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15.船でひも解く過去のお話

「僕がチケットを買いにいくよ。アナトーレさん、同行してもらっても?」

「ええ。」


「万一だけど、端末の購入履歴を確認しているかもしれないし、僕のを使うよ」

300年ほど前から端末で財産の管理をするのが一般的になっているが、セキュリティが厚く、王ですらみることはできない。よっぽどのことがない限り。


しかし、今回はその「よっぽど」かもしれないのだ。


程なくしてチケットを購入した2人が戻ってくる。

「私くらいだと顔もまだ割れていませんでした。門を派手に壊したのですが手配はまだか、するつもりはないのか…」

「王様の命は、あくまでシュトリヤ姫の、その、殺害。他はどうでもいい、と仰っていたので、手配はされないよ」


「ぎりぎりのラインで俺たちに手を貸してくださっているのかもしれないな」

「では行きましょう、すぐ出港するそうですから。あとミヤビ、その3人は目立ちます。何とかしてください」


頷きシュトリヤの角を消し、髪色を変える。次いでミィスの髪色を変え、セレネルの背を縮める。

「なぜ俺まで」


「自分が有名人だと自覚はありませんか、セレネル」

「…そうか、悪い」

私服に着替えたのみだった4区で集めてしまった視線を思い出し、素直に謝る。



「わたし船はじめて!はやくはやくー!」

そのやりとりを尻目にエリューと手をつなぎ、大はしゃぎで船に駆け寄るミィス。

「あっ2人ともだめですよ!」

慌てて後を追いかけるアナトーレが、ミィスの首根っこをひょいと掴む。


「ぐえ」


「あまり心配をさせないでください。あなたのことだって、いつ襲われないか心配なんです」

「ボクが護るから大丈夫だよ、アナトーレ」

「エリュー1人では負担が大きいです。私にも護らせてください」

「はーい!」


仲睦まじい光景は、3姉妹のようで。

「ミィスはほんっとうに」

「ああ、これもいつものことだが。」

「「人たらし」」

「だわ」「だな」


息ぴったりでため息をつくセレネルとシュトリヤを見たテミスラは噂に聞く印象と違いそっとほほ笑む。顔を合わせれば口論になり、ひどいときには武器も取り出すほどぴりぴりした関係、ともっぱらの噂だった。

家柄的には申し分ないが、このままだと婚約は無理なのではと囁かれてもいた。


「なんだ、仲がいいんだな。シュトリヤ姫とセレネル君は」

「それ、2人に聞こえたら多分相当怒らはるで、テミスラ君」

多分聞こえてるやろけど、という言葉は飲み込み、そっと背を叩き、全員船に乗るように促す。




「部屋割りやけど。」

一晩かかり翌朝到着するため、個室が3つ。

そう説明したミヤビは鍵になる魔具(イディ)を差し出す。


「1つだけ3人で、あとは2人や。揉めんとってな」

「あ、じゃあわたしはテミスラさんとだね」

「今揉めんとってなって言うたやんな…」

ミィスの申し出に、呆れた声をだすミヤビ。


自分のこととなると途端に鈍くなるこの少女は、2人からのあからさまで猛烈なアタックに何一つとして気づいていない。

気づいていないというかもはや日常の一つだと思っている節がある。


「え、もめる?私がいないとこの本読めないからここは決定でしょ?」

「ああ、せやったな…でもテミスラ君と2人はあかん。そこは3人やけど…」

ちら、とテミスラを流し見るミヤビはテミスラを完全には信用していない。テミスラ自身もその目線に気づき、頷く。テミスラとミィスを二人きりにするのはなんとか避けたい。


だがどうあがいても揉めるのが目に見える割り方に、額を押さえる。


「シュトリヤとセレネルが一緒でいいでしょ。で、ミヤビがわたしと一緒。エリューとアナトーレが一緒」

ほら、どう?とすがすがしいまでの笑顔。



「ちなみにその心は」

「まず、前提としてシュトリヤはお姫様だから、アナトーレかセレネルがいいと思う。婚前だけど、セレネルは王宮騎士だから護衛として許されるでしょう。」

やっぱり姫だと思ったままなのか、と少しシュトリヤは肩を落とす。


その上で、と区切る。

「セレネルにならシュトリヤを任せても安心できる。信じてる」

とセレネルに笑いかけ。

「シュトリヤにならセレネルを任せられる。強いもの。」

とシュトリヤに笑いかけ。その言葉が決定打になった。


「…わかったわ、ミィス。わたくしはセレネルと同室で構わないわ。」

「ああ。シュトリヤのことは俺に任せろ」

2人を信用している、と言われてはその気持ちを裏切ることなどできなかった。


「うん、よかった。何かわかったら呼ぶから、あ、アナトーレのことももちろん信頼はしてるんだよ!!」

慌ててフォローを入れるとアナトーレに微笑みを返される。

「一介の門兵より正式な騎士であるセレネルが相応しいことは明白、私でもそうします。気にしないでください。」


「でもミィス、あなたはアナトーレさんと同室のほうがいいんじゃないかしら」

にこり、とほほ笑みつつどう説得しようか思案を巡らせるシュトリヤ。


普通に考えて、エリューとアナトーレは同性なので一緒のほうがいいと言われるだろう。しかし、異様に仲の良いミヤビを同室にはしたくない。何より男性2人の部屋には居させたくないのに、ミィスのことだ。自分は問題ないと思っているだろう。


「そうだな、ミィス。アナトーレは古代文字が読める。何か役に立つかもしれん」

古代文字が読めてもおそらく意味がないことは理解していた。


それでも。

「そうかな?じゃあそうするね、いいかな、みんな」


基本的にシュトリヤとセレネルの言うことはほぼ鵜呑みにするため、割と簡単に信じた。

ちょろい、とさすがに不安を覚えた2人だが、ここは黙っておくことにする。



「ええよ。アナトーレやったらしっかりしてはるし。拙はエリューとでもええけど…いやええん?」

歳の差はあれど、男女だ。いいのか?と少々不安になったところで。


「だ、だいじょうぶ!ボクのことなら心配しないで!!!」

強めの肯定と、生暖かいミィス以外の視線を受け、この案は通ったのだった。

全員(ミィスは除く)の心はひとつ。


がんばれエリュー。いっそ押し倒せ。





――その夜。


「テミスラさん、集中するならわたしたちなるべく静かにしておくけど」

「いや、問題ないよ。むしろ傍で見張っていてくれないかな。まだ僕は自分を信用できていないんだ。魔人は精神を汚染して操るというから」

「わかった!じゃあ見つつアナトーレとお話でも。」


「ええ。こんな古い魔具(イディ)を解読するところなんて、なかなか見られません。興味があります。」

「そんなに大層なことではないんだよ。【賢者(ソフォス)】というスキルがこちらの家には伝わっていて」

話してみれば、優しい兄のような存在にすっかり安心しきるミィス。家族のいないミィスにとって、たとえ遠かろうが唯一血のつながりを感じる存在だ。


「それってわたしの【勇者(ブレイバー)】みたいな?」

「多分そうだね。…君の、【勇者】っていうスキル名なの?」

「うん…恥ずかしいというかなんというか、あんまり言いたくないんだけど」


「あ、いやそんなことはないよ。君は立派な勇者だ、僕よりもずっと。」

「そうですよ、ミィス。普段のあなたならもっと自信満々にいうでしょう?どうしました?」

優しく撫でるアナトーレの手に甘えるように、ミィスからすり寄る。


「2人が兄姉みたいだからかな、すこしだけ」

「私もあなたのことは妹だと思っていますよ。エリューと。」


それを微笑ましく思い、笑みを零す。普段どんなにしっかりした心を持っていても、まだ15歳なのだ。セレネルとシュトリヤは実年齢よりも大分大人びているが、ミィスはまだ幼さを残している。

