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2.鬼人の掟のお話

「エリューは家族(ファミリア)を抜けるために掟通り戦いを挑んだ。で、あと一人、最後の副長(ふくおさ)に勝てなかったんだって。」

鬼人(デモニアトロピー)が家族を抜けるには長を除く家族全員に勝つ必要がある。

それを10歳のエリューが成し遂げるのは本当に難しいことだ。

鬼人は強さが全てだというし、副長(ふくおさ)ともなれば相当に強かっただろう。


「でも、お姉さんが助けてくれたんだって」

「それは…血のつながった?」

「うん、唯一の肉親だって。お姉さんは、家族の狩った魔物の素材を売りに行く仕事をしてて。

その時に区の外に出るから、家族の監視の目が緩いその隙に逃がしてくれたって。

お姉さんはその罰を受けていて、1年は幽閉されるみたい。

1年だから気にするなって言ってたみたいなんだけど、どうもそれだけじゃすまないみたいだから、

その頃にはわたしも一緒に9区へ行く約束もしてたの。」

ここまでが半年前。と、大事な部分を一気に話し、ふう、と息を吐いた。


「けどチャンスだと思ったのかな?それともしびれを切らしたのかな?ミヤビを攫うなんて」

怒りが再発しそうだ。

ミヤビは多分1人なら逃げられたのだ。逃げたり躱したりするのが得意だから。

それでもエリューをどうしても逃がしてやりたいと思わせたほどに苛烈な追っ手だったのだろう。

エリューの全身の怪我を見ても明らかだったけど。



「…鬼人独自のルールが多すぎる。掟については城まで申請されているが、それを破った際の私刑について報告が上がっていない。私刑は国から許可されていない。」

うんざりしたように溜息をつくセレネル。

「うん、そのあたりの法律をシュトリヤか宰相あたりに確認してくれないかな?鬼人特別ルールとかないよね?わたしもその話を聞いたとき変だなって思ったんだよね」

「なぜすぐ言わない」

じと、と睨むセレネルからすっと視線を逸らす。



「ボクが黙っててってお願いしたんだよ、ごめん。ボクもおかしいとは思っていたんだけど、けどあんなでもボクの故郷なんだ…セレネルと姫様に聞かれたら、()()()()()9区に来るかもしれない。

それは嫌だったんだよ」

(シュトリヤ)騎士(セレネル)が仕事として来れば、鬼人が大量に検挙されてしまうこともあるかもしれない。

エリューはそれは嫌だから、わたしにだけ教えてくれた。

内々に(こっそり)処理できればいいなとわたしも思っていたから。


「エリュー、もう大丈夫?」

「うん、ありがとう」

ソファを勧め、用意していた温かいお茶を差し出す。

それを受け取って一口飲んだのを見届る。

「4区で何があったの?」

「帰り道、馬車を襲撃された。ボクとミヤビは戦ったんだけど、鬼人はみんな【耐異常(イミュニタ)】持ちだから精神異常系の【魅了(ドルチェ)】は効きにくい。それに、20人もいて…」

というか効いてても戦えちゃうんだよ鬼人って好意のある相手でも殴れるから…と呟いてる。


「20人?随分気合のいれた人数だな。以前2区で見たときは2人だったな?」

「多分鳥人(オルニストロピー)の歌が広まったりして、本腰を入れだしたんだ。ボクも結構有名になっちゃったし、このままだと掟破りの制裁ができなくなるかもしれない…とでも思ったのかな?ミヤビはボクを逃がすために捕まってくれた。」

