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3.騙されるお話

微笑みを絶やさないまま、普通の口調で言われたので理解が追い付かなかった。

そのわたしが呆けた隙に、みんながわたしの前に立っている。

「あれ、だめ?無理?」

「ま、待ってみんな。話をしたい。」

わたしの手をぎっちりと握ってアルカさんの視界から遮るセレネルの背をちょっとつつく。


スカンさんと隙間なく立つことでわたしを前に出さないようにしているので、その隙間を押しのけて顔を出す。

「わたしの()でいいんですか?」

とアルカさんを見れば、なぜか目を丸くされる。


「あれえ?普通、目を頂戴なんて言われたらこういう反応になるよねえ?」

とみんなとわたしを見比べて本気で不思議がっている様だけれど、別にわたしが差し出せる範囲のものならなんでも構わない。

初めから、初対面の人に無償で何かをわけてもらおうだなんて思ってないし。


ぎり、と握られたままの手が絞められたのがわかる。

セレネル大丈夫。怒らないで。


「ミィスって顔だけじゃなくって中身もアーラに似てるのね。妾そういうとこも好きよ。」

と周りの皆を刺激しないようにか、少しも動かずにその場でほほ笑んでくれる。


「ゴメンね。けど、妾の鱗が欲しいっていうんだから、それくらいのことはしてくれるよね?

アーラなんて大陸持ち上げてくれたんだよ?」

と周囲に向ける笑顔は変わらず普通の笑顔だ。



「わたしの瞳でお礼になるなら、構わないです。アルカさんの鱗を頂けませんか?」

お願いします、と膝を折ると、更にぎりぎりと手を強く握られた。


セレネル、さすがに痛い。

けれど、何も言わないでくれるのはわたしの決定を尊重してくれているからだろうか。



「って本人は言ってるけど周りのみんなはそれでいい?」

アルカさんが手を振った瞬間、みんなが話し出す。


もしかして魔法で黙らされてたのかな。

それであんなに強く手を握っていた?

うわ気づかなかった怒られる。


おずおずとセレネルの顔を見上げようとした瞬間。

「お、お前瞳って…わかってるのか!?」

がばっとわたしの肩を掴み正面に来たセレネルの顔を見て、後悔した。



この顔は、そうだ。

幼少期に一度だけ見た、セレネルのために大きな怪我を負ったとき。

その時の顔と同じ。


どうしよう、わたし、もう二度とこの顔だけは見たくないと思って頑張ってきたのに。

セレネルの、演技ではない本当の泣きそうな顔。

待って、違うの。

わたしセレネルにそんな顔させたかったわけじゃない…!


「あいつが…!シュトリヤが、喜ぶと思ってやってるのか!?」

「ちがう!!それは思ってない!!」

思わず反射で叫んでしまった。

エリューが不安そうにわたしの服の裾を握っているのがわかって少し冷静になる。


「わたしがしたいからするの。シュトリヤの為じゃない、わたしのため」

誰かの犠牲になろうとしているんじゃないの。

だから、そんな顔しないで、お願い。



「ええと、アルカはん?やっと喋れるよおにしてもらえたし、確認やけど。

どうしてもミィスの瞳ぇやないとあかんのかな?」

へら、と緩い笑顔を浮かべているが、ミヤビの握り締めた拳が震えているのが見えてしまった。


待って、と言いたかったのに、いつの間にかセレネルに口を塞がれている。


そのわたしをちら、と見て何故か嬉しそうに笑うアルカさん。

なんだろう、最近何か似たことがあったような。



「うーん、そうね、じゃあ~」

と楽しそうに思案しているようだが、先ほどのことがあったせいか誰も緊張を崩さない。


「妾綺麗なものが好きなのよね。だから今から言うものを集めてきて」

と提示されたのが。

1.人間(アントロピー)の血液

2.獣人(セリアントロピー)の毛(髪ではなく耳や尻尾の)

