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光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
三章.大魔導士の魔法と初恋
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幕間4.黒の書と婚約者候補

ミィス視点、3章終了後翌日くらいのお話です。

今日はテミスラさんに黒の書を渡しにいく。

そう伝えたら、とてもびっくりしていたし喜んでいた。

よかった。


相変わらずの貴族のお迎えと、貴族のエスコートに少し緊張しつつテミスラさんの(いえ)だ。

「これ、黒の書です」

「ああ、本当に見つけてきてくれるなんて。ありがとう、ミィス」

なんて本当に嬉しそうにお礼を言われて恐縮してしまう。


「いいえ、たまたまアンブローズが持ってただけですから」

「それだってミィスのおかげだよ。」

と言われたが、前みたいに高価なお礼を貢がれては困るのでここは断固としてアンブローズのお陰ということにしておきたい。



「で、"壁"について一緒に調べたいんだよね?」

「はい。少しでも情報を持っていきたいので」

「じゃあ早速。」

と黒の書を【賢者(ソフォス)】でさらっと読んでいる姿を眺める。


前も見たけれど、本当にすごい。

わたしにくれた魔具(イディ)だとどうしても本人が使用するより出力が落ちるようで、一度に読めるのは読書と変わらない量だ。

けれど、テミスラさんが使っているとその何倍もの量を一度に読めるようだ。

これが血筋の違いなのかもしれない。


「あまり真新しい情報はないね。この本のアーラの部分はアンブローズが見たことが書かれているみたいだね」

と言われ、納得した。

この本をアンブローズが作ったのは、多分アーラの後なのだろう。

アーラについての記載は膨大だけど、心情については一切記載がない。

その後の人たちは、心情についても多分この本が大切だと思ったことに関しては記載されているようだから。


記載によると、アーラは1人で、しかも壁を自力で登ったらしい。

魔法だとは思うけれど、それでも凄まじい。

けれど、それ以上の情報があまり詳しくないということは"壁"の向こうにアンブローズは行っていないことになる。


「この情報から僕ができることは、地図を作ることかな。」

「地図?この情報からできるんですか?」

「うん、十分だよ。それにバルドも何か知っているだろうから、そちらからも聞いてみるよ」

「それはとても助かります!」

「ええと出発は4日後だったよね。任せてよ、ミィスの役にきっと立ってみせるから」

「いつも助かっているんですけど…今回もよろしくお願いしします」




作業の邪魔をしてはいけないと席を立とうとすると、目で制される。

浮かしかけた腰を再び下ろす。

「それはそうとミィス、君は貴族のことに詳しくないね?」

と突然問われて意味がよくわからない。

「マナーとかそういうことじゃなく、ですよね?」

「うん。貴族の中での情報とかそういうの」

詳しいどころかちょっとも知らない。

アナトーレのグリゴロス家が古い上級貴族で、セレネルのニフタ家が更に上を行く上級貴族ってことくらい。

と言えば苦笑を返された。


「あまり貴族だからって特別なこともないんだけれど、シュトリヤ姫のことなんだ」

と言われてびくりと体が跳ねた。

昨日、あんな話をしたばかりなのだ。

「彼女とセレネル君の婚約が解消されたのは知っているね?」

それには頷く。

さすがに2人のことは聞いている。


「それに伴って、それぞれに…特にシュトリヤ姫には新しい婚約者が必要だという流れになっている。」

それはそうだ。

わたしがこのままシュトリヤを竜人にできれば、王位継承第一位はシュトリヤ。

次はほぼ確実にシュトリヤがこの王都の歴史上初の女王になるだろう。


「ミィスが信頼されているってことでもあるけどね」

と言われて思わず背筋が伸びた。

「それで、その候補の筆頭が僕だ。ということをミィスには伝えておくよ」

という言葉に一瞬思考が止まった。

テミスラさんが、シュトリヤの婚約者候補…!?


「シュトリヤ姫はまだ知らないんだ。だから内緒にしていて。けれど、ミィスには知っていてほしくて」

というテミスラさんは笑顔だ。

けれど。


「テミスラお兄様や他の候補の方は、シュトリヤのこと愛せますか…?」

「正直なところまだ全員そのレベルまで行っていないよ。」

という言葉に取り乱しそうだ。

そんな人にシュトリヤを任せることなんてできない。

それがたとえテミスラ()()()でも。


ここまでは貴族ならほとんどもう知っているんだけど、と前置き。

「これを僕たちは王命として拝命したんだけど、その時に条件があるって言われたんだ」

悪戯っぽく笑うその姿に、きょとんと首を傾げる。

どうやらこの先は候補者たちしか知らない内緒の話らしい。



「それが、君に認められること」

と言われて疑問が頭を埋め尽くした。

なんでそんなことに!?


