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光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される  作者: 汐
三章.大魔導士の魔法と初恋
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1.アデルフィとの邂逅のお話

わたしたちはクスィラさんに会うために10区にやってきた。



クスィラさんに貰った魔具(ネックレス)を見せたらセレネルに

「これはどうした?」

と詰問された上、背中はスカンさん、正面はセレネルに挟まれて身動きを取れなくされた。

なにこれ怖い。無言の圧が怖い。


「クスィラはんがミィスに着けていったんよ。取れへんし拙じゃ触れるのもむりやったで」

ミヤビが助けてくれる。

「…どういうつもりだ」

低く唸るような声で絞り出すセレネル。

わたしに聞いているわけではなさそうで、ネックレスを凝視している。

この顔の時のセレネルは、すごく色々考えているときだからあまり関わりたくない。


「ああ、多分やけど過保護なんやと思うわあ。保護者気取りなんちゃう?気にするようなアレではなかったで。」

ミヤビが宥めてくれたおかげでセレネルの眉間にぐっと寄っていた皺がなくなり、圧も霧散した。

「そうか、では一旦警戒レベルを下げる」

何の警戒だろうか。いや確かに取れないって言われたら呪いっぽくも感じてしまうけれど。


「そうしたって。姫はんにまで伝わったら面倒やわ」

「それには同意する。あいつは許さないだろうからな」

シュトリヤに自慢しようと思ってたんだけど(竜が作った魔具(イディ)だよ!って)やめておいた方がいいのだろうか?

と首を傾げていたら、エリューにこっそり、「気づかれるまでは黙ってて」と言われた。

最近みんなのシュトリヤの扱いがお姫様じゃない気がするんだけどわたしの気の所為かなあ。




というひと悶着を経て、10区だ。

そして森。せせらぐ川と、木漏れ日が穏やかで、ピクニック気分になってしまうのも仕方ない。

「エリュー!見て!あの鳥!」

「わあ、綺麗!なんていう鳥さんかなあ!」

初めてみる動物や虫たちについ浮かてしまう。

そのたびにクスィラさんが軽い解説を入れてくれるのでピクニックというより学園の初等教育でやった自然学習みたいかもしれない。


"見守る人"とやらの部下さんは森の奥に住んでいるのか、区の中央部へ向かっているようだ。

道らしい道はないのでクスィラさんについていくしかない。

ただ、魔物には全く出会わないので、クスィラさんが多分何かしてくれているのだと思う。

わたしには感じられないけど、こういう時ずっと警戒してくれるセレネルがリラックスしているみたいだから。

すごい、わたしクスィラさんと一緒にいればトラブルメーカー(最近漸く自覚しました)にならない!!



