4.スラム街の少女と、青汁の救援物資
大通りの華やかな街灯が途切れ、薄暗い石造りの路地が複雑に入り組むエリア——『南区スラム』。
都の輝かしい発展から取り残されたこの場所には、ボロボロの服を着て身を寄せ合うNPCたちが生きていた。まだ正式サービスが始まって数日(ゲーム内時間)のため、プレイヤーの立ち入りもほとんどない死角だ。
「うう……腹が減った……」
「誰か……病気に効く薬を……」
路地裏の隅で、老いたNPCや子供のNPCが力なく蹲まっている。
「あっ、大丈夫ですか!? これを使ってください!」
僕は急いでインベントリを開き、昼間に試作した『初級ポーション(味:濃いめの青汁)』と、街の露店で買った固い干し肉を取り出した。
「ほら、ゆっくり飲んでください。ちょっと苦いですけど、ちゃんと効きますから!」
「おお……おおお! 感謝します、旅人様……! 温かい……」
弱り切っていたおじいさんNPCの身体が淡い光に包まれ、顔色が劇的に良くなっていく。
システムログが視界の端に静かに流れた。
『——【簡易調合ポーション+1】をNPCに譲渡しました』
『熟練度を獲得:【簡易調合】+0.5% / 【鑑定】+0.2%』
(おおっ! NPCにポーションをあげても調合の熟練度が入るじゃん! 道具屋に売るより効率いいかも!)
調合の熟練度が上がることに味をしめた僕は、スラム街を練り歩きながら、病気や飢えに苦しむNPCたちに片っ端から青汁ポーションと肉を配り歩いた。
「はい、君もどうぞ!」
「お兄ちゃん、ありがとう……!」
現実時間で言えば、ほんの数時間。
だが、ゲーム内時間で丸々2日が経過した頃には、僕はスラム街の住民たちから「青汁を配る謎の親切な猫耳」としてすっかり顔馴染みになっていた。
そんなある夜(ゲーム内3日目)。
薄暗い路地裏でポーションを練り直していると、頭上からカサリと不穏な音が響いた。
「……ッ!?」
【野性の直感】が危険を知らせ、僕は爆速のAGI(19)でバックステップを踏む。
直後、僕が立っていた石畳に、小さな影が屋根の上から軽やかに着地した。
「あんた……何者?」
月光に照らされたのは、ボロボロのつぎはぎ服を着た10歳前後の猫耳の少女だった。
僕と同じフェリス族。だが、その黄色い瞳は、野良猫のように鋭く僕を威嚇していた。
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【名前】 ミーア(Mia)
【種族】 フェリス(猫耳族・スラム孤児)
【レベル】 ??
【状態】 警戒 / 飢餓
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「スラムの奴らにタダでポーションなんて配って、何の企み? 商業ギルドの手先? それとも自警団の犬?」
「企みなんてないよ。ちょっと味が苦いポーションの試作があまったから配ってるだけさ」
僕は苦笑いしながら、ポーチから大湿原で獲れた麦で作った香ばしい干し肉を取り出し、ミーアの前にそっと差し出した。
「君も食べる? 美味しい干し肉だよ」
ミーアは目をお手玉のように丸くしたあと、フシューッと威嚇の声を上げた。だが、お腹が「クー……」と盛大に鳴ってしまい、真っ赤になりながら肉をひったくった。
「ふん! 毒が入ってたらタダじゃ置かないからね!」
背を向け、屋根の陰で夢中で肉にかぶりつくミーア。
その様子を微笑ましく見守っていると、謎のシステムログがひっそりと更新された。
[※内部パラメーター変化]
・NPC『ミーア』の好感度が上昇(警戒 ➔ 関心)
・街の正規流通ルールを無視した非公式の物品配布により、カルマ値が微減:+0 ➔ -5
「……ん?」
胸の奥が「ずん……」と重くなるような、不思議な違和感が走った。
ステータス画面を開いてみるが、HPもMPも正常だ。
(気のせいかな……? カエルの解体で疲れてるのかも)
ミーアは干し肉を綺麗に平らげると、一度だけ僕を振り返り、「変な奴」と吐き捨てて夜の屋根の上へ消えて行った。




