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11.奇跡の魔法のお話

まだ夢心地ではあるが、翌朝。

わたしはアンブローズの元へ赴いた。


種が染まり切ったらしいので、いよいよ竜人化の魔法を教えてもらう。

魔力も十分足りているので、やる気はばっちりだ。


「ああ、それでいい。それは張った水に浮かべると花が咲く」

種はもうわたしの魔力で満ちているようなので、花が咲く寸前らしい。

浅い盆に水を張ったものを差し出されたので、どきどきしながら種をそっと浮かべた。


すると、触れた瞬間に双葉が現れ、みるみるうちに茎がのび、葉が茂り、蕾が付いた。

「蕾に口付けろ」

そっと蕾に唇で触れる。


ほわ、と金の光が漏れると、花がゆっくりと開き出した。

スズランが上向きに咲いたように、鈴なりにいくつも花がついている。

花弁はわたしの瞳と同じような金色で、その中には蜜が溜まっているようだ。

アンブローズは透明の小瓶にひとつひとつ花を傾けて蜜を注ぐ。


「これが"進化の華の蜜"。で、"始祖の竜の鱗"もあるな?」

「うん、これ」

鱗の入った瓶を取り出す。

その掌に蜜の瓶も乗せられる。


「今からこれらを調合する。それらを握って使う予定の魔法玉(スフェラ)を通して魔力を込めろ」

これがいいだろうと文字盤の1を象っている白の魔法玉(スフェラ)を指されたので、文字盤のカバーを外してそれに触れる。

一度軽く魔力を通し、軽く光ったのを確認してから魔法玉(スフェラ)を媒介して握りしめた蜜と鱗に魔力を込めてゆく。

すると、二つの瓶がどう反応を起こしたのかわたしの手の中で一つになった。


しばらくそのままにしていると、瓶が消え去った感覚がしたので、おそるおそる掌を開く。


「それが、竜人化の魔法の結晶だ。」

今簡単にやったがお前にしかできねえからな、と念を押されたので頷いておく。


それは、金色の宝石にしか見えない美しい結晶だった。

「これをどうするの?」

「姫に飲ませる」

「魔力をわけてもらったときと同じ?」

あのふわりと溶けた温かい魔力を思い浮かべる。


「そうだ。それを口に含むと溶けてなくなる」

しかし、一日は苦しい思いをするらしい。

体の仕組みから作り替えられるそうなので、それはシュトリヤが耐えなければならないことらしい。


呪文も必要らしく、その言葉も教えてもらう。

しっかり覚えて、ようやく長かった道のりの終わりが見えてきた。



「よくやったな、ミィス。」

「ありがとう、アンブローズ。今日はもう行くね、また来るから」

はやくシュトリヤに届けたい。


その様子が見て取れたのか、くすりと笑顔を返される。

「ああ。待っている」

手を振って別れ、城に連絡をつける。




昨日の今日だけれど、もう待てない。

はやく、シュトリヤを喜ばせてあげたいんだもの。


少し手を回すから、と言われたので久々にトンネルを通って城へ向かった。

全力で走って興奮を少し発散しておく。


到着すると、旧市街のトンネルの出口までセレネルが出迎えてくれていた。

すでに各方面へ連絡は済んでおり、あとは魔法をかけるだけの状態らしい。

さすが仕事が早い。


「シュトリヤ!」

落ち着いて休めるように、場所はシュトリヤの部屋だ。

「1日シュトリヤは苦しい思いをするんだって。けど、わたしずっと傍にいるから」

「頑張るわ。ありがとう、ミィス。いよいよなのね…ほんとうにありがとう…」

お礼を重ねようとするシュトリヤの唇にそっと指をあてる。


きょとん、とするシュトリヤには悪いが、まだこれからなのだ。

「成功するまでは、待って」

「あら、そうね。気が早かったわ」

ふふ、と笑いあい、緊張が少し解れた。


「じゃあシュトリヤはベッドに横になって」

手を胸の前で組み、そっと目を閉じるシュトリヤがとても美しい。


「口を少しあけてね」

少しだけ口を開けるシュトリヤの唇にそっと金の結晶を添える。

少し待ってそれが口の中で融けた頃。


いよいよ魔法を展開する。

すうっと息を吸って神経を集中させる。


絶対に失敗させてはいけない。


「――血肉と魂を分離せよ」

古代魔法を今使うと思うとどうしても説明的に何をするのか述べる必要があるらしい。

わたしの魔力を媒介してくれる時計の魔法玉スフェラがきらりと光る。


「――魂の器に新たな血肉を形成せよ」

間違えないように、慎重に言葉を紡ぐ。


「――其の器は竜と人の体」

シュトリヤの体が熱を帯びる。


「――理の変化を齎せ」

「――始まりの(イニティウム・)血を(サングイス・)破壊せよ(デーストルークティオ)