3.鬼人(デモニアトロピー)の角

4.鳥人(オルニストロピー)の羽根

5.吸血種(ヴァンピイゲニア)の牙

6.幻想種(パンタシアゲニア)の魔力結晶

7.(ドラゴン)の爪


一部綺麗かな?と疑問を抱くものもあるけれど、専用の瓶まで渡されてしまった。

全てにきっちりラベルが貼ってある。

「ハーフは駄目よ。あと妾は協力しないから、爪は他の竜からもらってきてよね。

これが集めてこられるなら、ミィスの綺麗な瞳は諦めてあげてもいいよ」

と笑うアルカさんに手を振りながら家を追い出された。






セレネルに引きずられるようにバルドさんが待つ場所まで戻り、状況を整理することにする。

到着するまで口は塞がれたままだった。


「ミィス、お前の瞳を提供しなければならないというならば、この話は無しだ。」

とわたしの方を見もしないセレネルの顔を想像して、俯く。

あんな顔はもうしてほしくないけれど、どうしても仕方がないならわたしは瞳でもなんでも提供するつもりなのだ。



「お前が今ここで誓わないならば、俺は協力しないし、シュトリヤにもありのままを伝える」

「拙もいややなあ、ミィスの目えは拙も好きやし」

「私もです。」

「ボクも!」

「…すまぬが我もミィスの瞳を提供させたくはない。」

わたしの希望なら聞いてくれると思ったのにスカンさんまで!!


色々とぐっと飲み込み、小さく息を吐いた。

「わかった。わたしは瞳を提供しない。約束する」

一旦この場ではこう言わないと話が進みそうにないから仕方がない。


「…騎士の誓いをしろ」

そこまで信用ないかな!?

とみんなを見れば、尽く頷かれた。

どうやら本当に信用がなかったらしい。

確かに口約束ならいざというときには破ればいいと思ったのでみんなのほうが一枚上手だったわけですけども。



騎士の誓いは騎士にとっては絶対の約束だ。

わたしは騎士ではないけれど、勇者(わたし)にとっても同じく絶対の誓いだということをセレネルは理解した上で言っているのでたちが悪いと思う。


無言で手を差し出すセレネルの前に渋々跪き、甲を額に押し当てる。

「わたしはアルカさんに瞳を提供しないと誓います」

宣言し、額に当てていた甲に軽く口付けした。

これが騎士の誓い。


「よし、お前は騎士の誓いを絶対護るからな。これならいいだろう」

と漸くセレネルがずっと固く強張らせていた口元を安心したように緩めたので、わたしは何も言えなかった。


このセレネルの反応の意味が、わかるようでわからない。

もう少しで何かわかりそうなのに、わからなくってもどかしい。

セレネルは、わたしを…?



いや今は置いておこう。

頭を振り、アルカさんが示した条件を思い浮かべる。



「まず気になるのが鬼人(デモニアトロピー)の角なんだけどそれってまた生えてくるようなものなの?」

「いや、折れると普通は再び生えることはない。だが主のためであるならば我の角を差し出すことに抵抗はないぞ」

普通のことのように言われてしまいたじろぐ。

いや抵抗して。


「ただ、そうだな。褒美は求めるかもしれん。」

とわたしの前に跪き手をとられ、こちらを見上げるスカンさんと目が合ってしまう。

その深い群青の瞳が薄ら赤く染まりかけているのに気付き、逃げようと手を引いてもびくともしない。


その上蕩ける様に微笑まれて体が痺れたように動かなくなる。

「角無き鬼人は魅力なしとして婚姻が難しくなる。だから許されるならば、ミィスに我の伴侶とッ…!!」

言いながら流れるように甲に口付けする寸前で、目の前からスカンさんが消えた。


ちなみにこれは騎士の誓いではなく従者の懇願だ。

元が同じだったがいつしか用途がわかれたと習った。



少し現実逃避をしたのはあの巨躯が吹き飛んだ事実からちょっぴり目を背けたかったからだ。

「え、っと」

入れ替わるようにわたしの手を握っているのはエリュー。

美しい新緑の瑞々しい瞳にほっとした。

何か未知の敵とかではなかったようで安心したけれど、エリューすごいね?