「僕も君のことは妹だと思ってるよ、君が生まれたと聞いた時から。接触は禁じられていたんだけど、今後はこうして頼ってくれると嬉しい」


さて、と本を閉じるテミスラ。

「終わったよ」


「え、もう!?」

「必要な部分だけね。これは、君の家系のみについて歴史が記録される本だった。やっぱり対で、僕の家系のものもあったんだろう」

「わたしの家系のみ…」


「大丈夫、最初の勇者のことは家系に含まれるみたいだ。きちんと書かれているよ。」

よかった、と息を零す。どうか竜について載っているように祈る。



「でも、この話、まずは君だけにしようとおもう」

真剣な眼差しのテミスラ。


「どうして?アナトーレは」

仲間なのに、と言いかけたミィスを遮る。


「これは、君の過去でもあるから。必要な部分だけ後で話すべきだ」

「私も賛成します。ドアの前で待っているから、終わったら呼んでください」


ミヤビには口を酸っぱくして二人きりにするなと言われていたが、これはやむを得ないと判断した。自分が聞いてしまうわけにはいかない。個人の過去の話(プライベート)なのだから。

ぱたん、とドアが閉まる音を聞き、テミスラは口を開く。


「じゃあ要約して話すよ」



――――白の書・1-1-0

この本は、フォス家にまつわる歴史が全て記されるもの。

初代勇者、アーラ・マズ・フォスが家を二つに分け、それぞれに異なる役割を持たせたことに始まる。


金髪の息子、アウルム・フォスには表で活躍させ、人々の希望となる役割を。

黒髪の息子、アーテル・マズには裏で王を支え、歴史と王都を護る役割を。


異なる方法で、災厄の竜が生まれないように世界を護る。

災厄の竜は、希望の竜だ。しかし、世が乱れたときに傾き災厄となり、この世のすべてを一新する。普段希望の象徴である竜たちは、人々に希望を与え、世の平和を愛する。


しかし千年前、繰り返される略奪や謀略そして殺戮に乱れた世で、"希望"は"災厄"へ傾き、最後には自我を失い暴走した。

世界の半分を破壊しつくし、後に王都となるこの大陸へやってきた竜たちに立ち向かうために、アーラは駆けた。


割れる地面をものともせずに、吹き荒ぶ暴風にも揺るがずに、

降る洪水のような雨にも霰にも、吹き出す地核の炎にも。


一歩も引くことなく惑う人々を導いた。

絶えず天から降り注ぐ星々は、竜たちが歌い続ける破滅の魔法<星ノ(アステール)(ヒュエトス)>。


それすら剣一本で全て粉砕し。多くの人々を脅威から護りきった。

ついに竜の前に現れた、輝く金の髪と金の瞳。その姿を目にし、正気を取り戻した竜たちは、1人を残し自ら命を絶った。


人の世の乱れが原因で暴走していたとはいえ、存在が災厄そのものになってしまったことが辛かった、このままでは魔人になりかねない。

何よりも平和を愛した彼らに、もう"希望"を司ることはできなかった。


そして、今後の世界をアーラに任せた。人々が、"光の勇者(アーラ)"という希望を見出したからだ。


「その子と世界は任せた」という竜たちの最期の言葉を受け止め、成し遂げると約束したアーラは、唯一残ったまだ完全には覚醒していなかった少女の竜を仲間の1人、のちの初代王に預ける。


その少女はアーラに一つ、頼みごとをした。

それが、「ひとと共に生きたい。」ということ。


竜のままでは多大な寿命を生きてしまう。ひとと同じ寿命で尽きれば、今後平和が保たれる限り災厄の竜は生まれない。"希望(アーラ)"が続けば、与える希望も必要なく、希望の竜も必要ない。


その願いをかなえるため、アーラは仲間の大魔導士アンブローズと共に竜人化の魔法を編みだした。そして初代王の妃となった竜人の少女は、王と共に最初の世を平和に導いた。――――




「ここまでが多分、君が知りたかったところだね?」

「うん、縁の竜さんが言ってた"希望"の意味がわかった。わたしたちは、代わりに"希望"を与える役割があったんだ。でも…ううん。いまはそれより、竜人化の魔法が存在する。こっちのほうが大事」

