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女神の従魔  作者: 梅椿 六花
最終章 女神の従魔
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43/44

第43話 《女神の従魔》

 レオンが偽物だったことは、その日のうちに、ラーデンの町へ発表された。

 ただし。

 本当の血筋がどこにいるのか。

 そもそも残っているのか。

 それについては、何も明かされなかった。

 ルミナス商会が提出したのは。

 レオン自身の偽装を示す証拠だけだった。

 盗まれた記録。

 偽造された印章。

 金を受け取った役人の証言。

 各地で名前を変えられた者たちの名簿。

 逃亡した者を、事故として処理するよう命じた書類。

 レオンが英雄の名を利用し。

 人々を従わせていたことも明らかになった。

 ドルガンがミリアを襲ったこと。

 ハンナを連れ去ったこと。

 命令書に、ミリアの処分を許可すると記されていたこと。

 それらも認められた。

 ミリアがドルガンを殺した行為は。

 自分とハンナの命を守るためのものとして。

 罪には問われなかった。


「よかったね」

 ニルが言った。


 夜明け亭の一室。

 ミリアは寝台へ横たわり。

 包帯の巻かれた手を見ていた。


「うん」

 返事はした。


 だが。

 安心した顔ではなかった。


「悪い人だったんでしょ?」

「そうみたい」


「なら、ミリアは悪くない」

 ミリアはすぐには答えなかった。


「悪くないって言ってもらえるのは、うれしい」

「うん」


「でも」

 指を、ゆっくりと握る。


「私が殺したことは、なくならないから」


 ニルは何と答えればよいのか分からず。

 黙った。

 ミリアは困ったように笑う。


「ごめんね。変なことを言った」

「変じゃない」


「そっか」


 窓辺から外を見る。

 カイルへ残した羽根の気配は、まだ消えていない。

 町の東。

 ルミナス商会の建物がある方向。

 数日。

 俺は待った。

 ミリアの傷が落ち着くまで。

 カイルたちの動きを見るため。

 そして。

 自分の怒りが、少しでも静まるのを待つために。

 だが。

 疑念は消えなかった。

 ルミナス商会は。

 なぜ、エリシアの家族について知っている。

 誰を守っている。

 あるいは。

 何を隠している。


「ぴよちゃん」

 ミリアが呼んだ。

 窓辺から振り返る。


「考え事?」

「ぴ」


「何を考えてるの?」

 答えられない。

 ミリアは枕へ身体を沈めた。


「レオンさんが偽物だったこと?」

 羽根が揺れる。


「私も、びっくりした」

 ミリアは天井を見た。


「ぴよちゃんは、本物だと思ってたんだよね」

「ぴ」


「私も」

 少し考えてから。

 ミリアは続けた。


「でも、偽物だったからって」

 窓辺の俺を見る。


「私たちがしたことは、変わらないのかな」

 胸の奥が強く打った。


 ミリアは。

 俺がレオンを殺したとは知らない。

 それでも。

 自分がドルガンへしたことと重ねて、問いかけている。


「相手が悪い人だったからって、殺したことまでなくなるわけではないよね」

 俺は動かなかった。


「私たち」

 ミリアが呟く。


「これから、どうすればいいんだろう」

 答えはない。


 だが。

 レオンのことを知らなければ。

 その先へ進むこともできない。

 窓の外を見る。

 カイルへ残した羽根の気配。

 決めた。

     ◇

 その日の夜。

 ミリアが眠った後。

 窓を開けた。

 外へ出る前に、寝台を見る。

 呼吸は穏やかだった。

 枕元には剣。

 まだ、一人で長く歩くことはできない。


(すぐ戻る)


