第19話 盗賊
朝。
ミリアは日の出とともに目を覚ました。
見知らぬ家の天井を見上げる。
次に周囲を見回す。
何が起きたのかを思い出したらしい。
表情が曇った。
それでも、泣かなかった。
机にいる俺へ気づく。
「……いた」
(雨が止むのが遅かっただけだ)
「おはよう、ぴよちゃん」
(その名前を定着させるな)
ミリアは立ち上がり、荷物をまとめ始めた。
食料。
水。
布。
小さなナイフ。
持ちすぎれば歩けなくなる。
何度も袋の中身を入れ替えていた。
最後に、壁へ立てかけられた短い剣を見る。
村の誰かが使っていたものだろう。
鞘には傷があり、柄も古い。
ミリアは剣を持ち上げた。
少し重そうだった。
(使えるのか)
腰へ差そうとするが、帯の位置が合わない。
何度かやり直し、どうにか固定する。
「町へ行く」
(そうか)
「ここのこと、伝えないと」
正しい判断だった。
町へ着けば、村人たちを正式に弔ってもらえる。
盗賊のことも知らせられる。
「一人でも、行ける」
自分へ言い聞かせている。
俺は窓辺へ飛んだ。
(なら、ここまでだ)
ミリアは荷物を背負い、家を出た。
村を離れる前に墓へ寄る。
「……行ってきます」
並んだ土の盛り上がりへ、深く頭を下げた。
「ちゃんと、戻ってくるから」
声は震えている。
だが、足は止まらなかった。
街道へ向かって歩き出す。
俺は屋根の上から見送った。
(あの道なら)
半日ほど歩けば、小さな町へ着く。
途中に分かれ道はあるが、標識も残っている。
危険な魔物の気配もない。
(大丈夫だ)
ミリアは、自分で行くと決めた。
俺がついていく必要はない。
白い翼を広げる。
ミリアとは反対の方角へ飛び立った。
空へ上がる。
村が小さくなる。
街道を歩くミリアの姿も、次第に遠ざかる。
(これでいい)
関わりは終わった。
助けはした。
だが、行き先も人生も決めていない。
ミリア自身が選んだ。
(今度は、間違えていない)
胸の奥へ、わずかな安堵が生まれる。
その直後。
森の中に、複数の人間の気配を感じた。
街道の先。
馬が三頭。
人間が五人。
全員、武器を持っている。
ミリアが進んでいる方角と重なっていた。
(旅人か)
そう思おうとした。
だが、風が匂いを運んでくる。
血。
酒。
焦げた布。
村に残っていたものと同じ臭い。
(盗賊)
村を襲った者たちが戻ってきた。
奪い残した物を探すためか。
生存者がいないか確かめるためか。
(ミリア)
考えるより早く、翼が動いていた。




