3.騎士団のお祭りのお話
アナトーレのお休みまであと4日。
今日は騎士団全体の催事がある。
騎士団内でのトーナメント戦となっており、これで上官の目についた人は今後取り立ててもらいやすくなるし、上官は才能ある人材を見つけやすいしということで毎年開催されている。
(黒騎士のお祭りとはまた別で、あちらは上官が参加しない息抜き的なもの。出店とかが出るタイプのやつ)
身分や所属関係なくすべての騎士が参加する。
数日前から予選が開かれており、今日は決勝トーナメントの日。
決勝トーナメントのみ、一般に公開される。
そのチケットの争奪が毎年激しいと聞いたことがある。
(わたしは毎年フェガリさんが招待してくれていた)
順当に各隊の隊長と騎士団長であるフェガリさんが勝ち進んでおり。
今大会ではおそらくセレネルとフェガリさんが優勝を争うことになるだろうと言われている。
優勝決定戦のみ陛下と王妃様、シュトリヤも観戦するのだが、騎士が出払うイベントだけにどうしても薄くなる護衛のかわりにわたしもシュトリヤの隣で観戦することを許された。
最近陛下の職権乱用が留まるところを知らないんだけど甘えてていいのかなあ。
一応護衛任務を外注したという形なので、今日は騎士服ではない。
シュトリヤが選んでくれた私服だ。
少しフォーマルな格好で、いつものシュトリヤが選ぶ服の感じではないけれどこれもかわいい。
男性の貴族が着用するようなシャツにベストスタイル。
ところどころにレースやフリルがあしらわれているので可愛らしさもある。
さすがシュトリヤだ。
わたしは早朝からシュトリヤの護衛ということで準備を手伝っている。
よって決勝トーナメントは一戦も見れていない上にシュトリヤに「内緒よ」と言われており結果すら知らない。
「うふふ、あの男にも決勝まで勝ち残らないとミィスにいいところ見せられないわよって言ってあるからきっと頑張っているわよ」
勝ち誇ったように美しく微笑んでいるのでつい笑ってしまう。
セレネルにちょっとした意地悪をするシュトリヤはどこまでもいつも通り。
わたしたちの関係は無理に変えなくてもいいらしい。
過度な親愛表現さえなければ、かな。
「候補者の方たちも来るんでしょう?わたしが隣でいいの?」
「ええ、今は逆に誰かを特別にするわけにはいかないもの。」
片側のお隣は王妃様と決まっているし、確かにわたしが護衛と称して隣にいる方がいいのかもしれない。
「シュトリヤは毎日会ってるんでしょう?どう?」
「そうねえ、みなさんお話してみると意外と楽しいわよ。」
思ったより肯定的な意見にわたしも嬉しくなる。
こ、恋バナってやつだよね!前はエリューに押されてちゃんとできなかったから少しそわっとする。
「どんなお話するの?」
「そうねえ…ええと…そうね…」
少し視線を彷徨わせたあと、ぽつり、と。
「ミィスのお話、よ」
零すように告げられて無事にわたしの心臓は大爆発です。
かわいすぎるんですけどわたしの姫!!
「とくに、テミスラは本当に楽しそうにあなたの話を聞いてくださるのよ。
わたくしとしてもそれが嬉しくって、つい時間を忘れてしまうくらい」
仲良くなるツールがわたしというのは嬉しいようで複雑だ。
これでいいのかなあ。
少しだけひっかかりを覚えつつ、時間になってしまったので決勝の試合を行う会場へシュトリヤをエスコートする。
ひとまず上手く親交を深めているようで、そこは安心している。
席につくぎりぎりまで教えてくれなかったのだけれど、
どうやら決勝戦はセレネルとフェガリさんの親子対決が無事に実現したらしい。
そうだとは思っていたけれど事実を聞けてやっとほっとした。
シュトリヤはサプライズが好きなんだよね。
陛下たちが観覧席に着かれ、決勝戦が始まる。
フェガリさんはこの催事ではわたしが見てきた限りずっと負け無し。
文句なしに王都最強の騎士だ。
伊達に団長を長くやっていない。
セレネルはまだ2回目の参加で、前回は副団長さんに敗退した。
開始の直前に、2人が何か話しているみたいだけどここまでは聞こえない。
「うふふ、あらあら」
竜人のシュトリヤは耳がいいので聞こえているらしく、楽しそうに笑い声をあげる。
「ミィス、セレネルに何か言ってあげて。きっと聞こえるわよ」
結構がやがやしてるのに聞こえるのかな、と思いつつ。
「セレネル、まけないで」
小さな声で呟いた。贔屓みたいになるのはよくないと思うし。
けれど、わたしの背中を押してくれたときのように。
わたしもセレネルの背中をおしてみたい。
だから、セレネルだけに聞こえていればいいのに。
開始の合図の笛が鳴った。
戦神のように獰猛に口角を上げて剣を振るうフェガリさんと、
対照的に少しも表情を崩さずに剣を翻すセレネル。
もはや神話の一幕のような芸術的な美しさに観客もどこかうっとりとしているようだ。
それでいて双剣で繰り広げられる剣戟は集中して見ていないと見落としてしまいそう。
「さっきフェガリが何を言っていたか教えてあげるわ」
じっと試合をみつめるわたしの耳にそっと口を寄せ、シュトリヤの美しい声が耳を覆う。
「『俺に勝たねばまだやれんぞ』って言っていたのよ」
ちんぷんかんぷんだ。
情報が少なすぎるのですけれど。
目の前の試合から目は離さずに、こて、と首を傾げれば、シュトリヤに頬をつんと刺される。
「あなたのことよ、ミィス。あの父親気取りは自分に勝てる人にしかあなたを渡したくないって言ってるのよ」
愛されているわね、とからかうように言われて顔が熱くなる。
だって、それじゃあまるで。
「『娘さんを僕にください』ってやつみたいよねえ、物語みたいだわ」
寸分たがわず想像した通りの言葉を準えるシュトリヤに、わたしの顔は真っ赤に違いない。
「そ、それだとセレネルが、わた、わたしのこと、」
思わずシュトリヤのほうを見る。
「あら?あの馬鹿なにやってるのよ」
む、としたシュトリヤの声に慌てて試合を見れば、僅かながらセレネルが圧し負け始めている。
あくまでシュトリヤとわたしの想像だし、
実際あの2人の会話にどういう意図があったかとかはよくわからなかったけれど。
わたしは思わず立ち上がって叫ばずにはいられなかった。
「セレネル、勝って!」
少し騒めいていたはずの会場にわたしの声は思ったより響き渡った。
注目を集めてしまったけれど、構うものか。
セレネルの視線だけがちらりとわたしを映したのがわかった。
無表情だったその顔が少しだけ緩んだのも。
そのあと持ち直したセレネルは、あっという間に…とはいかなかったけれど、フェガリさんに競り勝った。
「ふむ…まあこれならば」
と穏やかに微笑む貴重なフェガリさんに、会場が沸いた。
「さて、あとは表彰式ね。ミィスもいらっしゃいな」
すっと立ち上がるシュトリヤにあわせて慌てて立ち上がったけれど、聞いてないよ!!