「ちょっとあんまり似てないと思うけど、一言一句そのままだから聞いてね。」

とわざわざ残念そうに言ってくれたけれど、多分獣人(セリアントロピー)のあれは特殊能力だと思うの。


「『我が娘であるシュトリヤを、余や妻ですら一度は見捨てたのだ。

それを唯一命を張って救った光の勇者であるミィスに認められぬような男では、彼女は納得しないだろう。

それでは娘を救い、世界を平和に保ったミィスに対して大した褒美も用意出来なかった余も民たちも許さぬ。

余や民は、一つくらい、ミィスの望むことを叶えてやるべきなのだ』」

だって。と笑うテミスラさんは本当に少しも似ていなかったけれど、陛下の顔や王妃様の顔が頭に浮かぶ。


「勿体なすぎるお言葉、です」

自分一人では大したこともできなかったと思っているけれど、たしかにわたしは勇者として胸を張れることをやり遂げたのだと少しだけ自信になった。

そして、そのわたしの行いが、わたしの望みを叶える一助になっているのだとしたらそれはもっと自信になる。


「これはわたしも期待を裏切れない」

きっとシュトリヤを竜人化させられるとわたしに期待をかけてくれた結果なのだもの。

わたしはそれに応えたい。


「わたしが認める相手を決めていいのなら、それは本当にわたし一番の願いって思ってもいいかもしれない」

それを褒美にしてくださるというのだから、陛下はわたしに甘すぎる。


「そうだろうね、みんなそれに納得したんだから、安心して。みんな君に何かお礼をしたいんだよ」

「わたしは結果的にうまく行っただけで、他の人のためとかは考えてなかったのに…」

「いいんだよ。誰もできなかったことをやってくれたのは確かなんだから。」

もし本当にそう思ってくれているなら嬉しいし、テミスラさんはきっと嘘はいっていないから、少なくとも思ってくれている人がいるのだと納得する。

それはとても嬉しい。


「だから、まだ先でいいけど心に留めておいて欲しい。

いつか僕たちの中で誰を王配に…シュトリヤ姫の伴侶にするか決めてほしい。

決め方はミィスに一任すると陛下が仰っていたよ。」

はいこれ勅命書、と陛下直筆の書簡を受け取る。


ひいい直筆。

あとこれ書簡っていうか手紙。

ちゃんとした紙も入っているけれど、あと数枚全部ただの手紙。


相変わらずの陛下に思わずくすりと笑いが漏れた。

「何か考えておきます」

「うん。その中にリストも入っているはずだから、セレネル君にでも相談するといいよ。セレネル君になら話してもいいはずだよ」

と言われて勅命書を読めば、確かに1名上位貴族にのみ相談可って書いてある。

どう考えてもセレネルを想定した書き方に更に笑いが零れた。


「さすが陛下。わたしのお父様を自称するだけのことはあります」

「そうだね、ミィス。君は色んな人に愛されているのだから、君も望む人と結ばれて欲しい。」

少し、眉を下げてわたしを気遣う顔に思わず鼻がツンとする。


テミスラお兄様はいけない。

どうしてもちょっと甘えてしまうんだもの。

「きっと君の保護者たちみんなそう思ってるんだからね。もちろん僕も。」

「で、でもわたしには…」

役目があるからと言おうとすると口をそっと人差し指でつつかれる。


「歴代の勇者たちがそんな難しいこと考えてたわけないよ。君がよく知ってるはずだ。」

と言われて確かに、と納得した。

シュトリヤとはどうしたって恋人にはなれないけれど、ずっと一緒にいることはできるのだ。

それを許してくれるような人が相手であれば。


「ありがとう、テミスラお兄様。」

「これからも頼ってくれると嬉しいな。君のまだ自覚してない心についても」

と胸のあたりを指されて困惑した。

自覚していない心って、何?


「教えてはあげられないな。こういうのは自分たちでなんとかすべきだ。さて、せっかくだから魔力供給とやらを僕もやっていいかな?」

と言われてよくわからないまま頷くと、リボンに魔法を使ってくれたようだ。


「やっぱり僕だとそんなものかな」

と苦笑され、鏡でリボンをみると薄らと金色になっている。

「今日もミヤビ君かアナトーレ君にお願いしたほうがよさそうだね」

「あ、はい。でもありがとうございます」





家に帰ってから少し自室に籠り、シュトリヤの婚約者候補というリストを眺める。

テミスラさんを筆頭に、上級貴族がずらっと名前を連ねている。

あとは学園時代その手の成績がよかった中級以下の貴族も数名。

学園で有名だった人は何人かわかる、程度だ。

どうかこの中に、わたしの気持ちとシュトリヤを纏めて託せる人がいますように。


そしてそれが、テミスラさんであればいいのにと少しだけ願う。

完全に私の欲だけれど。

王家の子と勇者の子の2人は子供が必要になってしまうけれど、どちらかはきっとわたしと同じ、金の瞳だ。

それだけでとても嬉しいだろうと思ってしまうから。


そうなれば、いいのにな。







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