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幕間5.王妃様と地獄のお茶会

ミィス視点です

いよいよ王妃様とのお茶会が始まってしまう。

これは、淑女としてのマナーや振る舞いを徹底的に叩き直される場なのだ。

更にお説教もプラスされるだろうから正直フェガリさんとの特訓よりも辛い。

精神的に。

今日はアナトーレも一緒だし、すこおおおしはマシ…だといいなあ。


シュトリヤに続いて城の庭園へ出てきたのだけれど、道中の記憶がないや。

既にアナトーレは着席しており、普段見ないワンピース姿に少し驚く。

そうか、アナトーレも淑女にさせられたのか。

ちら、と目線だけで互いを労わりあう。


ドレスの着用を求められる夜会ではなく昼間のお茶会なのでまだいいけれど、それ用のワンピースは窮屈だ。

少し重い生地に、ぴったりとした袖は剣を振れるほどの可動域が取れないし。

高くて細いヒールの靴は歩きやすさよりも見た目を重視していて駆けることすらできない。

そもそも聖剣も近衛騎士に預けてしまったし。

(かわいそうなくらい泣きそうな顔で受け取っていたけど、そんな曰く付きの剣とかじゃないのに)



「いらっしゃい、シュトリヤ、ミィス。アナトーレさんもさっきいらしたのよ」

花のように美しく微笑むこのお方こそが王妃様だ。

シュトリヤとよく似た顔立ちではあるが、シュトリヤよりも儚げで、触れたら壊れてしまいそうだ。

でも王妃様と書いて鬼教官と読む。見た目に騙されてはいけない。


シュトリヤに続き、できる限り美しく膝を折って挨拶をする。

「本日はお招きいただきありがとうございます」

と、当たり障りのない言葉も添えておく。

「どうぞ、お掛けになって」

と差された席は王妃様の真正面だった。

これは標的わたしだな。

白目を剥きそうになるところを必死にこらえ、勧められた席へ腰かける。


王妃様がテーブルの鈴を鳴らすと、お茶会の準備が整えられた。

お茶会の様相は取るんだよね、例えこの場がこれからブリザードの吹き荒ぶ氷点下の荒野になったとしても。


「さて、ミィス。まずはよくやったわ。貴女は(わたくし)の想像以上のことを成し遂げました。」

「ありがとうございます、王妃様」

にっこりと優雅にほほ笑めただろうか。

褒め言葉には優雅な笑顔でと叩き込まれているのだ。

小さく頷かれたのでどうやらこれは合格だったらしい。


「けれど」

2トーンほど下がった声に、跳ねそうになる体を押さえ付ける。

ここで動けば華麗なる一撃(扇子の)が飛んでくる!

「はい」

「あの衣装の振る舞い」

衣装、何かあっただろうか、正直いっぱいいっぱいで覚えていない。

必死で思い出そうとするが、恥ずかしかったことくらいしか出てこない、だめだ記憶にない。


「あら、お母様。お言葉ですけれど、あの衣装があんなに似合うのはミィスだけだと思うわ」

シュトリヤが助け船を出してくれて少し救われる。

シュトリヤ女神様…!


「ええ。大変よく似合っていたわ。けれど、あの衣装で騎士の礼を取ったのはなぜ?」

ひええええん無意識だよ!!なぜって言われても!!

「わ、わたしはあの場に勇者として立っておりましたので」

絞り出すように言えば、冷たい目で見返される。

あ、無理死んだ。


「うっ…ごめんなさい嘘です無意識でした」

あまりのプレッシャーに負けて本音をぶちまける。

淑女モードもちょっと消えつつある。


「そうねえ。そうよねえ。ミィス、前から言っているけれど、貴女は勇者ではあるけれど、同時に淑女でもあるの。両方極めなさい、と何度も言ったわ。

あの場では騎士の礼では無骨すぎます。

…けれど、そのちぐはぐさが可愛らしくもありました。

(わたくし)は映像で見たのですけれど、思わず頬が緩みました。

このような可愛らしい生き物を躾けたのは(わたくし)なのよ、と自慢したいくらいだったわ」

と一気に捲くし立てられて、ちょっと理解が追い付かない。

なんて??



