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10.キャンプの準備のお話

「そうだ、セレネル。これ、読める?」

差し出すのは"白の書"。現行、唯一の手掛かりになるかもしれない。


「難しい魔法ということは分かるが、読むのは無理だな。」

「そう、じゃあやっぱりテミスラさんに頼むしかないかなあ」


「…ミィス、わたくしさきほど、お父様に近づく怪しいやつを見たの。」

「ああ、あのフードの奴らだな。俺も見た。城に居座っているようだったな」


「そのフードの彼ら、わたくしを捕らえていたあの城でテミスラさんの指示を受けていたように思うわ。すごく、いやな雰囲気がしたわ」

言外に、関わるのはやめようと差し向ける。


「でも、手がかりはこの本だけ。頼めそうなのも今のところテミスラさんだけ」

じっと本を見つめるミィス。


「これからはわたしはシュトリヤを竜にしない方法を調べる必要がある。それには多分この本が必要、と思う。これに書いてあってほしい。希望だけど。」


「そうだな。シュトリヤが本当に世界を滅ぼす竜になるなら止めないといけない。」

「竜化について知ってる?」

全員首を横に振る。竜についてはほとんど知られていない。



「4区には竜がおる教会があるやろ。そこを目指すんは?」

ミヤビが端末で地図を表示し、指さすのは海に面した4区。特区以外では一番近くに教会がある町がある。

「じゃあとりあえずそこを目指そう。どうせわたしたちは反逆者扱いだから、テミスラさんもそのうち来るでしょ」

「決まりだな。よし、じゃあ今日はここで。」


シュトリヤ以外が頷き、各自てきぱきと動き始める。

「え?え?」


「ああ、お姫様にはなじみはないか。今からここで野営(キャンプ)をする。」

敢えてバカにしたような目をしているということはわかっていてもむっとするシュトリヤ。


「…わたくしは何を担当すればいいかしら」

「今日は見ておけ。俺はアナトーレとテントを設営。料理はエリューとミィス。水はミヤビだ。常時敵に警戒しつつ。」


「わかったわ。」

ミヤビは水確保のために水源を飛んで探し、エリューとミィスは薪を調達する。

「ミヤビの食糧庫見せて」

ミヤビにあずかっていた端末をエリューと覗き込み、いくつかの食材を取り出す。


「ミヤビさんの端末が食糧庫に?」

「もともと長距離の旅だったから、一番大きな食糧庫持ってて。そのまま使わせてもらってるの」

「大きい蔵があるんだって。この人数分の食糧なら余裕で入るし、定期的に補給してくれる人もいるっていってた」


「ミヤビさんってすごいおうちの方なの?」

「国では大きい方だったって。」


「よし。材料オッケー。シュトリヤ、わたしと薪あつめ、行かない?」

「ええ!行くわ!」

ぱあ、と輝くような笑顔を向けられ、ミィスは顔を赤くする。

「エリューは下準備おねがいね」





ミィスが淡く光をともし、薪になる木を集める。

「そうだわ、今日は遅れてごめんなさい、けがをさせてしまったわ。まだ謝っていなかったわね」


「ううん、間に合ったんだから大丈夫だよ。けどそっちこそ大丈夫だった?」

手筈では、シュトリヤたちの準備が整い次第ミィスが処刑台に上がるはずだった。合図がなかったのでギリギリまで粘っていたのだが。


「それが、わたくしの部屋に魔具(イディ)でしっかり鍵がかかっていて。外すのに苦労したの。最終的にアナトーレさんが槍で開けてくださったのだけれど。」

「戦ったとかじゃないならよかった」


「ええ、ごめんなさいね。けれど、見ていたのよ。恰好よかったわ。」

「え、そ、そうかなあ、ありがとう」


照れてでへへと笑った後、顔を引き締める。

「シュトリヤ」

「なあに、ミィス」


「その、竜化なんだけど、どれくらいのスピードで進むの?」

「鱗は一日一枚くらい増えているわ。いまのところそれだけ。でも、多分そのうち翼と角あたりが出てくる…のかしら?」


「そう。今はなんの変りもないの?力とか能力とか」