 誰に聞かせるでもなく。

 心の中で告げる。

 白い翼を広げ。

 夜の町へ飛び立った。

 カイルへ残した羽根は。

 町の東にあるルミナス商会の支部、その奥を示していた。

 建物は。

 夜になっても灯りが消えていない。

 荷物を運ぶ者。

 書類を整理する者。

 人間。

 魔族。

 獣人。

 様々な種族が、同じ印を胸につけて働いている。

 屋根の影から中へ入る。

 見張りの目を避け。

 扉の隙間を抜け。

 羽根の気配を追う。

 建物の最奥。

 ほかの部屋より広い会議室。

 中には。

 カイルを含め、数人が集まっていた。

 机の上へ広げられているのは。

 レオンに関する資料。

 偽造された家系図。

 盗まれた手紙。

 各地で集められた証言。

 そして。

 英雄エリシアの名が記された、古い文書。


(やはり)


 ここまで調べている。

 窓の隙間から室内へ入った瞬間。

 一人の護衛が気づいた。


「魔物!」


 剣が抜かれる。

 ほかの者たちも立ち上がった。


「待て!」

 カイルが叫ぶ。


「ぴよちゃん?」

 最初に驚き。

 次に、警戒が浮かぶ。


「どうしてここへ」

 答えない。


 机の上の資料を見る。

 英雄の家系。

 盗まれた手紙。

 その一枚には。

 炎の中で、幼い魔族の少女へ手を差し伸べる。

 黒鎧の女の姿が描かれていた。

 身体が止まる。


(これは)


「カイル。剣を収めて」


 静かな女性の声が。

 部屋の奥から聞こえた。

 人々が道を開ける。

 一人の女性が立ち上がった。

 黒に近い、深緑の髪。

 落ち着いた眼差し。

 長い年月が流れている。

 それでも。

 俺には分かった。

 炎。

 崩れた建物。

 人間の兵士に囲まれ。

 怯えて震えていた、小さな魔族。

 エリシアは。

 その少女へ向けていた剣を下ろした。


『もう大丈夫』


 少女は。

 その言葉を信じられず。

 逃げることもできず。

 ただ、エリシアを見上げていた。

 エリシアは手を差し出した。


『立てる?』


(あのときの)


 少女は、生きていた。

 大人になり。

 人間と魔族が同じ場所で働く商会の中に立っている。


「セレナ様」

 カイルが女性の前へ出ようとする。


「危険です」

「大丈夫」


「しかし」

「その方に、今は敵意がありません」


 セレナと呼ばれた女性は。

 俺を真っすぐに見た。

 懐かしいものへ。

 ようやく出会えたような目だった。


「まさか」

 声が、わずかに震える。


「本当に……」

 セレナの隣から。

 一人の少女が顔を出した。


「ぴよちゃん?」


 フィナだった。

 以前。

 ミリアに会うためだけに、突然宿へ現れた少女。

 ルミナス商会と深い関わりを持つ者。


「どうしてここにいるの?」

 フィナが近づこうとする。


「待ちなさい」

 セレナが止めた。


「お母さん?」

「今は、あの方が私たちを見極めています」


 あの方。

 フィナを見る。

 その瞬間。

 胸の奥で、何かが震えた。

 魔力の形でも。

 顔立ちでもない。

 エリシアと結ばれていた力が。

 フィナの中にあるものへ、静かに反応している。


(エリシアの――)


 血。


 作られた表情ではない。

 記録を読んで身につけた仕草でもない。

 レオンへ感じた、曖昧な面影とは違う。

 この少女は。

 エリシアから続く、本当の孫だった。


(なんだ)


 身体から。

 ゆっくりと力が抜けていく。


(ちゃんと、いるじゃないか)


 あれほど悩んだ。

 エリシアの血を、自分の手で断つのだと思った。

 レオンの眉の動きに面影を探し。

 あの男が歪んだ原因まで、自分の罪へ結びつけた。

 別れを告げ。

 すべてを背負ったつもりで殺した。

 だが。

 レオンは偽物だった。

 本当の孫は。

 英雄の名を振りかざすこともなく。

 ただ、フィナという一人の少女として。

 目の前に立っている。


(俺は、何を見ていたんだ)


 声にならない笑いが込み上げた。

 小さな身体が震える。

 翼が揺れ。

 頭が下がる。


「笑ってる?」

 フィナが首を傾げた。


「俺には、怒っているようにも見えるけど」

 カイルが言う。


「カイル」

 セレナが静かにたしなめた。


 答えられない。

 笑うしかなかった。

 レオンを本物だと思い込み。

 勝手に苦しみ。

 存在もしない血の終わりへ。

 エリシアとの別れまで重ねた自分が。

 あまりにも滑稽だった。

 だが。

 それだけではない。

 部屋の中には。

 人間と魔族が並んで立っている。

 同じ印を胸につけ。

 同じ机を囲み。

 誰も剣を抜いていない。

 かつて。

 エリシアが空を見上げながら言った。


『人と魔族ってさ』


『いつか、本当に一緒に暮らせると思う?』


 俺は答えなかった。

 エリシアも、返事を求めなかった。


『私はね』


『そうだといいなって、思うんだ』


 その願いを。

 俺は守れなかったと思っていた。

 エリシアを森の小屋へ閉じ込め。

 世界から遠ざけ。

 未来ごと奪ったのだと思っていた。

 けれど。

 エリシアに救われた少女は、生きていた。

 人間と魔族をつなぐ場所を作った。

 その場所で。

 エリシアの孫が笑っている。


(なんだ)


 また。

 笑いが込み上げる。


(ちゃんと、引き継がれているじゃないか)


 血だけではない。

 英雄という名前でもない。

 エリシアが望んだものが。

 救われた者の選択として。

 次の世代へ続いていた。

 俺が抱えて守らなければ。

 すべて消えてしまうわけではなかった。

 騙されていたのは。

 世界ではない。

 自分だった。

     ◇


「私たちは、レオンが出てきてすぐ偽物である証拠を集めていました」

 身体の震えが収まるのを待って。

 セレナが静かに告げた。


「ですが、フィナのことを公にすることはできませんでした」

 フィナは母親の隣で黙っている。


「英雄の血を引くというだけで、この子の人生を決めさせたくなかったのです」


「夫のイグニスも、同じ考えです」


 セレナは。

 フィナの肩へ、そっと手を置いた。


「今も一つの場所には留まらず、各地を巡っています」


「レオンの件は、記録と人脈を持つ私たちへ任せて」


(イグニス)


 その名の意味を。

 俺は知っていた。


 炎。


「エリシア様がつけた名だそうです」


 セレナは続けた。


「古い言葉で、炎を意味すると」


 焚き火の光。


 黒い羽根の端に浮かんだ。

 灰色。


『燃えた後に残る、灰』


 言葉を探すように。

 少し黙ったエリシア。


(そうか)


 あの日。

 エリシアが探していたのは。


 黒い羽に似合う言葉だけでは。

 なかったのかもしれない。


 レオンがミリアへしたこと。

 名前を変え。

 役割を与え。

 本人の意思を聞かなかったこと。

 同じことを。

 英雄の血筋という名で。

 フィナへさせたくなかった。


「だから、レオンが偽物だと示すためには」

 カイルが続ける。


「本物の血筋を表へ出すのではなく、あいつ自身の嘘を証明する必要があった」

「時間がかかりました」

 セレナは、言い訳をしなかった。


「その間に、多くの方が傷つきました」


 自分たちの判断が。

 すべて正しかったとも言わない。

 その姿勢に。

 エリシアの面影を感じた。

 顔ではない。

 選び方の中に。


(そうか)


