幕間5.新しい家族
ミィス視点です
今日は式典の一週間前。
なんとテミスラさんのお邸へご招待されてしまった!
あの日々の御礼とこれからの親交のためのことだけど、貴族として振舞ってきたマズ家とフォス家では何もかも違う。
うちは一応勇者の血族ということで上級貴族と同格だがイコールではない。
家(邸じゃなく家)も貴族が集まる特区ではなく2区だし、マナーは王妃様にシュトリヤと一緒に叩き込まれたからできるけど貴族同士の交流はしない。(夜会とかお茶会とかそういうの)
それと比べてマズ家は上級貴族なのだ。れっきとした!
わたしは全く貴族に詳しくなかったけれど、貴族の中でマズ家という名前は知られてるってセレネルが言ってた。
どうやら目立つ金の瞳は魔具で隠していたらしいのだけど。
勇者として立つわたしたちと、歴史を護るマズ家とは役割が全く違うから当たり前ではある。
「待っていたよ。入って。」
特区の待ち合わせ場所にやってきた馬車は、"馬"車とは名ばかりで
魔具が原動力の動く高級なやつだし(馬役は魔具でできた馬っぽい何かだしこれはほぼ飾りだ)
そこから出てきたテミスラさん(瞳は青い)はエスコートに手馴れているし。
セレネルはクールビューティ系王子だけど、テミスラさんは穏やかにほほ笑む貴公子タイプの王子だ。
ちょっとどきっとしてしまったのは仕方がないと思う。
これはあれだ。緊張するやつだ。
わたしは女性扱いされるのが苦手だ。
もちろん王妃様に叩き込まれた通り、体は勝手に動くのだけど。
エスコートされて余裕の微笑みなんてできないし、嫋やかにうふふとか笑えない。
無理だ。
「今日は随分しおらしい…ああ、僕のせいかな?緊張しないで。いつも通りでいい。
セレネル君やシュトリヤ姫に対するようにしてくれないかな。」
「こ、こういう馬車は慣れなくって緊張してしまって…」
「ごめんね、すぐ着くからね。ああそうだ。邸で騎士団長殿も待っているよ」
「フェガリさん!?えっどうして」
確かに幼少期から剣を教えてもらったりはしていたけど、それは王命だったからだ。
それ以上でも以下でもないような気がする。
「ふふ、それはついてからのお楽しみ。多分おもしろいものが見れると思うよ」
何を思い出したのだろうか、くす、とほほ笑むテミスラさんはすっかり元気に見える。
ばたばたしていて会うのは久しぶりなのだ。
あの時はテミスラさんも混乱していたようだし、後悔っぷりがすごくてしょんぼり時間が長かったし。
「テミスラさんも元気になったみたいでよかった」
「ああ、心配かけたね。君の頼ってもらえるようにしっかりしないといけないなと思って」
「頼る?」
「うん。身内のようなものだし、君に頼ってもらいたいんだよ。お礼には足りないと思うけど」
「…お礼なんて、そんな。いいのに…」
「僕がやりたいんだ。前もいったよね、君が産まれた時からずっと会いたかったんだよ」
「じゃ、じゃあテミスラさん。よろしくお願いします。えへへ、嬉しい」
「僕も受け入れてもらえてうれしいよ。嬉しいついでに兄と呼んでくれないかな?」
「テミスラ…お兄様?」
「うん、それがいい。よろしくミィス」
なんだかよくわからない内に兄が出来てしまった。
兄弟はいないのでちょっと、いやかなり嬉しい。
セレネルにもシュトリヤにも兄弟はいないからあとで自慢しよう。
間もなく邸に着き、エスコートされるがまま進む。
華美ではないが美しく整えられた邸だ。さすが上級貴族、といった上品な佇まいの。
「これからは好きに遊びにきてよ。僕がいなくても居てくれてかまわないし」
それには曖昧にほほ笑んで置く。
さすがに当主がいないときに家にはいるのはちょっと…礼儀的にどうかとおもう。
わたしだってそれくらいわかる。
「すぐには無理でも、追々ね。さて、この部屋だ」
先導していた家令っぽいおじ様が扉を開く。
見たところこの部屋は応接間らしい。
すぐにお茶が出され、わたしが部屋に入ってからもだんまりだったフェガリさんが口をひらく。
「…久しいな、ミィス。」
「お久しぶりです、フェガリさん。」
「今日はフェガリ殿からまず話があるんだよ」
「話?」
「…すまなかった。俺が、間違っていたのだろう」
「んんん!?フェガリさんがわたしに謝るようなこと何かありましたっけ!?」
この!厳格で!絶対正しいことしかしない!っていうこの人が誰かに謝るところなんて初めて見たし、
その相手がよりにもよってわたしだ。
思いもしなかった内容にマナーなど吹っ飛び大声で動揺の声を挙げてしまう。
…王妃様におしおきされちゃうから内緒にしててほしい。
「あの時はあれが最適だと信じていた。…王命として」
「セレネルの処刑のことですか?」
ああもう言葉が少なすぎる。いつものことだけど!