「そうね、スキル覚えているかしら」

「崩壊ってやつ?」


「ええ、あれの影響か、銃の攻撃が今までより少し強くなったように思うわ。強く、というか当たったものを壊す、というか。そのおかげであの枷も一発で壊せたのよ」

本当なら何発か様子をみて当てる予定だったらしい。


「今回はうまくいてよかった。けど、細かな変化には気をつけよう。」

「ええ。ごめんなさい、ミィス」


「え?」

「わたくしのせいで、こんなことになってしまって…ミィスは勇者なのに、反逆者なんて呼ばれて…わたくしの、せいだわ」


暗い顔をするシュトリヤにそっと近づくミィス。後ろから細い腰に腕を回す。


「み、ミィス?」

慌てて薪を取りこぼしそうになりつつ、なんとか耐える。

「わたし、シュトリヤが無事ならそれでいいの。反逆者って他の人が呼んでも、わたしはそう思ってない。間違ってなんていない。だから、シュトリヤ。わたしは大丈夫。」


「ありがとう…」

「わたしはシュトリヤを絶対守る。何からも。忘れないで」

背中の温度に心を解されるようだった。

「ふふ、じゃあミィスのことは、わたくしが護るわ」



「…護るのは俺の仕事だ。」

「わあ!!!」

びくうううう!と派手に肩を揺らすミィスの背後にいつの間にか背後に立っていたのはセレネル。不機嫌そうにミィスを見下ろしている。


「わわわごごごごめん、遅かったかな!?」

「いや。手が足りていないかと思って来たら。何をしている。」

「い、いやシュトリヤと話しがしたくて」


「まあいい。いくぞ。あと、ミィスを護るのは俺の仕事だ。」

念を押すようにしっかりとシュトリヤに告げる。

「わたくしだって護れるわ。」

いつもどおり火花を散らしながら、薪を集め、野営地へ戻る。

「じゃあ料理できるまでみんなは休憩と警戒をよろしく。」




薪をミィスに預けたセレネルとシュトリヤは少し離れたところまでつかつかと歩く。

「この際だから言っておくわ、セレネル。わたくしに身分の壁がなくなった以上、今後あなたは正式に敵よ」

「それはこちらの台詞だ。お前との婚約はこれで解消だ。今後お前は正式に敵だ」

「じゃあ、思い切りやるわよ」


手には愛用の銃。銃身は長めで、魔力を弾にする。シュトリヤの魔力が強大なため、実質弾切れはないに等しい。

「強いほうが、ミィスの相棒ってわけだな」

「そうね、今は相棒でいいわ」


その言葉を皮切りに、シュトリヤは迷いなくセレネルの眉間を狙う。

右手の剣を一振り、弾の進路をそらす。



「ね、ねえミィス、なんか戦い始めたんだけど…放っておいていいの?」

「うん。いつものことだから大丈夫。流れ弾も絶対こっちには来ないし。城では毎日やってたみたいだよ。」


「仲がいいのか悪いのかわかりませんね」

「なんでも、婚約者なのがどうしても嫌で、それをアピールするためらしいんだけど。」


「それにしても本気やん、今は誰にアピールしとるん?」

あきれたようにテーブルを組み立てるミヤビ。


「まさかあのセレネルと互角なんて、確かに銃の腕もすごいですが体裁きもすごいんですね」

「シュトリヤ、学生時代からセレネルには負けないって頑張ってたよ。」



まあセレネルは多分手を抜いているけど、という言葉はしまっておく。

というか仮にもお姫様に本気を出す騎士はちょっと嫌だ。



「ボクとどっちがつよいかな?」

「うーん、エリューだと思うよ。銃があるとちょっとわからないけど」

「銃は確かに当たったら痛そうだね。うん、ボクもまだまだ未熟、がんばろっと」

談笑しつつてきぱきと夕食をつくってゆくエリューとミィス。


やがて出来上がった夕食を囲み、皆で食べ始める。




シュトリヤとセレネルの決着は今日もつかなかった。









2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません

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