その後現れた鬼人(デモニアトロピー)に渡された手紙があるらしい。

「これ。ボクの家族(ファミリア)の長からだね」


---この者を助けたくば、我らが祭の日に来い。

お前の姉共々罰を授ける


「本当に馬鹿なんだよ、掟掟ってそればっかり。けどボクは、ミヤビと姉さんを助けなくちゃいけない。だからいくらボクが掟を馬鹿にしてても、行かなくちゃ。」

「エリュー、お祭りって何?いつ?」

「お祭りは、簡単にいうと鬼人の中で一番強い人を決めるボクの大嫌いな催し。一週間後だよ。セレネルの部下もお休みの申請とかしてない?」

「ああ、鬼人がほぼ全員休む伝統の祭りだな。内容までは知らなかったが…毎年のことだし申請済みだ。これは許可されている。」


「一週間…ならなんとかなるかな。セレネル、念のため伝えておくけど」

「ああ、ミヤビの家のことか?詳細はいい。想像はつく。」

一度色んな確認に行くから、と城へ戻ってくれるらしい。

何故想像がつくのかは甚だ疑問ではあるのだけど、セレネルだしそういうこともあるか、と納得しておく。

有力貴族…豪族って言ってたかな。のミヤビが鬼人に誘拐されたなんて国同士の問題になりかねない。

いくら同盟国でもミヤビの国は外国だし。

ミヤビは随分国で人気があったみたいだし。


「一日で戻る。アナトーレはついて来い」

「はい。エリューはきちんと休んでくださいね」



と、2人が家を出ようとしたとき。

端末に通信の合図。

「待って、ミヤビから連絡!」

『こっちは心配せんとって、とりあえず手荒な扱いは受けてへんし家にも連絡済みやから。

けどちょっと抜け出すんは無理そうやわあ…迷惑かけてごめんな』

小声で、少し早口だ。

隠れて通信を入れてくれたのだろう。

「最近働きすぎだったしゆっくりしててよ。絶対行くから」

『うん、連絡も多分もうできひんから気長に待つな、ほな』


「切れた。」

「ミヤビとの連携は無理そうだな。仕方ない。城への確認と報告は予定通り行う」

「お願い。」

セレネルが知ってしまった以上報告なしというのは無理だったから仕方がない。

けど、きっとセレネルならわたしたちが内々で対処できるように何とかしてくれるはずだ。



「ああ。すまないがあの道を使ってもいいか?」

こんなことになるなんて思っていないからセレネルは転移できる部下を帰してしまっていた。

必要ならこのまま竜人化の魔法探しに旅立つくらいのつもりだったらしい。

「いいよ、魔具(イディ)持っていって」

「いいのか?」

「あ、これスペア。」

一つしかないと家族で暮らしているときに不便なので道を開く魔具は家に5個ある。

「そうか、じゃあどんな経過であれ20時に一度連絡をいれるから出ろよ」

「はーい。」



セレネルとアナトーレを見送り、エリューと二人きりだ。

「エリュー、もう少し鬼人について教えてくれない?罰って何?」


「ボクたち鬼人が住む9区って、隣接する外区が10区なんだ。で、そこと9区の間って断崖絶壁でしょ?そこに橋がかかってるの。そこを渡って10区へ行って、()()を取ってきて帰って来れれば罪は許される。っていうやつ。何かはその時々で変わるけど、ひどいときはレア魔物の部位だったりする」

10区以降の外区との境目はぐるりと断崖絶壁で囲まれている。

そのおかげで強い魔物はあまり内区には入ってこないので、多分アーラがぶち抜いたんだと思う。

あの人わたしの家と特区の間の山も一振りでぶち抜いたって本に書いてあったから。


そこを繋ぐ橋はほとんどが国の管轄だったはずだけれど、鬼人が作ったものもあるのだろう。

10区自体は緑と水に溢れた自然豊かな場所だと記憶している。

が、人はほとんど住まない場所だ。変わり者か仙人みたいな人しかいないと思う。

それか竜。

強い魔物も内区と比較すると格段に多くなる。

「ん?それって…」

罪とやらを許すつもり、なくない?

「うん、通り帰ってきた人なんていないよ。出てくるの鬼人だって1人で倒すような魔物じゃないんだよ」


「ねえ、その橋ってわたしも渡れるかな?」

「え?!」

「いや、みんな一緒なら、と思って」

エリュー1人では無理かもしれないが、わたしたちがみんなでフォローすれば倒せると思う。

「堂々と渡るのは難しいと思う、見張りはいるから」

やっぱり鬼人の管轄の橋なのね。

「じゃあ違うルートで渡ればいいか。他の国管轄の橋か、ミヤビを助けちゃえば飛んで渡れるかも。」


「…それはそう、だけど…」

きっとエリューはそこまでわたしたちにサポートさせるつもりはなかったのだろう。

けれど、わたしだってみすみすエリューを危険に放りこんだりしたくない。

だってその罰とやらはクリアさせる気のないルールだ。

そんなのずるだ。


「わたしたちがこっそりサポートするから、その罰とやらをさっさとクリアして、副長さんに勝って、エリューの納得する形で堂々と家族を抜けようよ。だってエリューはそうしたいからわたしに相談してくれたんでしょう?」

逃げるだけなら匿ってほしいと言えば済んだし、相談相手はシュトリヤかセレネルのほうがよかった。

それでもエリューは「匿って」とは一度も言わなかった。

「うん、ありがとうミィス。ボクはこのやり方が間違ってるって思ってても、やっぱり堂々と抜けたいんだ。それに、姉さんにお礼もまだ言えてないから。

姉さんのおかげでミィスとミヤビっていう2人の王子様に会えたの、すっごく嬉しかったって話がしたいんだ」



そう笑うエリューが可愛くて仕方がなかったので、ぎゅっと抱きしめた。






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