「ああ。」
「でも王命に逆らうなんて普通はできないですよ。わたしじゃあるまいし。」
そう、勇者じゃあるまいし。
わたしはわたしの中の血と直感を信じるけれど、他の人がそうできるとは限らないってことは重々わかっているのだ。
その上でわたしを信じてくれるみんなが貴重っていうだけで。
「それでも。あれは完全に息子の育て方を誤ったのだと、そう信じていたのだ」
あの件を謝りたいのだとしたら相手はわたしじゃない。
「じゃあそれはセレネルに。わたしが受ける謝罪ではないです。」
きっぱりお断りすると、本当に珍しく瞳が揺らぎ動揺が見える。
ついでに耳がぴんと立ち緊張しているようにも見える。
この冷静冷徹の"零下の麗人"(※鳥人がつけた二つ名)の耳が動揺で立つなんて本当に珍しいというかわたしは見たことがない。
知り合って10年以上になるのに。
「…お前も怪我をしただろう」
絞り出すような小さな声。
ここでようやく納得できた。
この不器用で言葉足らずのお人は、わたしに怪我をさせたことを謝りたかったのだ。
わからなかったわたしは何も悪くないと思う。
やっとわかったことでほっと息を吐く。
「それこそ、フェガリさんが謝ることじゃないですよ。怪我をさせたのはお互い様ですし。
わたしはあの時フェガリさんに殺されてもおかしくないようなことをしたんですから。
それに、血筋を絶やすわけにはって護ってくれたじゃないですか。」
その方法は今でも正しかったとは絶対思わないけど。
「あれは…その…お前の両親と…いや、なんでもない。話はそれだけだ。」
わたしの両親と仲はよかったらしいので何かあったのだろう。
多分わたしには一生教えてもらえないけど。
ぱっと立ち上がってもう部屋から出ようとしている。多分照れているのだ。多分だけど。
「…また、鍛錬に来なさい。」
こちらを見ずにそう告げる後ろ姿はいつもよりちょっぴり頼りない。
この人がこう何度も緊張することもあるんだなあ。
「もちろんです!フェガリさんにそういっていただけるなんて嬉しい!必ず行きます」
ちら、と振り返った目は初めて見る優しい眼差しだった。
「…うわ、うわあ…あ、あんなフェガリさん初めて見た…」
セレネルによく似た整った顔立ちの破壊力に思わず頬が熱くなる。
「あの人あんなだけどミィスのこと娘みたいに思ってるんだって。」
「え?」
「さっき言ってた。全然話したいこと話せてないんだよ、あれ」
本人を目の前にすると全然だめなんだね、なんて笑っている。
「謝罪は受けたけど…?」
「ああ、本当は、ミィスのこと娘みたいに思ってるんだからもっと頼ってほしいとか、多分そういうことが言いたかったんだよ。不器用な人だよね、本当。」
「それはとっても光栄なことだけど…」
「また遊びに行ってあげてよ。最近全然来ないって少し寂しがってたよ?」
それには頷くだけにしておく。
騎士団にはいってあの人の部下になるのだから、自分だけ特別扱いしてもらうわけにはいかないと思っていたの。
セレネルはともかくわたしは子供ではないんだし。
と思っていたのだけどもう少しちゃんと思ってることを言ってくれないかな。
いやそれはお互い様、かな。
小さくため息を吐くと、すっと何かを差し出される。
「次は僕からのお詫び。」
「それこそテミスラさん「お兄様」
…お兄様からいただくお詫びなんて何も…」
お兄様呼び気に入ったのかな、こんな秒で遮らなくても。
