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8.種明かしのお話

わたしはさきほどの恥ずかしい出来事のことをすっぱり忘れることにし、集めた"綺麗な物"をアルカさんの元に持ってきた。


今度はバルドさん以外の全員が一緒。

わたしが再び瞳を差し出すようなことがないように警戒されている。

アルカさんはわたしの瞳が欲しかったわけではない(とわたしは確信している)ので、心配はいらないと思う。


「早かったねえ、びっくりびっくり!」

手渡した瓶を見ると嬉しそうにはしゃいでいる。


その全てを開き、ぽわ、と出てきた煙のようなものをすうっと吸い込んでいる。

なんだろう、あれ。

「くふふ!妾が大好きな"綺麗なもの"、いっぱい!ありがと」

幸せそうに微笑み、にこやかに口元を上げる。


「さっきの煙から、今までのみんなの行動を見せてもらったのよ」


「あぁ、ミィスには気づかれちゃったのねえ」

少し残念そうに見られるけれど、それは仕方がない。

「わたしはわたしの直感を信じるから」

自分でも理解のできない能力だけれど、間違っていたことは一度もない。


「けど黙っててくれて嬉しい。お陰で妾もいっぱい"綺麗なもの"見れちゃった」

未だ疑問符でいっぱいのみんなをみてくふふ、と笑うアルカ。


彼女は"綺麗なもの"が好き。

これは本当だった。

けれど、それはわたしの瞳とか、他にたとえば宝石とか、見てわかるものではなくて、誰かを想う純粋な心、を指すらしい。


だから"わたしの瞳"を餌にわたしを想うみんなの心が見たかった。

そんなみんなを想うわたしの心が見たかった。


みんなが怒ったときにわたしを見て嬉しそうにしていたのはそういうことだったらしい。

各種族の体の一部を差し出させたのも、わたしの為に心を砕く様子が見たかったから。



「まあこれは必要なものだったのだけど。別に妾が集めてもよかったのだから半分趣味よね」

くふふ、と嬉しそうに声を上げて笑う姿は幼い子供の様にも見える。

めちゃくちゃ年上だけど。


「騙してゴメンね、久々に楽しいことが起こりそうで、すこしやりすぎちゃったかな。怒らないでね」

多分この久々、は1000年ぶりなのでみんなも許してあげて欲しい。


「特に君、セレネルくん?には色んな想いさせちゃったね」

「…では、はじめから…?」

少し呆然としたセレネルがやっと絞り出した言葉がぐさ、とわたしに刺さった。

「ううん、気が付いたのは瓶を見てから。最初は本当に瞳を差し出すつもりだったよ」

それはそれでセレネルにとっては不服だとは思うが、はじめから騙していたわけではないことは解って欲しい。


「それも誤算だったのよー!勇者ってそういうことしちゃうのね。」

なぜか仕掛けた本人にもちょっと怒られて解せない。


「…そうか、よかった」

と漏らした言葉を聞き逃すところだった。

本当に小さな、小さな声で囁いたのだ。

色んな想いが籠っていそうな"よかった"に胸が詰まった。


わたしがみんなに、セレネルに嘘をついていなくて良かった?

わたしの瞳が無事で、よかった?


セレネルはこんなに真剣にわたしのことを気遣ってくれているけれど、どうしてなのかな。


幼馴染として、なんだろうか。

浮かんだ答えに少しだけ、もやっとした何かが胸に湧き首を傾げた。


なんだろう、この気持ち。



「じゃあさっそくだけど、この材料で容器を作るね!」

ぱち、と両手を打つ音ではっとした。


竜の鱗というのは特別な材質らしく、体から剥がれた鱗を素手で触れることができるのは同じ竜だけらしい。

だから、その容器を準備するために必要な材料集めだったようだ。

アルカは他の竜には会えないから、容器が必要なのは仕方がない。



わたしから受け取った材料をずらりとテーブルに並べるアルカ。

うきうきと鼻歌を歌っているようだが、膨大な魔力が蠢いているのを肌で感じる。

もう魔法は始まっているようだ。


「ミィス、髪を少し分けて頂戴ね」

わたしの髪を数本ぷち、と取っていく。


それを材料を混ぜたらしい色とりどりの、雲のようなもこもこした物体の上にぱらぱらと撒くと、急に机の上に瓶のような透明な容器が現れた。

こう、ぽんっ!と。



「これでミィスだけがこの瓶に触れられるからね」

時間にして数分。

あの材料からどうやってこれが出来上がったのかは全くわからないけれど、多分古代魔法なのでわたしには理解できない。


「じゃあ鱗を剥がすよ」

瓶を持って、と言われたので持ち上げて口をアルカに向ける。

すっと左手で撫でた滑らかな右腕に、数枚薔薇色(ローズピンク)の鱗が浮かんでいる。


「普段は隠してるのよ」

笑いながらそのうちの一枚に触れると、パキという軽い音と共に剥がれ、からんと瓶に落ちた。

「はい、妾の鱗。あなたたちからもらった"綺麗なもの"の御礼に、あげるね」



お礼を言えば、それはこっちが言いたいくらい、と頭を撫でられた。

「くふふみーんないい子だから撫でちゃお!」

続けて全員の頭を撫でて回るアルカさんのテンションがよっぱらいのそれだ。

煙を吸ってから少しふわふわしている気がする。


ミヤビとスカンさんはとても複雑な顔で頭を撫でられている。

少し面白い。


最後にセレネルの前に立つと、くふくふ笑っていたのをひっこめ、少し真面目な顔になる。

「セレネルくんには申し訳なさすら覚えてるのよね、妾。だからお詫びにいいものあげる」

怪訝な顔をするセレネルの手を引っ掴み、アルカさんがそっと手を重ねる。


「ひとつだけ、妾の魔法でなんとかなる範囲なら、願いを叶えてあげる」

死者を蘇らせたいとか言わないならだいたい叶うよ、と言う。


セレネルの白い手袋に彩られた薔薇の模様の刺繍は、アルカさんの魔法を閉じ込めた魔具(イディ)らしい。

「…そうか、それは…」

何かアルカさんに耳打ちしているが、わたしには聞こえない。


アナトーレを見ても首を横に振るので、誰にも聞こえなかったようだ。

「それがきみの一番の願い事なの?…うーん、お礼のお礼をもらった気分」

再びくふふ、と笑うと、その笑顔のまま「叶うよ!」と言った。


「…そう、か。それは嬉しいな」

と、蕩けるような笑顔でなぜかわたしを見るので心臓が跳ねた。

不意打ちはやめてください。

どうやらわたしに関係することらしいというのはわかったけれど、セレネルはこれ以上話してくれる気はなさそうだ。




そうして眩しいほどに輝く満足げなアルカさんの笑顔に見送られて、わたしたちは街を後にした。






「ああ、なるほど。彼女は基本的に穏やかな竜ですし、不思議に思っていました。」

今はバルドさんが持つ馬車もとい鳥かごの中。


わたしたちは長居は無用と早々に帰路についた。

来たければまた来ればよいのだ。

リリーさんともまたねと別れたのだし。


「けれど出会ったのは生まれたときのみでしたし、その後は拒絶されるし何故かと思っていたのですが、

そういうことだったのですね。此は知りませんでした。終わる時に再び会えるというならば、此はそれを楽しみにしていましょう」




30区に降り立つと、テミスラさんが待っていた。

そのまま流れるように家に送り届けられ、気づけばわたしはベッドの上で眠りについていた。




あともう少しで、シュトリヤの願いを叶えてあげられる。

アルカさんの鱗と、あと少しで染まり切る種を抱きしめて。

今日は穏やかな夢が見たい。








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