幕間3.ときめきの謹慎
謹慎中のシュトリヤ視点のお話。
「ドレスを作るわ」
確かに少し唐突だったけれど、何をいっているんだという目で見るのはやめて頂戴、マリア。
連日の仕事と謹慎でおかしくなったわけではないわ。
「ミィスが戻り次第わたくしの婚約者候補発表のための夜会を開くことが決定したの。その夜会の主役はほぼミィスといって過言ではないわ。
ということはミィスのドレスが必要よね?
ミィスが戻るまで最短で2日しかないけれど、出来うる限りで最高のものを作りたいわ」
見事な論理構成にマリアも言葉を失ったようでなによりだわ。
さあ紙とペンを準備なさい。
と笑いかけるとマリアがおずおずと口をひらいたわ。
「この…お仕事はどうなさるのでしょうか」
「宰相におしつけましょう。そもそもこれ、わたくしをここに閉じ込めるための口実だもの。
別にわたくしじゃなくてもできるのよ」
「宰相様は教育改革でお忙しいはずですが」
「大丈夫よ、宰相ならね」
ウインクを飛ばし、決算書類や嘆願書や色々な書類をわたくし直々に宰相へ叩きつけたわ。
いつもと変わらないはずの穏やかな笑顔が少し曇ったのは気のせいということにするわ。
だって、ミィスがわたくしのために"壁"へ向かったと聞いて普通でいられる?
せめてミィスのために何かしていたいじゃない。
マリアも解ってくれてはいるようで、あまり抵抗せずに紙とペンを準備してくれたわ。
「まずはわたくしの趣味で作りましょう」
「まず…?何着作るおつもりですか?」
「ミィスが帰ってくるまで永遠に作り続けるわよ?」
「裁縫部が死にます。」
「大丈夫、死ぬときは一緒よ」
既にわたくしのテンションがおかしなことに気づかなかったのはマリアらしくないわね。
さあやるわよー!
高らかに拳を突き上げ、わたくしは猛然とペンを走らせたのだわ。
マリアが酷く冷えた目で見ているけれど、どうせ2着目くらいからマリアも加わるのよ。
ということで5分程度で1着目を書き上げたわ。
わたくしの趣味だけでデザインした、夜会には着れないドレスよ。
鬼人の服に使われるあの透ける布は本当にいいわね。
黒一色で、布はたっぷり使っているけれど殆ど透けているわ。
出来上がるのが楽しみね。
「これは…いつ着るものですか?」
「…さあ、いつかしらね」
いいのよとりあえず作れば。と、これを裁縫部に届けさせて(近衛騎士に)、2着目よ。
次はマリアも口を出してくるわ。
「白にしましょう。あの式典のお姿は本当にかわいらしかったです」
「いいわね、白。ミィスには黒のほうが似合うけれど、白も無垢なミィスの雰囲気にぴったりよね」
マリアとあれこれ言いながら出来上がったものは、可愛いとは程遠かったわ。
おかしいわね、けれどこれはこれできっと似合うわ。
最近のミィスはとても綺麗だから。理由を思い浮かべるとむかつくからここは気にしないことにするわ。
ミィスが綺麗になったという事実だけを噛み締めておくわ。
「これを着たミィスはきっと女神様のようでしょうね」
「はい、間違いありません」
でもまあこれをミィスは選ばないでしょうけど。
宝石を散りばめちゃったし。
この調子で、3着目には真紅の定番のもの。
4着目には青の分厚い生地のもの。
5着目には緑のレース生地のもの。
…と作っていったのだけれど、どれも最高の一着にはならなくて、首を傾げる。
「姫、折角ですし紫を使用しては?」
「でもきっとお母様にダメっていわれるわ。」
いつも立場を弁えなさい、と公の場で着る服にわたくしの色を使うことは許されなかったわ。
「ミィス様への"ご褒美"の場でもあるのですよね?」
それに、姫はきっとそれをつくらないと納得されないでしょう。
と言われてしまい、思わず黙り込んでしまったわ。
だって、その通りだったから。
自覚さえすればすぐにでもミィスはセレネルと婚約してしまうでしょう。
セレネルがフォス家へ婿入りするのでしょうけど、ニフタ家は跡継ぎがセレネルしかいないから、セレネルは貴族界から簡単に抜けられないわ。
あの男の仕事量や人気を考えても無理でしょうし。
となると、ミィスの結婚式は盛大なものになるでしょうね、相手がセレネルでなくてもわたくしの勇者ですし。
というか国を挙げてやるわ。今決めたわ。
けれど、ウェディングドレスを贈るなんてさすがのわたくしも弁えることになるわよね。
となれば、満足のいくドレスを贈れるのはこれが最後かもしれないのね。
却下されてもいい。
一番着てほしいドレスを、今度は勢いに任せず丁寧にデザインしていく。
わたくしが一番美しいと思うミィスの背中は大胆に。
