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22.星降る魔法のお話

――4区・東門の町。

「な、なんか鳥人(オルニストロピー)多くない?」


街の至る所で、鳥人が歌う物語が聞こえる。

そのすべてに人だかりができ、やけににぎやかだ。


「ああ、なるほど。さすが情報の早いことで。」

賞賛のようにも、呆れたようにも聞こえる声でつぶやくセレネル。

「え、聞こえる?」

「はい。私にも。どうやら、ミィス。あなたと私たちのことを歌っているようですよ。これは恥ずかしいですね」


耳のよい獣人(セリアントロピー)に続き、ようやくミィスにも聞こえてきた歌は。

間違いなくシュトリヤが攫われたと聞いて旅立ったあの日から、今日までの出来事で。


鳥人(このひとたち)ってどこから情報仕入れてくるのかな」

同じように少し呆れたように。しかし笑顔でミィスは呟いた。




「ねえ!特区はもっとすごいかな!?」

「そうだね、エリュー。お祭りみたいになってるかも!」

「ボクお祭りって結局見れなかったから、もしそうなら嬉しいな!」

ミィスとエリューははぐれないように手を繋ぎ、賑やかな通りを眺める。

この調子ならきっと、特区に戻ってももう捕えられたりはしないだろう。






――後日。

特区へ戻った一行は民衆に熱烈に迎え入れられた。

王家とテミスラの家系を蝕む魔人は、テミスラの【賢者(スキル)】により正気に戻った王の命令により、セレネルの父(フェガリ)があっという間に制圧。


賢者とは全ての理を解き明かすスキル。つまり、正体を見破ることができる力でもある。

不意をつかれさえしなければ、平和に慣れてさえいなければ、こんなことにはならなかった。


テミスラがミィスにだけ吐いた言葉は間違いなく後悔だった。

「テミスラさん。これからは一緒に、がんばろうね」

「ええ。今後は是非兄と思って頼って。」


捕らえられた魔人はミィスに全員浄化され、行き場のない者はテミスラが引き取った。

今後生まれた魔人については、30区に送られることが内々に決まり、その仕事は、テミスラが請け負う。




そして、竜についての正しい知識とミィス一行の功績が鳥人によって王都中に広められ、

人々が"希望"をミィスと結びつけるようになるまでたった一月。


本日、その功績を認められたミィスは、正式に王から"光の勇者"の称号を賜ることとなった。

今までの"勇者の末裔"としての勇者という認識ではなく、正真正銘ミィスの功績が認められ名実ともに勇者となる。



いよいよその式典が始まろうとしていた。

王都中、その外からも人々が集まり、かつて処刑場となった城前広場はあの日以上の群衆で埋め尽くされていた。

もちろんこの式典も王都と同盟各国へ映像が届くのにもかかわらず。


ミィスだけでなく、シュトリヤが平和な世である限りは希望の竜でもあることが判明したため、王都の姫としてこの上なく相応しいと民衆にも受け入れられた。


その事実に、本人は少しだけ不満げな顔をする。近しいものだけが気づくほんの僅かな表情の差。ミィスは手放しで喜んでいるため、見せないようにしているようだ。




更に姫を勇者と共に守り切ったセレネルは王宮騎士第一部隊隊長を再度任命された。

その日のうちにセレネルは空席だった副隊長の座にアナトーレを指名した。ミィスのために開けておいたのだが、ミィスが王宮騎士の内定を辞退したからだ。


「ごめんね、セレネル。わたしはやらなくちゃいけないことがあるから」

「ああ、わかっている。俺ももちろんついていくから心配するな。シュトリヤのことであれば許可は下りる」


下りなければ辞めるが。と笑うが、目は笑っていない。

本気だ。


「ありがとう」

その本気の言葉が心強く、嬉しかったので微笑み返す。



ミィスの目下の目標は、有るとだけしかわからない竜人化の魔法を早急に見つけだすこと。

シュトリヤへの世間からの目を完全に前のものへ戻すには竜から竜人(ドラゴトロピー)になってもらうしかないだろう。


ミヤビが言っていた、竜への"変な目"の意味をようやく理解した。今までは"親愛"だったものに"畏怖"が混ざっている。なるべく早く、シュトリヤへの"変な目"を排除したい。