「<ミュートロギア・タブラ・ラーサ>」


シュトリヤの額にそっと唇を押し当てる。


これで、魔法は発動したはずだ。

シュトリヤの意識は深く沈み、その間に体の理を書き換える魔法だと言っていた。


わたしの魔力も根こそぎ持っていかれた感じがある。

ふう、と息を吐き椅子に座った。


「あとは、わたしたちは待つだけ」

「そうか、ミィス、お疲れ様」

一度くしゃりとわたしの頭を撫でたセレネルは、腕を組み、壁に背を預けた。

どうやら一緒に見守っていてくれるらしい。


わたしもシュトリヤが組んだ手の上にそっと掌を被せる。

「わたしたちはここにいるから。頑張って、シュトリヤ」




それから丸一日、こんなに辛いものとは思わなかった。

荒く息を吐き、額には汗を浮かべるシュトリヤを見ながら、わたしたちは何もできないのだ。

そっと汗を拭いたり、声をかけるくらいしか。


体がずっと燃えるように発熱しており、膨大な魔力がぐるぐると廻っていた。

それでも傍から離れることはできなくって、わたしも汗を垂らしながらシュトリヤの傍に居続けた。




そうやって待ち望んだその時。


先ほどからすっかりシュトリヤの体から燃えるような熱は失われ、人肌らしい温度に落ち着いている。

息も寝息程度の穏やかなもの。

あとはシュトリヤが目を開くのを待つだけだ。


竜人(ドラゴトロピー)とはどういう特徴を持つのかわからないけれど、

少なくとも頭頂の竜の角はそのまま残っている。


滑らかなそれにそっと指を這わせると、ふるりとシュトリヤの美しい睫が震えた。


「…」

ゆっくりとその瞼が持ちあがる。

少しぼんやりと焦点の合わない瞳を覗き込む。



星を散りばめたような竜の瞳の特徴が消えていた。

そのかわり、澄んだアメジストのような美しい瞳がそこに在った。


「おはよう、シュトリヤ。気分はどう?」

セレネルから無言で差し出された水をシュトリヤに渡す。

それをこくり、と飲んだシュトリヤは、少し疲れた、それでもしっかりとした笑顔でほほ笑んだ。


「とてもいいわ。説明はできないけれど、わたくしは今竜人(ドラゴトロピー)だと胸を張って言えるわ」

不安が吹き飛んだような、晴れやかな笑顔はその瞳と同じくとても澄んでいた。


「うまくいってよかった」

「本当にありがとう、ミィスのお陰よ。

あなたのお陰で、わたくしはミィスと同じ時を生きられる。

それが叶うならば、なんだってできるわ」

笑顔のまま、美しい瞳からぽろぽろと零れる雫は朝露のように無垢で美しかった。


「わたしもシュトリヤの願いが叶えられて嬉しい。

わたしを頼ってくれてありがとう」

シュトリヤが伸ばした腕に抱き着き、緩やかな鼓動を感じた。



つられて、わたしの瞳からもぽろぽろと雫が零れ出ている。



「シュトリヤ、変化を報告してくれ」

「空気を読みなさいよね」

「報告を受ければ俺は席を外すが」

真顔で言うセレネルに、シュトリヤが噴き出した。


「馬鹿ね、本当ミィスのことばっかりなんだから」

「これはお前への餞だが」

と困ったように笑うセレネルに、再びシュトリヤの涙腺が決壊した。


「ちゃ、茶化したのよ、馬鹿。ちゃんと気づいてるわ。」

これ以上は言わなかったけれど、わたしたちにはわかる。


いくら不仲を演じていても、2人だって幼馴染で、お互いを大切にしている。

多分、この関係が終わってしまうわけではないのだ。


それがとてつもなく嬉しく感じられて、わたしの瞳からもとめどなく涙が零れた。




シュトリヤの体感では、どうやら魔力はかなり減ってしまったらしい。

今までのように無限に弾は撃てないそうだ。

それでも獣人よりも多いし、鬼人よりも力は強いらしい。

さすが竜人。


身体の特徴では、角と鱗の一部が残った。

あとはまだ発現していなかったので、このまま様子見らしい。

翼があれば便利なのに、と笑っていた。


「もともと魔力が多すぎるだけの人、くらいだったしそれ以外の変化はないわ。」

報告が終わると、セレネルは言葉通り部屋を出た。




シュトリヤと二人きりだ。

「ミィス、ひとつだけ、伝えておくわ。今のあなたならわかるでしょうし」

ぎゅっとわたしの両手を包み込み、ベッドへ導かれた。

広いふかふかのベッドに二人で並んで座る。


「わたくしが認める男はセレネルだけよ。だから、セレネルに託したわ。

あの男なら、ミィスをきっと幸せにしてくれるもの。」

それに、とわたしを悪戯っぽく見るシュトリヤ。



「ミィスもセレネルのこと、好きでしょう?」



自分の思考の中でさえ言わないようにしていた言葉を簡単に出され、ぼふっと魔力が溢れた。

「あ、えっと…な、ないしょに…!」

「言ったりしないけれど…もうバレバレだと思うわよ」

こてりと首を傾げ、天使のような微笑みで地獄に落とされた。


「えっあ、え、ほ、本人、え」

「ミィス、言葉を思い出して頂戴」

つん、と唇をつつかれてむぐ、と噎せる。


「せ、セレネル、は知って…?」

頭には言葉がぐるぐるめぐっているのに口に到達してくれない。単語をようやく繋げることしかできない。

ぼふぼふ、と魔力が沸騰してしまうよう。


「あの男はどうかしら、ねえ。ミィス、これだけは言わせて」

きゅ、と私の手をシュトリヤの額に当てる。

いつもわたしにやってくれた、おまじない。

お祈り。


「かならず、しあわせになって」



そっと落とされた額への口づけ。

これが最後のシュトリヤからの祝福かもしれないな。

ぐっと噛みしめると続々と人が入ってきた。

シュトリヤはこの後検査やなにやらで、きっとしばらく会えないだろう。



促されるままに部屋を出た。



シュトリヤのその笑顔を、わたしはきっと忘れないだろう。

今までで見たどの笑顔よりも美しく、儚げで

けれど力強く応援するようでもあって、願いの様でもあって。



「わたしのしあわせ」がシュトリヤの()()なら、わたしは全力で叶えてみせるから。

ずっとずっとわたしを見ていてね、シュトリヤ。







――――――――――4章.解放の魔法 了




四章はここまでです、お付き合いいただきありがとうございました。

続けて幕間が5話あります。引き続きよろしくお願いいたします。

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