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女神の従魔  作者: 梅椿 六花
第五章 英雄の孫
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第38話 黒い鳥

 迎賓館の窓は閉じられていた。

 俺は屋根へ降り、中の気配を探った。

 一階に護衛が数人。

 二階に二人。

 最も奥の部屋に、レオンがいる。

 窓の外には見張りがいない。

 英雄の孫を襲う者などいないと信じているのか。

 あるいは。

 白い鳥が自分から来ると、最初から考えていたのか。

 壁へ下り、影を窓枠へ差し込む。

 留め金を外す。

 音を立てずに窓を開いた。

 部屋へ入る。

 厚い絨毯。

 大きな寝台。

 机の上には、町の地図と名簿。

 いくつもの名前が並んでいた。

 その横に、別の名前が書き足されている。

 元の名前には線が引かれ。

 レオンが与えた名前へ、書き換えられていた。

 若い剣士。

 歌い手。

 魔物を連れた旅人。

 ミリアだけではない。

 名簿の端には。


『ミリエル』


『白き翼ルクス』


 すでに、俺たちの名前もあった。

 椅子に座っていたレオンが顔を上げる。

 眠ってはいなかった。

 黒い外套を身につけ、片手に杯を持っている。


「来たか」


 驚いていない。

 むしろ。

 待っていたように笑った。


「ルクス」

 返事はしなかった。


「やはり、あの娘より俺を選んだんだな」

 レオンは杯を机へ置く。


「賢い判断だ」


 片方の眉が、わずかに上がる。

 口元に浮かぶ笑み。

 その一瞬に。

 また、エリシアの面影が重なった。

 胸の奥が強く痛んだ。

 レオンは椅子から立ち上がる。


「ちょうどいい」

 机の名簿を閉じた。


「ミリエルの説得には、もう少し時間がかかると思っていた」

 窓辺の俺へ手を伸ばす。


「先に、お前から役割を教えてやろう」


 足元で。

 白い羽根の影が、静かに広がった。

 レオンの手が止まる。

 小さな鳥のものではありえない影が。

 壁を這い。

 床を覆い。

 部屋の天井まで届いていく。

 俺は、レオンを見つめた。

 ルクスではない。

 英雄の血を導く鳥でもない。

 ミリアから離れ、レオンを選んだわけでもない。

 かつて。

 エリシアから名を与えられ。

 その人生を守るつもりで。

 彼女の選択を奪った黒い鳥。

 今度こそ。

 誰かに与えられた役割ではなく。

 自分で選んだことをするために。

 影の中で。

 白い羽根が、一枚ずつ黒へ戻り始めた。

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