そんな目を向けられるシュトリヤの表情の翳りを見たくない。

なにより、シュトリヤ自身の竜人化の希望を叶えるためにも。


「シュトリヤの願いなら、なんだってするんだから」

「ああ、ミィスがそれを望むなら、俺はなんでもする」

今度は本当に、蕩けるように微笑むセレネル。




「そういえば、あの時どうしてあの攻撃防げたの?」

バルドの尾は確かにミィスを殺す威力をもっていた。

それが手で押さえられたのは、ずっと不思議だった。


「ああ、後で確認したら【守護(ガルディ)】というスキルが発動していた。その、お前を護る時に発生するスキルのようだ」

「わ、わたしを?!わたしだけ?」

「ああ、お前だけ。」


発動条件が特殊すぎるスキルは普通生まれない。それだけ強く、強く願ったということ。

「俺の誓いが強すぎたようだな」


「で、でも頼もしい。セレネルは騎士、護る者だから。ぴったりだし。わたしだけっていうのはなんか…もったいないし恥ずかしいけど」


ほんのり頬を赤く染め、せわしなく視線を動かす姿。

(チャンスなのでは)

真顔でひとつ、頷くとミィスの肩に手を添える。


そっと抱き寄せようと、その手を背に回そうとゆるりと動かし

反対の手を頬へ添えるように動かした時。





「セレネル!」

肩をぽんと叩かれたセレネルはミィスに触れていた手を放す。

「はわわ…ごごごごごごめんなさい…!!!」


長身のセレネルに隠れていたミィスの姿を確認し、その状況も理解した瞬間顔を真っ青にする。

硬直し殺気を放つセレネルをおずおずと見る。


(あ、死にますねこれ)


「あれ、アナトーレ。副隊長おめでとう、アナトーレもついてきてくれるのかな?」

状況を理解していないミィスはいつものように笑顔を向ける。


「ああ、何のための任命だ。門兵だと連れ出すのに手続きが面倒だからな。ただ今回の献身、隊長になってもいいレベルだが、副隊長でよかったのか」

処理落ちしていたセレネルが復活し、小さくため息を吐きつつ、ミィスに話をあわせる。


(命拾いしました…!)


いまうっかり死にかけたアナトーレだが、身を挺してシュトリヤを護ったことが大きく評価され、今までの「やる気がみられない」というマイナス評価を払拭できたことも今回の任命に繋がった。