「さて、ここだよ。」

やがて到着した場所には、こぢんまりとしたかわいい家がぽつんと建っていた。

どこかわたしの家にも似ている気がする。

「ロド、お客さんだよ」

とクスィラさんが呼び鈴を鳴らす。


部下さんはロドさんと言うようだ。

ここに住んでいるみたい。


「いらっしゃい」

からん、と上部に付いた鈴を鳴らしながら扉が開き、出てきた女性を見て全員が言葉を失った。


「わ、わた…し…?」

擦れた声で、絞り出すように出てきた声は多分震えている。

髪の色も目の色も全く違うし、わたしより10歳近く大人に見えるが。

確かにわたしと同じ顔なのだ。

全く同じではないけれど、それでも姉妹くらいには似ている。


「ああ、そうか。君に似ているのを忘れていたよ。びっくりさせたね。

あの子は通称アデルフィ。人そっくりだけど魔具(イディ)なんだよ。」

のほほんと全く空気を読まず次々に爆弾を落としていくクスィラさん。


「い、魔具(イディ)だと、あれがか!?」

セレネルが珍しく声を荒げている。

その気持ちはよくわかる。

話す声も仕草も、人にしか見えない。

こんなものを作れる人がこの世に存在するわけないのだけど、実際目の前で動く魔具を見てしまっているので信じるしかなさそうだ。肌とか髪とかどうなってるんだろう。

ぷるぷるつやつやなんですが。


「なぜ(ミィス)と似ているのだ…?うむ。」

何かに気づいたらしいスカンと考え込んでいるセレネルは黙り込んでしまうし、ミヤビとエリューはびっくりしすぎて何にも言えないって感じだし。



スクィラさんはもう少しこれを予測してほしかった、なんて贅沢かなあ。

竜だしなあ。

竜ってどうも長生きすぎてわたしたちと感情が違う気がしている。

3人目にもなるとなんとなくそういう性質みたいなものが見えてきた。


「わたし、10くと11くのたんとう。ロド」

にこ、と穏やかに微笑むロドさんにとりあえず自己紹介をしておく。

「初めまして、ロドさん。わたしはミィス。この人はセレネルで、ミヤビ、エリュー、スカン」

とそれぞれを指さして紹介する。

「ん。おぼえた。いらっしゃいミィス。まってたよ」

なぜかわたしにだけ返事をくれる。

代表と認識してもらえたのだろうか。


「10区と11区担当ということはこの見た目の魔具(イディ)が他にも複数いるのだな?」

「そうみたいだよ。当方は会ったことがないけどね」

同じ見た目の人が何人もいるとなるとそれは少し怖いかもしれない。



「さて、ロド。この子たちが君のご主人様に会いたいそうなんだけど、会えるかな?」

「あ、あの!竜人化の魔法のことが知りたいんです!」

どうしても会いたいのだ。けれどこの事務的な対応しかしてくれなさそうなロドさんに少し不安になる。

大丈夫だよ、なんてクスィラさんは笑っているけど。


「ん、すこしまって。あなた、ミィス・フォスね」

「は、はいそうです」

わたしの名前を再度確認したロドさんが目を閉じると、膨大な魔力の流れを感じる。

あれ、家名(フォス)は名乗ったっけ。


「どこかに通信しているようだ。"端末"の元になった魔法か?」

セレネルがぽつりと呟く。

その魔法ってもともとは大魔導士アンブローズが作ったんじゃなかったっけ。

魔宝玉(スフェラ)なしに使ってる…?」

「そういう…魔法が使えることを前提とした魔具(イディ)なんじゃないか?いやそれでも規格外すぎるが」

ふう、と溜息をつくセレネルは珍しく考えることを放棄したらしい。



「いいって。でも、きてって。ちず、あげる」

終わったらしいロドさんがわたしの端末を指さすので差し出すと、地図データに目的地をクリッピングしてくれた。

「ここは…29区?」

ほぼ丸いこの大陸の一番外側に位置する最果ての区だ。

古き神々の眠る神聖な土地、と学園で習った。

行ったことは勿論ないし、ここ数百年普通の人は足を踏み入れていないと思う。

新しい発表なんかもない。

「む、よりにもよって。」

とスカンさんすら少し眉を寄せている。


「いちばんちかい、アデルフィまでは、おくってあげる」

こっち、と手を引かれた先には転移陣がある。

「当方はここまでかな。ごめんね、街のことがあるから。何かあったら魔具(それ)使うんだよ。」

「あ、ありがとうございます!!」

と手をふるスクィラさんに慌ててお礼を言うと、ロドさんの声が遠くに響いた。

「27く、レウコンまで」




数秒で先ほどと同じような場所に立っている。

転移ってすごいなあ。普通こんなに気軽に使えないんだけど。

同じデザインの家なんだろうけど、スクィラさんが居ないので、ここが別の場所だということはわかる。


「いらっしゃい!ここは27く!レウコンのいえ!」

と無邪気なアデルフィに迎えられる。

こちらは真っ白な髪なので、ロドさんよりも更にわたしに似ているように感じる。


「あっち、がんばって!」

とざっくりした方角だけ告げられ、27区へ放り出された。

ぱたんと無情に閉じられた扉をしばし呆然と見つめてしまう。

いや、魔具(イディ)といっていたし深いコミュニケーションは望めないのかもしれないけれど…!

