敵な方よ。けれど、やっぱりミィスなのよ」

にこりと微笑まれてきょとんとしてしまう。


「貴女のことを一緒に愛せるひとでないと、わたくしの相手はできないと思わない?だってわたくしは、ミィスのことが大好きなんですもの」

冗談めかしているけれど、きっとそれは本音だ。


カラさんもランスロットさんもシュトリヤのことが好きだけれど、わたしのことはきっと勇者であることくらいしか知らないし、それ以上の興味はないだろう。

だから、わたしのことを話していてもシュトリヤが一方的に話すだけになってしまう。

今は聞いていても話していても楽しいかもしれないけれど、いずれ辛くなると思う。



それではシュトリヤのことを本当に理解できるとは思えなかった。

だからわたしは彼らを選ばない。

けれど。



「シュトリヤ、あのね。テミスラさんの目ってわたしと似た色でしょう?」

「ええ、そうね。あの瞳もミィスと似ているから好ましく思うわ」



「だからわたし、テミスラさんとシュトリヤの子供だったら、わたしと同じ金の瞳の子供が生まれるかもしれないってそう思ったことがあるの。」

シュトリヤの薄緑の髪に、()()()()金の瞳。

そんな子供が生まれてきたら、それはわたしとの子供みたいじゃない?

それが幻想だってわかっているけど、想像したらとても嬉しくなったのは確かなのだ。


「わたくしもそれ、考えたわ」

素敵よね、と笑うシュトリヤはとてもかわいい。

とても愛おしいわたしのお姫様。


「でもね、シュトリヤ。」

「なにかしら」

「わたしのことをとっても好きでいてくれるのは嬉しいけれど、わたしはシュトリヤ自身の幸せを見つけてほしいの。」

シュトリヤがわたしに、わたしの幸せを望んでくれたように。

わたしもシュトリヤにはシュトリヤの幸せを望みたい。


誰よりも幸せになってほしいのは、お互い様なんだよ。

「…そうね、ミィスはわたくしのことが大好きだものね」


以前感じた違和感の正体だった。

シュトリヤとテミスラさんはどちらもわたし有りきで話をしている。

それはきっかけとしてはよかったけれど、このままではお互いのことよりわたしのことが優先されてしまう。


己惚れているようだけれど、わたしはもう向けられるの愛情を見誤りたくない。

テミスラさんからの親愛も、シュトリヤからの溢れんばかりの愛情も、もうしっかり見えているのだから。


「シュトリヤは、いつか…嫌だけど…テミスラさんのことが一番大切って言えるようになる?」

「無理だわ」


即答だった。

しかも喰い気味だった。



それじゃあテミスラさんを選ぶことはできない。

せめてわたしと同じくらいって言ってほしい。



そう言おうとしたのだけど。

「けれど、」

その前に口を開いたのはシュトリヤだった。

少し言いよどみ、しばし視線をうろうろと彷徨わせる。


「その…わたくし、のことを好きと言うのだけれど、それがなんだか…」

その表情にピンときた。

アナトーレやエリューがする顔によく似ているから。


ぎゅっと手を握ってじっと目を見つめて。

「シュトリヤ、わたしに嘘は吐かないで。お願い」

とお願いすれば、シュトリヤはきゅうっと目と口を閉じて顔を背けた。


その顔かわいい。

「ず、ずるいわミィス、わかっててやっているでしょう」

「シュトリヤがいつもやることだよ?」

わたしに見つめられるのに弱いって最近知ったんだからいいじゃない。

わたしなんて何回シュトリヤの泣き真似に絆されてると。



「ねえシュトリヤ、本当はテミスラさん本人に惹かれてるんじゃない?」

「あう…」

眉を下げておずおずと目をひらくシュトリヤがとてもかわいい。

かわいすぎる。

どうしよう本当にかわいい。

美しい白い角の根本がほんのり赤く染まっているので多分図星だ。

というかそこが赤くなるのね。



「なあんだ、じゃあ心配しなくてよかったのね。よし、テミスラさんに決定!」

ぐっと拳を突き上げてわたしは感情のままに飛び跳ねた。

「え、ちょっと、いいの!?わたくしの意見を聞いただけじゃない?」

「いいの。わたしの中では決まってたから。」


テミスラさんはちゃんとシュトリヤを一番大切にできる人だもの。

しかも他の2人とは違って、憧れで恋をしていないからきっとシュトリヤの暴走を諌めてくれる。

…よね?

