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光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
三章.大魔導士の魔法と初恋
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10.大事なお話

「…以上、とある方より授かった知識です。」

午後、急ぎ宰相と会う予定を立ててもらい、アンブローズから得た知識を報告した。

こういうとき"勇者"という立場は便利で、頼めば割とすぐに会ってもらえる。

(もちろん重要度はこちらできちんと判断しているつもりだけど)


「なるほどねえ、竜人化の魔法についてはもう昨日報告を受けたけど、人間(アントロピー)の性質とミィスちゃんの力があればこそなんだね。この件はすぐに必要な場所に伝えておくから、ミィスちゃんは自分のお仕事に集中しなさいね」

と穏やかな宰相の笑顔に甘えて全てぶん投げた。

あとは任せた宰相。

仕事ふやしてごめんね宰相。


美味しいお菓子と穏やかな宰相の雰囲気に、いつも最初は真面目に報告とかするのに最後は必ず和気藹々とした団らんになってしまう。

これが宰相のパワーなのかもしれない。

お菓子おいしい。


少し一緒にお茶を嗜むと、

「セレネル君が待っているからあとこの部屋は使ってていいよ」

と行ってしまった。

いつも多忙だから少ししかお話できないのよね。

その割に大量のお菓子を置いて行ってくれるのだけど。

お茶もおいしい。




入れ違いでセレネルが入ってくる。外で待っていたのかな。

「これを返しておく」

と返されたリボンは、しゅるりと首に巻き付いた。

首のチョーカーの代わりになったようで、今はリボンに種がくっついているみたい。

勝手に。

そういう魔法なんだな、ともうあまり驚かないことにする。

驚かないぞ!


「あれ、真黒になってる」

見えないので鏡で確認すると、真白だったリボンは真黒に染まっている。

「ああ、今朝シュトリヤたちに報告したついでに全員一度ずつ試した。」

首元からじわじわと体に魔力が満ちてゆく、温かい。

性急に摂取しているわけではないので、お風呂に浸かっているようで気持ちいい。



「で、テミスラからの報告だが」

どうやらあれからたった一晩で調整やらもろもろを済ませてしまったらしい。

「テミスラは仕事上30区と繋ぐ転移陣を家に設置していたらしい。バルドにも確認したそうだがいつ来てもいいそうだ」

仕事がお早い。

その上至れりつくせりだ。



「じゃあわたしは先にテミスラさんに会ってくるよ。本の解読手伝ってもらいたいのと、『黒の書』をアンブローズから預かったから」

「わかった、その結果がどうであれ5日後には発つが、いいか?」

「大丈夫」

みんなに準備をするようあとで伝えないと。




「それで…」

「シュトリヤは絶対置いていくから心配するな」

セレネルは話が本当にはやくて助かる。


「うん、そこは本当にお願いね。こないだ29区に行ったのだって本当はダメだったんでしょう?」

わたしの家まではまだ許容範囲(まだ城と直接つながってるから)だけど、その先の29区まで行くのは駄目だったと思う。


「王妃様に本気で叱られたらしく現在城に缶詰中だ」

王妃様のお怒りを想像してぞっとした。

体が恐怖でふるりと震える。怖い。

多分部屋からすら出られないだろう。


「セ、セレネルたちは怒られなかった?」

「俺たちはシュトリヤに振り回されたということで逆に謝られた」

「それはそれで怖い」

というと無言で頷かれた。

セレネルにとっても王妃様は少し怖いのかもしれない。

普段はおちゃめでかわいらしいお方なんだけどね!!