もう少し詳しい情報なり…いや贅沢だよね。うん。




「…何の準備もないのが痛いな」

ぽつりと漏らすセレネルの声すら少し落ち込んでいるようだ。

「え?」

「外区であることは予想していたが、29区となるとせめてもう少しなにか情報が欲しい。

27区はまだいい。ほとんどが海岸と海だ。海に入らなければ魔物も出ない。いやお前がいれば関係ないかもしれないが。

その次が28区。ここは古くには街があったらしいが今は海に沈んでいる。

どう考えても29区に向かうなら一つ内側のどこかからか、せめて反対の19区から行くべきだ。」


と言われて地図を思い浮かべる。

特区を中心に、1周目が1区・2区・3区。

2周目が4~9区で、ここまでを内区と呼ぶ。

そして断崖絶壁を挟み、3周目は10区~18区。

最後が19区~29区。ここを外区と呼んでいる。

大陸の裂け目が4区から海まで続くため、4区・11区・12区・25区・26区は海と接する。


例えば3区の一つ外側は4区で、そこから時計回りにぐるっと一周するように区が配置される。

区と区の境界は気候で分かれているので大きさもバラバラだし、綺麗に重なってはいないので、複数の区と隣接することになる。


29区と隣接するのは同じ周では19区と28区、内側の周では15~18区だ。

29区は4周目の区の約4分の1を占めているので大変広い。


だから内側のどこかから、とセレネルはいったのだけど。

「いや、それは無理だ。」

スカンさんに否定される。


「29区へは28区からしか入れない。

我も他の区から入ることに試みたことはあるが、神の土地とされるだけあって、結界のようなものが働くようで入れぬ。」

とのことで落胆した。

27区からじゃ遠すぎる。

19区~25区までで半分、残りの26区~29区までが残りの半分の土地を有しているため、27区から28区までは隣接していても他の区に比べて遠いのだ。



「鬼人の長って各区にもくわしいんだあ」

エリューがぱっと笑顔で感嘆する。

すっかり懐いているようで何よりだ。

「ああ、外区に出て鍛える者も多いからな。我も29区の入口までは案内できるぞ。29区には結局入ったことはないが」

「スカンさん…!」

頼もしすぎる。思わずきらきらした目で見てしまう。


「主の役に立つためにという名目でありとあらゆることをやってきたが、無駄ではなかったようだ。ミィスのそのような顔が見られて我も救われる」

とろりと笑顔を浮かべ、自然な手つきで頬をそっと撫でられる。

大きくて無骨な手とは裏腹に、優しく壊れ物を扱うように触れる手つきにどきっとした。

上手く言えないけれど、とても大切にされているとその指先から感じる。



「なあミィス、乗り物、欲しない?」

ぐい、とミヤビがスカンさんとわたしの間に割り込み魅力的な提案をしてくれる。

「乗り物?」

「そ。かなりの長距離やろ?前みたいに徒歩でっていうわけにもいかんやん?」

「それは確かに。前は区をまたいで歩くなんてしなかったもんね。」


以前シュトリヤが捕まったと言われて行った場所は2区だったし、2区に入るまでは馬車だった。

(ちなみに3ヵ月もかかってしまったのは完全に想定外で、わたしの()()のせいだったようだけど)

その後25区を縦断したけどそれも区は跨いでいない。


「アナトーレがいればよかったけどわたしたちは無理じゃ…」

アナトーレが使う召喚魔法には必須の【調教】というスキル。

それがあれば普通の魔物なんて楽々で乗り物にすることもできた。

ただ、召喚魔法を使わなくても【調教】を使う人なんて各種乗り物を斡旋している人くらいなものだと思う。

それだって最近の馬車は魔具(イディ)が引いてるから減ってきてるっていうのに。


そしてアナトーレは今回お仕事があるからと泣く泣く不参加だ。

(本当に泣いてはいないけど、何度もエリューとしっかり協力するように釘を刺された)

そのあたりの魔物をひっつかまえて乗るわけにはいかない。普通に危険。



「聞いて驚かんとってな」

そんな懸念を浮かべるわたしをドヤ顔で見た上にたっぷり前置きをするミヤビに、エリューと一緒にわくわく。

「拙の魔法を強化して、乗り物に<天ノ羽衣>かけれるようにしてん。更に飛距離も伸びたで」

と誇らしげに薄い胸を張る。

「「えええええ!!すごい!!」」

と感嘆の声がエリューと重なる。


重たいものを浮かすだけなら、昇降機(エレベーター)で使われている汎用的な魔法でも存在する。

魔具も安価な大量生産品がある。

けれど、長距離移動させるなんて魔法、わたしは見たことがない。

そもそも空を飛ぶ魔法自体珍しいのだ。人1人でも魔力がたくさん必要だったのに。

(多重掛けの時はシュトリヤの魔力も使えるから1人よりもちょっと大変なくらい、と言っていた)


「拙は戦いよりこういうののほうが向いてるって気づいてからは早かったで。幸い魔力は多い方やし。ほら、ミィスに分けてもろた白い魔宝玉あったやろ?あれに変えてん」

と今日は髪型で見えなかったイヤリングを、髪をずらして見せてくれる。

色は赤から白に変わっているし、デザインも変わっている。

いつの間に。

「ほんとだ、気づかなかった!」

「内緒にしててんよ。」

とウインクと共に人差し指を口元へ添えてほほ笑む顔は大変にセクシーだ。

エリューがほんのり頬を赤くしている。



「乗り物部分さえあれば()()ミィスを29区まで連れて行ったる。」

「おー!!すごいすごい!!じゃあ作ろうか」

「ああ、ええね。楽しそうや。」

ということで今日は乗り物作りに決定しました。




何やらミヤビが意味深な目でセレネルとスカンさんを見ていた気がするけれど、最近ちょっとこういうの増えたのでいちいち気にするのをやめます。

謎のマウント合戦をやめてほしいのが本音です。



手に負えないので、仲良くしてください。








ブックマーク等ありがとうございます。

三章開始します。

スカンはプロット時点では名前すらなかったのにこの先も出張ることになりました。

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