幕間6.兎も捕食側
セレネル視点です
あの式典が終わり、興奮冷めやらぬ翌日。
前々から約束していた通り、ミィスと共に5区へやってきた。
5区は商業区として栄えており、武器から食品まで全ての物がここで揃う。
「ねえ、なんの用があるの?そろそろ教えてよ」
今日二人きりになることはシュトリヤには伝えていない。
伝えてやるものか。
あいつは今日式典の後処理等の公務で一日城に缶詰。
2人きりになれる日はあまりに少ない。
アナトーレに護衛を任せ、ついでにミヤビとエリューには4区へ宿泊してくるように手を回してある。
完璧だ。
「まだ、祝っていなかったからな」
「お祝い?なんの?」
「誕生日だ、お前の」
「あ、そっか」
4か月前のシュトリヤの誕生日から今までのあいだにミィスの誕生日は過ぎてしまった。
漸く先に17歳になった俺とシュトリヤに並んだ、とこっそり喜んでいたのを知っている。
ただ、どうしても全員忙しく、しっかりと祝うことができていなかった。
「でも当日ケーキくれたよね?すっごくおいしかったよ」
それはよかった。手作りだからな。言わないが。
どこぞの店風に包ませたのでバレないだろう。
「当日用意できなかったから、ケーキとは別にプレゼントをお前に用意してある。一緒に来てもらいたいんだ」
「いいの?卒業のお祝いに素敵な靴もらったばっかりなのに…」
「お前は本当に欲がないな。王から賜ってる金品もいくらため込むつもりだ」
「あれは成人したら返すの!」
ミィスは両親が亡くなってから毎月多額の見舞金を王から賜っている。
たった3歳で両親を、詳しくはわからないが国のために喪ったこと、
その功績に大いに私情を乗せた金額。
それが税金からではなく王の私財から出ているのだから本気度が窺える。
あのお二人が実の娘のように思っているのは城内では有名だ。
しかしそれには一切手を付けず、自分で魔物狩りなどをして生活費を稼いでいるのだ。
「絶対受け取ってもらえないぞ」
と、とりあえず事実を告げておく。
どうせあの方々の泣き真似でミィスが負けることはわかっている。
「それはその時考えるとして。えっと、どこに行くの?」
どうやらこのあたりが宝飾店が多いエリアだと勘付いたようだ。
そわそわと居心地が悪そうにしている。
カップルか女同士ばかりだからな。
「やっぱりセレネルめちゃくちゃ目立つよ…」
どうやら俺が視線を集めていると思っているようだが本当は違う。
男女問わずミィスのことを見ているのだ。
昨日の今日だぞ、気付け。お前は今俺より有名人だ。
「安心しろ、ただの宝石にお前が苦手意識を持っているのはわかっている。あっちだ」
と指差すのは宝石は宝石でも魔宝玉を扱う店だ。
この辺りで扱うものは純度が高く高価だがモノがいい。
見た目も含めて。
ミィスは自分の魔宝玉を持っていない。
2つ持っているのは両親の形見だ。
これは死を悟った2人がミィスのクローゼットに遺したものらしい。
それをいつも、大切そうに持っているのは知っているのだが如何せんランクも低ければ純度も悪いものだ。
両親共に人間だったから、魔法に頓着がないのは仕方がないが。
「それ、大事にしたいんだろう?お前は気づいていないようだが、魔法の出力が上がっている。」
「えっ?」
「でなければあの時フェガリの武器を弾けるわけがないだろ。」
「あ、確かに。毎日使ってたからかな?」
「そうだろうな。で、このまま成長を続ければランク8だと耐えきれないぞ」
「そ、それは困る!!」
「だろう?」
「で、でもそれなら自分で用意するよ!」
「贈らせてくれ。もう準備してあるんだが、駄目か?」
意図して頭の耳を少し下げる。
ほんの少しでいい。
「うっ…わ、わかった…ありがたく頂戴します…セレネルの弱ったとここんな時に見せないでほしい心臓に悪い」
後半は聞こえないと思って言っているだろうが聞こえてるぞ。
深読みするとこちらがダメージを受けるので一旦放置だ。
それにしてもこいつは本当に弱った姿に弱いな。
それをわかってやる俺や他の面々も悪いのだが。
目当ての店にエスコートし(嫌がられたが強引に手を掴んだ)注文していた旨を店員に告げる。
俺のような上級貴族は家に店の者を呼ぶが、それはしたくない。
父親に見られると面倒だからな。
「ね、ねえセレネルもしかしてもしかしなくてもこれはオーダーメイドだよね?」
「ああ。お前に贈る物はいつもそうだが」
という言葉に今まで贈ったものを思い浮かべたのだろう。
顔をさっと青くする。
オーダーメイド品は総じて値段が跳ね上がるからな。
「俺の稼ぎだ。お前と同じだろう?だから気にするな。俺がしたくてやっている。ほら、どうだ?」
店員に差し出されたそれは、銀に輝く宝石をあしらったランク2の指環だ。
手から放つように魔法を使うミィスには手につけるアクセサリのほうが勝手がいい。
細い地金で剣の邪魔にならないよう自分でも試しておいた。
「き、きれい…!こんなきれいなの付けたことないっていうか普段のわたしがつけても大丈夫なやつ?!