 疑いが、ゆっくりと解けていく。

 ルミナス商会は。

 エリシアの血筋を消そうとしていたのではない。

 守っていた。

 公表すれば。

 国も。

 貴族も。

 商人も。

 英雄の孫としての役割を。

 フィナ本人の意思とは無関係に押しつける。

 だから、隠した。

 だが。

 レオンが偽物として英雄の名を使い。

 人々を傷つけ始めた。

 それを止めるために。

 本物の血筋を公表するのではなく。

 レオン自身の偽装を示す証拠を追っていた。


「カイルが、街道で妙な答え方をしたと聞きました」

 セレナがカイルを見る。


「仕方ないでしょう」

 カイルは少し不満そうに答えた。


「嘘はつけません。でも、本当のことも言えませんでした」


「本物なんじゃないか、は下手だったと思う」

 フィナが言った。


「フィナ」

「お母さんも言ってたよね?」


「本人の前で言う必要はありません」

「言っていたことは認めるんだ」

 カイルが深く息を吐く。


「その話は、今しなくてもいいだろ」


 わずかに。

 部屋の緊張が緩んだ。

 セレナを見る。

 なぜ。

 彼女は最初から。

 自分へ敵意がないと分かった。

 なぜ。

 俺を知っているような目を向けた。


「私は」

 セレナが静かに言った。


「他者の技能を見ることができます」

 その瞳に、淡い光が宿る。


「姿や名前で隠しても、魂へ刻まれた技能は消えません」

 視線が。

 白い小鳥へ向いた。


「このお方には」

 一度。

 息を整える。


「《女神の従魔》という技能が刻まれています」

 部屋の空気が止まった。


「女神の……従魔?」

 カイルが息を呑む。

 フィナの目が、大きく見開かれる。


「それって……」

 家に伝わる物語と。

 目の前の白い鳥がつながったのだろう。


「アッシュ様……?」


 その名が。

 胸の奥へ届いた。


 アッシュ。


 エリシアがくれた名。

 長い間。

 誰にも呼ばせなかった名。


「私は幼い頃、エリシア様にも同じ力を使いました」

 セレナの視線が、遠い記憶へ向く。


「ですが、当時の私には、見えた文字の意味が分かりませんでした」


 後に学び。

 古い技能の記録を調べ。

 初めて理解した。


「エリシア様ご自身も、知らなかったはずです」

 顔を上げる。


「自分の魂に何が刻まれていたのか」


「自分が、何に選ばれていたのかも」

 セレナの瞳が、静かに揺れる。


「エリシア様の魂へ刻まれていた技能は――《女神》」


 エリシアは。

 自分を女神だと名乗ったことなどない。

 英雄と呼ばれることさえ、望んでいなかった。

 ただ。

 目の前にある命を守るために剣を取った。

 人間であろうと。

 魔族であろうと。

 助けを求める者へ、手を伸ばした。


「そして」

 セレナが俺を見る。


「《女神》の傍らで」


「共に戦い続けた存在へ刻まれていたものが――」


 一度。

 言葉を切る。


「《女神の従魔》です」


 長く。

 名前のなかった力が。

 初めて形を持った。


(《女神の従魔》)


