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14.テミスラとの再会のお話

「拙らはこのまま外出よか」

市街地での衝突を避けるため、町を区切る門を目指して駆ける。


「ミヤビ、門はお願い!」

「もう今からやる、ミィス以外は下がっとき」


言うが否や、【魅了(スキル)】を全力で振りまき、道をあけさせるミヤビ。

さすがに全力を出されるとミィス以外の仲間にも影響が出るため、少し距離をとって追いかける。

ミヤビを見、一瞬で腰が砕けうっとりとする人々が年齢・性別・種族に関わらずその場に座り込んでいる。


「ミヤビの本気ってすごいなあ」


走りつつ暢気に呟くミィスを、他の面々はじと、と見る。

「えっと、いつも通り何ともないよ」

「本当になんなんだ、お前のそれは。【耐異常(イミュニタ)】のエリューですら少しは効いている。俺だって極力見ないようにしてる」


「ええ、本当に。不愉快だわ」

「ひ、姫、ミヤビが泣きます。ですが、本当に不思議です。」


「うーん…世界一綺麗な女性(シュトリヤ)世界一綺麗な男性(セレネル)とずっと一緒だったからかなあ」

話すことでまぎれるのか、いつもより皆の口数が多い。





――4区・東門の町 傍

ミヤビは【魅了(ドルチェ)】をいつも通り最小に抑える。これで魅了にかかっていた人々へ、ミヤビ以外の記憶は残らないだろう。


目の前に広がるのは割れた大地に海が流れ込む広い草原だった。

街道を逸れ、人通りがないここであれば何が起こっても大丈夫だろう。

「ここならええな」

「来るの待とう」




その場でテミスラたちを待つと、すぐに追い付いてくる。

「なぜ待っている」

「わたしが、テミスラさんに用があって!」


ずい、とミィスが前に出ると、ローブの者たちがずらりとテミスラの前に立ちふさがる。

「ミィス、その人たち、城にもいたわ」


ローブの影からちらりと見える目は、怪しく光り、虚ろにミィスを見つめている。

「テミスラ様には関わらせない。お前は私たちがここで殺す」


ミィスは一歩、その者たちに近づく。

「通して。」


「おい、ミィス!」

大丈夫、とセレネルに笑いかけ、歩みを止めずに手を伸ばせば触れそうな位置で止まる。

顔をあげ、胸を張り、まっすぐにローブの中まで見透かすように。


金の瞳は相手を射抜く。


「ぐっ…」

目があった瞬間、苦しみだしたのはローブの者たちの方だった。


「え、何?わたし、まだ何も…!」

困惑したのはミィスも同じだった。

「わ、わたしはただ話し合いをって思っただけだったんだけど」

何もしていないことを主張するように、あわあわと腕を振る。


「ミィス、そいつら魔人(ファントムトロピー)じゃないか?」

影そのもののように全身が暗いのに目だけが異様な光を宿している。ミィスのような光とは違う、ぎらついた。


「魔人、かあ。」

確かに習っていた魔人の特徴だ、と少し目を伏せる。なぜか世界を憎み、この平和な世を唯一乱す存在。犯罪のほとんどはこの魔人によるもの、と学園では習う。



「もしあなたたちが魔人なら、わたしがやるべきことは、倒すことでも対立することでもない。」

微かに残る記憶と、父が遺した手記に記載があった。


必要なのは"対話"と"覚悟"。

曰く、その者が出口のない暗闇から出られるように、灯台(みちしるべ)になることが救う手立てだと云う。


"魔人"は()()()()()()だとも書かれていた。


それなら、きっと必要なのはあの時の光。

あれから何度も試したが、一度も再現できなかった。


「わたしに出来ることは少ししかないけれど。」

今、きっと必要なんだ。


「わたしは、あなたたちの光になりたい」

その心に呼応するように、淡く髪に光が灯る。


「そこは暗くて寒くて、足ももう動かないのかもしれないけれど」

蹲るローブの者たち、魔人に手を差し伸べる。


「あなたたちは、もう一度光の下(ここ)へ帰ってこられる。」

ミィスがにこりとほほ笑むと、あの日のように髪が光輝き。


しかし強く眩しい光ではない、やさしく包み込むような光。




その穏やかな光がおさまったころには魔人の一人は差し伸べられたミィスの手を握り締め。

他の魔人も、ローブを外しミィスを見て涙していた。そこにいるのは、様々な種族の人々で歳もばらばら。


「ずっと、ずっと、昏い澱みを歩いていた…光が、はじめて…!」

声を詰まらせて泣く彼らに、やさしく微笑みかけるミィス。


「わたしね、知ってるの。魔人って、生まれたときから魔人じゃなくて、何か悲しいことがあったり何か悔しいことがあった人たちの心がどうしようもなくなって、耐えられなくなってしまうと魔人になってしまうんだって」