こういうのって貴族のものなんじゃ…!」
「勇者の家系の方が古いし尊い。これくらい付けとけ。」
「うう…セレネルがそういうなら…あの、とっても気に入った。嬉しい」
とても大切そうに、そっと胸に抱きよせ零す笑顔は本当に可愛く。
思わず指輪を奪いとり、さっと左手を取る。
目を丸くし瞬いているその表情も格段に愛おしい。
そのまま人差し指を取り、すっと指輪を通す。
その指輪に軽く口づけ、ちらりとミィスを見る。
あのミヤビの【魅了】すらものともしないミィスが首まで赤く染まり、目を丸くし硬直している。
「遅くなったが、誕生日おめでとう、ミィス」
「ああああありがとう…ございます…なにするんだこのイケメン…この気障男…」
俺の所作でこんなに愛らしい顔が見れるのならばこれからいくらでもやろう。
シュトリヤに赤くなる様はよく見ていたが、自分に向けたこの顔は思っていたよりもずっといい。
そのまま店を出たが、ミィスがずっと
「もうあのお店二度と行けない…ばか…セレネルは本当にばか…」
等と呟いているが無視するものとする。
衆目のもとここまでやったのだから噂好きの鳥人に広められるだろうな。
シュトリヤにバレるがまあいい。十二分にいい思いをさせてもらった。
「魔法の付け替えをしておくか?」
「あ、そうだね。よく使う魔法だしもうやっちゃおう。セレネルが見ててくれる?」
魔宝玉から魔宝玉への魔法の付け替えは、ただの付与よりも煩雑だ。
2人以上で行うことが義務付けられている。
うっかり魔宝玉が爆発などすると近隣に被害がでる。
人が死ぬほどのものではないが。
元の魔宝玉はサポート役が掌に乗せ、新たな魔宝玉をミィスが掌に乗せる。
「母さん、いままでありがとう」
そっと、俺の掌の魔宝玉を撫で、移行の呪文を唱える。
「--宿りし名は<スパークル・レイル>」
ぽわ、と淡い光が俺の掌の魔宝玉から漏れる。
「--新たな魔宝玉へその力を遷せ」
「<ムダールセ・スフェラ>」
掌の淡い光が消え、ミィスの掌の指環が替わりに一度光を宿した。
これで移行は完了だ。
「問題ないぞ」
「よかったあ。学園で習ったけど実践では初めてだったし」
「お前は魔力操作も優秀だっただろ、その上あの3ヵ月で更に上達してる。」
「そうなんだ、自分ではわからないものだね、獣人ほど魔力に敏感じゃないからかなあ。」
嬉しそうに指環を嵌め、こちらに掌を差し出す。
「ありがと、セレネル。これで母さんのブレスレット壊さずに済んだよ」
その手首にブレスレットを付けてやり、それが意図した形ではなかったようで再び頬を赤くする。
「せ、セレネルが今日わたしのことをどうしたいのかわからない…」
「いつもお前のことは大切にしてるつもりだが?」
自分でもわかるほどに柔らかく微笑んでミィスの金の瞳を覗き込む。
「!!!」
喉の奥がひゅっと鳴った音がこちらまで聞こえてきた。
そのまま硬直し、3秒ほど。
「さて、明日ミヤビとエリューの報告を聞くだろう?お前の家でいいな?」
こくこくと声もなく頷くミィスの顔をじっくり堪能し、解放してやった。
今はまだ、慣れていないから誰がやってもミィスはこんな反応だろう。
こういう好意に慣れさせてこなかったのは俺とシュトリヤの所為だ。
少しでも素振りを見せたものは裏で排除してきた。
しかしその学友よりも一歩抜きんでたアナトーレとエリューの存在。
唯一の存在と言って憚らないミヤビも現れた。
更にシュトリヤがもう我慢を止めると言った。
こうなった以上俺ももう周りを牽制するだけというわけにはいかない。
これからは積極的になるから。
覚悟しておけよ、ミィス。
幕間はこれでおしまいです。次は2章に入ります。