 エリシアも知らなかった名。

 俺も知らなかった名。

 それでも。

 二人で歩いた時間を示す名前だった。

 白い羽根が、一枚落ちる。

 隠していた力が。

 セレナの言葉へ応えるように。

 小さな身体の奥から、あふれ出した。


「下がって!」


 護衛の一人が叫ぶ。

 黒い影が床を覆う。

 影の中を、金色の紋様が走った。

 翼が広がる。

 光を吸い込む夜空のような、黒い羽根。

 その間を。

 星の軌跡に似た金の光が流れている。

 翼をわずかに動かしただけで。

 部屋全体の空気が震えた。

 剣を持つ者たちが息を呑む。

 だが。

 敵意はない。

 殺意もない。

 ただ。

 長く隠されていた存在が。

 本来の姿へ戻った。

 セレナは逃げなかった。

 フィナを背へ隠すこともしない。

 巨大な黒い鳥を。

 正面から見上げている。


「やはり」

 声が震えた。


「アッシュ様なのですね」

 答えられない。


 人の言葉を話せないからだけではない。

 その名を。

 自分が受け入れてよいのか分からなかった。

 セレナは静かに頭を下げた。


「生きていてくださったのですね」


 感謝される資格などない。

 エリシアを守れなかった。

 彼女の選択を奪った。

 帰る道を閉ざした。

 首を横へ振る。

 セレナは。

 その意味をすべて理解したわけではないだろう。

 それでも。

 無理に感謝を押しつけなかった。


「私は、エリシア様に救われました」


 炎。

 瓦礫。

 震えていた魔族の少女。


「私だけ逃げ遅れてしまって」


「人間からも、憎まれていました」

 それでも。

 エリシアは手を差し出した。


「その手を取ったことで、私はここまで来ることができました」


 セレナは、周囲を見る。

 人間と魔族が。

 同じ机を囲む部屋。


「ルミナス商会は、エリシア様が作ったものではありません」


 セレナ自身が選び。

 仲間を集め。

 築いたもの。


「ですが、その始まりにあったのは」

「あの方が、私へ差し出してくださった手です」


 ようやく理解した。

 エリシアの願いは。

 血だけに受け継がれたのではない。

 救われた一人の少女が。

 自分の意思で選び直し。

 人間と魔族をつなぐ場所を作った。


(エリシア)


 お前が望んだものは。

 消えていなかった。

 俺は。

 自分がすべてを壊したと思っていた。

 帰る道も。

 家族との時間も。

 未来も。

 だが。

 知らなかっただけだった。

 世界は。

 エリシアのいない場所でも進んでいた。


(俺は、《女神の従魔》)


 黒い翼を見る。

 金色の紋様。

 魂へ刻まれた技能。

 エリシアの隣で戦った時間は。

 消えない。

 間違いだけではない。

 楽しかった。

 大切だった。

 今も。

 大切なままだ。

 黒い身体が、ゆっくりと縮み始める。

 金色の光が薄れ。

 影が床へ戻る。

 黒い羽根を、白が覆っていく。

 やがて。

 机の上に残ったのは。

 いつもの小さな白い鳥だった。


「ぴよちゃんに戻った」

 フィナが目を瞬く。


 フィナを見る。

 セレナを見る。

 カイルを見る。

 ここに残れば。

 エリシアの家族を守ることができる。

 《女神の従魔》として。

 本物の血筋のそばにいる。

 それが正しいようにも思えた。

 償いになるようにも。

 だが。

 その考えが浮かんだ瞬間。

 別の顔が浮かんだ。

 傷だらけの少女。

 寝台の上で。

 俺が戻ることを待っている少女。

 自分の名前を、自分で選んだ少女。

 命を奪った重さを、誰かへ押しつけず。

 それでも、生きようとしている少女。


(違う)


 俺は。

 エリシアの家族へ仕えるために、ここへ来たのではない。

 真実を知るために来た。

 そして。

 知った。

 エリシアの願いは。

 俺が抱え続けなければ消えるものではなかった。

 彼女の血も。

 彼女が救った者も。

 それぞれの選択として。

 未来へ続いていた。


(俺は、《女神の従魔》だ)


 その過去を。

 もう否定しない。

 忘れようともしない。


(だが、今は)


 英雄の物語へ戻るのではない。

 エリシアの血筋へ。

 新しい役割を求めるのでもない。


(ミリアの従魔)

 小さな白い翼を広げる。


(ぴよちゃんだ)

 窓へ向かった。


「待って」

 フィナが声を上げる。

 振り返る。


「もう行くの?」

「ぴ」


「どこへ?」

 答える代わりに、窓の外を見る。

 セレナは、すぐに理解したらしい。


「待っている方がいるのですね」

「ぴ」


 セレナは引き留めなかった。

 英雄の従魔だから。

 エリシアの家族を守れとは言わない。

 自分たちのそばにいるべきだとも。



「「行ってらっしゃい」」



 フィナがそう告げたとき

 エリシアからそう言われた気がした。


「また、いつか」


 一回だけ鳴く。

 白い翼で。

 窓から夜空へ飛び出した。

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