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幕間4.シュトリヤの衣装作り

シュトリヤ視点です

「こうしては居られないわ。お父様、お母様。わたくしはミィスの衣装を準備します。歴史に残る日になることは間違いないわ。そんな日の衣装は特別でなくては」

「ええ、そうしなさい。衣装は貴女に任せます。」

良い笑顔で見送ってくださったお父様とお母様を残し、会議の場を後にしたわ。


ミィスがエリューのことを助けたいというのはわかり切っていたので、そこは決定していたのだけどね。

問題はわたくしたちが行けるかということと、そのスケジュール。

あとはささやかな嫌がらせの内容よね。

そのあたりは宰相やお父様に任せておけば大丈夫だから、わたくしはわたくしの仕事をするわ。



ミィスには悪いけれど、今回はお母様に感謝するわ。

だって鬼人(デモニアトロピー)風の衣装なんて、こんな時でないと着せられないもの!



「マリア!」

部屋に戻るや否や仕事のできる侍女を呼ぶ。

早足で移動したから置いてきてしまった近衛騎士の悲鳴が聞こえる気がするけど無視するわ。


「はい、姫様」

「急ぎ裁縫部に連絡をして頂戴。ドレスではなくて戦闘服を作るわ。ミィスの。」

「既にセレネル様よりご報告を受けて手配済みです」

「さすがマリアね。仕事が早いわ。ではデザインを起こしましょう。紙を持ってきて頂戴」

優雅にしかし素早くその場を後にしたマリアは数秒で紙やなにやらを持ってきてくれたわ。

さすが優秀ね。



「どのようなデザインになさるのですか?」

「ミィスの動きを阻害するようなものは論外だけど…あとは折角だしあの布を使いたいわよね」

「あの布、ですか?」

「ええ。鬼人の長や副長(ふくおさ)が身に着けるものよ。鮮やかな色で、透けていてとても美しいの。」

さらさらとそれを元にイメージを膨らませ、思いつく限り何枚も書いておいたわ。

一週間しかないのだもの、寝る間も惜しいわね!




そしてあっという間に6日後。

「ふふ…ふふふ…できたわ、完璧だわ…!これをアナトーレに預けて頂戴」

完成品が2着届き、そのうちの1着をわたくし自らラッピングしてマリアに預けたわ。

今まで扱ったことのない布だったので少しギリギリになってしまったわ。

普段なら1日あれば十分だったのに。


「はい、姫様。ちょうどセレネル様がお尋ねですが」

「あら、なにかしら」

入室を許可すると、マリアと入れ違いに呆れた顔のセレネルが入ってきたわ。

「お前寝ていないな?」

心底呆れたような声をだすセレネルにむっとする。

あら、いけない。事実を指摘されてむっとするなんて寝不足で少々おかしなテンションなのね。


「寝ていられるものですか。ミィスがあんなに頑張っているのに、わたくしも何かしてあげたいもの」

泣きそうになりながら(とてもかわいい)一生懸命あのフェガリに立向かうミィスを影から見ていたけれど

本当にかわいか…いえ、頑張っていたわ。

だから、お母様のお仕置き宣言(ぼうそう)を止められなかった責任もあるし、何かしてあげたいじゃない。


自惚れかもしれないけれど、ミィスはわたくしが服を贈ればきっと喜んでくれるし、それを力にしてくれるわ。

…よね?