けれど決して下品にならないように、胸元にはしっかりと刺繍を施すわ。
「ここに金の糸で月を入れたいのだけれど、こっそりできないかしら」
マリアに尋ねれば、お任せください。
とその部分を請け負ってくれる。
わたくしの瞳の色のドレスに、ミィスの色の糸。そしてセレネルのモチーフをのせたドレスは、わたくしたちの絆。
最後くらい、いいわよね。
「姫、こちらはいかがでしょうか」
示された刺繍のデザインの美しさに、思わずため息が漏れたわ。
「素敵ね、それに知らなければ絶対にわからないわ。ありがとう、マリア」
「いいえ。姫様らしいご提案、ミィス様も喜ばれるでしょう」
こうして出来上がったデザインを裁縫部に送り付けて、
最後に自分用の金のドレスのデザインを送りつけてやったわ。
「こうなったらわたくしのわがままも全部聞いていただくわ。ちょっと駄々をこねてくるわね!!」
眠っていない勢いのまま、お父様とお母様に突撃してやったわ。
「お父様、お母様。例の夜会について少し聞いていただきたいことがあるの」
「シュトリヤ、好きなようにいいなさい。この度の夜会はミィスへの"褒美"の場でもある。何でもありだと根回しは済んでいるよ」
そんなことになっていたなんて。
先に教えて欲しかったわ、とむくれれば、お母様に「暴走したシュトリヤちゃんを止めるのは骨が折れるもの」と笑われてしまい、その通りだったので何も言えなかったわ。
さて、気を取り直して。
「まずミィスのエスコートはセレネルにさせたいの」
と言えば、お母様が大興奮で後押ししてくださった。
お母様ってこっそりわたくしとセレネルよりセレネルとミィスのペアを応援しているのよね。
一応婚約していた手前そんなこと言わなかったけれど。
「シュトリヤちゃん、セレネルくんにはあの礼服を指定して頂戴。あの子嫌がって着ないでしょう」
というのも騎士の礼装は動きにくいらしいの。
仕事には向かないし、本当に綺麗なだけだからあの男は嫌いらしいのよね。
何かと理由をつけて着用しないし、いままでは本当に仕事が優先だったからよかったのだけれど。
あとはセレネルが尻尾を見られるのが嫌っていうのもあるのよね。
礼服は女性をエスコートすることが前提だから外套は片側しかないし、上着の丈を短く作ってあるから隠せないの。
あのふさふさの黒い尻尾はとても可愛いと思うのだけれど、それが嫌みたいね。
一度言ってみたら、死ぬほど嫌そうな顔で、「二度と言うな」と言われちゃったわ。
難しいお年頃なのかしらね?
フェガリなんて堂々と出してるのに。
「確かにミィスのエスコートには普段の服では相応しくないものね、さすがお母様だわ」
これを、とミィスに着せたいドレスのデザインを提出したわ。
内心どきどきよ。
いくら何でも、とか怒られたらどうしましょうって。
それを見て、お父様もお母様もにっこり微笑んでくださったから、わたくしもほっとしたわ。
「きっとミィスちゃんも喜ぶわね」
「ええ、そう思うわ!」
「ファーストダンスは主役のミィスちゃんだけれど、パートナーはどうしたいかしら」
「そうね、ファーストダンスはセレネルに譲ってあげるわ。けどわたくしも次に踊りたいわ!」
認めるようなことを言いたくないのだけれど、セレネルのダンスは完璧よ。
そしてミィスのダンスもうっとりするほど綺麗なの。
わたくしはそれを眺めるので我慢するわ。
その後わたくしのために男性パートを踊ってもらうのだからそれでいいわ。
お母様もミィスのダンスは大好きでいらっしゃるからどちらのパートも見られることは嬉しいご様子。
「最後に、わたくしのドレスを金で作ってもいいかしら」
「そうねえ、まだ彼らは候補で、むしろ誰の色とも言えないしいいんじゃないかしら?」
「テミスラ君は確か目を染めていたね?」
「ええ、彼は普段青に変えていたはずよ」
「であればちょうどいいね。」
「ありがとうお父様、お母様!大好きよ!」
全ての願いに許可をいただき、わたくしは大満足で部屋を後にしたわ。
このサプライズ、ミィスは喜んでくれるかしら。
続々と届くドレスの山を見(仕事がはやいわ)、わたくしとマリアは満ち足りたように眠ったわ。
またマリアを酷使した上に同じベッドで寝たから怒られるわね。
お母様に。
それでも満足しているし、問題ないわ。
当日のミィスを見るのがとても楽しみよ。
せいぜいセレネルは首を洗って待っていることね。
ミィスの美しさに恐れおののくがいいわ。
ミィスのことを一番きれいにしてあげられるのはわたくしだって証明してあげる。




