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光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
三章.大魔導士の魔法と初恋
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幕間8.楽しい魔力供給講座

セレネル視点、4章開始直前のお話です

ミィスに出発は何があっても5日後だと告げたため、仕事が立て込んでいる。

アナトーレがアンブローズに魔法のことを学びたいと申し出てきたため、そちらに行かせたのもまずかったか。

だが必ず役に立つだろうからそれは間違いではなかったはずだ。



今日何度目か忘れた溜息が執務室に落ちる。

「あ、あのセレネルさん」

巨躯を縮めながらおずおずと近寄ってくるウィル。

「何だ」

「お客様です」

と、扉を開けているのはエドだ。

「誰だ?」

今日来客の予定はなかった。

忙しいのに通すなと睨みつけると、泣きそうな顔の部下と目が合う。


「そんな殺気だしたらかわいそうだよ、セレネル」

ひょこ、とその部下の後ろから顔を出したのはミィスだった。


ウィルとエドが泣きそうだったのは俺のせいじゃないな、お前のせいだ。

紛らわしい。それはお前の登場に感極まっているだけだ。

「どうした?」

幻覚じゃないな?

「忙しいって聞いたから、アナトーレの代わりに働きに来た!ついでに報告に。」

とほほ笑むミィスはどうやら本物らしい。


首の飾り(たね)がもう半分以上金色に染まっている。

シュトリヤか。

流石というかなんというか、一気に色が変わったな。


ミィスは本当にシュトリヤのことが好きだな。

シュトリヤには任せろと言ってしまったが、果たしてこいつは俺に靡くことがあるのだろうか。



「セレネルさん、お昼まだですよね?ミィスさんと行って来たらどうですか!」

「そうですね、そうしてください。いってらっしゃい!」

と言い出したウィルとエドに追い出され、ミィスと食堂へ向かうことにする。



あいつらは俺よりもミィスのことが大好きで仕方がない犬気質の筈だがどういう意図だ。

ちらりと振り返れば2人そろってこちらへ騎士の礼を取っていたので、まあ応援とかそういうことだろう。


「ごめんね、わたし邪魔だったかな?」

「いや違う、あいつらが変に気を回しただけだ。昼食後は手伝ってもらう」

「それならいいんだけど」

簡単に"壁"について報告を聞くが、矢張りというか真新しい情報はなかった。

地図が書けそうなのは有り難いのでテミスラの手腕に期待するしかない。



「…少しだけ遠回りをしてもいいか」

と、食堂へ続く道の中で庭園を通る方を指す。

「いいよ、疲れてる?」

心配げにこちらを気遣ってくれて嬉しく思うが、そうではない。


「魔力供給について、スカンかミヤビから何か話を聞いたか?」

この数日の溜息の原因はほぼこれだ。

あいつらが、実技ギリギリを攻めて教えるようなことがあるかもしれないと正直不安ではあった。

エリューにずっとそばにいるように頼んではみたが、エリューだってそれを聞く義理はない。

利はあるとは思うが。


「ん?このリボンには毎日魔力を込めてくれるけど、それ以外は特になにも」

もちろんこれも俺はできていなかった。

が、何事もなかったようで心底安心した。

エリューかミヤビかはわからないが、感謝する。


視界に入っているリボンは、薄い水色と淡い朱色に染まっている。

どうやらこのリボン、供給した者の瞳の色に染まるらしく。

これはアナトーレとミヤビの色だ。

2人の保有魔力が多く、ミィスの変換率がいいので当初の予定より魔力はハイペースで増えているようだ。


しかし少しその色に不愉快さを覚え、上書きするように供給して銀色に染めておく。

それを見て気分がよくなる。

俺の独占欲もよくないとは思いつつ自分でコントロールできない。




「ではお前に教えておかなければならないことがある」

少し緊張する。

こんな話をするのは初めてだ。

あれだけ迫っておいて何だが。


「魔力供給は、アンブローズが言っていたらしい結晶化という方法を除けば、あとは直接供給するしかない」

「直接?けど魔力の出し方なんてわたししらないよ?みんなは知ってるの?」

アンブローズも教えてくれなかったなあと小首を傾げている。


「体液に、魔力が含まれているのでそれを相手に与える」

「体液…涙とか汗とか…あああとは唾液だね!それを…飲む…の?」

何を想像したのか嫌そうな顔をしている。

コップに貯めて飲むことでも想像したか?それは俺も遠慮したい。


「違う。アンブローズの説明で俺もこの方法が一番いいことに納得したのだが」

感情から溢れた魔力を与えていたようで、それには俗にいう"ときめき"が一番だと言っていた。

であれば、()()()()が供給方法として確立されていたのには意味があった。


が。

それを説明できる気がしない。


「あっじゃあキスだね!恋人とキスをするとどきどきするって本で読んだよ!」

他人事、その上頭だけの知識ときたか。

しかし理解してくれたようで何より。

俺の口から言うことがなくなりほっとした。



もう一つの体液についてはもう触れずにおこう。

俺の理性が保たない。



「ああ、そうだ。お前には難しいだろうとアンブローズが魔具を作ってくれたようだ」

はあ、と溜息と共に伝えれば、なぜか顔を赤くする。


「どうした?」

「あ、いや、その…きっキス、をしなきゃいけなかったのかと思って急に恥ずかしくなって」

アンブローズに感謝しなきゃ!と熱くなった頬を冷やすように手で包んでいる。

ああ、可愛いなと思うと自然と顔が緩む。


「おそらくお前の想像しているものよりもっと深いものが必要だしな」

と教えてやると、しばらく考えた後、答えに思い至ったのか更に顔を赤く染めた。

ぐっと湧き上がる衝動を抑え込み、ミィスの頭をくしゃりと掻き回すだけに留める。

()()()()も知っていたようで何よりだ。



言ってしまいたい。

お前が好きで、独占したくて仕方がないと。

けれど今はまだ無理だ。

小さく息を吐いて落ち着くようにする。


ミィスの邪魔をしたいわけではない。

こいつが今一番望んでいるのは、シュトリヤの竜人化の魔法を得ることだ。

それまでは、他を牽制しつつせめて俺を意識してもらうようにするしかない。



「ねえセレネル」

「どうした?」

「ここって何がおいしいの?」

着いた食堂で、メニューを見つめるミィスを見ればもう食欲のことでいっぱいのようで。

まだまだ先は長そうだと思わず溜息をついたのだった。





――――――――――――――その後。

ミィスには普通にアナトーレに振る予定だった仕事を振り、それを問題なく片付けて帰って行った。


「ミィスさんほんっとすごいですよね」

犬その1ことウィルが羨望の眼差しでミィスが去ったドアを見つめている。

もういないからドアを見ずに手を動かしてくれ。


「あいつはあれで座学に関して言えば俺よりも成績がよかった。」

「セレネルさんよりですか!?」

とその2であるエドがこちらをがばっと向いた。

角が危ないのであまり近寄るな。へし折るぞ。


「俺たちはセレネルさんを推してるんですよね~」

「何の話だ?」

「あれ、知りませんか?巷ではミィスさんのハートを誰が射止めるかって盛り上がってるんですよ」

演劇や本にされているというミィス中心の話だろうか。

いつのまにそんなことに。


「いやほらミヤビさんとかスカンさんとか周りに男も増えたじゃないですか?」

「だから噂というか鳥人(オルニストロピー)の歌も盛り上がって盛り上がって。連日新情報を求めて大賑わいなんですよね。」

ミィスさん人気者ですねえ、などと暢気に言う犬共を軽く睨む。


「…混乱はないか?その手の報告があがっていないが」

「あっ仕事のこと忘れてました!」

忘れるな殴るぞ。

仕事が増えたな、と報告書を作成しようとフォーマットを立ち上げたところで。


「今のところまだ大丈夫ですよ。けどもう少し広まるなら騎士として規制が必要かもしれないですね。

あ、でも俺たちでやっておきますよ。セレネルさんはミィスさんの方を優先してください」

とエドが申し出る。

まあいいか。

「…では任せるが、明日中に計画まであげてくれ。俺は明後日からいないのだから」

「はい、わかってます!!」

と色好い返事だったので、安心してそちらは任せることにする。


犬だとは思っているが、優秀だからな、この2人は。


「ついでに鳥人の話のほうも纏めておいてくれ。聞きにいく時間がとれない」

「はい!わかりました。鳥人ですしデマはないでしょうけど」

「どこまで知られているのか確認したいだけだ」

「そうですね、本当いつの間に情報仕入れてるんでしょうね」

と首を傾げながら、2人で分担を相談しているようだ。



あと2日、次はもっとミィスに頼られるようできるだけのことはしておかなければ。

何かあったらシュトリヤにも申し訳が立たないからな。






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