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4.吸血種と出会うお話

吸血種(ヴァンピイゲニア)のことは街に戻って聞いてみるしかないね。」

「…ではミィスと俺で行こう。他は野営(キャンプ)の準備をしてくれないか」

というセレネルの提案に、わたしは問題ないと思ったのだけれど。


「拙も行くで?ミィスの目ぇの色変えた方がよおない?」

「我がミィスと別行動などありえぬ」

ミヤビとスカンは着いてきたいらしい。


それに小さく溜息をついたセレネルは、許可するのかと思いきや。

「ミヤビは魔法をかけた後ついてくる必要はないな。スカンはミィスの戻ってきた後寝る場所も整っていなくてもいいのか?」

素気無く返してしまった。


「それはそうなんやけど~ええやん別に拙が居っても、な?ミィス」

「む…我も戻り次第すぐに整えるし問題ないだろう、ミィス」

それぞれが乞うようにこちらを見ている。


わたしはどっちでもいいんだけどなあ、と迷うそぶりを見せると、セレネルは眉を寄せる。

「ミィス、あまり大人数で行って警戒されたくない。」


そういうことならわかる。たしかに大人数で押しかけて、攻撃の意思があるとか思われたくない。

ここでは勇者の肩書も王宮騎士の制服も、他の何もかもが無意味なんだから。


「そうだね、わたしとセレネル2人で行こう。ここはお願いします。」

「…はあ、まあミィスが決めたんやったらこっちは任せとき」

「ミィスが言うなら従おう」

思ったよりあっさりと納得してくれて助かった。





ミヤビに目の色を変えてもらい、再び街まで戻ってきた。

「あ!よかった、まだ帰ってなかったのね」

すぐにリリーが気づいてくれたようで、こちらに駆けてくる。

「よかったら家に来て!」

丁度いいので家に招かれるまま入らせてもらう。


「アルカとは話せた?」

「はい。でも少し問題が生じてしまって…」

吸血種(ヴァンピイゲニア)の牙について聞いてみる。


「それなら大丈夫よ、この家の吸血種が起きてきたら聞いてみるといいわ」

どうやらこの街は、吸血種と人が同じ家に住み共存しているらしい。

関係は友人だったり恋人だったり家族だったり様々らしいが、それぞれの形で共存しているそうだ。


プライベートは家の中でしっかりわけられており、一件の家に見えるが中で2つに区切られていて、人用と吸血種用になっている。

今いる場所は、共用スペースらしいのでこのまま話していれば夕方くらいに吸血種(ヴァンピイゲニア)が起きてくると言う。

一日のうちの数時間だけを一緒に過ごすことが多いようだ。

「この家の吸血種はノーチェっていって、わたしたちは友人関係ね」


色々教えてもらったお礼にわたしたちの話をしていると、夕方ごろにノーチェさんが起きてきた。

リリーさんに紹介してもらうと、驚いた顔でこちらを見ている。

「…リリー、あとは僕がやっておくから、君は部屋に戻るといいよ」

「そう?じゃあまたね、2人とも。とても楽しかったわ」

笑顔で手を振り自室へ帰るリリーさんを見送る。


「急にすみません」

と謝れば、困った顔でほほ笑まれる。

夜に紛れるような漆黒の髪は肩くらいまでで、瞳は血のように赤い。

吸血種(ヴァンピイゲニア)は皆この色合いなんだそうだ。


けれど、とても美しいこの人の性別がよくわからない。

華奢ではあるが背は高く、丸みを帯びた体つきであるようで、筋肉質にも見える。

口調や声もどちらかとはっきり区別できるようなものではないのでとても不思議だ。


「リリーは少し抜けたところがあるからね、多分気づいてないんだよ。牙、だよね。うーんどうしようかな」

とわたしとセレネルを見比べる。

きょと、と首を傾げると、うん。と一つ頷く。

「君の方がよさそうだ。」

とセレネルを見ている。

「ちょっと説明させて」

と笑うノーチェさんによると。


そもそも吸血(しょくじ)は週に一度程度でよく、そのタイミングで牙が生え変わる。

今日はその日ではないので、わたしかセレネルのどちらかを吸血させてほしい。

