2.婚約者候補たちとのお茶会のお話
アナトーレのお休みまであと5日。
今日はシュトリヤの婚約者候補たちと、シュトリヤの5人でお茶会をする日だ。
多分セレネルが仕事と称して見える位置にずっといるだろうから実質6人だけど。
シュトリヤの婚約者候補は色々あって3人に絞られた。
会う前で申し訳ないが、セレネル判断で切られた人が7人ほどいる。
相談を持ち掛けたところ、
「お前が会うまでもない」
とさくさく削られたので、そこはセレネルの判断を信じた。
まずはテミスラさん、22歳、人間。
若くして上級貴族であるマズ家の当主。
関係は秘密なのにボロがでないかが心配だ、とセレネルに言われた。
余計なお世話だ。わたしだってやらなくちゃいけないときはやる。
(王妃様に怒られちゃうから!)
ちなみに城の法務部のトップに最年少で就任しておりかなり優秀。(注:アナトーレ談)
武力的な意味では人間としてはトップレベルだが他種族相手だと準備が必要(注:セレネル談)
2人目はランスロット・オーウェンさん25歳、白馬の獣人。
中級貴族でありながら候補に選出されるほど優秀で、穏やかな人柄。次男であるため家を継ぐ必要はなし。(注:アナトーレ談)
宰相の部下だが腕もかなり立つ(注:セレネル談)
3人目は、カラ・ユーフォさん28歳、孔雀の鳥人。
優秀な上級貴族の筆頭で、歳を問わず一目置かれ、文官の中ではセレネルと同じくらい有名人。(注:アナトーレ談)
弓の名手だがシュトリヤと同じ飛び道具なので相性が悪い(注:セレネル談)
アナトーレの情報は有り難いけれど、セレネルの情報が微妙に武力に偏っていてあまり参考にならない。
戦術の話はしてないんだけど。
とふくれると、事前の他人からの入れ知恵よりわたしの勘を大事にしてほしいそうだ。
鬼人にも貴族はいるのにそもそも候補に入らなかったことはなんというかお察しの通りと言ったところ。
わたしの力が及ばずそろそろ心が折れそうなんだけれど、まだ彼らの中でわたしは天上の存在らしく。
王配には相応しくないとのことです。
わたしもそう思う。
強いからシュトリヤを護ってくれるし、決めてしまえば一途なところもあるのでそういう意味ではいいかなと思ってたんだけど。
今日は貴族モードでもあるけれど、勇者としてのご褒美なので騎士服だ。
今後も勇者として公の場にたつこともあるだろうとわたし用のものを作ってくれた。
誰がとは言われなかったけど主にシュトリヤが、だと思う。
臙脂色で、金の飾りがたくさんついており華美で、どちらかというと式典用の見た目だ。
しかし流石はシュトリヤ、ちゃんと動きやすい。
「シュトリヤ、どうかな」
「とてもよく似合っているわ。」
にっこりと笑いかけてくれるシュトリヤも、今日はお昼のお茶会なので膝丈のカジュアルなドレスだ。
女神や天使というよりかは、可憐な少女といった雰囲気で可愛らしい。
妖精さんかな。
今日も(まだ)わたしのシュトリヤはとてもかわいい。
では、とシュトリヤの手をとりエスコートしつつお茶会の会場へ向かう。
見栄を張って高いヒールの靴で来たお陰で、そしてシュトリヤの靴にヒールがないため今日はかなり顔が近い。
これは嬉しい。
密かに幸せを噛みしめつつ、花が咲き乱れる庭園へ到着した。
今日はよく晴れているので絶好のピクニック(お茶会だけど)日和。
既に到着していた候補者たちがすくっと立ち上がり、こちらに紳士の礼を取る。
