6.女子テントのお話
わたしはまだ目を覚まさないセレネルの看病を申し出たのだけれど(強くやりすぎたかもしれないと冷や冷やしている)、なぜかすっぱり却下され、男性陣は皆テントへ消えていった。
あとは任せろと言われてしまっては仕方がない。
「ミィスはこっち!」
と、わたしはエリューとアナトーレにシャワー室へ押し込まれたあとテントに引きずり込まれた。
「さて、準備はできていますからね。」
シュトリヤが使わなくなってからも定期的にアップデートされるこのテントは、今日は床に敷いたふかふかの絨毯の上にクッションが敷き詰められて飲み物や食べ物が準備されている。
「パジャマパーティーだよ、ミィス。」
エリューがわたしの服を剥ぎ取ったので、差し出されたパジャマを言われるがまま着る。
状況がよくわからない。
「で、こういうときにするのは恋バナって相場は決まってるんだよ」
何故かふわふわのかわいいワンピースタイプのパジャマを着たエリューが仁王立ちで、パジャマであろうとショートパンツとTシャツの中に長いインナーを装着して肌を出さないアナトーレがぱちぱちと拍手を送っている。
そして呆然とするわたしが着させられたのは、ほぼレースで出来たパジャマというよりネグリジェと言った方がいいような服だ。
もうこれ服じゃない、布。
すごく綺麗で、そして丈は長いのだけれど、背中はがぱっと開いているし、スリットも深くはいっている。
何よりレースの隙間から肌が見える。
これ下着じゃないの!?
「こ、これシュトリヤが作ったやつ?」
と聞けば、いい笑顔のまま「笑って」と言われたので反射で笑顔になる。
ぱしゃ、と音がしたなと思えばエリューが素早く端末をこちらに向けており。
「たくさん写真も撮ろうね!」
といい笑顔とウインクを貰い、もうよくわからないけれど諦めた。
多分この下着…ネグリ…いやパジャマはシュトリヤがわたしに作ってくれたものだと思うし、それを着たところが見たいから写真を送って欲しいというのも予想がつく。
だから、今の問題は恋バナだ…!!
わたしに出来る気がしない、だってしたことがないもの。
どきどきそわそわと二人を見ると、アナトーレがこほん、と小さく咳払いをする。
「では僭越ながら私がお手本をお見せしますね」
どうやらこの流れは決まっていたらしい。
「ボクの話はミィスも聞き飽きてるでしょ?だからたまにはアナトーレとミィスの話をボクが聞きたいなあ」
と心底嬉しそうにもこもこの羊型ぬいぐるみを抱きしめている。
とても愛らしいんだけど、これこのあとわたしも話す流れだな!?
え、どうしよう、と焦っていると、アナトーレが口を開いた。
「私実は、失恋したんです」
と語り出すので慌てた。失恋話も恋バナなんでしょうか先生。
「いえ、その人は既に他の人のことが好きだったので、最初から失恋していたんですけど。」
エリューがきらきらした眼差しでアナトーレを見つめているので先生的にオッケーらしい。
今日のエリューは押しが強いな。
絶対恋バナ聞くぞという意思が全身から溢れていて逆らえない。
「私はそのお相手のことも結局好きになってしまったので、今では応援する気持ちの方が強いんです。
で、その…ここからが本題なのですが。実は、師匠が…」
と話が転換したのでわたしも思わず身を乗り出した。
アンブローズ、わたしちゃんと聞いておくよ!!
「師匠もほら、すごい失恋されてるじゃないですか。それで、その…慰めて、くださって」
ほんのり首筋が赤くなっている。
アナトーレは照れると首が赤くなるのよね。
「ずっと少し残っていた蟠りのようなものを、思い出に昇華できたんです」
「アナトーレはアンブローズが好きなの?」
無邪気に聞けるエリューを羨望の眼差しで見るのと共に戦慄した。
これわたしにも降りかかるやつ…!
「彼はずっとミィスの一族を見守り、それを生き甲斐にしているでしょう?ですからその、恋人とかを目指しているわけではないのですが…」
段々消え入りそうな声になりながら、漸くわたしにも拾える、くらいの声でぽつりと
「すき、です」
と零した。
そのアナトーレの姿に釣られてわたしも顔が熱くなる。
ちら、と見るとエリューも真っ赤だ。
褐色でわかりにくいとエリューは思っているようだけど、しっかり赤い。
アンブローズやったよ!よかったね!!