「ミィスは勿論喜ぶだろうが…大丈夫なのか?」

さすがに気遣うような視線を受けて、あのセレネルにこんな顔をさせるほど末期なのかしらと首を傾げる。

自分ではわからないものね。

「あら、わたくしが寝不足で下手な仕事をすると思って?論外よ」

と笑ってやれば、いつもの顔に戻ったから大丈夫ね。

この男も存外心配性だわ。


ふふ、と少しおかしくなって笑いながら

「本番を楽しみにしていなさい!最高のミィスが見れるわ!他の人に見せるのは嫌だけど!」

びしっと言ってやれば、セレネルが沈黙している。

何よ。

「いや、楽しみにしておこう。お前が暴走したせいで後悔しないか少し気がかりだ」



「後悔ってなによ。ねえマリア」

丁度戻ってきたマリアにも話を振る。

「ええ。最高のものが出来たと思われます」

恭しく膝を折るマリアの目が心なしか澱んでいる。


「…お前たち2人とも出発まで寝ろ。2時間前に起こしてやるから。その顔をミィスに見せるな」

深めの溜息をつきながらわたくしたち2人に睡眠の指示。

どうやら本当に出せない顔つきをしているようね。



ということでセレネルの退室と同時にマリアと二人してベッドへ倒れ込んだわ。

マリアにも悪いことをしたわね。

不眠不休で働かせた気がするわ。




そして数時間後、本番。

わたくしの顔は青くなかったかしら?マリアは流石に休ませておいたわ。

ところでセレネルはミィスに付添うといつのまにか決まっていたのだけど、奴の作戦かしら。

寝てる間に決まっていたのだから。本当に抜け目ない男だわ。



でも、そうね。

わたくしたちは()()だったと今ならわかるわ。


ええ、やってしまったの。

今闘技場へ足を踏み入れたミィスが纏う衣装は、わたくしの願望がたっぷりと詰まった()()()のものよ。

だって露出しすぎだもの。


あれは、ミィスとふたりきりになった時のためにと思って作らせたものだったのよ!

だからあんな扇情的で蠱惑的になった普段と雰囲気の違うミィスを、こんな大勢に見せる予定ではなかったのよ…!



「シュトリヤ、その…随分と普段と違う衣装なのだな」

「…ミィスの戦いの邪魔になるものを全て排除したらあれが一番ということになったのよ。他に意味はないわ。」

ごめんなさいミィス、それも本当だけどわたくしの下心しか詰まっていない服を着せてしまったわたくしの不注意を許して…!


ミィスは堂々と、わたくしたちの座る貴賓席に騎士の礼をとってくれたわ。

その健気な姿が逆に痛々しいわ…本当にごめんなさい、ミィス。

ただとても似合っていてかわいくてかつ美しくて最高だわ…グッジョブわたくし。


ちらりと下にいるセレネルを見ると、目があってしまったわ。

ああやっぱり、という目をしているので深夜のノリで作ってしまった服だとバレたわね。

その後のその顔は、ミィスに何かした顔ね。勝ち誇ったような顔が鬱陶しいことこの上ないわね。

あとでミィスに問いただしましょう。



「ミィスちゃんも大人になったんだねえ。よく似合っているよ」

のほほんと宰相がほめる。そうね、お爺様ポジションを自称するあなたからしてみたら服装なんて些事よね。

今回も大量のお菓子をミィスに貢ごうとしていることはわかっているのよ。


「…露出をしすぎではないか?ミィスは美しいがまだあのような格好をするような歳ではなかろう」

眉を盛大に顰めて苦言を呈するフェガリは父親ポジションだものね。

娘に変な虫がつかないか不安よね、わかるわわたくしも不安よ。

(わたくしのせいだけれど)


「うん、本当にきれいになって。余は心配だ…いつか男を連れてきて結婚するだなんて言うのだろう?」

お父様の考えは飛躍しすぎだけれど、わかるわ。




雑談をひそひそとしていると(あくまで口をほとんど動かさず、表情も変えずに行うわたくしたちお得意のやつよ)、すぐに勝負がはじまったわ。

(スカン)は誰が見てもわかるほど強い男だけあって、ミィスを痛めつけることに容赦がない。


「シュトリヤ、殺気が漏れている、抑えなさい。」

とお父様に注意されてしまうほど、わたくしは怒っていたようね。

あの男後でどうしてやろうかしら。

「シュトリヤ、駄目だからね」

お父様に勘付かれたので殊更済ました顔をつくり、殺気を仕舞っておいたわ。


だって、羨ましいんだもの。少しくらい、いいじゃない?