自分で言うのもなんだけど、シュトリヤはわたしのことになるとちょっと暴走するんだよね。

止められるのはもうテミスラさんだけだと思う。





わたしは上機嫌のままシュトリヤと別れ、その足でテミスラさんの邸へ向かった。

他の2名の元へも今頃城から使者が結果を伝えに言っていることだろう。

正式な発表はまだ先だと思うけど。


「テミスラお兄様!」

「やあミィス。君が直接来たということは僕に決まったと思っていいのかな?」

「はい。」

すっとその場に跪き、問答無用でテミスラさんの手を取る。

ぎょっとして立つように促されるけれど、その手をしっかり握り込む。


これでも鍛えているからね。

離したりしない。



「どうか約束したいただきたいのです。

わたしのシュトリヤへの想いを受け取り、それ以上にシュトリヤを愛し、何よりもシュトリヤを大切にすると。」

しっかり握った手を額に押し当てる。

騎士の誓いだ。

まあわたしが誓うのではなくて、()()()()()()と強要しているのだけれど。



何か言おうとしたテミスラさんを遮り、更に畳みかけておく。

「わたしはテミスラお兄様にならシュトリヤを任せられると信じて選びました。どうか、わたしの期待を裏切らないでくださいませ」

ちらりと上目遣いでテミスラさんを見れば、面喰った表情。

だけどゆっくりと穏やかな微笑みに変わる。


「もちろんだよ、ミィス。」

ぐっと手を引かれて立たされて、逆にテミスラさんがわたしに跪いた。

そしてわたしの手を額に当てて、誓いの言葉を述べる。

「僕は君に誓って、シュトリヤ姫ご本人と、彼女が大切にするものすべてを大切にすると誓うよ。」

テミスラさんは握ったわたしの手の上に自分の手を重ね、そこに口付た。



えっなにこの配慮、さすが紳士、素敵。

これでテミスラさんの騎士の誓いを受け取った。

もし破ることがあるならば、わたしが直々に手を下す。




「ありがとう、テミスラお兄様。シュトリヤをよろしくお願いします」

「うん。ミィス、君のことも妹として大切にするのだから、何かあれば相談するんだよ」

「頼りにしています、よ?」

「君は人のことばかりだから本当に心配なんだけど。」

ふう、と苦笑するテミスラさんと別れ、次はセレネルだ。




真っ先に伝えたかったのだけれど、さすがに本人を差し置くわけにはいかず。

城へとんぼ返りして、セレネルの居る第一隊の執務室へ向かう。


「あ、ウィルこんにちは。セレネルはいますか?」

「ミィスさん!ええ、少々お待ちを」

相変わらず目が合っただけで目を潤ませるウィルさんはいい加減にわたしを神格化するのをやめてほしい。

エドもひょいっと顔を出すや否やすごい音を立てながら騎士の礼を取る。

それもやめてほしい。礼って音が鳴る物じゃないんだけど。


「ウィル、エド、俺は少し外すがすぐ戻る」

「はい、いってらっしゃいませ!!こちらのことは気になさらずに何時間でもどうぞ!!」

本気なのか冗談なのかわからない見送りを受けて、執務室の奥にあるセレネルの個室へ入った。

誰にも聞かれるわけにはいかないからここしかない。



家はいまミヤビとエリューがいるので邪魔したくない。

といえば、お前の家だろうに。と渋られた。

いま2人は大事な時期なんです。


ここは普段使われていないけれど、たまに夜勤が発生した際の仮眠室らしい。

ベッドと小さな棚のみ並んでいる。

「報告だけだから。わたしはテミスラさんを選んだよ」

「そうか。俺もそれが一番いいと思っていた」

安心したように息を吐いたかと思うと、もうこの話は終わったと言う様にこちらを見るセレネル。


「…えっと?もう聞かれたくない話はお終いだから、部屋をでよう、か…?」

少し不穏な空気を本能で察知したわたしはドアノブに手を掛ける。


が、扉が開かない。

セレネルが足で押さえているのが見えてしまった。


「これで、俺が把握している案件は全て片付いたわけだが。他に今のお前を煩わせていることはないな?」

ドアに追い詰められながらセレネルを見上げると、いつもの笑顔ではなく真剣な目をしている。

「な、ない、です。あとはわたしは応援くらいしかできないし…」

「そうか、では」

とろりと微笑むと、わたしの手をさっと取り、掌に軽く口づける。



「明日、18時に東の塔へ来てほしい。」

今ここですらできない話、ということに気が付き火照った頭がすっと冷えた。

もしかしたら、シュトリヤの婚約者が決まったことでセレネルの新しい婚約者を紹介できるようになった、とか?


「わ、わかった。また明日!!」

こんな顔を見られたくなくて、全力でセレネルを振り払って逃げた。

きっとわたし、うまく笑えていない。




わたしはどうしてしまったのだろう。

もし明日、セレネルに婚約者を紹介されたりして、わたしは祝福できるだろうか。

あんなに笑顔だったのだから、きっといい話なのだ。


大切なセレネルのことだから、祝福したいのに。

したいのに、きっとできない。






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