「えっ!?だめだよわたし騎士服じゃないし!」
「大丈夫よ、なんのためにわたくしが服を選んだと思っているの」
はやく、と促されて渋々シュトリヤを表彰状へエスコートする。
確かに今日は服は足も出てないし珍しいなとは思っていたんだけど。
シュトリヤはこういうの内緒にするのをそろそろやめてほしい、心臓に悪いから。
こういった公務も徐々にシュトリヤが主体になるようになっているようだ。
陛下ももしかしたら近く譲位を考えているのかも、と考えてしまうけれど今のわたしはぴったりと隣に寄り添って護衛に徹することにする。
といってもここは城内で、危険なことなんてないけれど。
「今大会の優勝者、セレネル・ニフタ。よくやったわ。」
短い一言だったけれど、シュトリヤはとても穏やかな顔でほほ笑んでいて、それがいつもの姫の顔じゃないこと、多分わたしとセレネルにはわかった。
どうやらシュトリヤは少し素直になってくれたらしい。
セレネルの優勝を心から喜んでいるようだ。
優勝旗を渡す時、シュトリヤはセレネルに何か囁いたようだった。
わたしには聞こえなかったけれど、セレネルも何か返したのが見えた。
大歓声を後に、わたしとシュトリヤは陛下たちと共に先に退出した。
のだけど。
「さっきセレネルと何の話をしてたの?」
「ただの進捗確認よ。さて、ミィス。あなたのお仕事はここまでよ。さっさとセレネルを祝福に行きなさいな」
背中をぐいぐいと押され、わたしは部屋を追い出された。
確かにきちんと騎士たちが増えたので問題はなさそうだけど。
少しわたしもシュトリヤとお話したかったんだけどなあ。
何度か行ったことがあるので迷わずセレネルが居る第一隊の執務室の前まで来た。
けれど、何を言えばいいんだろう。
あの時は思わず大声を出してしまったのだけど。。
ノックをすると、セレネルの声で返事がある。
入室してみると部下が一人もいない。後片付けで出払っているのかもしれない。
「せ、セレネル!優勝おめでとう」
まずはこれよね、うん。優勝を讃えないと。
これで少なくとも次回の試合までは最強はセレネルになる。
幼馴染としてとても誇らしい。
「ああ、お前のおかげだ」
蕩けるように微笑まれ、ぎゅうと抱きすくめられてカチ、と体が硬直した。
「せせせせセレネル?!」
「すまない。嬉しくて」
嬉しくて!?
よくみると本当に珍しくセレネルが浮かれている。
違う珍しいとかいうレベルじゃない、初めて見た。
「まさかあの場でお前の応援が得られるとは思っていなかった」
「え?」
浮かれている理由が、わたし…?
「お前はこういう試合では良くも悪くも公平だろ。公衆の面前で俺を名指しで応援してくれたのは初めてだ」
そう言われてみれば確かに、と思い至り更に恥ずかしくなった。
けれどわたしはあの時、どうしてもセレネルに勝ってほしいって思ったの。
それでいつもはやらないようなことをやってしまったのだけれど。
なんでどうしても勝ってほしいって思ったんだっけ?
ぎゅうぎゅうとセレネルに抱きしめられながら思考を飛ばしていると、
ちゅっと頬に柔らかい感触。
「…!?」
反射的に距離を取ろうと体を捩ったが、それを予測していたらしいセレネルに阻まれる。
「お前が抱えている問題をさっさと解決してくれ。あと魔力はどれほど必要だ?」
再び、今度は額に降る口付けにぶわっと顔に熱が集まる。
「う、え…!?」
「父親気取りの許可は得たからお前の用が片付いたらもう容赦しないからな。覚悟は決めておけよ」
蕩けるような笑顔のセレネルにそのまま家まで送ってもらったのだけどあまり記憶がない。
覚悟…覚悟って何かな!?
「ボクから見ても遅すぎるくらいだよ、ミィス。今までのツケってやつだね」
エリューから意味深なお言葉を頂き、更に混乱した。
ねえエリューそろそろ知ってること話してくれないかな!?
「無理だよ、ボクだって命が惜しいんだから」
膠も無い!