そうでないと牙が抜けないのでそれは仕方のないことだし、リリーさんから頻繁に血を貰うとそれはリリーさんの体に障るらしいのでそれはわたしたちも嫌だ。


「違う血が飲めるならそれは僕も嬉しいから、それがお礼ってことでいいからね」

ということで、血がお礼になる。


ここまではよかった。

そこでものすごく申し訳なさそうに眉を下げるノーチェさん。


「リリーは多分ここを忘れちゃってるんだけど。血を吸われると…その…2時間くらい辛いかもしれない。」

血を吸う時、痛みが快感に置き換わり、2時間程度継続してしまうらしい。

「それも初回だけで、しかも子供のうちだと症状もかなり軽いんだ。

だからこの街の住人はそんなことも忘れちゃってるんだろうねえ。

けど君たちは十分大人で初回…かなり辛いと思う」


どうやら初対面のわたしたちを気遣ってくれているらしい。

巻き込んでいるのはこちらなのに。



「…問題ありません、俺の方がいいというのはなぜですか?」

「だってミィスさんは…多分僕が言った"快感"の意味もわからなかったよね?」

と言われてきょとんとしてしまう。

快感って気持ちいいこと、だよね?

痛くないならそれでいいんじゃないかなあと思うんだけど。


その言葉にセレネルはなるほどと納得したように頷いているけれど、なにがなるほどなんだろうか。

説明を求めたいところ。

「そういうことでしたら俺のほうがいいでしょう。しかしノーチェ殿は俺でいいのでしょうか?」

「うん、僕獣人(セリアントロピー)の血って食べたことないし。人間の方がおいしいらしいんだけどね」


じゃあいくつかアドバイスを。

ともうセレネルからもらうことで確定してしまったらしい。


いいのかなあ。

覚悟を決めたようなセレネルの顔に止めようかどうか悩む。

どうもわたしの受け止め方よりセレネルのほうがずっと深刻で、ということは多分わたしが甘く見積もってしまっているということだ。


セレネルだけに負荷をかけるわけにはいかないし、

止めよう、と口を開いたわたしを、なぜかノーチェさんに手で制された。


『彼の覚悟に甘えておきなよ』

囁いたような声が頭に響いたが、セレネルには聞こえていないらしい。

不思議な能力を持っているんだな。

ちらっとこちらに目線だけを寄越してきたノーチェさんに、小さく頷く。


彼の判断を信じてみよう、とそう思ったのはその目線がとても真剣だったからだ。

わたしには理解できていない範囲でセレネルのほうが適役なのかもしれない。



「2時間は耐えて。僕が()()してあげてもいいんだけど、君は嫌でしょう?」

「気遣い感謝する」

「で、聞いた話で悪いんだけど、コツがあるんだって。」

最近は大人が初回っていうのは皆無だから、効かなかったらごめんねと前置きの後。


「古い伝承によるとどうしても無理!ってなった時には殴るのが一番なんだって」

というどうにも脳筋の回答をいただいたのでした。


それをしっかり頷いて納得したらしいセレネルも謎なんだけど。

こういう…物理で殴る!みたいな短絡的な解決方法セレネルは普段とらないのに。



「ミィス、もし俺が怖いと思ったらその時は遠慮なく殴れ。気を失っても構わん」

と言われ、最初は渋っていたのだけどセレネルがあまりにしつこいのでわたしも折れた。


「1人で隔離してあげれたら一番いいんだけど、多分それをすると君が壊れちゃうからね。

じゃあ、服を少しずらして」

とんとん、と首元を叩くノーチェさんに頷くと、セレネルは隊長の証である外套をぱさりと外した。

続けてしゅる、と首のスカーフを外す。

隊長は純白であるそれを、外套と共にクローゼットへ仕舞った。



ノーチェさんは端末を少し驚いて見ているので、やっぱりこちら側にこの技術はないようだ。

吸血種は魔法か能力かがあるようだし必要はないのかもしれない。

さっきの頭に直接話しかけるような能力(ちから)があれば少なくとも声のリンクの機能は不要だもの。



セレネルは首元からびっしりと続くボタンをひとつひとつ外していく。

その手の動きを思わず目で追いかける。


「ミィス、あまり見るな」

「ご、ごめん」


何故か目が離せなくてじっと見てしまっていた。

わたし変態なのかな!?