「ミィス!それ嘘!鬼人の角は成長の途中…10年に1回くらいで生え変わるからそれを譲ってもらえば解決するよ!!」

どうやらそれは普通記念として保管しているものらしい。

ボクはまだ一度も生え変わってなくって…ごめんね。としょんぼりされてしまったのでぎゅっと抱きしめておく。

「ありがとうエリュー、大人の鬼人に頼めばいいのね。セレネルの部下の2人に聞いてみるよ」

とりあえず知り合いの鬼人2人を思い浮かべる。



「くっ…知っていたか。残念だ」

と頬を抑えながらスカンさんが戻ってきた。

結構飛んで行ったのに無傷だ。

(そのかわりエリューの小さな足の跡はくっきりとついているけれど)



「すまぬ、少しからかっただけだ。」

と言う目がまだ赤いので多分本気だ。

角をくれるところか伴侶のところか、どこが本気だったのかまではわからないけど。


「ちなみにスカンさんの前の角は…」

「我のは譲れぬ、既に様々な場で褒美に出してしまった、すまぬ。そして次の生え変わりは10年先だ」

「いいえ、じゃあやっぱりセレネルの部下に聞いてみよう」


ということで、セレネルは端末で城に連絡をし、"鬼人の角"と"鳥人の羽根"をどうにかしてくれることになった。




その間にわたしはずっと口を挟まず居てくれたバルドさんにあったことを説明した。

アルカさんの行動について、少し首を傾げてはいたけれど、

「状況はわかりました。爪であれば此のものをどうぞ」

と何の抵抗もなく竜化し、乳白色の艶々とした爪をこちらに向けられる。


「え、ええと…」

「その聖剣でこのあたりからすぱっと切ってください。痛くありませんからご心配なく」

反対の爪先で示してくれるた場所を、言われた通り一思いにすぱっと行く。


わたしの顔より遥かに大きなそれをどう格納しようかと、小さな瓶の方をこつんと当てた瞬間、しゅるりと収納された。

不思議な瓶だけど竜が準備したんだしそういうこともあるんでしょう。

魔具(イディ)なのかもしれない。


「あの、もらってから聞くのもおかしいんだけど爪はまた伸びるよね…?」

そう言えば言われるがまま切ってしまったなと思う。


「100年くらいすれば戻りますよ」

と人の姿に戻ったバルドさんに頭を撫でながら言われて背筋が冷えた。


「ひ、ひゃくねん!?ごごごごめんなさい!!」

「ああ、ミィス、此にとって100年はさほど長くはないのですよ。だから本当に気にしないでください」

それに、とそれでも慌てるわたしの口に人差し指をむに、と当ててにこりと微笑む。


「其の役に立てるなら、なんでもしたいと思うのが友、というものでしょう?」

人の姿では、なくなってしまった爪はわからないけれど、手をぐっと握る。


「ありがとう、バルドさん。わたし素敵な友人を持てて幸せです。わたしこそ何でもするから、次は何かさせてね」

「こうして此を頼ってくれれば十分ですよ。」



ということでバルドさんの献身により爪はいただけた。

「ええと、じゃあこれで"人間(アントロピー)の血"はいい…のかな?」

わたしの指先を少し切り、瓶に落す。

ぽたぽたと数的垂れると"人間の血"と書かれたラベルが赤く変わった。

バルドさんの爪が入った瓶も同じく赤くなっているので、中身が正しいと教えてくれているらしい。


どうも親切すぎる作りに確信を持つ。

違和感はあった。

アルカさんはきっと自分のためにこれを求めたわけではない。

目的はよくわからないけれど、悪い人ではないというわたしの直感を信じたい。



「では"獣人(セリアントロピー)の毛"は私のものでいいですね」

と尻尾を掴み、数本ぷちぷちと毛をちぎってくれる。

アナトーレは短毛種なのでなんだかすごく痛そうに見える。

「アナトーレそれ痛くないの?」

「あ、はい。あまり…」

笑いながら瓶に毛を入れてくれた。

2,3回繰り返したところでラベルが赤くなったため終了だ。


「待たせたな。"鬼人(デモニアトロピー)の角"と"鳥人(オルニストロピー)の羽根"だ。

角はウィルが提供してくれ、羽根はエドが調達してきたので戻ったら礼を言ってやってくれ。」

と渡されたものもそれぞれ瓶に格納し、ラベルが赤くなったことを確認した。




これであとは"吸血種(ヴァンピイゲニア)の牙"と"幻想種(パンタシアゲニア)の魔力結晶"だけなんだけれど。

他のものと違って難易度が爆上がりした気がする。






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