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幕間2.エリューとアナトーレ時々わんこ

エリュー視点です

ボクがあの日、副長(ラーヤ)に圧勝できたのはアナトーレと鬼人(デモニアトロピー)の騎士たちのお陰だった。

アナトーレは自分のためでもあるって笑ってくれたけど、騎士2人はセレネルの命令でボクのために訓練をつけてくれた。

それで、セレネルはミィスのためにやってるから、やっぱりミィスのお陰っていうのもあるよね。



紹介された鬼人の騎士は、サイみたいな太くて短い角を1つだけ持つウィルと、羊みたいな巻き角のエドという男の人だった。

アナトーレの部下でもあるらしいけど、セレネルに対しての崇拝みたいなものが本当にすごかったんだ。


ミィスが、「その…実力はあるはずだから」なんて濁して言っていたのがよーくわかった。

朝、セレネルが必ず進捗を確認しにくるんだけど、その時は大きなふさふさのしっぽをぶんぶんと振っているように見えたもん。


鬼人なのに。尻尾はないのに。

ついでにいうとすごい体も大きいし、むきむきなのに。

(制服がぱつぱつってしてて本当にアナトーレと同じものを着ているのか2度見した)


確かに長ほどは強くないけど、副長よりは強そうだった。

だからボクも、かれらのことはすぐに好きになったんだ。

だって強いから。

ボクの根底にある鬼人としての本能が、強い人を好きになってしまうのは仕方がないよね。

もちろんこれは、恋じゃない。



訓練が終わる頃にはボクとも仲良くしてくれて、内緒のお話もしてくれた。


これは最終日、少し早目に終わって休憩をしてたとき。

「俺らはセレネルさんのことを心底好きなんだが」

ウィルが口を開く。

「うん、見ててわかったよ」


「実はミィスさんのことも好きなんだ」

エドが続く。

2人は息がぴったり。


「え、死にたいの…?」

ただしこの内容はいただけない。

自殺願望でもあるのかと思わずつぶやいてしまった。

誰も聞いてないよね!?

ボクだってあの2人の恐ろしさは察してるんだよ?



「今は大丈夫だ。誰もいない。アナトーレさんもいないから告げ口の心配もない」

「アナトーレは言ったりしないとは思うけど…」

アナトーレだってあの2人は怖いもんね。引き攣った顔をしているのを最近よく見るよ。


「エリューはミィスさんとセレネルさんと一緒に旅をしたんだろう?」

「うん、そうだよ」

「それが羨ましくてな。…ああ、エリューはまだわからないだろうけど。」

本当に、本当に心からそう思っている、何かを渇望している表情に、首を傾げる。

ただ一緒に居られたのが羨ましいなっていう顔じゃない。



「俺たちはミィスさんこそ相応しいと思ってるんだよな」

「ああ。ミィスさんならいいと思ってる」

2人だけが解るようで、うんうんと頷きあっている。


「なんのこと?」

「きっとミィスさんは長に勝って、俺たちに素晴らしいものを見せてくれるだろうなってことだ」

「まだわからなくてもいい。ただ、覚えておいてくれ。エリューも鬼人(デモニアトロピー)なんだから」

「うん、わかった。覚えとくよ」

正直よくはわからなかったけれど、あまりに真剣な目で言うからしっかり覚えておくことにした。



「聞き分けがよくて素直なところはエリューのいいところだな。そのおかげでこの短期間で随分強くなったぞ」

「2人のお陰だよ。ボクに足りないものを沢山もらった」

「そうか。当日見には行けないが、いい報告を待ってるぞ。エリモスには行くからな」



と、意味深な話を聞かされて。

ボクはすっかりこの話が頭の端にひっかかっていたわけなんだけど。

まさか種族としての役割の話をしていたなんて思わないよね。

あの2人は家族(ファミリア)を抜けた鬼人だったみたいなんだけど、それでも鬼人の祭は見るし、主の存在を待っていたんだろうね。

見つからなければこっそりミィスを主と思うことにしてたって勝った報告を端末でしたときは言われた。



そして今日、直接お礼を言いたいからと、ミィスと一緒に第一隊の鍛錬場まで来た。

あの2人がどんな顔をするのか楽しみで、ちょっとわくわくしている。

実はミィスが一緒に行くことを2人には内緒にしてるから。


あ、来た。大きな体が扉を開けてきた。

「おお、エリュー!よく来…た…!!」

「どうしたウィル…あッ!!」

まず数歩前にいたボクを視界に入れて、その後きっとミィスを見つけたんだろうね。

ボクたちが何か言う前にはもうミィスの前に跪いていた。

すばやい。


「えっ!?あ、あの、ウィルさんとエドさん、よね。な、なにこれ…?」

ミィスがすごく困った顔をしている。

あたりまえだね。

今までセレネルのわんこだと思っていた2人が、実はミィスの(わんこ)になりたかったなんて知らなかっただろうから。


「俺たちはミィスさん…いや、ミィス様に主になって欲しいとずっと思っていました!!」

「本当に嬉しいです!!この気持ちを直接お伝えできる栄誉を頂き感謝しますッ!!」

2人の真っ直ぐな目に見つめられて、ミィスが泣きそうだ。

ボクのほうを見て口が「た・す・け・て」と動いているのがわかった。

うん、ボクが悪かった。2人を驚かせようと思っていたけど、ミィスを困らせたかったわけじゃない。


「2人とも、ミィスが困ってるよ。少し落ち着いてよ」

2人とミィスの間にミィスを護るように立つと、はっと気づいて跪いたまま数歩下がった。

ごりっと擦った膝が痛そう。


「もっ申し訳ありません!!興奮してしまい!!」

「ミィス様と直接お話しできる機会などなかなかありませんから!!」

と頭を下げて謝罪する2人に泣きそうなままミィスが声を掛ける。

「あの、とりあえず様はやめてください。それと、その…過度に敬われるのは慣れません。どうか跪いたりしないでください」

多分逆効果だ。


慈悲を頂いたとか思ってそう。

でかいわんこ2人の目から涙が滂沱のごとく溢れているもの。

(滂沱ってミヤビが教えてくれたんだ。同じようにミィスに言葉を掛けられた鬼人を見て言ってた。)


ミィスが立ち上がれるようにとそれぞれに差し出した手を取り、恭しく口付けた。

「…!!」

「…!!」

もはや言葉もなく泣きながら手の甲に唇を押し付けるその姿はだいぶやばい。


ボクもすごく引いたけど、かわいそうなのはミィスだ。

助けてあげないと。

と思ったけれど、ミィスが何か決心した顔つきになったのでもう少し待ってみる。



「2人とも、わたしでよかったと言ってくれて嬉しいです。けれど、わたしはあなたたちに敬われるだけの主ではなく、共に歩める信頼のおける仲間となりたいのです。

わかってもらえませんか?」

この時ばかりはボクの目にも王子様っていうよりも聖女様に見えたよ。


後光が差してるように見えたけど、錯覚ではなくミィスは【勇者(ブレイバー)】を使ってる。

どうやらこの人たちを落ち着けるのにスキルまで使うことにしたらしい。

ミィスの涙ぐましいがんばりに、ボクも泣きそう。

本当鬼人が迷惑かけてごめんね…!

(この対応はもう何回も見てるからね。スキルまで使ってるのを見るのは初めてだけど。)



「よ、喜んで!!お願いします、ミィスさん!!」

「これからは仲間としてお支えします、ミィスさん!!」

と、わかったのかわかってないのか微妙なラインの返事を元気よくしている。

ミィスが一番嫌がっていた様呼びはなくなったから、多分ミィスも喜んでる。

やっとほっと笑ってるから。



「あ、そうだエリュー、お礼を言いに来たんだよね」

ここぞとばかりに話を逸らすと、ようやくボクも本来の目的を思い出した。

「あ、そうだった。2人ともありがとう。お陰で副長は一瞬で倒せたよ」

「本当に、エリューすごかった。いったいどんな特訓をしたんですか?」

ミィスはずっと気にしてたけど、特別なことは何もしていない。

副長より強い人と戦って、その感覚を体に叩き込んでいた鬼人式トレーニングをしていただけだから。

ボクたちにはそれが合うだけで、ミィスはそのやり方じゃきっと強くなれない。


「ああ…多分ですけど」

ミィスの疑問を正しく察知したウィルが微笑む。

「ミィスさんのほうがエリューよりも強いですよ」

エドが続ける。


「そんなわけないです。わたしはただの人間(アントロピー)ですから」

ぶんぶんと首をふるミィスは本当に謙虚なんだけど、多分ミィスが気づかないのはセレネルとシュトリヤ姫と一緒に居るせいだと思う。

あの2人と一緒にいれば、ボクだって自然と自分は弱いって思っちゃうもん。

規格外ってやつだと思う。

ミィスもかなり規格外だってことに気づけばいいんだけど。



「ミィスさんの場合は条件によると思うんですけど」

「条件?」

「ミィスさんは誰かを護るためだったら、誰よりも強くなれる人だと思います。エリモスの長もそう言っていませんでしたか?」

確かに言っていたな、とミィスが頷いている。

ボクも覚えている。

あの人は「()()()」と言っていた。

ミィスの強さをかなり早い段階で正しく理解してたんだと思う。



「だから、"あと一歩"を騎士団長は教えたかったんだと思いますよ。」

「それも5日では引き出せなかったと愚痴ってらっしゃいましたが」

と笑う2人に目を丸くしている。


「本番ではきっちり踏み出していました。俺たちは、誰かを護るときに一等力を揮うミィスさんの強さが好きですよ」

「そんなミィスさんの為に、我々鬼人が培った強さを揮いたいと思ったのですから、どうか自信をお持ちになってください」

2人の言葉をかみしめるように聞き、嬉しそうに笑うミィスの顔をボクたちだけが知ってる。


「お世辞とか、慰めじゃなくって、本当にそう思ってくれてるってわかるあなたたちの言葉、本当に嬉しいです。

ありがとう。」

誰かのために笑う聖女のような笑顔じゃなくて、認められて嬉しいと笑うミィスの笑顔は無邪気で純粋。

こういうのを無垢っていうんだってボクは知った。


王子様みたいなミィスも好きだけど、このミィスも大好きだ。

まだボクにはわからないけど、きっとボクも主がミィスでよかったって思うんだろうな。

だってボクはミィスが大好きだからね!




その後大きなわんこ2匹が

「ゆ、許されるならばその…!頭を…!」

「撫でていただけないでしょうかッ!!」

などという命知らずのお願いをし、ミィスは笑って承諾したので、ボクも便乗して撫でてもらっていたら、

セレネルがすごいいい笑顔で入ってきた。

(バルドよりよっぽど魔王っぽかった。怖かった。)


ぷるぷる子犬みたいに震えるわんこ2匹を引きずってどこかにいったから、そのあとどうなったかはボクは知らない。

知りたくない。

だってミィスには見えてなかったみたいだけど、セレネルが引きずって行った先にはシュトリヤ姫もいたからね。




(あんなむきむきのデカい男の人2人を軽々引きずっちゃうってセレネル実はすごい力持ちなのかなあ…細いのに)





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