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20.魔王と語らうお話

シュトリヤの援護で大幅に減った魔弾を避けつつミィスはセレネルと合流し、崩れた足場を軽々と進む。

ついでと言わんばかりに顔をしっかりねらった攻撃もたまに見受けられるがそれは防がれている。



「セレネル、どうしよう、アナトーレが」

自分が護るつもりだったのに、アナトーレに護らせた挙句大怪我を負わせてしまった。


さすがに動揺しているようで、剣を握る手が少し震えている。自分の怪我や痛みには強いが、仲間のそれには滅法弱い。

「ああ、アナトーレに護らせてしまったな。ここからは、俺たちの仕事だ。

それに、シュトリヤの援護もある。お前の隣には、俺がいる。

それで負けることがあるか?」

鼓舞することができるのは、多分自分だけだ。と少し嬉しく思いながら。



ここでミィスが折れてしまっては、何もかもが終わってしまう。この竜を救えるのは、きっとミィスだけだ。



「うん!ないね。」



あっさり前を向くミィスに、思わず口元が緩む。

「誓い、覚えているな?」


昨晩交わした誓い。自惚れでなければ、ミィスは自分と共に戦うことを、嬉しく思っている、はず。と自分も鼓舞し、前を向く。


「もちろん!」


聡明で知略を巡らせることも得意。魔力も高ければ剣技も優れている。文武両道で王都では2番目に強いと名高いセレネルと肩を並べられることは、ミィスにとって誇り。

アナトーレが怪我をしてしまった以上、こちらもお話、なんて悠長に言っていられない。


一旦は、と決意しセレネルと同じ方向を向く。




2人は、竜へ向かって駆ける。

「魔力は高いが戦闘力が高いわけではないな!圧すぞ!」

素早く繰り出すセレネルの双剣、そしてそれには劣るが抉るように深い一撃を放つミィスの聖剣。


「ぐ、まさかここまでやるとは」

魔力や体力で圧倒していても碌に鍛えていないのであれば、剣技を磨いてきた2人には敵わず。


微々たるダメージだが、蓄積すればそれは大きく膨らんでゆく。

その上、きらきらと輝く聖剣に、光のような勇者の髪と瞳に、幾度となく気持ちが揺らぐ。


ここに、光があるなどと錯覚させられ、それに包まれたくなってしまう。

「此のッ!絶望はこんなものではないッ!!」


その想いを振り払うように突如吠えた竜は、腕や足にも竜の姿が現れる。

それは髪と同じ、照る漆黒の鱗。


「これが竜鱗、ね。さすがに少し堅いわ」

不機嫌そうなシュトリヤの援護射撃がかすり傷すらつけられず弾かれる鉄壁の鱗。




「これはッ、骨が折れそうだ、な!」

重い一撃を受けたセレネルの足が、地面にめり込んでゆく。


「こんな世界!不要なのですッ!!その竜も、すぐに理解する!!」


「ッ!――響け春の宴<メメント・シェア>!」


分割しない、一発に威力を集約した爆発。しかしそのダメージすらかすり傷を与えるのが限度。

「竜だけに与えられた長大な寿命ッ!!」


爆風に乗じてその場から離脱し、ミィスと共に距離を取る。

「いつも私だけ、取り残されてしまうッ!!」



一心不乱に腕を振り、見境なく辺りを破壊する様は。

「ちっちゃい子みたい」

癇癪を起し母を呼ぶ、そんな子供の様だった。



「あなたのわがままに、世界を巻き込まないでほしいな」

ただその感情には覚えがあった。大切な誰かに、取り残される感情。


「自分が勇者でなければきっともっと幸せだっただろうな、とか」


「父さんも母さんも死なずに済んだんだろうな、とか」


「どうして、わたしも連れて行ってくれなかったの、とか」


ミィスの吐く暗い言葉は、セレネルとシュトリヤでさえ、一度も聞いたことがない。

考えれば当たり前のことだが、大切な者を喪って、平気であるはずがないのだ。それを、いつも気丈に、たった一人で抱えていたのか。


と、2人はミィスに声を掛けようと顔を見るが。

しかし、そこにはいつもの笑顔があり。


「そんな風に思ったことだってあったけど、わたしは、わたしを呪ったりしない!」

世界や運命を恨んだりしない。絶対に。


だって、わたしには。

喪った人と同じくらい、大切な人がいるから。

それは、わたしじゃなければきっと出会えなかったから。


「これはあなたのわがままだ!」

「わがままなどではありませんッ!!此が竜だったばっかりにッ!!こんな、世界ッ!!」


だん、だん!!と言葉を発するごとに魔弾が放たれ、狙いなく地面や天井を穿つ。



「あなたは、幸せだったこと、ひとつもないの?」

それを全て躱し、竜の面前でぴたり、と立ち止まるミィス。やっと口を開いてくれたチャンスを無駄にはしたくない。


