表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
三章.大魔導士の魔法と初恋
52/94

6.激情のお話

報告してくる、と慌しく城へ向かったセレネルを呆然と見送る。

「多分すぐ戻る」と言っていたので、その間にわたしも考えておかないと。


「結婚…結婚…」

結婚ってなんだっけなあ。

わたしの知る結婚ってこう、幸せそうで互いが望んで行うもので…

ある意味互いが望んで行うのかな、これ。



「ミィス、しっかりして。ボクはミィスが幸せになれないなら反対だよ」

床に座り込むわたしの前にしゃがみ込み、ぷく、と頬を膨らませるエリュー。

小さな手でしっかりと両手を包みこんでくれて、初めてわたしの手が指先まで冷えていたことがわかった。


「拙も反対やわあ。あのやり方はミィスが好きなやつちゃうやろ?」

そっと手を取り、腰を支えるようにして立たせてくれるミヤビ。

そのままソファに座らせてくれる。

お礼を言おうと見上げれば、心配げに眉を下げている顔が目に入り、何も言えなかった。


「ミィス、あれはお前の血族が好きなだけでお前個人に恋心を抱いているわけではないぞ」

スカンはふかふかのクッションを数個まわりに並べてくれる。

うちにこんなにクッションあったかなあ。

無表情だけど、こちらを案じてくれているのはわかる。


3人からそれぞれ意見をいただき、それらは全部がつんと響いたけど。

「でも…わたしシュトリヤの願いは全部叶えたいの…」

声の半分以上は抱えたクッションに吸い込まれたかもしれない。

けれど正しく全員に聞こえたようで、3人とも黙ってしまう。


アンブローズは、この方法を知るのは自分だけだと言っていた。

多分それに嘘はなかった。

だから、彼に聞くしか今のところ方法はない。

それにはわたしと彼が結婚する必要があって、けれど、それは()()()()()()と言っていた。

「うー…やっぱり結婚?いやけど…」




「駄目よ」

扉をばん!と開けてつかつかと入ってきたのはシュトリヤだった。

続けてテミスラさんも入ってきた。

なんでだろ、アナトーレの代わりかな。


あと本当に早い。

10分と経っていない気がするのですけれど。

(そういえば前うちに設置した転移陣はそのままだった。我が家いま転移陣だらけ)


「ミィス、わたくしはミィスが望まない結婚をするくらいならアンブローズを殺します」

と澄んだ真っ直ぐな眼差しで宣言された。

「まって…うん、さすがに待って」

いくらなんでも殺すというのはおかしい。

そんな話ではなかったはずだ。

ただ何が逆鱗に触れてしまったのか、シュトリヤが見たことないほど怒っている。


「わたくしもアンブローズととりあえず話がしたいわ。案内して、ミィス。お願い」

いくら怒っていても、わりと冷静で笑顔のままひんやりとした空気をだしてくるいつもの怒り方じゃない。

出てしまいそうな激情を、抑えて、抑え込んでようやくこの表情のない顔になっているようだ。

言葉の端々に、漏れ出た火の粉が見える。



「セレネル!なんで止めてくれなかったの?」

シュトリヤの説得は無理と思いセレネルに矛先を向ける。

しかし冷静な顔で、シュトリヤの言う様にすべきと言わんばかり表情で見られる。

本来ならお姫様が自らどこかへ乗り込むなんて止める立場なのにこちらがおかしいみたいだ。


「これはシュトリヤ自身のことだ。それを俺たちが止められるわけがない。あと俺も気に食わないのでシュトリヤが奴を仕留めるというなら全力で手を貸そう」

わたしの知る限り最凶のコンビが出来上がってしまった。


「それからアナトーレから。『ミィス、シュトリヤ姫の怒りは尤もなのです。そして私も怒っています。』」

この声は怒ってる声だ。セレネルの口真似が忠実なのはもうわかっているから相当の怒りを感じる。

「来られないアナトーレさんの代わりに僕が来たよ。大丈夫、僕も結構強いから」

と穏やかそうにほほ笑むテミスラお兄様も目が笑っていない。


なんで、どうして?

