幕間7.セレネルの悩み
セレネル視点です
ミィスから報告を受け、明日には10区に旅立つ。
そして竜人化の魔法を知るという人物に会いに行くことになるだろう。
既にメンバーは決まっており、俺とミヤビ、エリュー、スカンがついて行く。
シュトリヤは姫なので参加不可能で、アナトーレには仕事を任せざるを得なかった。
俺か、副隊長かどちらかを残すようにと上司に命令されたのだ。
まだ確証がない調査の段階だから、と。
早々に俺が騎士団長座を奪うべきかと思案しかけたが、そうなると俺も自由には動けなくなるので思い留まった。
アナトーレが居た方がミィスの生存率が上がるのだから居てほしかったのだが。
問題はシュトリヤとスカンだ。
シュトリヤは同行できないことを妬み、俺は連日殺されかけている。
俺が死んでも解決しないことにそろそろ気が付くべきだ。
お前が同行できる可能性はないのだから。
ただ、そのお陰というべきか。
俺とシュトリヤの婚約が遂に完全に破棄された。
ミィスの婿の座を狙う者共、つまり俺とシュトリヤがくっつけば最大の敵が居なくなると踏んだ奴らは、テミスラの手も借りたが一掃しておいた。
テミスラも、「あれらにミィスは任せられないな。手伝うよ」と好意的だったのだ。
奴の貴族としての手腕を初めて見たが、あれはなかなか鮮やかだった。
俺もあの兄を自称する男には好かれておいた方がよさそうだ、敵になれば厄介だろう。
ミィスを狙っていた貴族には、相応しい婚約者を用意してあるので残りの敵はほぼ身内のみと言っていい。
シュトリヤもこれに関しては喜んでいた。
そのせいで、「最大の敵は貴方だけよ」と認定されてしまったのだが。
スカンはまだ信用できない。
忠犬の振りはしていたが、あれは犬の皮を被った狼だ。
あの時はシュトリヤにそれを悟らせると面倒だったので(あいつが怒るとしつこくて長い)無視したが。
ミィスに近づけたくないのだが、そのミィスが誘ってしまったらしい。
あれが年上の余裕の成せる技なのか、腹立たしい。
俺にはロリコンにしか見えない。
ミィスはまだ17になったばかりで、あいつはもう30近いのだぞ?
変態か。
しかし顔がいいからか、ミィスがあいつの笑顔に絆されつつあるらしい。
エリューから報告を受けている。
ミィスは顔がいいやつに弱いのだろうか?
スクィラの笑顔にも見惚れていた気がする。
とにかく明日以降なんとしても変態の魔の手からミィスを護るのが俺の仕事だ。
それにしてもミィスはよくあいつに勝てたな、と今でも不思議である。
会議室で俺たちに向けた圧は、軽いものだっただろうがそれでもあのバルドと対峙したときに似たものを感じた。
そのバルドと並ぶほど強敵のスカン相手に、あの時ミィスはかなり満身創痍で、俺が感じた痛みも相当のものだった。
もちろん俺はミィスが受けた痛みだと思えばいくらでも耐えられたが。
勝負の後。
よく耐えられたな、と声を掛ければ、俺に少し凭れかかってきた。
限界なのだろう。
「セレネルが、普通の顔をしてくれていたから」
「俺が?見ていたのか?」
「いくらスカンさんに集中してても、攻撃を受ける度にセレネルのことは気にしちゃってたの。今のは痛くなかったかなって」
駆けつけた治療師がミィスの傷を癒しているのを、和らぐ痛みと共に実感する。
魔具を先に外すようミィスに訴えられたが拒否した。
この身でミィスの痛みが解消されたことを確認するまでは外すなど論外だ。
ミィスも張り合う元気がないのか諦めたようで何より。
「セレネルが普通の顔してるんだからこれはかすり傷だ!って思いこんで耐えれたの。ありがとう。
セレネルが体を張ってくれなかったら、わたし勝てなかった」
「いや、お前の勝ちなのだからもっと胸を張っていい」