追って、セレネルが横へ立つ。

ミィスの言葉に、竜の動きが鈍る。


「しあわせ、だったこと」

ぽろ、と竜はミィスの言葉を反芻し、笑っていた最愛の人が過る。


「その人も、この世界を壊したかった?」

「そんなわけ、ないですッ!!美しい心をもつ人でした!!世界を壊すなど、考えるはずがありません!!」


「その人は、あなたの光、だったのではないの?」

「そうですッ!!だが、もういない…こんな暗い世界は、嫌なんですッ!!寂しいのは、もう嫌なんです!!」


振り下ろされた拳をひょいと避け、着地した場所。

何かの影を感じ、仰ぐ。


「あっ!」


目の前に、大きな竜の尾が迫っており。体制が整わず、そこから動けそうにはない。

一瞬だったがそれを理解してしまった。

少し話をしてくれたことに、油断した。


これは、当たる。と少しでも軌道をずらすために聖剣を構えた時だった。


「ミィス!!」

叫ぶセレネルがミィスと振り下ろされる尾の間へ滑り込む。

「セレネル!?」

間に合わない、とっさにセレネルの背を握った手が震える。


ミィスにはやけに緩慢に竜の尾が振り下ろされたように見えた。



それが、自分より背の高いセレネルが伸ばす両手を飲み込もうとし。





しかし、振り下ろされた尾はセレネルにしっかりとつかまれており。

「…え?」



真正面から竜の力で振り下ろされた尾を掴むなど、人間より力の強い獣人でも不可能だ。

増して、セレネルはうさぎ。力が特別強い種族ではない。


「ど、どういうこと…?」

「スキル…か?」


掴んだセレネル本人もよくわかっていないが、戸惑いながらも掴んだ尾をそっと地面に降ろす。

「ミィスの話を聞いてやってくれ。」


確実に今のは死んでいた。それを、身を挺してまで護ろうとした。

その姿に、言葉を失う竜。


それでも尚要求してくることは、あくまで対話のみ。

「こちらは殺そうとしているのに、なぜ…」



そのつぶやきには答えず、ミィスは話を続ける。

やっと、話ができる。


セレネルをちら、と見、背中を握り締めたまま話し出す。

大切な人の死が過ったことが、怖くないわけがなかった。その手を、セレネルが優しく包む。


同じく冷えてはいたが、その温度に安堵し、前を向く。



「その人は、もうどこにもいないの?」

忘れたことなどない。最愛の人の笑顔が頭にちらつく。


「ええ、寿命で、もう500年も前に」

「じゃあ、その人の子供は?」

「此の愛すべき娘…がいました」


「じゃあ、その子供は?」

「はい、いました。ずっと、おそらく、今も続く、確かにこの世界にいることは感じられます」


俯き、すっかりおとなしくなった竜に、そっと手を差し伸べる。

「あなたの光はまだ絶えていないと思うのだけど。その人たちにも、いなくなってほしい?」


「そんな、そんなわけありません…」

「素敵で、大切にしたい人たちと出会えたのは、あなたがあなただったから、ではない?」


「!!」

がば、と顔を上げるその姿は、先ほどまでの禍々しいまでの攻撃性はもはやなく。


「こ…此は、とんでもないことを…」

辺りを見渡し、アナトーレで視線を止め青ざめる。

「ああ、怪我、此が、」




「みんな無事!?」

そのアナトーレの背後から、元気な声とともに飛び込んできたのは、エリュー。

続いてミヤビ。

「アナトーレが怪我をしてる!」


「遅なって堪忍な。全員その後ろの窓から出よか。拙たちが来た道はみぃんなもうあかんかった」

「あっ元魔人さんたちは!?」

「避難済みや。あとここだけ。はよ、もう崩れよる」


ミヤビが負傷しているアナトーレをさっと抱きかかえ、エリューはその場で踏み込み初めに竜が腰かけていた窓を大き目に蹴破る。

「はやく!」


ミィスは繋いだままだったセレネルの手を放し、放心する竜の手をひっつかんで走り出す。



追うように全員走りだし、教会の裏側へと脱出。

丁度、竜の魔弾を受けつくした建物は崩落した。



「ぎりぎりやったなあ。エリュー、アナトーレの怪我治したって」

「アナトーレさんはわたくしを庇って!」


「いえ、おそらく姫なら避けられたでしょう、私の未熟です。それに姫の処置のおかげで血もすぐ止まりました。大丈夫ですよ」

「すぐ治すからね!」

あまり回復能力強くない魔法を幾度となくかけ、漸くアナトーレの傷はふさがった。















2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません

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