「いや、受け取ってほしい。本来ならこんな時僕が一番に君に手を差し伸べるべきだったんだよ。
それを助けられてしまった。お詫びが嫌ならお礼でもいい。とにかく受け取ってくれないかな」
困ったように眉を下げられて、うっかり受け取ってしまった。
わたしは自分でもわかっているけれど、人の困り顔とか押しに弱いのだ。
「あの、これは…?」
綺麗に包まれていたのは、魔具だ。
いけない、これは高いものだ。とわたしの直感が告げる。
「僕のスキルである【賢者】を数回分封じ込めた特別な魔具だよ」
なんてことないことのように笑顔で言われて言葉を失った。
魔法を封じ込める魔具は安価だ。1000年前の技術ではないから。
大量生産もされているし、灯りや動力など広く使われている。
だが、白の魔宝珠が嵌められたこの美しい鍵はスキルを封じ込めたと言った。
スキルの封じ込めなんて普通できない。
種族や経験に基づくもので、他の人に使えるようなものでも使わせるようなものでもないからだ。
それができる魔具なんて、現代の技術力では作れない。
「も、もしかして1000年前の…?」
「ああ、まだ無事な宝物庫の中にあったんだよ。きっと君の家系の本を読むために作らせたものだと思う。
だから君のもののようなものだし気にせず受け取ってよ」
「そ、それでも高価な…大事な…」
「それで君の本を読むといい。あまり僕に読まれるのもいい気分じゃないだろう?」
「そんなことはないよ!!けど…うん、好きな時に読めるのはとても嬉しい。ありがとうテミスラさ「お兄様」お兄様!」
慣れてない呼び方なので許してくれないかな、秒で訂正されると勢いが怖い。
「いいよ、力は追加するからなくなったらまた言ってくれてかまわないからね」
この贈り物がわたしにとってとても嬉しいものだったので、何かお返しがしたい、と思った。
「わたし、式典がおわったら竜人化の魔法を探しにいくの。」
「うん、聞いてるよ」
「その時に、テミスラさんの本もきっと探してくるから」
「え?」
「バルドさんは、捨てただけっていってた。どこかに絶対ある。」
「僕が自分でするべきことだよ、君が気にする必要は…」
「わたしなら色んなところに行ける。テミ…お兄様と違って。わたしにも何かさせてほしいの。
頼るばっかりじゃなくって、わたしだって頼ってほしいから」
「…そう、じゃあ、お願いするよ。本当に君には敵わないな」
その夜、さっそくもらった魔具を使って本を読んでみる。
どうも両親とフェガリさんの約束が気になってしまったのだ。
どうせいつか全部読むんだし、と両親の項目を読み進める。
「あ、ここかな。23歳の1の月ってことだよね、多分。死んでしまう一月前だ」
------白の書・119-23-1
フェガリにはミィスのことをしっかり頼んでおいたので大丈夫だろう。
あいつは娘のように思ってくれていたし、まじめだからきっと勇者に相応しく鍛えてもくれる。
もちろん自分でやってやりたかったが、俺の勇者としての力は薄い。
きっとこれからの相手は良くて相討ちだ。
「ってたったこれだけ…?じゃあフェガリさんはわたしを頼む!みたいな口約束だけであんなに…?」
結局真相はよくわからないままだった。
いつか両親のことが聞きたいと言えば教えてくれるだろうか。
娘のように思ってくれてるのを知るのに10年以上かかっているし、道のりは遠そうだ。
小さくため息をついて、本を閉じた。




