18.「勇者」になるお話
「この先に城のような建物が見えました。狙撃もそこからだと思います。」
「では親玉もそこか。このあたりには何もいない。危険も感じない。」
ちら、とミヤビを見る。この辺りが安全であるならば同行より休憩を選択したほうがいいだろう。
肩で息をするミヤビを連れまわすのは得策ではない。
「じゃあ、ミヤビとエリューはここで待っててもらおうかな。」
「わかった。ボクがミヤビを絶対回復させて、護っておくから。心配しないで」
「堪忍な」
ついて行くと足手まといになることを察し、悔しそうに目を伏せるミヤビの瞼にそっと触れるミィス。
「ありがとう、ミヤビ。道は綺麗にしておくから、後で来てね」
「任せとく、ちゃあんとアナトーレの言うこと聞くんよ」
「ミヤビこそちゃんとエリューの言うこと聞くんだよ!!エリュー、ミヤビをよろしく」
「うん!任せて!」
2人と分かれ、残りのメンバーは島を進む。普通の森だが、霧がかっており、視界が悪い。
「これだと反応が遅れるな」
ぴくぴくと耳をせわしなく動かし、辺りを探るセレネル。
「魔人ってそういえば影になれるんだよね」
とんとん、と蹴る地面のほとんどは黒く、ここに潜んでいてもわからない。
「ミィス、あれ、できないかしら」
「えっここで?」
「ええ。この森を全部照らすことができれば、戦わずに済むと思うわ」
「た、確かに」
どこから来るかわからない敵を警戒し摩耗するより建設的な案だ。
しかし、できるかどうか、自信が足りない。
そう、視線を揺らすミィスにふわりと笑いかけるシュトリヤ。
「ミィス、あなたなら絶対にできる。わたくしは信じているわ」
ぎゅ、と手を握り、美しい瞳でまっすぐに見つめる。発した言葉通り、少しも疑わない。
「大丈夫だ。お前なら」
穏やかにほほ笑み、背中を少し押すその手からも信頼が感じられ。
「シュトリヤも、セレネルも。いつもありがとう」
自分がただの人間でも、弱く力がなくても。2人はいつも信じ、ついてきてくれた。
その気持ちに、応えたい。
なんて、幸せなんだろう。と温かくなる心をじんわりと感じる。
「わたしはただの人間だけど、人々の希望に、勇者になるって決めたから」
霧で包まれた森を見渡し、一歩踏み出す。
そして心で祈る。
どうか、力をかして、わたしの勇者。
一緒に居た期間は少しではあったが、記憶に焼き付く凛とした姿を思い浮かべる。
そっとシュトリヤの手を握る。同時に、セレネルが反対の手を握る。三人分の力が背中を押してくれるようで自然と頬が緩む。
余計な力が抜け微笑むミィスの瞳が、そして髪がきらりと輝き始め。
抜いた剣が眩く辺りを照らし。
今までで一番の明るさで輝くミィス。
一歩、踏み出すごとに光の輪が広がり。
薄暗い辺りは柔らかい光に包まれ。
寒々しい冬のように霧がかっていたはずの森は、穏やかな春の陽光に包まれたように明るくなった。
「さすがです、ミィス。ほら、城らしきものが見えます。」
「そうだな。それに、どうやらこの場に魔人たちがいたようだな。今なら気配を感じる。」
さっきまでなかった人の気配を感じる。
「じゃあ進もっか。」
「ミィス、そのままでもいられるの?」
「うん、コツがやっとわかった。今までスキルって持ってなかったから発動方法とか条件みたいなのがよくわからなかったんだけど。これが、わたしの勇者なんだなあ」
最後のひとことは、噛みしめるように。
ようやく正しく勇者で在れる気がしたから。
それは今までよりも確かな証であるようで、輝く瞳と髪のまま、しっかりと目的地へ歩きだす。
昏い森が明るくなったことで各段に進みやすくなり、敵にも魔物にも遭遇せずにあっさり目的地へ到着。
「これは…お城じゃなくて教会だね」
「ああ。それにしても楽だな。ミィスの家系が魔人の影響を受けなかったのはこれのおかげじゃないか?」
「そうね、そもそも体質的に精神に関わるスキルや魔法が効かないのではないかしら。その上スキルを発動すれば近寄るだけで浄化されてしまうのだもの。断念したのだわ。」
教会の門を護っていたであろう魔人も、扉を護っていたであろう魔人も、今や普通の人だ。
困惑はしているだろうが、今説明している暇はないため、ここから離れるようにだけ伝えどんどん進んでゆく。
教会にしては広く、部屋数も多い。
どの扉も鍵がかかっていたが、そのたびにアナトーレの一突きで破壊され。
「ちょっと申し訳なくすら思うこの蹂躙っぷり。さすが槍の戦姫」
活躍が目立つと鳥人たちが勝手に二つ名を贈り、勝手に広められる。かれらは自ら語る物語を面白くするために定期的に二つ名を与える人を選定し、与えている。
平和でなによりだ。
「やめてくださいミィス、少し気にしています」
あまりに勇ましく気高い名に、恐縮し頬を赤らめる。
「いやすごく似合ってるよ、かっこいい。わたしもいつか欲しいなあ」
ミィスは未だただの"勇者"と呼ばれており、二つ名らしきものは存在していない。というか二つ名自体が不要だろう。話題には欠かないため、よく語られてはいる。
「ミィスはどうあがいても光の勇者以外にないのではないですか?」
「それはちょっとつまんないなあ。盾壊の闘姫も春の舞姫も月の騎士もかっこいいし羨ましい」
敵の本拠地とは思えないゆるい空気に皆少し警戒が薄れたころ。
最後の扉の前で、ぴくり、とセレネルの耳が跳ねる。
「次だ。おそらく魔王がいる。どうやらミィスのスキルは効いていないようだな、空気が違う。」
「あ、じゃあちょっと弱めてもいいかな?眩しくない?」
「そうだな、対象は1人だ。範囲を狭くするのがいいだろう。眩しくはないぞ」
その言葉にミィスは広範囲を照らすように輝いていたのをこの次の部屋だけ、と絞り深呼吸する。
「お話、聞いてもらえるかなあ」
「それは相手次第だな。」
「では、開けます」
アナトーレが例にもれず扉を破壊し、一行は中へ。
そこは広い食堂らしく、長い机がずらりと並べられ、椅子も合わせて並んでいる。天井も高く、聖堂のようでもある。
その最奥、大きな窓の縁に彼は腰かけていた。
2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません




