2. さざめきの大湿原と「青汁ポーション」
ログインから数時間が経過した(ゲーム内時間ではすでに半日が経過している)。
僕たち『アルカノイド』の面々は、はじまりの都・アルカディアの東門を抜け、広大な湿地帯『さざめきの大湿原』の浅瀬に足を踏み入れていた。
一面に広がる背の低い葦と、足元をぬかるませる泥水。
時折、風が吹くたびに潮風と草の香りが混ざり合った生臭い匂いが鼻をくすぐる。
「みんな、足元に気をつけて。泥に足をとられると回避行動にマイナス補正が入るわ」
セラが先頭で鑑定スキルを使いながら警告を発する。
その直後、葦の生い茂る草むらがガサガサと大きく揺れた。
「来るよ! 正面から2匹!」
ケットの声と同時に、ぬかるみから飛び出してきたのは、大人の胴体ほどもある巨大な緑色のモンスター——『ヌマヒキガエル』だった。テカテカと光る皮膚と、不気味に黄色く光る目が僕たちを捉える。
「任せて! 【パリィ】——って、うわあ滑る!?」
シオンが盾を構えて突進を受け止めようとしたが、ぬかるんだ泥に足を滑らせ、盛大にズッコケた。巨体をもつカエルが、そのままシオンの上に覆いかぶさろうとジャンプする。
「シオンっ!? えいっ、風よ弾けろ——【エレメンタルボルト】!」
アリアが焦りながら杖を突き出し、初級攻撃魔法を放つ。
ドォン!と激しい風圧がカエルの側腹部を直撃し、カエルは横合いへ吹き飛んだ。だが、魔法の反動と消費MPの激しさから、アリアは「はぁ、はぁ……」とその場に膝をついてしまった。
「MP消費が重すぎる……っ、もう一発撃ったら枯渇しちゃう……!」
「アリア、動かないで! 試作品投げるから!」
僕は爆速のAGI(16)を遺憾なく発揮し、泥水を跳ね上げながら爆走。
腰のポーチから小瓶を取り出し、アリアの足元へ投げつけた。
パリンッ!と瓶が割れ、緑色の液体が弾ける。
『——簡易調合ポーション(試作)を使用。HPが25回復しました』
「ふえっ!? なんか傷が塞がった……! でも、口の中にものすごい渋柿と苦い草を混ぜたような味が広がったんだけど!?」
「ごめん、アク抜きがまだ不完全なんだ! でも回復しただろ!?」
「助かったけど、味の癖が強すぎるわよレイっ!」
アリアが涙目になりながら叫ぶ。その間に体勢を立て直したシオンがスラッシュを叩き込み、最後はケットの【急所狙い】がカエルの喉元を貫いた。
光の粒子となってカエルが霧散する。
「ふぅ……なんとか倒せたな。第一陣の雑魚敵にしては打たれ強すぎだろ」
「シオン、無事? 怪我はない?」
「ああ、レイのポーションのおかげで助かったよ。……味はすごかったけど」
苦笑いするシオンを横目に、僕は解体ナイフを手に取って倒れた残骸の前にしゃがみ込んだ。
「よし、解体作業入るよ」
僕がナイフをカエルの皮膚に滑らせると、システムログが視界の端に流れる。
『——スキル【素材採取・解体 Lv1】を発動』
『【ヌマヒキガエルの皮】×2 を獲得』
『【粘着液】×1 を獲得』
『【カエルのもも肉】×1 を獲得』
「おおー! ただ倒すだけだと皮1枚しか落ちないのに、解体スキルを使うと肉と粘着液まで手に入るぞ!」
僕の手元を感心したように見つめていたギルが、豪快に笑いながら僕の肩を叩いた。
「おいおい……レイの奴、手元だけ見たら完全に『手慣れた料亭の板前』だな。猫耳生やした奴が沼の真ん中でカエル捌いてる図、シュールすぎて最高だぜ」
「笑わないでよ! これでポーションの材料と、街で売るための素材が手に入ったんだから!」
その後も僕たちは大湿原の浅瀬で数時間の戦闘と採取を繰り返し、着実に経験値と素材を溜めていった。
討伐が終わった頃、僕のステータスウィンドウに変化が現れる。
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【名前】 レイ(Ray)
【種族】 フェリス(黒猫耳族)
【レベル】 4 (+3)
【職業】 薬師 / 見習い職人
HP: 120 / MP: 95
STR: 12 / VIT: 9 / INT: 9 / AGI: 19 (+3) / DEX: 15 (+4) / LUK: 13
スキル: 【野性の直感】【従魔の共鳴】【素材採取・解体 Lv2】【簡易調合/生産 Lv2】【鑑定 Lv2】
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「よし! 【簡易調合】がLv2に上がったぞ! これで『初級ポーション+1』が作れる!」
「回復量は上がったの?」とアリアが恐る恐る尋ねてくる。
「うん、回復量も上がったし、味も『雑草入りの泥水』から『濃いめの青汁』くらいに改善されたよ!」
「誰も嬉しくない進化ね……」アリアが遠い目をした。
この時の僕たちは、ただ純粋に手探りの冒険を楽しんでいた。
ポーションの材料にするため、僕が大湿原で『ヌマヒキガエル』を大量に狩り尽くしていることが、湿原の生態系バランスを崩し、奥地に潜む「恐ろしい捕食者」を餓えさせていることなど、知る由もなかったのだ——。