ミィスと同じ土俵で戦え、ミィスに傷を与えられるあの鬼人(デモニアトロピー)の男も。

涼し気な顔をしているけれど組んだ腕を白くなるほど握り締め、ミィスと同じ痛みに耐えているあの男も。


「また、遠くなってしまったわ」

ぽつりと呟いた時、ミィスの雰囲気が変わったように見えた。



「ふむ、ミィスは踏み出すことにしたのだな」

フェガリがほっとしたように呟いたすぐ後、ミィスが怪我だらけの体で軽々と駆け、長を倒したの。

「あのような隙を何度も見せてやったのだが、気づいていてもそこを攻撃のチャンスとすることは一度もなかった。だから心配だったのだが…ふむ。よくやったな」

と対ミィス限定の笑顔を一瞬零す。

フェガリもセレネルもこの顔がそっくりなのよね。

ミィス限定ってところも含めて。


フェガリは実際ミィスに向けてはあまり見せないところが違うけれど。

恥ずかしがりやなのよね、この男"零下の麗人"とか言われているのに。

どこが"零下"よ笑っちゃうわ。



しばらくしても審判が何も言わず呆けていたので、わたくしが声をかけてやる。

ミィスの勝利に水を差さないでほしいわ。



その後どう考えても思っていたのと違う状況に、その上ミィスに群がる羽虫が増えたことへの不満に。

わたくしは近衛騎士に八つ当たりする他なかったわ。

セレネルも部下に八つ当たりしていたしいいわよね。




後日、どうしても聞きたいことがあったので少し時間をもらったわ。

「ねえミィス、聞きたいことがあるの」

お母様の地獄のお茶会(レッスン)を前に死にそうな顔をしているミィスには酷かしら…

けれどタイミングがないのよね、許してね。


「あ、なあに、シュトリヤ」

「控室でセレネルとなにかあったかしら?」

とストレートに尋ねると、ひっと喉の奥で擦れた悲鳴を漏らす。

本当隠し事が下手ねえ。


「どんなこと?わたくしの所為かしら?あの衣装のミィスにセレネルのお馬鹿が盛ってしまった?」

一番ありそうなことを耳元で囁いてやると、顔を真っ赤にして首を横に振る。

あら、違うのかしら。


「さ、盛った?…かはわかんない、けど…」

「けど?」

「は、恥ずかしいよ、シュトリヤあ…」


思い出した所為か、それともそれを口に出そうとした恥ずかしさかしら。

とにかく上目遣いで目を潤ませてわたくしの指をそっとつかむミィスに、無いはずの分身が反応してしまったようだったわ。

いえ、無いのよ。


無いのだけど。


これはクるわ…

ぐっと抑え、髪に指を絡ませながら、殊更優しく囁いてやる。

「ミィス、教えて頂戴。なにがあったの?」

そっと前髪を流し、そこへ口づける。

「ここへキスをされたかしら」

そして、瞼へ、頬へ。

「ここも、ここも…?」


最後に人差し指でそっと唇を押す。

「もしかして、ここにも?」

「こっここはされてない!」

慌てて言葉を発するミィスだけれど、それはそれ以外は全てしましたと言っているようなものよねえ。

かわいいわ。

「あら、そうなのね。それじゃあ他には?」


「き、綺麗っていわれた…」

まあ、あの男がそういう褒め言葉を口にするなんて。

いつも、「似合うぞ」みたいなクールを装った褒め言葉かも怪しい言葉しか掛けていたなかったのに。

本当にアプローチの方法を変えたようね。


真っ赤な顔で、その時のことを思い出しているのかしら。

それとも今のわたくしの口づけに、赤くなっているのかしら。

どちらかによってわたくしの機嫌が変わってしまうのだけれど。


「それだけなのかしら?」

と促すように唇をつついてやれば、ぎゅっと目を閉じぷるぷると子犬のように震えだす。

本当、なんておいしそうなのかしら。


「わ、わからないの。じっと見られた、だけといえばだけ、なんだけど…」

大方欲に塗れた目で見てミィスを怖がらせたりしたんでしょうね。

あの男も男だったのね。

いつも冷静でミィス相手でもそんな姿みたことがなかったから()()()()()はないのだとばかり思っていたのだけれど。


「そう。ごめんなさいね、ミィス。怖かったのかしら?」

我慢できずに眦から零れそうだった雫をそっと舐めとる。

「ぴゃっなっな、なに、を!!」


「ミィスがわたくし手を握っているから動かせなくって…涙でお化粧を崩したらお母様に叱られてしまうわよ?」

と、それらしい嘘を並べてミィスを納得させる。

本当チョロいのよねえ…そこがかわいいのだけれど。



「ミィス、わたくしの所為で怖い思いをさせてしまったなら謝るわ。服、わたくしがデザインもしたの」

「そ、そんな…シュトリヤの服のお陰で頑張れたんだよ!むしろ有難う、本当に心強かったんだから!」

まだ潤んだ眼のまま真っ直ぐに見据えられ、わたくしの良心を盛大に貫いたわ。


くっごめんなさいミィス!あんな露出の高い恰好をさせて…!

「そ、そう。そう言ってもらえたならわたくしも贈った甲斐があったわ。とてもかわいかったわよ」

「ありがとうシュトリヤ。」

にへ、と笑うミィスに更に罪悪感が膨れ上がる。


「さ、さて。お母様もお待ちだわ。行きましょうか!」

さすがのわたくしもミスをあそこまで肯定されて落ち着いていられるほど図太くないのよね!

せめてこの後のお茶会は、なるべく庇ってあげることにしましょう。



甘い雰囲気へ持っていきそびれてしまったけれど、次はもっとうまくやるわ…!








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