「も、もう何も覚えていない…!いつの間にか出られなくなっていて…!」


嗚咽交じりに吐き出すのは、深い苦しみ。


「わたしの父さんがね、何があっても悲しんだり妬んだり、絶望したりしてはいけないって。それが魔人にならない方法なの。たとえば遺されてしまった人には他の光を探すことしかできないんだけど。」


少し、おぼろげだが優しくそして凛とした父と母の姿を思い浮かべる。

そして、代わりにミィスに差し伸べられた二つの強い手を思い浮かべる。


「あなたたちの光が見つけられるまでは、わたしが代わりになるから。どうか、迷わないでほしい」

その姿は勇者というよりは、聖女のようで。その場の者たちは、しばらく動けずにミィスの姿を見つめていた。




「さて、改めて。テミスラさんに用があるの」

落ち着いた元魔人たちは他の仲間に任せ、言葉を失っていたテミスラに話しかける。

「なんでも聞くよ。すまない。僕は彼らが魔人ともなぜか気づかず…この者たちはこちらの家、そして城にも大量に入り込んでいる。今信用できるのは、君だけだよ。」


ミィスは端末から、"白の書"を取り出し見せる。

「それは…本、かな?」

「これはわたしの家に伝わる"白の書"。きっと大切なことが書いてあると思うの。これと同じか似たもの、テミスラさんのお家にもないかな?」


「対の魔具(イディ)だね。君の家にあるなら僕の家にも、か。けれど、多分もうないよ。」

「もうない?」

「この…魔人たちは、少なくとも祖父の代から私兵として僕の家にいるらしくてね。そして、家に昔の物はほとんどないんだ。情報は口伝のみとか、それらしい言葉で。確かに無いはずがなかったんだ…」