「せめて、その、支えにはなりたいと思います。」
「アナトーレ…!」
ぎゅっと彼女の手を握り締める。
「わたしが絶対あの役目から解放するから、少し待ってて。
そしたらアンブローズのこと、お願いするね。」
ちょっと見ていなかった間に親睦を深めていたようで、嬉しい限りだ。
アナトーレの気持ちがついてきているなら、あとはフォス家を見守りたいというアンブローズの気持ちと役目を片付けるだけだ。
それはわたしがどうにかすべきことなので、少し待っていてほしい。
「けれど、師匠は…」
「わたしにとってもアンブローズは恩人。わたしっていうかわたしたち全て。
だから、あの人には幸せになって欲しいし、いつまでもあの役目に縛られて欲しくない。
わたしとアンブローズがちゃんと片づけられるまでは今まで通りアンブローズと仲良くしてて。
何度だってわたし連れていくから。
すぐに片付けられるように頑張るから」
「ありがとうございます、ミィス…!」
私も頑張ります!振り向いていただけるように!
と意気込むアナトーレがとてもかわいいのでぎゅっと抱き着いた。
大丈夫、奴はアナトーレに既にめろめろですから。
何せたった一人の運命、"番"なのだから。
それをおくびにもだしていないのかアナトーレが意外と鈍いのかはわからないけど、ちょっとも伝わっていないことに関してはアンブローズに問いただしたいところではある。
「で、ミィスはどうなの?ひとのことばっかりだけど」
にこっと笑顔でこちらに振ってくるエリューが今日ばかりは少し恐ろしく見える。
「わたしは…とくに…べつに…なにも…」
もごもごと言い訳がましく適当に言葉を並べていると、エリューが不服そうにぷくっと頬を膨らませる。
「もう!ミィスは!」
これだから!とすごくぷんぷんされる。
思わず正座でごめんなさいと呟いてしまった。
エリューこわい。
わたしの前に再び仁王立ちになると、びしっと指でこちらをさした姿勢で止まる。
すうっと息を吸うと怒涛の質問攻めが始まった。
「スカンのことが好きなの!?」
「えっえっと好き、かな」
「じゃあミヤビのことは!?」
「好き、だね」
「テミスラは!?」
「好き」
「バルドは?」
「好き」
「クスィラは?」
「好き」
「アンブローズは?」
「好き」
と、畳みかけるように知り合いの男性名を出してくる。
ほぼ反射で返事をしているけれど、答えは決まっている。
みんな好き、だ。
「じゃあシュトリヤ姫は?」
という言葉には、少し詰まった。
「大好き、かな」
まだアナトーレみたいに思い出にはなっていない。
少しだけぎこちない笑顔になってしまったことはバレないといい。
ここにその気持ちはしっかりある。
多分一生消えたりしない。
「セレネルは?」
「…!」
今度こそ詰まった。
好き、だ。
けれど、これは。
さっき自覚してしまったこの違い、こうしてエリューにはっきりと暴かれて言葉に詰まる。
「セレネルは?嫌い?」
と少し眉を下げて聞くエリューに、ぶんぶんと首を横に振る。
そんなわけがない。
「す、…す…」
何故か、他の人には臆面もなく言えた"好き"が言えない。
顔に熱が集まって、ぼうっとする。
自然と目が潤み、視界がぶれる。
「み、ミィスかわいい…」
「ええ、ほんとうにかわいいです…」
わたしと同じように頬を赤らめたエリューと、首を赤く染めたアナトーレに何故かうっとりと見つめられる。
「う、ええ!?」
突然かわいいかわいいと連呼され、更に顔が赤くなった。
けれど、さっきとは違って苦しいほど胸が高鳴っているわけではない。
「ミィスは人たらしだもんねえ。けど、まあ聞かなくてもわかったよ。ミィスが解ってるならボクはもう何も言わないよ」
ふう、と漸く座り、お茶を口に含んでいる。
「そうですね、エリューはよく頑張ってくれました」
よしよし、とアナトーレが撫でるとエリューは得意げに胸を張る。
「当然だよ。ミィスが幸せになってくれないと、ボクは前に進めないんだから。ボクのためでもあるんだよ!」
「確かにそうでもしないと諦めてくれそうにないですからね。」
「ボクの気持ちっていうのもあるしね」
「ふふ、複雑ですね」
「乙女ゴコロってやつだね!」
わたしにはよくわからない話だが、2人が嬉しそうなのでいいか、と一緒に笑った。
この日、夜が更け月が中天に上がるまでわたしたちのパジャマパーティは続いたのだった。




