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21.勇者の光のお話

「古く、王都が出来る前から、精神汚染への対処方があいまいだったために、魔人になった者はそれだけで罪人として流刑でした」

ぽつ、とへたり込んだ竜が話を始める。


「それがここか?」

「はい。此は、闇と光を司る竜としてこの地、王都30区へ派遣されました。もちろん此の意思です。」

「ここは王都だったのか。」


「ええ。その歴史は300年ほど前になかったことにしてしまったのですが」

「そんなこと、私の本には…アーラの歴史にはなかったよ」


「派遣は王の独断でした。あれ以上光の勇者(アーラ)の負担を増やすのは、忍びなかったのだと。私は光の竜なので、勇者の血筋の他では唯一浄化が可能でした。」

「それじゃあずっと、たったひとりで?」


「いいえ。ひとりではありませんでした。浄化した者たちの中で手伝ってくれるものも多く、穏やかで楽しい生活でしたよ。しかし、500年前に最愛だった妻は人間だったので寿命で亡くなり、その時から徐々に此自身が闇のほうへ傾いてしまいました。


本当なら、彼らを愛し、慈しみ、光の下へ還す役割だったのに、いつしか操り、闇に浸り、光を憎むようになってしまった。此が光と闇の竜だったために、闇を操るのに長けていたのもよくなかったのでしょう。


そして此を竜として生んだこの世界を憎み破壊したいという気持ちが強くなり、次に災厄の、いえ、希望の竜が生まれる時のために、水面下で準備をし続けました」




「それで本を?」

「ええ。秘密を護っていた勇者の家系に入り込み、そこで"黒の書"の存在や歴史の記録を見つけました。"黒の書"は強い魔法で此でも破壊は不可能だったので海へ棄てました。他は全て燃やしました。」

「ああ、じゃあどこかにはあるんだ、よかった」



「そしてついに、シュトリヤ姫が誕生しました。間違いなく()()と同じものを司る竜だとわかりました。同じ、においがしましたから。」

少しだけ、懐かしそうにシュトリヤを見る目にはもう殺気は微塵もない。



「あとは仕上げに王宮へ入り込み実権を握り、王や妃を唆し…」



「そして、絶望させて暴走させようと…申し訳、なかった」



謝るその竜に先ほどまでの威圧はもうない。

地に膝をつき、うなだれる顔を隠すのは先ほどまでの漆黒の髪ではなく。


「でも、もう大丈夫でしょ、"光"の竜なんだから!」

透ける純白の髪が地面に広がっていた。


にこ、と笑いかけるミィスは、長い髪を踏まぬように竜の前にとん、としゃがみ、目を合わせる。

「あなたはきっとたくさんの魔人を救ったんだね。ありがとう。代表してお礼を言わせて。ただ、あなたのことを助けてくれるひとがいなかっただけ」


そのまま両腕を竜に回し、優しく撫でる。

「遅くなってごめんね、助けにきたよ」

「助け…?」


「うん、だってわたし、勇者だもん。悲しい人は、助けたい。心を憎しみや悲しみで満たす人は、(わたし)が照らしたい」

そっと白の髪に顔をうずめる。


「こんなに悲しい思いをする人がいなくなるように、支えでありたい」

とくん、とくんと穏やかに打つ心臓の音が、竜の硬直を解す。


「いくら平和な世界にだって、"希望"は必要だよね。」

何もかもを照らすような、屈託のない笑顔。それにつられるように、竜もようやく微笑みを返し。


「やっと…光を思い出しました。ありがとうございます。しかし、きっと此のせいで其の両親は」

折角の笑顔が少し翳る。いくら魔人化していたとはいえ、やってしまったことが許されるわけがない。



「私の両親も、テミスラさんの両親も、それにテミスラさんも。みーんなの力であなたを助けたんだよ」

形の良い鼻を軽くつつく。


「だから、笑って。誰もあなたを責めたりしないから」

自分の笑顔を指さす。

悲しくないといえば嘘になるけれど、決してミィスは目の前の竜を攻めたいわけではない。


「でもこれからまた、たくさんの人たちを、一緒に助けてほしいの」

ミィスは瞳を閉じ、竜の額へ己の額を重ねる。


「おねがい」


この一言は、願いと祈りだった。

両親たちのことを思うと今でも少し、心はゆれる。

それでも、この(ひと)がこれからたくさんの人の光になり、そしてそれが平和に繋がるのであれば。

きっと、きっと、全部無駄ではなかったのだと思えるから。


そう、信じられるから。小さく呟き、再びほほ笑んだ。

今度は竜も、心からの笑顔を返した。




不意に、頬を包んでいた手をシュトリヤとセレネルにそれぞれつかまれ、無理やり立たされる。

「わわわ!なっなに!?」


「ミィス、もう帰りましょう、貴女も怪我をしているわ」

「そうだぞ。疲れただろう」


「え?あ、うん…うん?」

両脇を固められずりずりと、竜から引きはがされるように引きずられる。


「あの2人はミィスのことになるとほんまにあかんなあ。」

呆れたように、ミヤビが続き、その後にエリュー、アナトーレがついて行く。


「あ、光の竜さん(あなた)は、どうする?」

「此は…ここにまた、教会を構えます。今度は間違えません。いつでも、頼ってください」


「では、わたくしの仕事ね。ここの再建、お父様にお話ししておくわ」

「お願いします。帰りは船をどうぞ。この裏に港があります。今後は表側にも港が必要でしょうね」

「それも含め、後日人を派遣するわ。待っていて」



「あ、ところで、お名前聞いてないな」

「此は、バルド。ミィス、これからは、その、其の…」

何になれるというのか。彼女の大切なもの(りょうしん)を奪った元凶である、自分が。


と、迷い揺らぐ瞳をミィスは見逃さず、すかさず大きな声で呼びかける。

「よろしくね、バルドさん。もうお友達なんだから、困ったらわたしのことも頼ってよね!」

ミィスの言葉にはっと顔を上げ、バルドは大きく手を振る。


今後は何があっても彼女の手助けになろう、と心に誓い。

「また会いに来るからー!」

「此も、会いに行きます!」





互いに手を振り別れ、一行は示された船に乗り特区への帰路についた。




尚、セレネルとシュトリヤの機嫌がすさまじく悪かったため、ミヤビに提案されたことをミィスは実行することになる。

その提案は己の命を縮めかねない行為だったためしばらく考えたミィスではあったが、2人の機嫌が目に見えて降下していくため慌てて決起。


そんなミィスを見るミヤビの視線は小動物を見守るように生暖かい。


座ったセレネルの膝にのり(腰に手が回されてる!!!)、

その前に立つシュトリヤの腰に腕を回し(頭を永遠に撫でられているいい匂いがする!!!)、


耳まで真っ赤に染まって小さく震えている。

しかしそれで満足したのか、2人の機嫌は秒で急上昇。




「単純なんはどっちかわからんなあ」

小さくつぶやいた声は、晴天の海へ消えた。








お読みいただきありがとうございます。1章は次で終わります。

2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません

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