シュトリヤが淑女の礼を返したあと、わたしは騎士の礼を取りシュトリヤに椅子を引いた。
マリアさんがわたしのために椅子を引いてくれたので、有り難く着席する。
候補者たちが3人席につき、お茶会が始まった。
まず挨拶を受けていく。
「改めて初めまして、フォス殿」
テミスラさん(と呼ぶと今日はだめなんだけど)は今日は髪を緩く結び、瞳は蒼に染めている。
貴族男性らしく、白いシャツや緑のベストとパンツといったスタンダードな装い。
いつも通りというか見慣れた感じではある。
「初めまして、フォスさん」
オーウェンさんは薄紫の髪に茶色の瞳で頭頂の耳とふさふさの尻尾は純白だ。
背が一番高く、獣人らしく肌の露出は指先までない。
城勤めの方がよく着ている黒いジャケットを着用しているため、もしかしたらお仕事を抜けてきているのかも。
教育改革で宰相さんが忙しいので彼も忙しいのかもしれない。
「初めまして、フォス君」
ユーフォさんは鮮やかな羽根が腕を飾っているため、逆に袖のない服だ。
羽根を引き立てるように薄い茶系で纏められた格好はとても上品で好感が持てる。
髪と瞳は瑠璃色で羽根と相まってとても華やかだ。
家名で呼ばれるのが新鮮で少し楽しく感じてきた。
呼び方一つとってもばらばらで面白い。
「集まっていただいて恐縮ですが、わたしはシュトリヤのことをわたしより好きになれる人じゃないと嫌です」
にこっと笑って見せる。
テミスラさんは普通の顔をしてるけれど、他の2人は笑顔が引き攣った。
ここまできたらわたしの愛の大きさを見せつけてやりたいのだ。
だって、そうじゃないとわたしの想いが託せないんだもの。
それにシュトリヤのことを好きになれない人なんて絶対に嫌だ。
選んでいいと言われた以上絶対妥協なんてしてやらない。
「うふふ、ミィスったら。今日はどうする?このままお茶をしていてもいいけれど。」
「そうだね、少しみんなでお散歩をしようか。折角シュトリヤも歩ける格好だし」
「あら、素敵ね。今日はお天気もいいわ。庭園の向こうの湖畔まで行きましょうか」
さっとシュトリヤをエスコートしつつ候補者たちを見てにこっと笑う。
ぼけっとしてたら選ばれないぞ、と思いながら。
わたしたちが立ち上がるのを見て遠くで指示をだしている様子のセレネルが見える。
そのセレネルから聞いているのだけど、
この3人は真剣にシュトリヤとの結婚を考えているらしい。
何が目的かはそれぞれだと思うけれど。
そんな話もできたら良いので、まずはユーフォさんと二人きりになる。
つまり面接です。
「ユーフォさんはどうしてシュトリヤと結婚しようと思ったんですか?」
「シュトリヤ姫のことが…その…すき、なので」
と顔を赤くして言われて面喰った。
想像していたのと違う。
「どうして!?どこが!?」
興奮して思わず前のめりになって詰問してしまう。
「うっ…その…城で以前お会いした時に、君と話している姿を見たんだ。その笑顔が普段と全く違っていて、
自分にも向けて頂けたらと…そう思ったときにはその…好きになっていたというか…」
としどろもどろになりながら告げる姿に派手な見た目とのギャップを感じる。
この感じはシュトリヤも好ましく思うかもしれない。
あの近衛騎士と少し通ずるところがある。
そのあとわたしが決めていた時間いっぱいシュトリヤのかわいさについて白熱した意見交換ができた。
わたしが仲良くなってどうする…!
