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3.裁きのお話

20時ぴったりにセレネルからの通信の報せ。

几帳面だなあ。

「陛下とシュトリヤ姫、宰相、騎士団長に同席してもらい報告しておいた。お前が関わることだからな。」

「うん?うん。」

錚々たるメンバーにちょっとびっくりする。


陛下まで必要だったかなあ…いや言わないとあの方拗ねるしいいんだけど…

どうもわたしの父親になりたいらしく。確かに小さいころから過干渉だったと思うけど。

宰相は間違いなく巻き込まれたんだろうな、かわいそうに。

線の細いゆったりした笑顔の男を思い浮かべる。

いつも陛下に振り回されて無茶ぶりされてる可哀想なナイスミドルだ。

その無茶ぶりを全て叶えてくれるスーパーナイスミドルでもある。

わたしにはたまにお菓子をくれる優しいナイスミドルの一面ももつ。

先の一件ではまっさきにバルドさんに狙われて、魔人(ファントムトロピー)化寸前だったそうでだいぶ落ち込んでいた。

元気になってほしくてお菓子をあげたら相当喜んでくれた。



「お前の意思を尊重し、大大的な検挙は行わないことになったが、裁判を行わない私刑自体は違法だと確認できた。エリュー、お前はそれでもその私刑を受けたいか?」

「うん、ごめんセレネル。ボクはボクの納得する形で家族を抜けたい。」

「ミィス、お前は?」

「わたしはエリューの背中を押したい」

「わかった。そのお前の言葉を以て、対応は決定した。詳細は明日話す。9時にお前の家へ行くのでそのつもりで」


割と一方的に通信を切られたが多分まだ陛下とか居たんだろう。

後ろで「ミィス!!」と呼ぶ陛下とシュトリヤの声が聞こえたけど多分話し合いがちゃんと片付くまでセレネルは無駄を許さない。

セレネルってあの場ではただの王宮騎士の第一隊長なんだけど多分進行を握っているんだろうな。

恐ろしいやつめ。



「み、ミィス、いいのかな?ボクのわがままになっちゃった気がするんだけど…!王様とかまで…!」

「あ、いいのいいの。気にせずにエリューは頑張ればいいんだよ。」

「ほ、ほんとうに…?」

不安げに眉を下げるエリューの頭を安心させるようにぽんぽんと撫でる。

「ほんとほんと。セレネルがエリューに確認とって、その上でOKしてくれたんだから。あとは任せとけば大丈夫だよ」

「い、いや多分あればボクのっていうよりミィスの意見…ああもういいや。」

ふう、と呆れたように溜息をついたエリューはとても10歳に見えない。

大人だなあ、エリューは。


「さて、じゃあ明日セレネルたちが来るまでゆっくり休もうね。料理でもつくろうか」

「うん…ありがとうミィス。ミィスは鈍いけど気遣いできるところ本当不思議だな」

鈍いけど…?

「ん?ほめてる?」

「ほめてない。けどそんなミィスが好きだよ」

褒められてなかった。ちょっぴりショックだ。

鈍いつもりはないし、なるべく色んなことに気づけるように敏くあるつもり…なんだけど。

やっぱりセレネルみたいにはいかないなあ。

ちょっぴり肩を落とし、キッチンへ向かうことにした。




その夜はエリューと同じベッドで眠り、翌朝。

エリューはとてもふにふにで暖かかかった。

満足。


「早速決まったことを説明させてもらう」

随分コンパクトにまとめてくれた話によると。

エリューの経験を以てして今回の調査に替えるため、必ずエリュー、わたしからそれぞれ報告書を提出すること。

(報告書はちょっと面倒だけど仕方がない。エリューの分は手伝わないと)

この調査にはセレネル率いる王宮騎士第一隊よりアナトーレと転移魔法が使える部下1名がついてくること。

ただし部下については転移のみで他の関与はないこと。

(転移魔法はどこにでも行けるわけではなく"陣"と"陣"を繋ぐもので、そんなに便利なものではないらしく。)