「けどまあシュトリヤがお城にいてくれるならわたしたちは気にせず行けるね」

やっぱりわたしの意識としては、シュトリヤには危ないところへ来てほしくないのだ。

とっても強いこともわかってるんだけど。

来てくれたら戦力的にも必ず助けにはなってくれるんだけど。

けれどかすり傷の一つだって負わせてはいけないひとなのだ。本来は。



あの旅の日々が懐かしく思えるのは仕方がないけれど、あれが特別だったのだから。



「ああ。ただ会いにいってやってくれ。…珍しく落ち込んでいる」

「わかった、じゃあ今から行ってくる」

念の為(なんの?)とセレネルに先導され、シュトリヤの部屋の前だ。



いつかの近衛騎士が居る。

が、随分憔悴した顔をしている。

「あいつまた八つ当たりしたな」

とセレネルが憐れんだ目で彼を見ている。

聞けば一番の新人近衛騎士らしく、ちょっぴりシュトリヤからのいたずらを受けやすいタイプのようだ。


「あ、ミィスさん…お願いします!!シュトリヤ姫を!!」

とやっぱり泣いて頼まれた。

この人本当よく泣くなあ。

こういうところがそういう意味で気に入られるんだろうなあ。


セレネルは仕事があるからと別れ、部屋へ入る。

奥の執務机で、猛然と何かの書類にサインしている姿が目に入る。

鬼気迫っているのは多分機嫌が悪いのを書類に当たっているからだ。

侍女のマリアに目配せし、部屋に二人きりにしてもらう。


「シュトリヤ」

「あら、ミィス!」

わたしの顔を見た瞬間に、ぱあっと花が綻ぶような笑顔に変わる。

「シュトリヤが王妃様に怒られたってきいて」

「ええ、いえ、わかっていたのよ。それに後悔はしていないわ。」

ミィスに迷惑をかけてはだめとも言われちゃったわ。

と頬を膨らませる。

かわいい。


「うん。王妃様もきっとそれはわかってくださってるよね」

「そうね。けれど、やっぱり一緒にいけそうにはないわ。悔しいけれど。」

とかわいい笑顔が翳る。


「ミィス、少しわたくしの話を聞いてもらえる?」

子供のころのように、もう一つ奥の部屋にあるベッドに促され、2人で座る。

「うん。何でも聞くよ?」

何かを決めたような顔に、少し動揺する。

なにか大事な話のようだ。





「わたくし、ミィスのことが大好きなの」

何故か、泣き出しそうな笑顔で告げられた。


「わたしも大好きだよ!」

そんな顔しないで、お願いだから。



「けれど、ミィスが遠くに行ってしまうの」

ぽろ、と伏せたシュトリヤの目から零れる涙がきらりと輝く。

その雫があまりに美しくて見とれてしまう。

わたしの魔力が少し、漏れたのも感じた。



「わたくしは姫で、ミィスは勇者だから、一番近いようで一番遠いの。」

ぐさり、とその言葉はわたしも抉る。


「ミィスはわたくしを護ってくれるけれど、わたくしがミィスの隣に立つ日は一生来ない。

堂々とミィスの背中を護ってあげることもできない。」

どこかで分かっていた。


「わたくしはそれが、悔しい…!」

わっと泣き出すシュトリヤをそっと抱き寄せる。



本当だったら、こんなこともしてはいけないのかもしれないけれど。

けどわたしはシュトリヤを()()()()護ると決めている。

それは、心も同じだ。

シュトリヤが泣いているのだから。



「とても、楽しかったの。あの旅が忘れられないの。ミィスと一緒にセレネルを助けて、ミィスと一緒に野営(キャンプ)をして、そしてミィスとセレネルの援護射撃までできたわ。