気を取り直して次はオーウェンさんに同じ質問を投げかける。
「私は彼女となら切磋琢磨してもっと上を目指せると思ったからですね。」
この人は成長しようという姿勢が強いようだ。
「彼女はとても優秀で、それでいて人の心もよく理解できる方ですから。
きっと歴史に残る立派な王になられるでしょう。
そんな方の支えになれるのならば、それはとても栄誉なことですよ」
とても真面目らしく、きちんと王配になることを見据えたある意味模範的なお答え。
けれど。
はっきりと口にはしてくれない様だけれど、シュトリヤのことを多分かなり好いている。
時々そわそわとシュトリヤのいる方向をみたりわたしをみたり忙しいから。
しばしの沈黙のあと、決心を固めたように
「フォスさんより好きかは正直わからないけれど、大切にするとは誓うよ」
と言ったその言葉と笑顔がきっと全てなんだろう。
誠実で真面目で、シュトリヤを大切にしてくれそうな人だ。
最後はテミスラさんだ。やっぱり同じ質問を投げかける。
「僕はシュトリヤ姫と一緒に君の幸せを見守りたいと思ったから、かな」
突然にわたしのことが出てきてぽかんと口をあけてしまった。
「シュトリヤ姫って本当に君のことが好きだよね。そこが好きなんだよ、僕は」
にっこり笑うテミスラさんに、どきっとしてしまった。
見たことのない表情だ。
きっと、テミスラさんは兄としてとってもわたしのことを大切にしてくれて、その上でわたしを好きだっていうシュトリヤのことが好きなんだ。
少し複雑な好き、だけれど、そういう感情もあるんだな。
「彼女がミィスのことを話すときの表情、本当にかわいいんだよ」
とほほ笑む顔は、他の2人と同じ。
みんなシュトリヤの笑顔の向こうにわたしを見ていて、それが少し照れくさい。
けれど、同時に全員がシュトリヤとわたしが普通じゃなく仲がいいこともわかっているんだろう。
さすがはセレネルの一次審査を潜り抜けた猛者たち。
三人とも違う理由だけど、全員シュトリヤのことを大切にしてくれそう。
であれば、あとは条件が必要だとわたしは思う。
それを口実に、仲良くなってほしい。
シュトリヤとの相性とか好みだって大切だからね。
「よし、決めた。」
シュトリヤを少し近衛騎士とセレネルたちに預け、3人だけに条件を言い渡す。
「これから5日でシュトリヤから一番沢山話題に上がった人を選びます」
余りに短い期間だけれど、わたしに貰えた期間のリミットぎりぎりなので許してほしい。
全員が忙しく、これ以上時間を掛けられないと言われてしまった。
それにシュトリヤが自然に気に掛ける人がわかると思うから。
そしてこれを口実にわたしもシュトリヤとお話できる機会を貰えるので。
ずるくても構わない。
これからはこうやって強引に予定をねじ込まないと。
決意を新たにお茶会の場を後にした。
このあとわたし抜きでシュトリヤと婚約者候補たちは交流を続けるだろう。
一応決定した日から毎日誰かとは会っているそうだからね。
家へ繋がる転移陣のある部屋へ向かおうとするとセレネルが待っていた。
どうやら送ってくれるつもりらしい。
いつも転移してくれる騎士がいないなという顔が透けていたのか
「便利なので俺も習得した」
と言われて目を瞬いた。
転移の魔法はかなり才能に左右されると聞いたことがあるのだけれど!?
いつの間に!?
「お前を送るのに邪魔が入るのが許せなかった」
すっとわたしの手を取り、転移陣のある部屋までエスコートされる。
折角騎士の格好をしているのに少々台無しなんですけれど。
それでもす、すす好きなひとにこんな風に言われて、ときめかないはずはなく。
今日も短い時間で確実にわたしをときめかせ、魔力を増やして帰っていた。
なんだか翻弄されっぱなしだけれど、わたしの気持ちがかわっただけでセレネルはきっといつも通りなんだよね。
自分でなんでもしたがるセレネルだから転移魔法も取得したんだと思うし。
それでもわたしのため、みたいに聞こえたのはちょっぴり嬉しかった。
勘違いだってわかっているけれど、少しだけ恋に浸ってみたいのだ。
初恋は、自覚と共に手が届かなくなってしまったから。