希望については思うこともあるが、早く本人(シュトリヤ)に伝えたい、とその場を動こうとするのを制される。


「待って、もう一つ聞いてほしい部分があるんだ。君の、両親の世代のことだ」

その言葉にはっとする。ミィスは、両親が水難で死んだとは聞いていたが、それ以外のことは何も知らなかった。




――――白の書・119-23-2

25区の外れで魔人の目撃情報が多々寄せられる。――――


「まずここ、これってきっと魔人が自分の国とこちらを行き来していたってことだろう」

「よかった、無駄足にならなさそう」

「うん。で、その少しあとなんだけど」


――調査のうちに、王の回りに怪しい影を発見。その相手をつきとめる。半分魔人化していたが、まぎれもなくもう一つの勇者の家系の者。

29区の果てまで追い詰め、最後には無力化に成功した。勇者としての力が弱く、手こずってしまった。


妻にもつきあわせ、そして何より幼い子を遺すことを悔しく思う。

こちらも帰れそうにない――



「この部分、多分僕の両親のことだ。」

「…!」


「一番最後に。『ここからのことは、次の世代に託すしかない。どうか、平和を』で、君の両親の世代のことは終わっている。どうやら初代以外の部分には、遺したい気持ちとか考えも記されるらしいね。この次からは君のことだ。そこは読んでいないから安心して」


「…テミスラさん、」

「ああ、いいんだ。覚悟はできていた。両親は仕事中の事故で亡くなったと聞いていた。」

「わたしは水難って聞いてた。」


「君の両親のおかげで、僕は魔人に染まらなかったんだな。あの後王様に引き取られたから。」

「そうだったんだ、すこし救われる、かもしれない。あとは、わたしたちがやらないと、だね」


「そうだね。ともあれ、ここでの僕の仕事は終わりかな」

「え?」

「この本は返すよ。続きはまた今度、ゆっくりと。今の僕にしかできないことがある」

「それって?」


「僕は4区に預けた元魔人たちと共に城に戻り、残る魔人をすべて捕える。君たちの帰る場所を作って待っている。」

「わたしは、魔人の、王…魔王のたくらみを暴き、それを破る」


「それでいい。協力できなかった両親や、その上の何世代かに代わって、僕たちが手を取り合おう」

そっと差し出された手を両手で包むミィス。



そのまま額へ持って行き、しばし祈ろうとした、その時だった。





「二人きりにしたらあかんって言うたやん…」

「だって私が聞くわけには、あ、いえ、ごめんなさい」

というやりとりをするミヤビ、アナトーレと。その前に立つシュトリヤ、セレネルが部屋に突入する。


「どうやら命が惜しくないようだわ」

「同意した。全力だ」


双方武器を構えミィスとテミスラを見据えている。否、テミスラのみを睨みつけている。

2人の眼には、ベッドの上で手を取り合い額を合わせている様のみが映り。


それはもう唇がふれてしまいそうで。その光景に、思考が止まり、抹殺の言葉のみが脳を埋める。

「わたくしは2人を分断、ミィスの安全を確保するわ」


「俺はターゲットを抹殺する」

と、シュトリヤが構えた銃に魔力を込めようとした瞬間。




ぱっと顔を上げたミィスは。

「あ、シュトリヤ!あのね、いいことわかったよ!」

と屈託のない笑顔を向け。


「…そう。ミィス、それは、何をしているの?」

と脱力したシュトリヤに指摘されてようやく握っていた手を離した。


「うまく行くように、お祈り。シュトリヤがよくしてくれたのを、真似してみた」

と説明されさらに脱力。

「…」


お前の入れ知恵か、というか普段こんなことしているのか。

まさか他の方にすると思ってなかったわ。普段からしているけど何かしら。

と無言でやり取りしたあと。


「……説明してくれないか?」

と同様に脱力したセレネルの言葉に、全員を部屋に招いた。
















2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません

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