11.森での一夜のお話
夕食後、順にシャワーを済ませ、焚火を囲む。
「今日は静かな夜だな。魔物もいない」
「そうね、魔物避けの外にもほとんどいなかった。珍しい」
「ミヤビさん、アナトーレさん、エリューさん、あなたがたのお話、よかったら聞かせていただけないかしら。どうしてわたくしを助けにきてくださったの?」
たった3か月で増えた敵のことは知っておかなくては、と息巻く。
「私は志願しました。その、勇者と呼ばれる後輩が果たしてどれほどのものなのか興味がありました。」
――旅立ちの日、セレネルに連れられてきた長身の美女は、貴族ではないミィスでも知っている有名人だった。
「アナトーレだ。」
「初めまして、ミィス。私はアナトーレ・グリゴロス、あなたたちの旅へ同行を希望します」
氷柱のように冷えて尖った目。口調も堅く、一切の好意が見えない。
学園では3つ上、美人かつ優秀、そして数少ない召喚魔法の使い手として後輩であるミィスも憧れる人だった。
「わ、わたしはミィス・フォスです。ど、どうしてついてくることに…?」
その言葉にじっと見つめられる。
何かおかしなことをきいてしまったのだろうかと内心とても慌てる。相手は貴族だ。勇者という別枠の立場を持つミィスと言えど、初対面の貴族の機嫌を損ねたくない。
「私が唯一認めるセレネルが、あなたのことをとても褒めていたのを聞き、興味がわきました。足手まといにはなりません。同行させてください」
「あ、足手まといはわたしの方です!!ぜひ強くしてください!!」
と頭を下げ、2人は旅立った――
「初めてあったときはすっごい厳しい目で見られたよねえ」
あの時の目は忘れられない、と零す。
「あ、あれは!!」
あわてて声を上げるアナトーレ。耳が少し赤い。
「わかってるよ、緊張してたんだよね。アナトーレって意外と恥ずかしがりやなんだもん、それがわかってからはとっても好きになったよ!」
屈託のない笑顔で告げられ、同じく笑顔になる。
「徐々にミィスに惹かれ、私も好きになりました。あの時ついていくことにして、本当によかったです。」
「わたしも、アナトーレが来てくれて本当によかった。おかげですごく強くなれたんだよ」
――その後、3人は初めて町を訪れた。
「今日はここで休む。…ん?なんだあれは」
町に入って早々、宿泊予定の宿の前に人だかりが見える。そっと近寄ると、一人の男性が小さな少女を護るように戦っていた。
「ん…?なん、だあの男」
セレネルがその男性、ミヤビと目を合わせた瞬間、脳がぼんやりする感覚に襲われる。
「どうしたの?」
「ミィスは、なんともないのですか…?」
首まで真っ赤にしたアナトーレが不思議そうに首を傾げる。
「なにかのスキルか?いや、今はいい。止めるか?」
「うん、困るしね」
止めに入ったセレネルの制服を見、襲い掛かっていた鬼人が舌打ちと共に立ち去った。
「なんだったんだ」
「さあ?あ、大丈夫ですかー?」
「ん?ああ、大丈夫やで、ありがとう。なんやえらい人かな。えぇと、ミヤビ・花宮いいます」
互いに自己紹介を済ませ、いきさつを聞く。
「拙は旅の途中で、こん宿にだいぶ長いこと世話してもろたから、剣舞をみせとったんやけど、その子ぉが追われとったから見かねて手ぇ出してもただけ。ところでミィス言うたやんな。君、なんともないん?」
「うん?なんとも?」
ここで初めてスキルのことを口にする。どうやら自分には何の影響もないようだ、と告げるミィスに、ずっと真顔だった顔が花のように綻ぶ。
「そう、なんや。ミィス、こんなところにおったんやなあ」
「ん?」
「あぁ、後で説明させてもらうな。こっちの子ぉが…あぁ、拙もまだ名前きいてへんな」
ミヤビの後ろに隠れるように、ひょっこりと顔を出す小さな少女に笑いかけるミィス。
「かわいい。お名前は?」――
あの時かわいいって言ってもらったの絶対忘れないよ、と笑うエリュー。
「ボクはね、故郷の9区から出てきて、おまつりってやつを見てみたかったの。で、ミヤビとミィスに助けてもらったんだ!2人がお話の王子様ってやつなんだなって思ったんだよ!」
「エリューが角をかくしとって、普通の子供やったら危ないと思っただけやで。そんな大げさな」
「ボク初対面の人に助けてもらったの初めてだったから。」
鬼人は強くなるために戦いに明け暮れる。誰もが助け合うという考えではなかったと言う。
「ミィスに助けてもらったっていうのは?」
「その時言ってもらったかわいいって、生まれて初めてだったんだ。ふふ、すごくびっくりしたんだよ。でも、ボクの…うーん、心?を助けてもらった」
言葉は足りないが、随分感謝しているように見える。
「ミィスはみなさんに好かれているのね」
「うん!ボク、ミィスのこと大好き!ミィスに助けてもらったから、その時にミィスが助けたい人がいるって言ったの聞いて、付いていこうって思ったの。」
「ミヤビさんはどうして?」
「拙は、その。わざわざ言うことやないわ。」
口元を手で覆い、目線をそらす。
「ただ、ずっと探しとって、やっと見つけてん。スキルが全く効かんかったんは、ミィスが初めてやったから。理由なんてそれだけや」
(エリューさんとアナトーレさんはセーフ、かしら。けれどミヤビさんは敵ね!!!)
と敵認定したミヤビをすっと睨むシュトリヤ。
「お前に何か結論が出て何よりだ。そろそろ寝てくれ。明日は4区に入りたい。」
セレネルの呼びかけに話を中断し、全員テントに入る。
テント周辺には魔物避け、そして人の侵入で鳴る警報もついているため、見張りはいつも立てない。
「今日くらいはちょっと間警戒しとこかな」
「いや、ミヤビも寝てくれ。警報は広めにつけた。問題ない」
「セレネルがそう言うんやったらええか。ほな、おやすみ」
2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません




