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7.グリーンドラゴンのお話

「どうする、倒す?鱗だけにする?」

「お前はどうしたい?」

「んー倒しておきたいかな、収入的な面で」

グリーンドラゴンの部位はどこも貴重で高く売れる。

売れるなら欲しい。わたしの大切な収入源だし。


「ほな倒そか、拙が居るし問題ないやろ?」

「俺がいるから問題ないだろう。」


と、同時に同じことを言うのだから笑ってしまった。

ちょっと気まずそうにお互い目を逸らしているのもまた面白い。

「うん!心強いよ!」



丁度現れたグリーンドラゴンの咆哮(かんげい)を受ける。

体高10mくらいの、ドラゴン系の魔物にしては小型の固体だ。

「いくよ!」

全員既に手には剣と刀(ぶき)

ミヤビが容赦なく【魅了(ドルチェ)】でグリーンドラゴンの動きを鈍くする。

こんなに大きな魔物にも効くのかとすこし感心してしまう。

あからさまにミヤビに目を奪われ、足元がふらふらと覚束ないようだ。


セレネルは【魅了】の影響を受けないようにグリーンドラゴンを挟んでミヤビと反対側に回り込む。

それに続き、目で合図された通り一緒に片翼を狩る。

この翼だけでも体高と同じ10mほどはありそうだ。が、薄いのか以外と軽い音をたてて地面に落ちた。

これでもう飛べないだろう。


魔物は心臓部分にある魔石を砕くと消えてしまうので、必要部位を先に狩る必要がある。

「どこがほしい?」

「最優先の鱗とその後(値段が)高い順に、目・角・牙・爪。あとは魔石も欲しい」

「聞いておいて何だが一番難易度が高い狩り方だな。さすがミィス」

「うっ…わかってるけど2人いるしいけるかなって…」


自分でもわかって言ってみたが、難易度は高い。

魔物はあまり痛みに敏感ではないけれど、さすがに目とか角とか顔に近い部分を狩ろうとすると嫌がる。

すごい嫌がる。

具体的にいうと今何の単語に反応したのか、既になかなかに大き目の魔法を使われた。

風を口から吐いたようで、当たれば結構痛そうだ。


魔物は魔石を核にしてできている。

魔石は魔宝玉(スフェラ)の素材になる魔力の塊なので彼らは魔力そのもののようなものだ。

だから魔法が使える。

しかもわたしたち人とは違って息をするように。

呪文もいらないし、魔宝玉1つにひとつの魔法しか使えない、なんて制限もない。

ずるい。

ただし知能が低いからあまり複雑なものはつかえない。

さっきみたいに風を吐くとか、火を吹くとか。

けれど、単純な威力はすごい。

そんな魔物の心臓部分でもある魔石を取るのは強い魔物相手であればあるほど大変だ。

体の中にある上に、魔石を砕くと魔石ごと魔物が消失してしまうのだから。

取ったあとは砕こうが加工しようが消えないのが不思議だけど。


「あまり魔法を使われると面倒だ。急ぐぞ、ミィス」

「じゃあ前肢から!」

「攻撃は俺たちでやるからミィスは欲しい物を狩れ。こちらは気にするな」

セレネルとミヤビが引き付けてくれるとのことなので、その間に前肢を2本とも狩ることにした。


「<スパークル・レイル>!」

先日セレネルにもらったばかりの指環から光が迸り、右の前肢に直撃。

その半分くらいを抉ったようなので、残りの半分は聖剣で切り落とす。

同じように左の前肢も。


セレネルにもらった魔宝玉(スフェラ)のおかげで魔法の威力もあがったように思う。

この指環に替えてから初めて最大出力で放ったけれど、ドラゴン系魔物の鱗を貫通できたのは初めてだ。

その上半分近く抉っている。


今までは無意識のうちに抑えつけていたようで、のびのびと魔法を放てるようになった感覚がある。

本当に前のものは壊れる寸前だったのだろう。

危なかったな。とそっとブレスレットを撫でる。

あの特訓の成果も出ているようで上々だ。



前肢を喪いぐらりとバランスを崩したグリーンドラゴンの頭を上から蹴り、地面にたたきつける。

そのまま着地と同時に首を聖剣で落とした。


竜には程遠いが魔物にしては堅い鱗を持つグリーンドラゴンを、すぱっと切ってしまうこの聖剣は本当にすごい。

ただ、頭部を落されても死なないのだから魔物って恐ろしい。


胴体と別れた頭が蠢き、かぱ、と口を大きく開いたのが見えた。

それをセレネルが剣で地面に縫い付ける。


「ミィス急げ、大きな魔力の気配だ」

「ちょっと気い逸らせるけどもう限界やで~」

さすがにミヤビをいくら魅力的に思っても命の危機の方が優先されるようだ。


2人の声はそこまで焦っていないので、わたしも落ち着いて頷く。

軽く踏み込み跳躍し、背に乗る。

残った翼もいつの間にか狩られていたので(多分セレネル、さすがセレネル)、障害物のなくなった背中を大きく裂く。

「う、わ。大きい」

2mはありそうな白い魔石がきらきらと輝いているのが骨の隙間から見える。

この魔石と体を繋ぐ管、魔管(カルディア)を切れば魔石は残り、魔物は消える。

魔石を護るように囲む骨の隙間に見えた魔管に聖剣を突き立て、そのまま全体重を掛けた。



ぶつ、と音をたてて魔管が切れると、足場にしていた体が消え去り、切り落としておいた部位と魔石だけが残る。

何度みても不思議な光景だ。



「これはなかなかええ魔石やな。(ランク1)やし純度も高そうやない?」

「そうだね。やっぱり外区にでる魔物は違うなあ。」

「拙の蔵に仕舞っとくで?」

「お願い。あ、証拠(エリュー)用に鱗1枚だけもらっておくよ。分けるのは後でやろ」

「拙はええよ。セレネルと二人で分け?」

こて、と首を傾げるミヤビは【魅了】などなくても綺麗だ。

いつもと違う格好も相まって。

10区は暑くないしわたしは着替えたいんだけどミヤビは気に入ったのかな。


「いやそういうわけにはいかないよ!3人で倒したんだから!」

「ほなまあよしなに。拙はミィスの家に居候させてもろとるんやし、ほんまにええんやで?」

噛みつくわたしの頭をにっこり微笑みながらぽふぽふしてくる。

こういう大人の余裕みたいなものをたまに出されると、どうも何も言えなくなってしまう。


うっと言葉に詰まり少しうつむいて固まっていると、

「戻るぞ。」

と不意にセレネルぐっと手を引かれ、あわてて続く。

「あ、うん。急ごう!」

手を引かれなくても着いていきますけれど!!

「せ、セレネル、どうかした?」

「どうもしない。黙ってろ」

どこか機嫌の悪いセレネルをなぜかにやにやと笑って見るミヤビ。

やめてこれ以上挑発しないでセレネル機嫌悪くなると長いんだから!



早足のセレネルに引きずられるようにして街へ到着する。

「おかえり、勇者殿。怪我もないようでよかったよ。この子たちには案内済んだよ」

「ほら、ミィス」

街の前で待っていてくれたらしい3人の前に腕をぶん、と振られて放りだされる。


まだ心の準備ができていなかったのですーはーと数回呼吸を整える。

「あ、あの、エリュー。エリューの決めたことを聞く前に、わたしの話も聞いてほしいの」

「うん。なあに?」

にこにことわたしの手を握ってくれるエリューの目線を合わせるため、跪く。


「わたし、エリューと一緒に帰りたいの。わたしの家に。

それで、ずっと…とは言わないから、せめてシュトリヤの魔法が竜人化ができるまで…

その時まででいいから、一緒に居てほしい。

せっかくお姉さんと一緒に住めるのに、って思うんだけど、わたしもエリューともう少しでいいから一緒にいたいの!」

「いいよ!」

結構意を決して言ったのに即答されて理解がおいつかない。


え、いいっていった?

ついでに胸に飛び込まれてぎゅうぎゅう抱きしめられていてわけがわからない。

いいっていったんだよね??


ひとしきり無言で抱きしめられていて混乱しているのだけれど、誰も何も言ってくれない。

なにこれ助けて。


「もー、ミィスはほんとうわがまま言わないんだから!いつまでもミィスの家に居候するわけにはいかないってボクも思ってたけど、まだ居させてよ。ボクだってまだまだミィスと一緒にいたいんだから。

姉さんはここで護ってもらうことにしたけど、ボクは胸を張って家族(ファミリア)を抜ける。

予定通り、だよ!」

ぱあっと眩い笑顔でほほ笑まれてやっと理解が追い付いた。


エリューは最初からそのつもりだったんだね。

「ありがとうエリュー。わたし、誰かが居る家って本当にひさしぶりで…うれしくって」

「うん。わかってるよミィス。」




「勇者殿、話は中でしたらどうかな?今日はこの街に泊まるといいよ」

「え、いいんですか?」

「もちろん。この街は鬼人(デモニアトロピー)だけのためにつくったわけではないし、追い出すような鬼畜のつもりはないんだけど…」

「ありがとうございます!よかった、近くでキャンプしようと思ってたので助かります」

「…君はもう少し人に頼ることを覚えたほうがいいねえ」

なぜかクスィラさんが困ったような顔で頭をぽふぽふしてくる。

わたしの頭ぽふぽふされすぎじゃないかな。



案内されたクスィラさんの家の一室でエリューと別れる前に鱗を渡しておく。

「これがグリーンドラゴンの鱗。持ってて」

「さすがミィス。これを持ちかえればボクは罰を受けて罪を償ったことになる。けど、家族を抜けるには副長(ふくおさ)に勝たないと。」

「そうだね。わたしは明日にでも戻ってお祭りとやらを少し見ておきたい」

「それがいいよ。ボクも改めて抜ける話をしたいからね。ミィスが戦う前がいいな、この制度自体がなくなっちゃう前に、ボクはボクのために副長を倒して堂々と家族を抜ける」



「ねえエリュー、今日くらいはネレさんと一緒に寝たら?」

ここに住むと決めたネレさんは、既に家をもらったらしい。

わたしたちはクスィラさんの好意で家に泊めてもらうけれど、そもそもエリューの部屋はなかったしクスィラさんもそのつもりだったと思うけど。

少しそわそわもじもじしているエリューの背中を押してあげる。


「…そうだね。いつでも会えるようにミィスがしてくれるってボクは信じてるけど、でも久しぶりだからね」

「うん。明日の朝には出発するからそのつもりで。ああ、ネレさんは一旦命を落としたことにしておこう。」

「わかった、おやすみ。ミィス」

「おやすみ、エリュー」

すぐに見えなくなったエリューを見届け、わたしもベッドに寝転がる。

今日も忙しかったけれど、わたしの本番は明後日だ。

しっかり寝なければ。






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