第22話 旅立ちの決断
ミリアは町へ一週間ほど滞在した。
襲われた村に親類はいなかった。
町の役人は、しばらく保護施設で暮らすよう勧めた。
仕事を見つけるまで面倒を見るとも言われた。
ミリアは、すぐには断らなかった。
一度、施設を見学した。
戦争で故郷を失った者。
魔物に家族を奪われた者。
事情は違っても、帰る場所をなくした子供たちが暮らしている。
悪い場所ではなかった。
食事がある。
寝床がある。
読み書きや仕事も教えてもらえる。
そこへ入ることを選んでも、誰も責めないだろう。
(安全ではある)
町の壁に守られている。
兵士もいる。
盗賊が簡単に入り込むこともない。
だが、施設から出たミリアは、長い間黙っていた。
「……ぴよちゃん」
(何だ)
「私、ここに入った方がいいと思う?」
判断を求められた。
俺はすぐに答えなかった。
(俺に決めさせるな)
そう言いたくなる。
だが、ミリアは決断を押しつけているのではない。
意見を聞こうとしている。
施設を見る。
次に、ミリアを見る。
最後に首を傾けた。
「分からない?」
(お前が何をしたいかによる)
「……そうだよね」
ミリアは自分の手を見た。
「ここにいれば、安全だと思う」
(ああ)
「仕事も教えてくれるって」
(悪くない)
「でも」
腰の剣へ触れる。
「ここにいたら、外へ出るのが怖くなりそう」
(怖くてもいい)
「うん。怖くてもいいんだけど」
ミリアは、施設の中から聞こえる子供たちの声へ耳を傾けた。
「私、知りたい」
(何を)
「外が、どうなっているのか」
ミリアが知っていたのは、生まれ育った村だけだった。
次に知ったのは、村を壊した盗賊と、自分を助けた白い鳥。
世界がそれだけだとは思いたくない。
「村を襲った人たちみたいな人ばかりなのか」
「助けてくれた兵士みたいな人もいるのか」
「人間と魔族が一緒に暮らす町も、本当にあるのか」
(ある)
俺は見た。
同じ街道を歩く人間と魔族を。
エリシアの像へ、ともに花を置く者たちを。
「自分で見たい」
ミリアは言った。
「それから、何をするか決めたい」
施設へ入れば、一つの道が与えられる。
悪い道ではない。
だが、ミリアが望んでいるのは別の道だった。
「だから、旅を続けたい」
(そうか)
「危ないと思う?」
(危ないに決まっている)
「やめた方がいい?」
俺は黙った。
ミリアは弱い。
戦い方も知らない。
金も、ほとんど持っていない。
安全だけを考えるなら、施設へ入るべきだ。
(だが)
危険だからと、ミリアの代わりに道を閉ざすのか。
それでは、以前と同じだ。
翼を広げ、ミリアの肩へ移った。
「一緒に来てくれる?」
(今はな)
ミリアの顔が明るくなる。
「じゃあ、行く」
(決めるのが早い)
「ぴよちゃんがいるから決めたんじゃないよ」
こちらの考えを読んだように言う。
「一人でも行きたかった」
(本当か?)
「でも、一緒の方が嬉しい」
(それならいい)
ミリアは施設の職員へ、自分の決断を伝えた。
職員は心配し、何度か考え直すよう勧めた。
それでも最後には、旅に必要な食料と地図を渡した。
「困ったら、いつでも戻ってきていいからね」
「はい」
「戻ることは、負けることじゃないよ」
ミリアは、その言葉を覚えるように頷いた。
「覚えておきます」
俺も覚えることにした。
戻ること。
助けを求めること。
それも、自分で選ぶ道の一つなのだ。