「いきなり隊長はさすがに。王宮騎士になれただけでも十分すぎる評価ですよ」

「そもそもアナトーレのやる気がないという評価には納得がいっていなかった」

「そうそう。とっても頑張り屋さんなのに、みんなわかってないんだから」

ただ表情があまり変わらないだけで、親しくなるまでその努力が見えないことを、ミィスも一緒に旅をしてからやっと知ったのだから、仕方がないのだが。



「や、やめてください、照れます。そ、それはそうとミヤビとエリューは?ここには来ないのですか?」

ほんのり頬を赤く染め、きょろきょろとあたりを見渡しても2人の姿はない。


「あ、うん。2人も竜人化の魔法を探す協力してくれるんだって。で、今日は情報収集で4区に。」

目立つのは好まないという2人は先に情報収集へ出かけた。


「式典はどこからでも端末とかで見れるし。実質デートだよねえ」

うふふ、と声が漏れる。現在ミィス邸に居候している2人を見送った際のエリューの顔を思い出してほっこりする。

緊張やどきどきやわくわくでいろんな顔をしていた。最高にかわいいエリューになるようにほんの少し手伝えたことが誇らしい。今日は王都で一番かわいいに違いない。


「「えっ」」

「えっ?」


ミィスの「デート」発言に2人は凍る。

「ミィス、もしかして…」

「気づいて…いたのか?」

デートを実施ということより、ミィスが気づいていたということに衝撃をうける二人。


エリューからミヤビへの恋心に。


「えっ見たらわかるでしょ?でも、エリューは真剣だからあんまりからかったりしたら悪いかとおもって。」

気づいている素振りは全く見せていなかった。


「ご、ごめんなさいミィス」

「悪かったミィス」

口ぐちに謝罪する2人に頬を膨らませる。


「ちゃんと気づいてたんだからね!!みんなからかうの良くないよ!!」

「す、すみません。でも、てっきり…というかミヤビともとても仲がよいですし…」

気づいていてあの距離感だとしたらそれはそれで気が利かないのでは、という言葉を飲み込む。


「え、だってそれは友達だし…エリューもそれはわかってると思うし…」

距離感が狂っていて細かい機微まではわからないのは変わらず、と判断し2人はほっとする。


妬みや嫉みとは縁遠いのだ。

「いやほっとする場面でもないか」

「でも認識があっていたので安心しました。あ、姫!」




「ミィスー!」

失礼な認識を定着させた2人をじと、と見たところで、ドレスを纏ったシュトリヤがあらわれる。

「うわあ綺麗、シュトリヤ」


ドレスなど式典や行事でしか着なくなった昨今だが、やはりシュトリヤにはドレスが似合う。まぎれもなく生まれながらに姫だ。いや女神かな、それとも天使かな。


「ありがとうミィス。あなたもその恰好、とてもかわいいわ」

慈しむような微笑みに少し遠くに行きかけた思考を戻される。


「そ、そうかな…ちょっと恥ずかしい。王様が誂えてくださったんだけど。」

両親からだと思って、と泣きながら頼まれたので渋々着用したドレスの裾を少しつまみ、くるりと回る。真っ白なドレスではあるが、腰に聖剣を携え、それに合わせるために前の丈は短め。


後ろからその脚は見えないが、前からはすらりとした脚が丸見えだ。

背中もしっかり開いていることからシュトリヤの意向(せいへき)が十分に反映されていることがよくわかる。


シュトリヤの纏う姫のドレスとは趣が異なり、しかし姫の隣に立つ勇者に相応しいものになるようにたった1ヵ月で仕上げられた。


その姿は勇ましくもあり、可憐でもある。

ただ、普段は着ないドレスに、恥ずかしそうに首をかしげる。



「なんだ、そんなことを気にしていたのか。よく似合っているぞ、ミィス」

「とっても素敵よ。」

口ぐちに褒めつつ2人はミィスの頭上で火花を散らす。


今のところ婚約についてはあやふやになっているが、仲の悪いアピールは健在だ。

「アナトーレ、お城(ここ)での喧嘩、さすがに止めてね。室内だし、高いものもあるし」

「は、はい…死力を尽くします」


今にも武器を取りそうな2人にごくり、と喉を鳴らし神妙に頷くアナトーレ。

止められるだろうか。


「そ、そろそろ時間です。行きましょう、ね!」

と、とりあえず声を掛けるとセレネルは渋々シュトリヤの手を取る。


シュトリヤはその手をギリィ…と涼しい顔で握る。

竜の力が目覚めはじめたシュトリヤの力は見た目の可憐さに反して強い。


セレネルの白い手が更に白くなっている。

それに対して小さく舌打ちしつつ外行きの笑顔を浮かべてエスコートをする。




「わたしたちも!」

一応相手が姫で傷はつけられないっていうことはちゃんとわかってるんだなあとほっとし、アナトーレの手をそっと握るミィス。

「はい、行きましょうか」

苦笑いを浮かべ、ミィスを誘導する。

4人が城前広場を見下ろすバルコニーに現れると、ひしめいていた群衆は歓声をあげる。

シュトリヤが手を振り応え、ミィスは会釈で応える。


そして、すでに待っていた王の言葉を手短に済ませ、シュトリヤからミィスへ、勲章が贈られた。

「つけてもいいかしら?」


小さく尋ねるシュトリヤに、小さく頷いて笑顔で肯定。

真っ白なドレスの胸元を飾るそれは、星のように輝く魔宝玉でできており。


(うわあこれ魔宝玉(スフェラ)だ高いやつだ・・・!!)