「でも人手多い方がよくない?」

「目立つと勘付かれる。あとお前に近づくことは許可していない。これは俺とシュトリヤの許可が必要だ」

「え、なんで!?」

わたしに関係することがわたしと関係ないところで決まっているようだ。

「気にするな」


そして、違法行為への処罰はわたしに一任すること。

「ん?!なんでわたし!?」

「光の勇者として裁け、だそうだ。鬼人という種族全体に与える罰を国から与えるわけにはいかない。反発が起こる」

「えええ…鬼人(あのひと)たち自分より強い人の言うこと聞かないじゃん…」

「それも織り込み済みだ」


つまり勝てと。祭で優勝した一番強いであろう鬼人に勝てと。

「無茶を言う」

ちょっと遠い目になったことは許してほしい。

「みんなわたしのこと嫌いなの…?」

「逆だ。お前のことが好きすぎるせいでこんなことに…俺も反対したんだが。祭には陛下とシュトリヤ、宰相、騎士団長が来る」

「はああ…?!」

ただのお祭りに国のトップが何人くるつもりだ。

ただのお祭りじゃなくなってしまう。


「いや、言うな。わかっている。ただの祭に陛下と姫が行くはずない。が、無理だ。

『余の娘同然のミィスの活躍を見ずしてどうする!?』

『わたくしがミィスの活躍を見られないなんて…殺すわよ』

『お二人のお目付け役です。お菓子を持っていきますね』

『…』

だそうだ。諦めろ」

無駄にそっくりな声真似のせいで表情まで想像できてしまった。

フェガリさんに至っては吐息のみなのに誰かわかってしまった。

「フェガリさんは何も言ってないしシュトリヤは何でそんなに怒ってるのかな!?」

「俺と違い始終同行できないことに腹を立てていた。いい気味だ」


なんだかよくわからないが、活躍を期待されて今回の運びになったのだということは理解した。



「期待されているなら応えないと…うん。エリュー、お祭りってどういうルールなの?」

「ルールなんてないよ。魔法もスキルも武器も自由、相手が参ったっていうか気を失うかまで続くね。一応殺すのはだめだから、危なくなったら止めが入るよ。」

「黒騎士の祭よりひどいな」

黒騎士は王宮騎士と近衛騎士以外の騎士たちの総称だ。

アナトーレがやっていた門兵もそうだし、パトロールをする警邏隊もそう。

全員制服が黒だから黒騎士。王宮騎士は蒼騎士、近衛騎士は白騎士って呼ばれることもあるのは同じ理由だね。

かれらのお祭りもなかなかにエキサイティングでスリリングだけど、一応剣と魔法で別れてるから秩序は守られている。

ポイント制だし。


「それがボクたちだからね、本当巻き込んでごめんねミィス」

ちょっとしょんぼりするエリューを撫でる。

話を聞いたときから覚悟はしていたのだ。

「いや、いい。大丈夫。処罰云々は内緒にしてたわたしへのちょっとしたお仕置きみたいなのも含まれてると思うの。多分王妃様からの。」

「おお、よくわかったな。『そういう大切なことは上手く報告しなさいと教えたはずですよ』だそうだ」

またそっくりだ。セレネルの声帯はどうなってるんだろう。


あまりにそっくりで背筋がひえっひえだ。

「ほらああああわかってた!!こう言っては何だけど陛下とシュトリヤだけならこういう風にはならないもん。絶対説得というか誘導した人が居たと思ってたんだ…!そしてそれができるのは王妃様だけ…!」

「よくわかってるじゃないか。あの方はお前のことを娘みたいに思っている分厳しくしてくるよな」

「うん…きっと帰ったら地獄のお茶会(レッスン)が待っているに違いない…」



「あ、あのミィス、気休めにもならないかもしれないですが、恐らく私も一緒ですから…」

おずおずと申し出るアナトーレに憐れみの視線を向ける。

犠牲者(さんかしゃ)が増えてしまった。

「ああ、アナトーレもなにかしたの…?」

「せっかくだからいらっしゃいと笑顔で誘っていただいたのですが…」

「それは王妃様言語だと、『鍛えて差し上げるから覚悟していらして』の意味だよ」

「ああ、矢張りですか。少し嫌な予感がしたのです。」

「がんばろうね、アナトーレ…!」

アナトーレの手を強く握り込む。多分わたしが集中砲火を浴びせられるのだけれど、たまに助けてくれると嬉しいよアナトーレ!!



「さて、出発までこの家の前に"陣"を設置させる。お前は毎日騎士団長と俺と鍛錬だ」

「うわーい!それは嬉しい!」

「ああ。俺も楽しみだ。エリュー、お前はアナトーレと信頼できる鬼人の騎士と鍛錬だ。」

「ボクもっ?騎士さまと戦えるの?!」

「ああ。万が一にも負けさせるわけにはいかないからな。では今日は15時に迎えにくるので準備をしておけ」

言うだけいってさっさと出ていき、今度は転移魔法で帰って行った3人を見送った。


「エリュー、楽しそうだね」

「うん。ボクまで鍛えてくれるなんて嬉しい。強いかなあ」

「セレネルが選んだ騎士だったら相当強いと思うよ…うん、相当。」

何人か知っている鬼人の騎士を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。

彼らはセレネルに心酔しきっているから騎士のイメージを壊すだろうなあ。

口癖のように「セレネルさんのお願いなら!!!」って嬉しそうに言ってるもの。

鬼人っていうかわんこだもの…



「エリュー、その…実力はあるはずだから」

とやっとそれだけ言い、準備にとりかかったのだった。





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