幕間3.陛下の出産祝い
フェガリ視点。過去の回想だけど日はミィスの誕生日、式典の数日前くらいのお話です。
もう16年前になるのか。
毎年、彼女の誕生日が近くなると、思い出すことがある。
当時のバ…陛下のことだ。
俺とマルス、そして陛下は幼い頃からの幼馴染だった。
今でこそ陛下は王としてきちんとしているが、幼い頃は一番やんちゃだった。
マルスは大らかで穏やかで、その空気が心地よかった。
常に人に囲まれていて、太陽のような人間だった。
陛下もマルスのことが大好きで、そんなマルスに子供が生まれたとあり。
俺の息子、自分の娘であるシュトリヤ姫と続いたことで奴の精神が壊れた。
幸せ続きで判断能力が機能しなくなったのだろう。
あの頃の王妃様を思い出すと憐れでならん。
「フェガリ!!」
「…なんでしょうか、陛下」
デカい声で取り乱すな、王だろうという目で見ておく。
「今は誰もおらんぞ。」
「そういう問題ではないといつも申し上げておりますが」
ことあるごとに親友なのだから誰もいない時くらいは砕けて話して欲しいと言ってくるのだが、誰が聞いているかわからんのにできるか。といつも突っぱねている。
「フェガリは本当に硬い。なあ、マルス」
「ははは。陛下も困らせたらだめだよ、フェガリは真面目なんだから。」
おっとりと笑うマルス。こいつは笑うと女性のように華やかになるのだから不思議だ。
「生まれたのか?」
マルスにも名前で呼ばれたいなどと拗ねる陛下を放っておき、マルスに話を振る。
「女の子だったんだ!」
嬉しそうに笑うマルスの顔を今でも鮮明に思い出せる。
勇者の家系に生まれた女児は、アーラ以来実に1000年ぶりだ。
王家に生まれた姫と同じく1000年ぶりという偶然。
いや、恐らくこれは偶然ではないのだろうと密かに思案した。
これは、姫もミィスも苦労するだろう。
であれば、少なくとも俺の息子を強くしておけば、何かの足しにはなるはずだ。
この時に、こちらの都合で息子の道を決めてしまったことを少し申し訳なく思う。
しかしいつも活き活きとミィスの世話を焼いているから恐らく恨まれてはいないだろうが。
「でね、フェガリ。実はここに連れて来たんだけど…見る?」
「当たり前だろう。早く出せ」
おずおずと言い出すマルスに即答してやった。
見ないとかいう選択肢があると思ったのかこの男は。
「余もまだ見てないんだよ~フェガリが来てからとか言ってな?」
それで俺が来た時嬉しそうだったのか、この陛下。
俺が来て嬉しそうな顔をされても複雑なのでいいのだが。
じゃあ、と隣の部屋に居るのはアンジェリカ様と王妃様のようだ。
産後に無理をさせるなと言いたいところだが、どうしても見せたかったのだろうな。
俺たちは王妃様への報告のついでだろう。
「ああ、アンジェリカは王妃様とお話しててよ。ぼくが見せてくる」
そっと抱きかかえられた小さな籠の中で蠢いている小さな塊が赤子だろう。
それを大の男3人が覗き込む姿はあまり他に見せられたものではないな。
遠くにいる宰相に誰も入れるなと目配せをしておく。
「ミィスっていうんだ」
「お前よりも目の色が濃いな」
こちらを見上げているようなその目は紛れもなく勇者の血筋の目だが、俺がよく知るマルスの目よりずっと濃い、黄金のような色だ。
産まれたばかりのその瞳の美しさに目を奪われるほど輝いている。
「そうなんだよ。資質がぼくより強いのかもしれないねってアンジェリカと話してる。
髪もまだわかりにくいけど、ぼくよりもっときれいな光の色をしているよね」
と髪を数本指で掬うが、こちらはマルスよりも薄い色だ。
成長したらどうなるかはその時にはわからなかったが。
結局そのまま美しい光の色を保っているため、ミィスを見るたびにこの時のことが蘇る。
「…これはいかんな」
今まで食い入るようにミィスを見ていた陛下がぽつりと零す。
ああ、始まってしまった。
「ん?」
「可愛すぎる。愛い。そうだ出産祝いをまだ準備していなかったな、半年前のセレネルと、このたび生まれたミィスに!」
「待て待て、何をするつもりだ。」
早口で捲くし立てる陛下を宥めようとするが、時すでに遅し。
「まあ楽しみにしていてくれ」
こう何か決めてしまったこいつは絶対にその計画を成し遂げるまでやり続ける。
マルスを見て二人で溜息をついた。
分別はあるやつだ。さすがに国庫に手を出したりはしないだろう。
宰相をちらりと見ると、心得たという風に頷いていたので監視役も問題なさそうだ。
宰相にはいつも迷惑をかける。
――――――――数日後
「ば…バカか!」
手渡された箱を開け、開口一番で罵ってしまった。
しかしこの言葉しかでない。
「馬鹿なんだろうなあ。こんな…馬鹿だなあ」
マルスも乾いた笑いを上げながら手元の箱を眺めている。
そこには俺の手にあるものとよく似た腕時計が収められている。
「いくらした!」
「贈り物の値段を気にするなど無粋な、らしくないぞフェガリ。良い品だろう?大きくなったら渡してやってくれ」
と心底満足そうな顔で笑うものだから、俺とマルスはもう何も言えなかった。
ひとつひとつは小さいが、針にも文字盤にも魔宝玉がふんだんに使われている上に、全て最高級品だ。
「フェガリ、こ、これぼくが持ってても大丈夫なやつかな」
と泣きそうになっているマルスに、それを告げてやれば卒倒しそうなほど顔を白くしている。
「だめだってこれ、人間のぼくらには良い物すぎるよ」
「諦めろ。返品を受け入れる男じゃない」
マルスを宥めれば渋々事実を受け入れる気持ちになったようだ。
俺も受け入れたくはないんだが。
それがたった3年後にマルスとアンジェリカ様が一緒に亡くなるなんて誰が想像しただろうか。
あいつは経つ前に、俺と陛下に「ミィスを頼む」としか言わなかった。
それだけで十分だった。
あいつがあいつの一番大切なものをいくら仲が良かろうと他人の俺たちに託すわけがない。
そういうことなんだろうと受け入れた。
それがあいつの望みなら、俺たちに止めることなどできないから。
ミィスはお前の思った通りに育っているだろうか?
俺の他にも保護者気取りが沢山いるせいかミィスはお前よりしっかり育った、と思う。
お前と違って仲間に頼るということもできているようだ。
お前が時計を持って逝ってしまったのは少し残念だ。
ミィスの腕に、セレネルのものと同じものが付いていればとたまに夢想する。
いつか俺が替わりに贈ってやろうか、それこそ結婚でもするときに。
相手の男は少なくとも俺より強くなければ許さないが。