内心で戦々恐々としつつ恭しく礼をした。



頭を上げたミィスはいつかのように、髪を煌めかせ、聖剣を抜く。

それを高く掲げ、群衆に"希望の光"を示す。


「本日より、わたし。ミィス・フォスがこの世界の勇者として必ず平和を保つと誓います。」

聖剣に、空から一条の光が降りてくる。



「だから、どうか、信じて。」

1人1人に、そっと語り掛ける。



「平和な世界だけど、悲しいことが起こらないわけじゃないから。」


「辛いことがなくなったわけじゃないから。」


見える範囲をゆっくりと見渡す。

「そんな時、わたしがいることを思い出して欲しい。きっと、助けにいくから」



ミィスが発する光よりも遥かに輝く笑顔で群衆を魅了し。

今日一番の拍手が贈られた。


特区の外からも聞こえてくる拍手に、一度きょとん、としたミィスはもう一度、今度は素の笑顔で微笑み。

さらに大きな拍手が沸き上がった。




その笑顔を一番の近くで見たシュトリヤは誇らし気にセレネルを見上げ。

国一番の美男美女がしばし見つめ合う光景に今度は黄色い声や口笛で群衆は沸いた。




「シュトリヤ」

掲げていた聖剣を鞘に納め、そっとシュトリヤの手を握る。


「え、ええ。緊張するわ」

「大丈夫、わたしがいるよ」

シュトリヤが頷くのを確認し、ミィスは群衆へ、「しー」と静かにするように合図する。

まだ湧き上がっていた人々は戸惑いながらも、しん、と静まり。




「わたくしは祈ります。ミィスが人々の希望でありますように」

シュトリヤがミィスの手ごと、両手を前で結ぶ。

目を閉じ、すぅっと息を吸った。


――闇夜を照らす微かな光たちよ

強く輝き 命を燃やせ――


それは、歌だった。美しくしかし落ち着いた声で、朗々とシュトリヤは歌う。


――降る雨となり 最期の輝きを

煌々と 爛々と 眩く光を放て

無数の星々よ――



そして、祈りだった。



ここまでは竜の兆候と共に頭に刻まれた、滅びの歌。

しかし、希望の竜を自覚し、再び刻まれた、続きの調。



――希望(のぞみ)を宿せ

幸福(しあわせ)を宿せ

遍くもたらし 光を灯せ――



それは、冬の暖炉のじんわりと沁みる温かさのような、

チョコレートが舌で溶けた時の緩やかな幸福のような。


ほっとする穏やかな幸せの一幕のようなふしぎな旋律だった。


シュトリヤの髪飾りについた瞳と同じ紫の魔宝玉(スフェラ)が輝く。

ミィスに贈られたそれに、先ほどこの魔法を結びつけた。



シュトリヤは思う。

ミィスが自分のためだけに一から作り上げてくれたこの贈り物。

それだけで、なんでもできそうな気持になるのだ。

自分に自信と確信がわいてくる。


きっとこの歌は、今この瞬間のために。

これなら絶対うまく行く。




「<星ノ(アステール)(ヒュエトス)>」




シュトリヤが詠唱(うた)を終えると、世界中に煌めく星が降りそそいだ。

伝説で云われた世界を燃やし尽す隕石などではなく、一つ一つがきらきらとした尾を引いて緩やかに舞い降りる。

粉雪のように、ふんわりと。小さく淡い光の星。



「きれいだね」

「ええ、本当に。きれいだわ」


2人は顔を見合わせ、微笑み合いそっとひとつ、星を包んだ。

それはあっという間にてのひらに融けてしまったが、ほんのり暖かく、ほっと顔が緩む。


古く、希望の竜たちが笑顔こそが希望だと編み出した魔法。



何かの効果があるわけではない。だけど少しだけ、小さな笑顔を贈る幸せの歌。

群衆の笑顔を見届け、2人は手を繋いだままバルコニーを後にした。






―――― 一章.反逆の勇者 了








ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

1章はこれでおしまいです。

このあと5話分幕間を執筆済みです。


2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません

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