あの日々が、わたくしの心をとても鮮やかにしてくれた。


…けれど、だから。


余計に今、ミィスとの距離が辛い。

あの日々の前よりずっとずっとあなたを遠く感じるの。」



シュトリヤが最近、「姫」を自覚して溜息を吐いていた理由がわかった。

こんなにもわたしに真っ直ぐな好意を寄せてくれていたのに。


それが親愛なのか恋慕なのかわたしに区別はつかないけれど、でも種類なんてなんでもいい。

ずっと気づかなくてごめんね、シュトリヤ。

はっきりとした言葉には出せない。

シュトリヤは姫だから。

けれど、もうわかる。



その美しい目が、全部伝えてくれているから。

わたしのことを愛していると、そう叫んでいるのが聞こえるから。



「シュトリヤ、わたしにとってシュトリヤはずっとずっと大切な人で、護るべきひと。それは変わらないよ。だって小さな頃そう誓ったから。」

ね、と聞けば、小さく頷いてくれる。

その関係自体が嫌なわけではないのだ。シュトリヤもきっと。


護られるばかりだと距離を感じたのだろう。わたしもそうだったから、よくわかるつもりだ。

「けど、それと同じくらい、わたしにとってシュトリヤはわたしを護ってくれるひとだったよ」

そういうと、きょとんと目を丸く瞬かせる。


この宝石が散りばめられたような美しい紫の瞳。

きっと、誰よりも間近で見ることを許されているのはわたしだ。

シュトリヤがわたしにそれだけ心を寄せている。

それだけで、何よりも救いになる。



「ひとりぼっちになったわたしに、約束をくれたから生きてこれたの」

両親が死んだあの時、手を差し伸べてくれなければわたしはきっとここにはいない。


「"護る"戦いなら誰よりも強いって言ってもらえるほどのわたしになれたの。そのわたしの気持ちとか、夢…そういう心を護ってくれたのは、シュトリヤだよ。

鼓舞して、強くしてくれて、わたしを"ミィス・フォス"にしてくれたのは、シュトリヤなの。」

わたしは間違いなく、シュトリヤの為に強くなったのだ。

あの日わたしを生かしてくれたシュトリヤを何からも護ってあげたいと思ったから。


その想いが、どれだけわたしの生きる糧になっていたことか。

どれだけわたしの心の支えになっていたことか。




「立場とか、そういうことを考えたらわたしとシュトリヤは同じ線上には立てないのかもしれないけど。

でも、心はいつだってシュトリヤの隣にいるつもりだよ」

にこ、と笑う。



わたしは勇者で、シュトリヤはこの国のお姫様だ。

わたしも、シュトリヤもいつか必ず後継者を遺さなければいけない立場。


だから、わたしもシュトリヤを誰かに託さなければいけなくなる日が必ず来る。

シュトリヤはきっと、わたしを誰かに託さなければならない日を、早々に感じ取ってしまったのだ。

多分、アンブローズがわたしに求婚したから。


「そうだよね。」

とゆっくりシュトリヤの髪を撫でる。

「ええ、そう、よ。わたくしはずっと、わかっていたけれど目を背け続けてきたの。だって、ミィスに一番近いのは、わたくしで有りたかった…!

けれど、わたくしは()で、()だから…ミィス、あなたの事を護る人にはなれないわ。」

もうシュトリヤは泣いていなかった。


わたしの手を取り、額に当てる。

いつもやってくれる、おまじない。



「けれど、せめて、それを託すのはわたくしがいいの。お願い、ミィス。

今回は本物の求婚ではなかったわ。

だからよかった。

けれど、今後何があるかわからない。

だから、約束してほしいの」



シュトリヤの吐息を間近に感じられるほどの至近距離で。

「わたくしが認める男以外とは絶対に結婚なんてしないで」



その真剣な眼差しと、わたしを想う気持ちを目の当たりにして。

冷静でいられるわけがない。


ぶわっと溢れる涙と共に、受け取ったばかりの魔力が全て感情と一緒に迸ったのがわかった。

「きゃあ、ミィス!?」

いつもは絶対しないけど、シュトリヤの額にキスを落す。


「嬉しいの。わたし、大好きな、大好きな大好きな…

世界で一番大好きな女の子に、こんなに大切にしてもらってたんだって。」

涙でよく見えないけれど、わたしもシュトリヤも多分、笑っていたと思う。


お返しに、とわたしの額にシュトリヤから祝福を貰う。

「ミィス、わたくしの心はいつだってあなたの傍に在るわ。」

「わたしの心もいつもシュトリヤの傍にいるよ」


わたしはシュトリヤの支えに、

シュトリヤはわたしの支えになれるのなら、これ以上もう望める関係はない。



わたしたちは、友達以上にはなれるけれど、恋人同士にはなれないのだから。



「ねえシュトリヤ。もし許されるなら」

「ええ」

「シュトリヤもわたしが認める男の人以外とは結婚しないで」

「まあ!ふふ、わかったわ。約束よ」

これは無理な約束だってさすがにわかっているけれど。

けれどわたしもシュトリヤと同じ気持ちであることはどうかわかって。



こんなに大切な女の子を託す相手が、わたしの信頼のおける人でなければ絶対に嫌だよ。



わたしたちは決定的な言葉を交わしたわけではないけれど、この想いを誰かに託さなければならないならば、これは失恋なのかもしれない。

恋だったのかはわからないけれど、間違いなくわたしにとってシュトリヤは一番大好きな女の子だったのだ。



けれどいつか誰かにこの気持ちを託す、その日まで。

シュトリヤの願いを叶えるのはわたしであればいい。






-------3章.大魔導士の魔法と初恋 了






お付き合いいただきありがとうございました、ここで3章は完結です。

引き続き幕間をupしていきます。

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