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光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
三章.大魔導士の魔法と初恋
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5.運命の人のお話

言いかけたアンブローズの口をがばっと塞ぐ。

「待って。わたしはアーラじゃない。あなたの初恋じゃない。」

残念だけど、と首を横に振る。

顔だけ似ていても、わたしは違うのだ。


「ああ、それはわかってるぞ。」

と軽々手を外される。

また魔法だ。もういちいち驚いていられないな。

この人は息をするように魔法を使える、()()()魔法使いだ。


「俺様も1000年前の気持ちをなにもそのまま持ってるわけじゃねえ。アーラが死ぬとき、あいつに頼まれてな。

『生きている限りでいいから、あたしの後を引き継ぐアウルムをお願い。あの子、あたしの馬鹿な部分ばっかり似ちゃったの』ってな」

これがそっくりかどうか判断はできないけど、多分似てるんだろうなあ。

やっぱり獣人(セリアントロピー)の特技なのかな。

声はわたしと全然似ていないようで、わたしより幾分か低く凛々しい。


アウルム・フォスはフォス家の最初の人だ。

アーラの白金の髪と金の眼を継いだ、フォス家(わたし)の最初の祖先。


「だからまあ、初めは俺様の運命の相手とやらを探すついでに見守ってやってた。

だが、見ているうちに気づいた。お前たちフォス家は、全員揃いも揃ってアーラと同じことを必ず言う。」

その時間が全く苦ではなかったことのように言っているが、1000年も見守ることが楽なわけがない。


「『手を出すな』ってな」

けれど、とても愉しそうに笑う。

「代を重ねるごとにアーラのゴリラっぷりが継承されなくなって、【勇者(ブレイバー)】のスキルくらいしかない普通の人間(アントロピー)らしくなっていって。

それでもお前らは、手を貸してやろうかと聞けば必ず拒否しやがる。俺様がやればなんだって簡単に叶うのになあ」

からからと笑い声を上げるその姿は、本当にわたしの祖先たちのことが好きなんだなということがわかる。

その回答を、すっかり気に入っているようだ。



「そうね。わたしにもわかるよ」

そしてわたしにもどうやらその血がしっかり流れているようだ。



「アンブローズはすごい魔法使いだから、アーラの手の届かなかった"護り"を任せたんでしょう?」

だから、アーラは「力を貸して」とは言ったけど「手を出すな」とも言ったのだろう。

(アンブローズが手を出すまででもなく戦いに関して助けは必要なかっただろうけれど。)