「…ミィス」

「は、はい?」

「とても美しかったわ。」

と、少し頬を染めてはにかんでほほ笑む王妃様に、開いた口が塞がらない。


「…今日は、その…あなたたちと楽しいお話がしたいの。」

ともじもじ言われてそろそろこの方は偽物なのではと疑い始めた。


え、どなた?

あのいつもの虫けらを見る様な眼差しは!?

切れ味抜群の毒舌は!?


「まあ、お母様!今日はいつもの鬼教官はお休みされるのね!」

シュトリヤ鬼教官って面と向かって言わないでよ!!

「ええ。ダメかしら?」

王妃様も鬼教官の自覚あるんじゃん!


「ももも勿論嬉しく思います」

動揺で声が震えるが笑顔で返せたと思う。

引き攣ってないよね?植えつけられた恐怖は簡単に抜けないんだと思います。


アナトーレもどこかほっとしたように小さく笑顔を浮かべている。

アナトーレのお貴族様スマイルは初めて見たな。


「だって、フェガリが貴女についに優しくしたって聞いて。ずるいじゃない?私心を鬼にしてやっていたのに」

「え?」

王妃様いつもノリノリだったよね?


「貴女のお母様に…誓ったのよ。貴女を立派な淑女に育てるってね。

だって、きっとそうしたかったと思うのよ。貴女のお母様は私たちの憧れだったもの。」

少しだけ、寂しそうにほほ笑む王妃様が思い浮かべるわたしの母さんは、元は貴族だった。

社交界では老若男女憧れるひとはいないと言わしめたほどの完璧な淑女(レディ)だったらしい。


父さんと結婚してからは一切社交界に顔を出さなかったらしいけど。

だからわたしは映像と写真でしかその姿を見たことはない。

わたし父さん似(勇者の血って濃いのかな…)だから、あんまり似てないんだよね。

それでも王妃様や、貴族女性たちがたまに寂しそうにわたしのことを見ることは知っていた。

もしかしたらどこかに面影くらいはあったのかもしれない。



「成果は十分にでていたわ。あの衣装を美しく着こなす姿をみて、もう私が教えてあげられることはないわって思ったのよ。」

さっきめちゃくちゃ騎士の礼にダメ出ししてたような気がするんですけど。

いやあれ駄目出しじゃなかったのか、よく考えてみたら最後褒めて?たもんね。

やっぱりフェガリさんと同じ属性な気がする。


「それから、お仕置きだなんて言って無理に戦わせてしまってごめんなさいね。貴女がそういうのを好かないってわかっていたのよ。けれど、鬼人の問題は、政治以外の一手がずっと必要だったの。」

「やっぱり知っていたんですね」

「ええ。年々鬼人が何かに躍起になって、どんどん強くなることに執着していることに歴代の王は気づいていたの。それで、鬼人の騎士に話を聞いたりしていたのだけれど、本当に口が堅くって。やっと貴女の式典の姿を見て話すをこと決めてくれた騎士がいたのよ。フェガリに聞いたのだけれど。」

