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光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
三章.大魔導士の魔法と初恋
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9.魔力供給と急襲のお話

翌朝

「ミィス、起きているか?」

と、かなり早い時間にスカンさんがわたしの部屋をノックする音で目が覚めた。

外はまだ薄明り程度。


待って、スカンさんいつも何時に来てるの…?

確かに起きたらいつももう居るけど、わたしを起こすのは珍しいので緊急と判断して部屋へ招き入れる。

「む、ミィス1人か。下へ行こう」

と何故か一階のリビングまで連れていかれた。


こと、と小さな箱をテーブルに置く。

どうやら先ほど転移陣にアンブローズから届いたらしい。

「起こしてすまない。緊急かもしれぬと思い起こした」

「ありがとうございます。なんだろう…あ、メモが入ってます。」

箱を開けると一番上にはメモと、封をされた手紙が入っている。


まずメモを開く。

『俺様が作った魔力供給用の魔具だ。有り難く思え。』

手紙の下には一見なんの変哲もない白いリボンが入っているが、それが魔具(イディ)だろうか。


またもやアンブローズ作という恐ろしく高価な魔具を貰ってしまった…!



「こちらの手紙は…我宛か。読むぞ」

しばらく手紙を眺めていたスカンの名前が封筒の表面に浮かびあがる。

どういう魔法かはわからないけど魔法だ。もう驚かないぞと言い聞かせるのはアンブローズにあってから何回目かなあ。


そこで手紙を開き、1分ほど。

難しい顔で読んでいるのでなにかよくないことでも書いてあるのだろうか。


「意図は理解した。まずそれの使い方だが、供給側は何でもよいからそのリボンを握って魔法を使えばいい。そうすると編み込まれているらしい魔宝玉(スフェラ)に魔力が溜まる仕組みだそうだ。其方はリボンに触れる間魔力を得られる。

量は勝手に調節するから心配せぬように書かれているが大丈夫だったのか?」


「昨日アンブローズに試しに魔力を分けてもらったら、少し暴走してしまって。」

こんなすごいものをたった一晩で作ってしまうのだからあの人は本当にすごいな。


「ではこの魔具(イディ)の試しに我が魔法を使ってみてもいいか?」

「はい。一回試してみたいです!」

スカンさんがリボンをそっと握る。


「<リカバリ>」

一番低級の回復魔法だ。

「ふむ、これだとあまり色が変わらぬな。もう少し魔力が必要か?」

真っ白なリボンの先がほんのり青くなった。

これが黒色になると魔具に貯められる魔力が上限に達したということになるらしい。


その後何度か<リカバリ>を掛け、リボンの1割程度が青くなった。

「ふむ、悔しいが我には向かぬな。魔法はあまり覚えてこなかった」

と心なしかしょんぼりしているように見える。

「主の役に立てぬとは不甲斐ない」

あ、実際落ち込んでる。


お試しだし気にしないで欲しいし、大柄の大人の落ち込む姿は普通に見ていていたたまれない。

「じゃあ触ってみますね!」

あわてて染まったばかりのリボンを握ってみる。


薄く染まっていた青色がすっと元の白色に戻ったと思うと、昨日のように温かな熱を胸に感じる。

けれど、昨日ほど熱くなく心地いいくらいだ。

「これなら大丈夫そうです!」

みんなには悪いけれど、魔力をこうやって分けてもらう必要があるようだ。




それを見届け、ひとつ頷くスカン。

「さて、試運転も終えたことだしミィスには1つ忠告をさせてもらうぞ」

と忠告という割に何故かとろりと甘く蜂蜜のように微笑まれる。

ぞくり、と背中が震えた。


動けないままいると、抱き上げられ、ソファに座ったスカンさんの膝の上にひょいっと乗せられる。

向かい合わせになるように。


どっと先ほど受け取ったばかりの魔力が溢れてしまったのが自分でもわかった。

魔力が自分の上限より多い今の状況は、普段より流れも感じやすいようだ。

わたしには見えないが、スカンさんが首の飾り(たね)をじっと見ているので多分核がまた光っているのだろう。



「朝突然に訪れた我も悪かったが、1人の寝室に男を招き入れようとするのは関心せぬ。

其方は女なのだぞ」

と、蕩けるような笑顔のまま忠告を受ける。

「油断をすると、このように手籠めにされるかもしれぬ。」

動こうにも両手を後ろ手に一纏めにされている上にがっちりと腰を抑えられており、僅かに身じろぎすることしかできない。


ぶんぶんと音がするほど首を縦に振り、一刻も早くこの状況から解放されることを祈るしかできない。


わたしを膝にのせて尚上にある目を見上げ、硬直してしまう。

どうして今【真紅(ロードライト)】を発動してるの!?