あわてて目を逸らす。


「ふふ、かわいいね」

何故かノーチェさんに微笑まし気に笑われてしまった。

恥ずかしい。

なんだかずっと余裕の態度だけど、そういえばこの人おいくつなんだろう。

吸血種(ヴァンピイゲニア)は300年ほど生きるというし、見た目と年齢は一致しないのかもしれない。


「これでいいでしょうか」

途中まで外されたボタンまで襟元をぐいっと開き、白い首筋と鎖骨が露わになっている。



見てしまったことを何故かとても後悔した。

獣人(セリアントロピー)は露出を嫌うのでいつも私服ですら手と顔くらいしか見えない。

騎士服は手袋もしているから、本当に顔だけ。


だから、セレネルがこんなに露出しているのを初めて見る。

華奢なイメージだったが鍛えているだけあって白いけれど細くはない首筋。

くっきりと浮かぶ鎖骨はわたしと違いごつごつと骨張っている。


今まで意識したことがなかったが、セレネルは()()だった。

急にぶわっと体が火照る。

なぜか、前にセレネルに言われた「意識しろ」という言葉を思い出してしまった。


その時の目も一緒に思い出してしまい、特に顔は火を噴きそうなほど熱い。


こ、こんな。

素肌をみて顔を熱くするなんて本当に変態なのでは…!?



密かに慌てていると、ちらりとこちらを流し見られて心臓が跳ねた。

「ミィス、約束、覚えているな?」

「ううううううん。セレネルが怖いと思ったら殴る、でいいんだよね?」

反射でさっきの約束を復唱する。


それでいい、と頷いたセレネルはノーチェさんに目配せをした。

「じゃあ、いただきます」


かぷ、とセレネルに齧り付く。

小さくノーチェさんの咽が嚥下したように上下したかと思うとセレネルから離れた。


ノーチェさんは口元に少しだけ滲むセレネルの血を指で拭うと、満足げにそれを眺めている。

「ごちそうさま。うん、こんな感じかあ、おいしかったよ」

見ている限りすんなりと、1分もかからずにそれは終わった。


「ぐッ…!!」

しかしノーチェさんが離れた瞬間から胸元をぐっと握りながら小さく唸るセレネルの様子がおかしい。

けれど、こうして体を張ってくれたのを無駄にするわけにはいかない。


「はい、これが牙だよ」

と犬歯に当たる部分を2本差し出される。

普通に取れた。ぽろっと。

一日ほどでまた生えてくるらしい。とても不思議。


「ありがとうございます!」

それを受け取り、瓶に格納するとラベルが赤く変わったのでほっと息を吐いた。



「突然押しかけて、こんなお願いを聞いていただいて本当にありがとうございました」

「いいよ、僕たちって今いるパートナーが生きている限りよっぽどのことが無い限り他の人からはもらわないことに決めてるから、まだ獣人の血って飲んだことなかったし。

この街は獣人が少ないし、仲間に自慢できるくらいだよ。僕もありがとう」

横で一言も発さず肩を揺らしながら辛そうに呻くセレネルが心配で仕方ないのだけれど、これって本当に痛いわけじゃないんだよね?

なんか思っていたのと全然違ってすごく苦しそうなので困惑してしまう。



「やっぱり辛そうだね、僕の部屋を貸してあげるから少し休んでいくといいよ。僕は仕事があるから行くけど、元気になったら出て行ってくれて構わないし」

本当なら断るべきだというのはわかるのだけど、あまりに辛そうなセレネルを見て有り難くその申し出を受けることにした。



「じゃ、がんばってセレネル君。」

鍵は扉を閉めれば掛かるから。

そう言って出かけて行ったノーチェさんを見送り、わたしはセレネルと二人きりになった。








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