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女神の従魔  作者: 梅椿 六花
第三章 白い鳥と少女
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第21話 選ぶための強さ

 ミリアが村の襲撃を町の兵士へ伝えると、すぐに調査隊が組まれた。

 生き残っていた盗賊たちは捕らえられ、村人たちの墓も、後日あらためて整えられることになった。

 ミリア自身は町の治療院へ運ばれた。

 額の傷。

 脇腹の切り傷。

 両手の擦り傷。

 命に関わる怪我ではなかったが、疲労と空腹が重なっている。

 寝台へ横になるなり、ミリアは丸一日近く眠り続けた。

 俺は窓辺から、その様子を見守っていた。


(よく眠るな)


 そう思いながら、何度も呼吸を確かめる。

 胸は上下している。

 熱も下がり始めていた。

 傷口も悪化していない。


(大丈夫だ)


 分かっている。

 ミリアは眠っているだけだ。

 朝になれば目を覚ます。

 それでも、確かめずにはいられなかった。

 エリシアの最期以来。

 誰かが眠っている姿を見ると、次の呼吸が来るまで目を離せなくなっていた。

 治療師が部屋へ入るたび、俺は窓辺で身構えた。

 包帯を替える。

 熱を測る。

 水差しを置く。

 それだけだと分かっていても、視線を外せない。


「ずいぶん懐かれているのね」

 女性の治療師が、小さく笑った。

(懐いていない)


「その子が運ばれてきてから、ずっとそこにいるでしょう?」

(見張っているだけだ)


「あなたが守ったの?」


 白い鳥から答えが返るとは思っていないのだろう。

 治療師はミリアの額へ手を当てる。


「熱はもう大丈夫そうね」

(そうか)


「起きたら、消化のよいものを食べさせましょう」

(頼む)

「ぴ」


 小さく鳴くと、女性が目を丸くした。


「返事したみたい」

(偶然だ)


 治療師が部屋を出ていく。

 静けさが戻った。

 ミリアは眠ったままだ。

 寝台の脇には、村から持ち出した短い剣が立てかけられている。

 古く、刃こぼれもある。

 盗賊との戦いでは、満足に振るうことすらできなかった。

 それでも、ミリアは手放さなかった。


(強くなりたい、か)


 町の門で聞いた言葉を思い出す。

 自分で選べるくらい。

 そのために強くなりたい。

 力がなければ、選べない場面は確かにある。

 逃げるしかない。

 誰かへ任せるしかない。

 あるいは、目の前で何かを失うしかない。

 エリシアは強かった。

 強かったから、多くの者を助けられた。

 だが。

 強かったからこそ、誰も彼女を止められなかった。


(強ければ、それでいいという話でもない)


 力は選択肢を増やす。

 同時に、背負うものも増やす。

 ミリアがそこまで理解しているのかは分からない。

 すべてを失った直後の勢いで言っているだけかもしれない。


(それでも)


 ミリア自身が選んだ言葉だ。

 俺が否定することではなかった。

     ◇

 翌朝。

 ミリアは目を覚ました。

 最初に天井を見る。

 次に、包帯の巻かれた自分の身体を見る。

 最後に、窓辺へいる俺へ目を向けた。


「……ぴよちゃん」

(起きたか)


「いた」

(どこへ行くと思った)


 ミリアが小さく笑う。


「昨日も、いてくれたの?」

(仕方なくだ)


「ありがとう」

(礼を言うほどのことではない)


 窓辺から寝台の端へ移る。

 顔色を確かめる。

 まだ少し青い。

 だが、意識ははっきりしている。


「心配してくれてた?」

(していない)


 ミリアが顔を近づける。


「してた顔だ」

(鳥の顔から何が分かる)


 以前も、同じことを言われた。

 胸の奥がわずかに痛み、俺は顔を逸らした。


「……ぴよちゃん?」

(何でもない)


 ミリアはそれ以上、追及しなかった。

 代わりに、寝台の脇へ置かれた剣を見る。


「私、もっと強くならないと」


 目を覚ましたばかりなのに。

 昨日と同じ言葉を口にした。


(本気らしいな)

「次は、自分で戦えるように」

(次など来ない方がいい)


「来ないかもしれないけど」

 ミリアは剣へ手を伸ばした。

「来たときに、何もできないのは嫌」


 柄を握る。

 包帯の下が痛んだのか、表情が少し歪んだ。

 それでも、手を離さない。


「誰かに全部任せて、後ろから見ているだけも嫌」

(全部やるなと言ったのは、お前だ)


「ぴよちゃんが助けてくれたから、私は生きてる」

 ミリアがこちらを見る。

「でも、ずっとそれだけじゃ駄目だと思う」

(駄目ではない)


 助けられることは悪くない。

 助けを求めることも。

 誰かへ頼ることも。

 エリシアは、それが苦手だった。

 一人でできることまで手を出すなと言いながら、本当に苦しいときほど助けを求めなかった。


(ミリアまで、そうなる必要はない)


 だが、自分で立ちたいという気持ちも否定するべきではない。

 俺は短く鳴いた。


「ぴ」

「応援してくれる?」

(まだ何も言っていない)


「じゃあ、決まり」

(何がだ)


「傷が治ったら、剣の練習をする」

(まずは飯を食え)


 ちょうど扉が開き、治療師が食事を運んできた。

 柔らかく煮た麦と野菜。

 少量の肉。

 ミリアの腹が、小さく鳴った。


「……今の、聞いた?」

(聞いた)


「忘れて」

(無理だ)

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