どうも自分の実力に疑心暗鬼なようで、今回も俺のおかげだと言って曲げない。
そう言われるのに悪い気はしないが、どう考えてもミィス自信の実力なのだが。
治療師は腕がよく、あっという間にミィスの痛みをすっかり除いてくれた。
(この治療師は陛下専属で、これは完全に職権乱用だがわざわざ言うことでもないだろう)
どこにも痛みがないことを念入りに確認し、魔具を外してやるとミィスはほっとしたように息を吐いた。
「さて、疲れただろう。今日はホテルで休むといい。スカンは好きなだけ滞在するようにと言っていたそうだ。俺はお前をホテルへ送り届けたら城へ戻らねばならないが…
数日観光でもしていくといいだろう。あの調子ならお前の滞在は喜ばれるだろう」
「うん、そうする。セレネルもお仕事大変だねえ」
「ああ、気にするな。お前のほうがずっと大変だったんだぞ」
どっと疲れたのか、少々ぼんやりし出したミィスをそっと横抱きにする。
抵抗はないので頭が働いていないのだろう。
起きていれば間違いなくさせてはもらえないことだが。
役得と思いそのままホテルを目指す。
勿論見られるのは得策ではないので外套でしっかり巻いておいた。
「着いたぞ。風呂には入れるか?準備はしてあるようだが」
ホテル側の仕事か、既に風呂には湯が張られている。
小さく頷き、なぜかそこでミィスの動きが止まった。
「どうした?」
「…ぬ、ぬげない…」
「は?」
「この服、いろんな場所を紐とかで留めてあって…1人で脱げない…」
どうやら服とアクセサリがしっかり結んであり取れないようだ。
アナトーレが戦いに集中できるよう気を利かせたのだろうが、どうしたものか。
「でももうお風呂に入って寝たい…」
おそらくエリューがいつ戻ってくるか30秒ほどたっぷり悩んだあと。
「セレネル後ろ側だけ外してくれない?前はなんとかするから」
その結論に至ったらしい。
「………」
いや後ろだけだし脱がすわけではない。
アクセサリを外してやるだけだ。
脱がすわけではない。
「ああ、ちょっと待て。」
「ごめんね、セレネルも忙しいのに」
「それはいい。全く気にするな」
おかしなことを口走りそうだった。
無防備に背を向け、自身は手首や前についたアクセサリを解いてゆく。
俺は背にしっかり結ばれている紐をひとつひとつ解いてやる。
おかしな気持ちになりそうになるのを必死で抑える。
ホテルの一室に2人きり、の時点で既に色々抑えているのだ。
俺はひたすらに素数を数えた。
口説く前に襲うのだけは阻止しなければ。
「ありがとうセレネル。これでお風呂はいれる!」
「ああ、よかったな。俺はもう行くぞ」
と早々に別れた。
逃げ帰ったつもりはないが、好機でもあっただけに少し落ち込んだ。
俺は何をしている。
あの時の不甲斐なさは我ながらへたれだと思うが、仕方がなかった。
まだ若いのだ、欲が勝つと手に負えない。
ただ、こんなに早くシュトリヤの竜人化魔法の目処が付いてしまったのは予想外だった。
竜人化すれば再び"姫"となり、今は有耶無耶になっている王位も付くだろう。
そうなれば俺とシュトリヤは再び婚約させられる。
いや、俺とシュトリヤでなくても、シュトリヤは王配に相応しい男、俺には上位貴族に相応しい女を宛がおうとする流れになるだろう。
それは避けたい。
シュトリヤがどう考えているかまではわからないが、少なくとも俺はミィス以外を娶るつもりはさらさらないのだから。
焦っては仕損じるだろうが、それでも手ごわい敵が増えつつあるので今まで以上に自重していられない。
ミィスの隣に立つのは、俺だ。
2章の幕間はここまでです。
お付き合いいただきありがとうございました。
引き続き3章もよろしくお願いします。