家に魔人が入り込み、あまつ乗っ取られかけているということに気づき、悔しさを滲ませるテミスラ。

「魔人は、心の隙間に入り込んで唆す。判断を鈍らせる。気づかなかったのは仕方ないよ」

「けど…!大切なもののはずだ…それに、君の方は大丈夫だった!」

「うん。まだこっちがあるから。これを、テミスラさんに解読してほしい。わたしたちではだめだった」



「…うん、わかったよ、僕でよければ全力で請け負おう。その間同行してもかまわないかな」

「もちろん」


「この本まで紛失してはいけない。しっかり見張っていてくれないかな」

どちらにせよミィスの髪がないと読めない本は、傍にミィスがいる必要がある。それを説明すれば、漸く少しほほ笑む。

「なるほど、古い魔具だ。それなら、僕のスキルが役にたちそうだよ」



「ミィス、こいつらは駄目だな」

話が終わったらしいことを確認したセレネルが近づいてくる。

「え?どこか悪い?病気とか?」

魔人の状態から回復した人を見るのは初めてだ。もしかしたら後遺症が残ったりするのだろうか、と慌てる。


「いや、体には問題ない、精神も正常だ。だが、魔人の時の記憶が曖昧だ。手がかりが得られない」

「ああ、なんだそんなこと。よかった」

ほっと胸をなでおろす。情報なんて、命に比べたらなんでもない。


「お前はそういうと思った。それで、どうする?」

「俺たちをどうか、何かに役立ててくれませんか!」

1人が立ち上がったのを皮切りに、全員がそれに続く。


「この人たちは、僕が責任を持つよ。どうか任せてほしい。」

「じゃあ、テミスラさんに任せるね、お願いします。」


「ただ、この本の解読が終わるまでは、4区で待っていてほしい。」

「あ、じゃあその間だけ、縁の竜さんにお願いするのはどうかな。もしかしたら、なにか良い縁を結んでくれるかもしれないから」


「ほな、拙が案内しよか。少ないけど魔物もでるやろし誰か着いてきて欲しいんやけど」

「じゃあボクが!」

名乗り出たエリューとミヤビを見送り、改めて今後のことを考える。




「はっきりとした目的はわかりませんが、王様がおかしかったのもきっと魔人のせい、ですね?」

アナトーレが確認するように口に出す、違和感の正体。

「そうだろうな、だとするとシュトリヤを狙ったのも魔人。目的はわからないが、殺す気ではなかったのではないか?」

「わたくしを?」


「ああ、殺すのではなく、お前の竜の力が欲しいのではないか?」

「これを飲ませろと命令を受けていたのだけど、もしかして、殺すものではないのかな?」

テミスラが口をはさみ、見せるのは液体の入った小瓶。


「舐めていい?」

ちょっとだけなら、と指を瓶につっこもうとするミィスの手を掴む。


「なんでも口にいれようとするな。これは、仮死薬だ。」

瓶を少しだけ開け臭いを素早く確認する。

「仮死薬?」


「ああ、迷い込んだだけの大型動物、魔物を外へ還す場合に使う。麻酔薬の一種だが、効果の間一時的に死んだよう存在を消すことができる」

「ただの麻酔じゃだめなの?」


「臭いに引き寄せられた他の魔物に襲われたりしますから。私たち門兵もよく使います。」

「へー!なるほど!じゃあ、これを使って死んだことにして存在を消して、シュトリヤを連れていくつもりだった?」


「そうだろうな。なぜかはまだわからないが。」

「じゃあ、魔人の国?的な場所があるよね、きっと。そこでで聞いてみるしかないかな!多分魔人を操る魔王的な人がいるんでしょう。やめてってお願いしないと」


魔人については竜よりも情報が少なく、魔人の住む国があるらしいという情報はあれど、どこにあるのかは誰も知らない。

「そうなるな。ただ、もちろん場所を知らないが、誰かわかるか?」

生涯魔人にかかわらない人の方が多いのが現状。


全員が首を振り、手詰まりかと思った瞬間。





「それやったら拙が」

空からエリューを抱えてふわりと降ってきたのはミヤビだ。

2人の長い髪がふわりと翻る。


その髪が落ちた時に見えたエリューの顔は真っ赤で、小さく固まっている。

「ミヤビさんってあれね、たらしってやつなのかしら」

ふう、とシュトリヤはため息をつき。


「スキルのせいだけではないな」

珍しくセレネルは同意し。


「それをセレネルが言うのもどうなんですか」

それをアナトーレが咎める。


「え?何、拙の話やった?」

そっと地面にエリューを降ろし、エリューはそのままミィスの腰あたりにギュッと抱き着く。

それをただ拒むことなく受け入れるミィスはただかわいいなあ、よしよし。と頭をなでるだけだ。



「ああ、いいの。ごめんなさい。それで、場所がわかるのかしら?」

「拙が王都に来た時、ここ、通ってんけど」

ここ、と端末で表示した地図を指でなぞる。


そこは、海から4区の真ん中まで続く大陸の割れ目。


「で、地図には載ってへんのやけど、この先にちぃーさい島が見えてん。そこ違うかな?」

「見えた?今までそんな話聞いたこともないが」


「拙はちょっと目が特殊やから。多分普通にしとったら見えへんよ」

竜とのハーフであることは伏せ、それに、と言葉を続ける。


「認識阻害の魔法か結界。その上海の状態も悪い。4区でも2区でもいろいろ聞いてみてんけどだあれも知らんかって」

「そこが魔人の棲む場所…魔人の国とするが、確証はあるか?」


「あらへんよ。せやけどもうその島の向こう"壁"やし、そんなとこにほかの国なんてあるわけないと思うんよ。」

王都の大陸近くにある高い山脈を通称として壁、と呼ぶ。その先には初代勇者(アーラ)以外誰も到達したことがない未開の地が広がるとされている。


こちら側からは高く聳えどこまでも続く"壁"にしか見えない。




「わたくしやセレネルがその島の存在すら知らないのはおかしいわ。可能性は高いんじゃないかしら」

「じゃあそこ目指してみようか!」


「こっち側の端は、25区やから、その端から飛ぶのがええかな」

「賛成よ。25区なら都合がいいわ」

「都合?」


「ええ。さっき言ったリゾート地があるのよ、ここ。わたくし行ったことがあるわ。高速船が出ていて、外周区にしては行きやすいの」


この大陸はすべて王都の領土だが、中心の特区から同心円状に配置される各区は、外側に行くにつれて人にとって行くのすら難しい場所になる。

19区から29区までは最も外側に位置する外周区と呼ばれる場所で、人は住んではいない。


しかし、4区に繋がる入江を挟む25区と26区は例外で、古くからリゾート地として人気で行く方法も確立されている。

「そうですね、高速船なら一晩で着きます。私も行ったことがあります」

アナトーレが同意する。


「よしじゃあ、まずは25区、その後は魔人の国(仮)、だね!」



元気よくミィスが声をかけ、一行は船が出港する港へ向かう。













評価やブックマークありがとうございます。嬉しいです。

2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません

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