自分とみんなの温度の違いについていけない。


「よかったあ、ボクもこの行き場のない怒りをどうしてやろうかと思ってたんだ!もちろんボクも行くよ」

「拙も行くわあ。【魅了(どるちぇ)】が全く効かんわけちゃうとおもうし」

あ、ここまできたら手を付けられそうにない。


何もいわないスカンさんをちらりと見れば、無言で剣を磨いているのでそっと目を逸らす。




「ま、待って。わかった、全員連れていく。けど話し合いにして。絶対武器とかスキルとか魔法とか…とにかく攻撃はしないで」

これを飲んでもらわなければ連れて行くことはできない。

わたしは戦いたくないのだから。

「どうして!!」

「シュトリヤ、お願いだから落ち着いて。」

あまりみんなに使いたくないけれど、【勇者(ブレイバー)】の穏やかな光を浴びせる。


全員がさきほどより冷静になったのが解る。

鎮火はされてなさそうだけど。

こないだから鬼人(デモニアトロピー)を鎮めたり、こんな使い方をする日がくるとはちょっと思ってなかった。


「わたしは、アンブローズと結婚しようとはまだ思っていないよ。けど、どうしても必要ならそれも仕方ないって思ってる。」

「その必要はないわ。その場合わたくしは諦めます。おとなしく竜になるわ。だってわたくしのわがままなんだもの」

「違うよ、シュトリヤ。わたしのわがままでもあるの。けど、まだアンブローズの真意がよくわからない。だから、お話をもう一度聞きに行こう?渋って話してくれないような人じゃなかったから」


シュトリヤを落ち着けたくって、そっと抱きしめる。

どくどくと激しい音をたてていたシュトリヤの心臓の音が、とくんとくんと穏やかになった頃顔を上げる。

「うっ…ずるいわミィス。そんなかわいい顔でお願いされたら聞くしかないじゃない」

なぜか落ち着いたはずの心音が再び速くなってきている。


これはわたしの心音かもしれないな。


シュトリヤがとってもいい香りなので。

そして見上げた照れ顔がかわいすぎるので。

はああ美しくってかわいいとか本当最強…


「よし、じゃあ行こうか。」

と久々に至近距離でシュトリヤを堪能し、再び、ほぼとんぼ返りの勢いでアンブローズの家へ転移した。




「ふはは、思ったより早かったがそれが姫か?」

「ええ。初めましてアンブローズ・アルケー。」

事前に落ち着いてもらったおかげで、いつもの笑顔で怒るモードには落ち着いている。

怒りは収まっていないようだけど、アンブローズはちょっとも気にしてないしいいか。


「で、だ。ミィス。決めたか?それとも違う話がしたいのか?」

とわたしをエスコートするように手を掴もうとする。


が、それは寸前で遮られる。

「アンブローズ・アルケー。これ以上ミィスになれなれしくしないで頂戴。」

ぴしゃりと扇で彼の手を叩き落としたようだ。

これ王妃様がよくやるやつ。思い出してわたしの背筋も冷えた。


「姫にまで嫌われるとはな」

と言うものの、特に気にはしていないようで肩をひょいと竦めると先ほどのリビングまで先導してくれる。



わたしが単刀直入に、さっさと結婚とかいう条件について聞こうとしたとき。

少し黙ってろと、ぱちりとウインクを飛ばされる。

そして繕ったように真剣な顔をすると、おもむろに口を開く。


「ミィス、お前は本当に美しい。」

「ひあ!?」

思わず変な声が出た。本当に唐突だったのだ。恥ずかしい。


「俺様にとってはこの国の至宝とまで謳われるそこの姫や、月に譬えられるほどのそこの騎士よりもずっと。

何よりも美しいと思う」

気付けば跪いて手を取られ、その甲にキスされている。


けれど、なぜだろう。

ここまでされているのにわたしの心が少しも動かないなんて初めて。

そのことに逆に動揺して思わず黙ってしまう。



「ミィスのほうがセレネルより美しいのは当たり前じゃなくて?」

「俺よりもシュトリヤよりもミィスが美しいのは自明だろう」

と2人同時にほぼ同じことを言うので笑ってしまった。


「ふふ、ふふふ…ないない!2人よりわたしのほうが綺麗なわけないよ!ねえアンブローズ。これって何かの確認?」

「ああ。悪かった。お前も俺様に靡かないとか相当だぞ。自慢じゃねえがこの()、綺麗だろ?」

と笑う顔は確かに端正だけれど。

真っ白な髪と眼も神秘的ではあるし。


「うん、綺麗。けど」

シュトリヤとセレネルのほうが綺麗だと言いかけるとそれを遮られる。

「ああわかったわかった。だが、さっきのは本音だぞ?」

「アーラさんに似てるからでしょう?」


「お前も馬鹿だな…素直なようで卑屈なのはそっちの2人のせいか?」

とわたしの頭をくしゃりと撫でるとシュトリヤとセレネルの方を見る。

「さて、俺様が駄目だった以上、あとは姫か騎士のどちらかにかかってるぞ」

にやりと笑うアンブローズ。



多分全員、何が何だかさっぱりだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