ああ、ウィルとエドのことだな。

家族(ファミリア)に所属したまま騎士になったのではなく、抜けてから騎士になったのも大きいだろうと思う。



でも、だからわたしだったんだ、と予想はついていたけど納得できた。

これであの血反吐を吐きそうだった特訓の日々は報われた。

()()()()、期待してくれていたのだ。

「わたしに下さった期待とチャンスは本当に嬉しく思います。確かに戦って強さで決めるのは好きではないですが…代わりに掛け替えのないものを手に入れたと思います」


「あら、それは何かしら?」

「信頼できる仲間が増えました。…仲間になる予定です」

今のところ(しもべ)感が抜けないのでちょっと言い直す。

テンションあがっちゃってるだけだと信じたいのです。


「ええ、そういう貴女だからこそ得られた縁なのでしょうね。私も貴女が頼れる人が増えたようで嬉しく思います。」

ふわり、と本当の母であるように笑いかけてくれる王妃様。


「王妃様、今回は憎まれ役を買って出て下さってありがとうございました。わたしは王妃様の厳しくも温かいところ、大好きですよ」

今日なら言ってもいいかと思ったのだ。

いつもは最後までたっぷり厳しくて、こんなこと言えないんだもの。

父替わりを自称する人たちよりも、ずっとずっと責任感をもって接してくれていた。



「あら、ミィスったら」

とシュトリヤが零す。

どうかしたのかなと思って下げていた目線を王妃様に戻すと。


「い、いけないわ本当にミィスったら、人たらしなんだから!」

と何故か赤面した上にいつもの穏やかな笑みはなく。

そうだ、シュトリヤが照れている時の顔と同じだ。


え、これ槍…いや隕石(ほし)が降るレベル。

王妃様がこんな表情(かお)をされるなんて。


「ミィスの魅力は性別問わないのだからお母様も気を付けってわたくしいつも言っているのに」

ぷく、と頬をふくらませるシュトリヤが本当にかわいい。

王妃様の前だと少し幼くなるところあるよね、最高。

「ああ、確かにそうですね。私もすっかりミィスが大好きです」

にこ、と笑いかけてくれるアナトーレは綺麗だ。

今日はいつもと違う格好だからちょっとどきっとする。


「あら、ライバルかしら」

「友人や姉として!!」

なぜか慌ててフォローするアナトーレが少しおかしい。

友人や姉以外ってなんだろうね?



と首を傾げていれば、シュトリヤがうっとりしてしまう程甘い顔でほほ笑みかけてくれる。

「ねえ、ミィス。わたくしあの男とは絶対結婚しないわ。覚えていてちょうだいね」

謎の駄目押しだ。

けどさすがにそれはわかってる。

「う、うん。2人にそういう気がないってことはわかるよ。わたしも2人には本当に好きな人と幸せになってほしいな!」

と笑いかければ、蕩けるほど甘かったシュトリヤがしゅん、と少ししょんぼりしてしまう。

なぜ!!


「ねえ、アナトーレさん。」

そんなシュトリヤを無視し、アナトーレに笑顔をむける王妃様。

「は、はい!」

アナトーレがびくっと肩を揺らす。

鬼教官モードだと扇でピシっとされるやつだ。

地味にじんじんして痛いんだよね、あれ。


グリゴロス家(貴女のお家)はたしか貴女が跡取りよね?」

「ええ。獣人(セリアントロピー)ですので子は私のみです」

獣人は寿命が人より少し長いためか、子供が少しできにくいらしい。

長いといっても少しだけなのであまり関係ないと思うけど。

多分体が人間より頑丈だから死ににくいってだけだと思う。

実は鬼人は逆に寿命が少し短いけど、それも生き急いでる所為だと思っている。

もう少し命を大切にしてもらおう。


「貴女はお相手、もういるのかしら?」

「え?!いえ、まだです。貴族といえど最近は恋愛結婚が風潮ですし…」

「そうよねえ。シュトリヤもそんなこと言うものだから私寂しくって。もっと娘たちと恋のお話もしたいわ」

ぱあっと目を輝かせる王妃様、わたしの鬼教官イメージがどんどん崩れていく。

次鬼教官されたらギャップがひどくて泣いちゃいそうだ。


「ミィスはこんなだし、シュトリヤはセレネルと喧嘩ばっかりなのよ。」

つまらないわ。と唇をとがらせる王妃様を不覚にもかわいいと思ってしまった。

不敬不敬。

「エリューちゃんはまだ小さいわよねえ。お話したことはないけれど、とてもかわいらしい子ね。今日呼んで差し上げればよかったわ」

「あ、エリューなら」

とわたしたちは顔を輝かせる。

ここにいないエリューには悪いけれど、少し話題になってもらうしかない。


ごめんねエリュー、わたし今この手の話をするわけにはいかないの!!

このところ受けている謎の態度の数々(アプローチ)についてこれ以上人に知られたくないから!!



こうして地獄のお茶会(レッスン)は普通のお茶会になり、わたしは生まれて初めてお城のお菓子と紅茶を美味しくいただけたのでした。

お城で出るのっておいしいんだね!

味がしたのはじめて!






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