わたし死ぬの!?

群青だったはずの目が、今は鮮やかな赤に変貌している。


「ど、どうして、目が、あの」

動揺しすぎてやっとこれだけ絞り出す。

「ああ、ミィスは知らぬのだな。鬼人(われら)の【真紅(スキル)】は戦闘時のみに発現するわけではない。」


ちゅ、と軽い音をたてて喉の種に口づけられる。

わたしには触れていないけれど、ぴくりと体が震える。


「今のように、誰かを()()()()と思ったときにも発現する。特に、男は」

よく見れば、その美しい真紅の瞳の奥に、燃え滾る炎が見える。

先日見たぎらぎらとした闘争者の眼差しとはまた異なる、もっと高温の、青い炎。


以前セレネルも見せた、捕食者の目。


この目はこわい。

体が動かなくなるし、なぜかお腹の奥が熱くなって、自分が自分でわからなくなるほど頭がぼんやりしてしまうから。


べろ、と厚い舌が彼の唇を這うそのスカンさんの顔から目が離せなくなり、思考がすっかり霞んでしまった。





「やっぱりお前もか」

と、不意に耳に響く声は聴きなれたもので。

「セレネル…?」

いつの間にかセレネルの後ろに隠されるように立っていた。

思わず外套(マント)を握り込んでそれに顔を埋める。


「た…助かったあ…」

どうやら命拾いしたらしい。

セレネルが来てくれたというだけで急に心強くなるのだから不思議だ。


けど、なんでここに?

まだ朝早いし、今日来る予定はあったかな?


「これは忠告だ。ミィスがあまりに無防備だったからな。お前たちの怠慢ではないのか?」

フッと笑うスカンさんの目をセレネル越しにちらりと窺うと、もういつも通りだ。

よかった。


しかしその言葉に何故か、セレネルはぐっと言い淀む。

「これを。あの大魔導士からだ」

それをつまらなさそうに見ると、スカンさんの手にあった手紙をセレネルに投げ渡す。


それをちらっと見ただけで理解したようで、長めの溜息を吐いた。

「そうか、それがその魔具(イディ)か?」

とわたしの手に握られたままだったリボンを見る。


「う、うん」

わたしはまだ先ほどの熱が冷めておらず、少し思考が定まらない。


そのリボンをわたしの手からしゅるりと抜く。

「--響け春の宴<メメント・シェア>」

とセレネルが魔法を発動すると本来の効果である爆発は起きず、リボンの色は一気に半分ほど染まった。

今度は銀色だ。


「わ、すごい!」

「ああ、俺であればすぐに対応できそうだな。来て早々悪いがこの件を報告してくる。ミィス、エリューを起こして来い」

と何故か背中を押されて急かされたので、エリューを起こしに行く。

まだ朝早いから申し訳ないな。



まだ寝ぼけ眼のエリューの肩を、リビングに現れるや否やがしっと掴むセレネル。

絵面があまりよくないが、セレネルの目はかなり真剣で止められなかった。

「エリュー、この家にいる間はミィスから片時も離れないでくれ」


「ああ~スカンも馬鹿だなあ。わかったよ」

とそれだけでなにが解ったのかエリューはわたしの腰に抱き着く。

それを見届けると、セレネルは「これを借りていく」とリボンを持ったまま城にとんぼ返りしていった。




「あれ、そういえばセレネルは何しにきたのかな」

「ミィスの様子を見に来たんじゃない?昨日結局遅くまで起きてたでしょ」

どうやらこっそりのつもりで29区までいったことはみんなにバレていたらしい。

少し恥ずかしい。


「アンブローズに色々教えてもらったから、わたしもお城に報告にいかないと」

と書いたばかりの報告書をまとめ、城へ向かう準備を始めた。

エリューはその間ずっとわたしの部屋で丸くなっていた。

わたしが遅くまで起きていたから付き合ってくれていたのだろうか、随分眠そうだ。




悪いことをしたな、と城に行くときはミヤビに預けておいた。





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