5.嫌なノイズと、商業ギルドの影
ゲーム内時間で丸3日半が経過し、街に朝の光が差し込み始めた頃。
僕は仲間たちがログインしてくる前に、溜まった素材を売却して資金を作ろうと、中層区の『商業ギルド本部』へと向かっていた。
白亜の大理石でできた豪奢な建物。
だが、その立派な大門をくぐろうとした瞬間——
『じじじっ……じじじじ……』
頭の奥で、黒板を爪でひっかいたような嫌な金属音が響いた。
「うっ……!? な、なにこれ……頭痛……!?」
痛覚ノイズのような不快感に、思わず頭を押さえて膝をつく。
門の横に立っていた大聖堂の神官NPCが、僕を見るなりあからさまに不機嫌そうな顔で眉をひそめた。
「……チッ、薄汚いスラムの匂いをさせた不浄者が。大聖堂の聖域に近づくな」
「え……?」
言い返そうとしたが、ノイズは建物の奥へ進むにつれて静まっていった。
首をかしげながら商業ギルドの買い取り窓口へと向かう。
カウンターの奥には、金ぶちメガネをかけた肥満体のNPC店員が、優雅に書類をめくっていた。
「すいません、自作のポーションと素材の買い取りをお願いしたいんですけど」
「ん……どれどれ。見せてみろ」
僕は大湿原で採れた薬草と、夜な夜な調合スキルを上げて作った『初級ポーション+1』を10瓶ほどカウンターに並べた。
店員は気怠げに瓶を持ち上げ、ちらりと見ただけで鼻で笑った。
「ふん……ライセンスもない素人の自作ポーションか。投棄物の引き取り価格で、1瓶につき『1ゴールド』だな」
「えっ!?」
僕の声が裏返った。
「1ゴールド!? 道具屋で売ってる粗悪なポーションだって1瓶20ゴールドですよ!? 素材の草代にもなりません!」
「ハッ! 当たり前だろ、不法分子が!」
NPC店員がバンッ!とデスクを叩いて身を乗り出した。
「商業ギルドの許可証もない素人の薬など、毒と同義だ! 引き取ってやるだけでもありがたく思え! 嫌なら失せろ。ただし商業ギルドの許可なしに外で露店を開いてみろ……脱税と違法販売で、自警団に通報して即逮捕させて牢屋にぶち込んでやるからな!」
「なっ……不当すぎるだろ! プレイヤーが作った高品質な薬を買い叩いて独占する気かよ!」
「うるせえ! おい警備員、この生ゴミ持ち込んだ生意気な猫耳を叩き出せ!」
「ちょっと待っ——うわあああ!?」
ドーン!!
奥から現れた巨体のアックスゴーレムNPCに胸倉を掴まれ、僕はそのまま商業ギルドの大門から路上へと豪快に投げ飛ばされた。
ドサッ!と石畳に激しく打ちつけられ、痛覚抑制の入ったゲーム内でもじんじんと衝撃が走る。
「痛てて……なんだよあの悪徳ギルド! 誰が二度と売るかバカヤロー!!」
路上で立ち上がり、僕は怒りで猫耳を逆立てて叫んだ。
その瞬間——胸の奥で、再び「ずん……」という重い感覚が走った。
怒りに任せて商業ギルドを飛び出した僕は、抱えていたポーションを全部スラム街へ持ち込み、「持っていけー! 無料だー!」と配りまくった。
自分が公的システムに激しく反逆し、戻れない「アウトローの坂道」を猛スピードで転がり落ちていることなど、この時の僕は知る由もなかった。
[※内部パラメーター変化]
・商業ギルド評判:ドン底(永久出入り禁止)
・公的機関との激突、およびスラムへの非正規流通により、カルマ値がさらに崩壊:-5 ➔ -20