そして、その後の子孫たちは。

「今立ちはだかる大きな困難は、確かに自分一人ではもうどうしようもない。」

アーラのように、格好良く華麗に解決したかったけれど、無理だった。


「けれど、せめて目の前のこの小さな困難だけは、自分にやらせてくれないか。」

わたしたちが"勇者"であるまま死ぬために。

どうか小さくても、何か成し遂げたのだと笑って胸を張れるように。


「そして、残ってしまった困難は、次の世代に託す」

でしょう?と笑えば少し驚いたようで目をぱちっと開いた。



わたしたちは勇者でありたいと目指すその先に、必ずアーラを見ているのだ。

だから護りたいものは、自分の手で護りたい。

救いたい相手は、自分が救ってやりたい。

信じた仲間に力は借りるけれど、頼りたくはない。

けれどそれでもどうしてもダメなら、それは、次の世代に託す。

それがわたしたちフォス家のやり方なのだ。

「馬鹿だなあって思うけど、それ以上にわたしたちは自分が勇者で在ることが誇りなんだよ」


それに、多分はっきりとは誰も言わなかったみたいだけど、アンブローズにもできないことだったのだと思う。

わたしたちはいつだって護りたくて、救いたい。

そこにすごい魔法はあまり必要ない。

きっといつだって人の心が関わっている。

わたしがバルドさんや魔人(ファントムトロピー)たちを救いたかったように。



「ああ、そうだ。全員死ぬ間際に俺様が耐えかねて手を貸してやろうかって聞くんだ。

死んでほしくねえからな。

なのにあいつら、死ぬ間際に必ず目の前のことは最後の力を振り絞って片付けちまう。この後のことは子供がきっとするから、もう少し見守っててくれってな。

もう少し、もう少しの積み重ねで1000年だ。」

ゆっくりとアンブローズは目を閉じる。

1000年の間に何百人もの勇者たちの死を看取ってきたはずだ。

その一人ひとりの顔をきっと忘れてはいないのだろう。


「ただ、それが俺様にとってとてつもなく愛おしかった。」

と笑う。

「ありがとう、アンブローズ。ずっとずっとわたしたちを大切にしてくれていたのね。」

「はは、それも聞き飽きた。全員漏れなく言いやがる。お前たちの思考回路はもう読めてるんだよ」

と憎まれ口を叩きながらも、嬉しそうだ。



わたしも、嬉しい。

だって歴代の勇者たちと同じように歩めているからこの心の在り方を導きだせたのだもの。


「つまり、1000年の間にすっかりお前たちのことが好きになって、それを見守ることが今や俺様の生きる理由になっちまったんだよ」



「待て、それでなんでミィスには今会う…」

声をあげかけたセレネルが固まる。

「ふん、お前たちも知っての通り、ミィスはアーラ以後初めての女の子孫(しそん)だ。悪いが俺様の恋愛対象は女だけだ。」

そうだ、そうだった。

彼が今まで看取ってきた全てが男性だ。

「そして、俺様にたどり着いたのもお前が初めてだ、ミィス」

と本当に嬉しそうに笑う。



「け、けどわたしが貴方に会いにきたのは…」

申し訳ないが運命の出会いを演出するつもりで会いに来たわけではないのだ。

「ああ、わかっている。竜人化の魔法について知りたいんだな。これに関しては俺を頼るしかないだろう。どこにも文献を残さなかった。」

「どうして?」

「俺の個人的な感傷で悪いが、アーラと作った最初で最後の共同作品だ。大事にしてえだろ」

「…それはわたしにも教えて、もらえる?」

おずおずと聞く。

そんな愛おしそうに思い浮かべた魔法を聞くことに抵抗があるが、わたしもシュトリヤのために必要なのだ。


「ああ、それがお前の望みならば俺様は手を貸してやってもいい。懐かしいな、アーラもどうしようもなくて俺様を頼った案件だ」

「アーラも…?」

驚いた。アーラが主体だと思っていたのだ。

1000年前は人人間も獣人ほどではないが魔法が得意だったようで、アーラも魔法をたくさんつかっていたようだ。

もちろん魔宝玉(スフェラ)なんてなしで。


「種族を変えようって理に背く魔法がそう簡単に使えるかよ」

と教えてくれるが、正直もう魔法について次元が違いすぎて「そーなんだー」としか思えない。


薄々それに勘付いているらしくセレネルがちょっと可哀想な目で見てきた。

きっとセレネルにはその凄さが正しく理解できているのだろう。

セレネルが解ってるならいい。



「が、一つ条件がある」

「な、なに?」

こちらを射抜くように見られ、びくっと体が跳ねる。

けれど、その眼の奥にあの時のセレネルのような熱はないように思う。



「俺様と結婚しろ」


その言葉と同時に、セレネル、ミヤビ、スカンさんがそれぞれ抜いた剣をアンブローズに突き付けている。

エリューはわたしの手をしっかり握っている。

多分、いつでもわたしをひっぱって逃げ出せるように。


「ふは、お前たちに拒否権なんてあんのか?」

剣を向けられているのにまったく気にせずにからからと笑っている。


フォス家(お前たち)の性格はよくわかってるっつったろ?で、この方法をお前は拒めない。だろ?」

と笑顔で指摘される。

その通りだった。

わたしはシュトリヤのためなら多分何でもできる。


幸いわたしに婚約者はいないし、まだ恋とかよくわからない。

それならこの人が相手でも問題はないかもしれない。

見た目は12歳だけど中身は1000歳ちょっとだし。


それに、いままでずっとずっとわたしたちのことを見守ってきてくれた人なのだ。

わたしが頷くことでこの人の時間がもし動き出すなら。

この人がわたしの助けを望んでいるなら。



「ミィス、今返事をするな。いいか、絶対だ」

と背を向けたままのセレネルがわたしが何かしゃべる前に釘を刺す。

こちらをちらりとも見ないことが、ことの深刻さを窺わせる。

たしかにこの3人が束になっても、アンブローズには勝てないかもしれないのだ。

というかわたしは別に戦いたいわけじゃないのに全員ピリピリしていてそれを言い出せない。



「で、でも」

「でもじゃない。一旦考える時間を取らせてもらう。これはシュトリヤも関わる問題だ。そうだろ?」

「う、うん。」

「シュトリヤがお前の()()を喜ぶか?」

この言葉が決定的だった。

たしかに、わたしが結婚するからシュトリヤ助かるよ、なんてやり方でシュトリヤは喜ばない。

それは絶対だ。


「ごめんなさい、アンブローズ。少し時間をもらってもいい?」

「ああ、俺様はいつでもいいぜ?なんなら姫をここに連れてきてもいいしな」


というアンブローズに、ようやく剣を向けていた3人はそれを降ろし、

色が変わるくらいわたしの手を握りしめていたエリューも力を緩めてくれた。



「お前の家と俺様の家を繋ぐ転移陣がある。ほら、鍵だ」

と、小さな鍵を放り投げられる。

「お前が居る場合に限りいつでも動くから、好きに来ていいぞ。墓参りも足りねえだろ」


どうやら我が家に存在する、とある開かずの間はここへ繋がる転移陣が設置された部屋の鍵らしい。

普通の扉ではなくて魔具(イディ)の扉だったのか、知らなかった。

通りで開かないわけだ。

(スカンさんに頼んでみたけど無理だった)

開かなくて気にしたことはなかったけど。




「ああ、そうだ」

と転移陣に乗ろうとするわたしの手をぐい、と引っぱる。

前後左右みんなに固められていたから、やっぱり魔法だろうなあ。

ただ、それを予測でもしていたのか、一瞬でセレネルに抱き寄せられ、アンブローズの手は離される。

「なんだ」

「ふはは、すっかり嫌われたようだな。まあいい。ミィス、またな」

と笑顔で手を振るアンブローズの姿が歪み、薄暗い一室にわたしたちは立っていた。




アンブローズのあの目に違和感を感じた。

それが何かはまだ、わからないけれど。

彼の望みがよくわからない。








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