同盟
「よく来たな、機国の王よ」
ここは帝国の王の間。
帝国王ヒエン・リンカンは、豪華な装飾が施された玉座に腰掛けながら、正面に立つ人物へ声をかけた。
「久しぶりだな、ヒエン」
応じたのは機国王トーマス・アルヴ。
丸い鉄製の乗り物に腰掛けており、足元のプロペラが回転することで宙に浮いている。
「アンタから呼び出しを受けた時は驚いたがな。話の内容くらいは予想できているぞ」
ヒエンはゆっくりと立ち上がる。
その身長は二メートル近くあり、鍛え上げられた肉体は王というより武人を思わせた。
「単刀直入に言おう。以前から持ちかけられていた同盟の話――受けることにした」
トーマスの目がわずかに細くなる。
「ようやくその気になったか」
「待たせたな」
「つまり近いうちに超国へ攻め込むつもりなんだな?」
トーマスは機嫌の悪そうな顔のまま確認する。
「あぁ。こちらの戦力もようやく整った。仕掛けるなら今しかあるまい」
ヒエンは不敵に笑った。
「だが王国の預言者、マルジンには気を付けろ。あの老婆は厄介だ。この同盟もいずれ察知されるだろう」
トーマスが掠れた声で忠告する。
「分かっておる。だからこそ猶予は与えん」
ヒエンは腕を組む。
しばしの沈黙。
そしてトーマスが口を開いた。
「ならば決行は十日後だ」
「十日後か。いいだろう」
ヒエンは即座に頷く。
「機国は王国を攻める。帝国は超国を攻める。それで構わんな?」
「問題ない」
トーマスは乗り物のレバーを操作する。
すると側面から金属製のアームが伸び、一つの通信機を差し出した。
「通信機だ。何かあれば連絡しろ」
「助かる」
ヒエンは通信機を受け取る。
そして口元を吊り上げた。
「次に会う時は、この世界から二つの国が消えた後だな」
その言葉にトーマスは何も返さない。
ただ静かに乗り物の向きを変え、そのまま部屋を後にした。
重い扉が閉まる。
一人残されたヒエンは、手の中の通信機を見つめながら笑った。
「さて――戦争の始まりだ」
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王国の円卓の間では、アース王と十騎士が円卓を囲むように座っていた。そのアース王の隣には、一人の老婆が立っている。
「マルジン殿の占いで、帝国と機国が同盟を結ぶという予兆が見えたそうだ。近いうちに帝国は王国へ攻め込んでくるかもしれん」
アース・ペンドラゴン。
王国の王であり、頭には王冠を戴いている。金髪の天然パーマが特徴の中年男性だ。
「このままでは王国の地があやつらに荒らされてしまう。こちらも超国と同盟を結ぶべきじゃ」
マルジン・エムリス。
ぼさぼさの白髪をした老婆で、齢は百を超えている。手には水晶の付いた杖を握っていた。
「それはババァが言ってるだけだろ。予知が絶対ってわけじゃねぇんだから、信じすぎるのも危ねぇんじゃねーか?」
アース王の左隣に座る男が、マルジンに向かって攻撃的な口調で言う。
カイ。
アース王と同じく中年の男性で、短い白髪が特徴だ。
「カイ! マルジン様に向かってその口の利き方はダメだろ!」
注意したのは、アース王の向かい側に座る男だった。
トリストラム。
三十代ほどの男性で、茶髪のオールバックと長い顎が特徴である。
「しかし、超国との同盟はかなり難しいと思います。神教の信徒が過半数を占める我が国が超国と同盟を結べば、国内は大混乱になるでしょう」
続いて発言したのは、トリストラムの右隣に座るレイモラックだった。
茶髪のパーマヘアで二十代後半ほどの男性。左目が白一色なのが特徴である。
「それに、マルジン様の占いはいつ起きるかまでは分かりません。同盟を結んだとしても、その状態が長期間続く可能性もあります」
レイモラックに続いて口を開いたのは、トリストラムの左隣に座るボーマンだった。
円卓に座る者の中では最年少で、中性的な顔立ちをしているため性別が分かりづらい。
「ですが、機国と帝国に同時に攻め込まれた場合、同盟を結んでいなければ二国を相手に戦争をすることになる可能性があります」
ボーマンの左隣に座るペルスヴァルが低い声で言う。
大きなローブを深く被っており、顔はほとんど見えない。
「機国だろうが帝国だろうが関係ねぇ! 俺様が全員ぶっ飛ばしてやるよ!」
大声を張り上げながら立ち上がったのは、ペルスヴァルの左隣に座るゴーヴァンだった。
金髪の坊主頭で、年齢は二十代前半ほど。しかし老け顔のせいで実年齢よりかなり上に見える。
「ゴーヴァンは少し黙っていなさい。あなたは考えることが出来ないのだから」
呆れたように言ったのは、レイモラックの右隣に座るモードレッドだった。
腰まで届く長い金髪が特徴で、ゴーヴァンの体格と比べると三分の一ほどしかないほど細身である。
「でも超国と同盟を組むとなったら、教会は勇者を貸してくれなくなりますよね? それは結構な痛手になると思うな〜」
明るい口調で発言したのは、ゴーヴァンの左隣に座るギャラハッドだった。
編み込まれた赤髪が特徴で、おしゃれな印象を受ける青年だ。
「教会としては、この土地を王国が支配しようが帝国が支配しようが関係ありませんからね」
穏やかな口調で話したのは、ギャラハッドの左隣に座るパティピエールだった。
十騎士の中で最年長。スキンヘッドに左目の縦傷、そして失われた左腕が、数多の戦場を生き抜いてきたことを物語っている。
「ランセロット、お主はどう考える?」
皆の意見を聞き終えたアース王は、右隣に座るまだ発言していない人物へ視線を向けた。
「超国と同盟を結べば敵は減ります。しかし同時に国内にも敵を作ることになるでしょう。今は内乱の火種を抱えるべきではないと考えます」
全身鎧に身を包み、一切肌を見せない騎士。
ランセロットが静かに進言する。
「なるほどな。超国との同盟はリスクが大きすぎるという意見が多数か。であれば同盟は見送る。ただし、戦争が近いうちに起こることを想定し、兵たちには準備を整えさせておけ。皆、良いな!」
アース王は全員の意見を聞いた上で結論を下した。
騎士たちは静かに頷く。
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会議が終わると、部屋にはアース王とマルジンだけが残った。
「申し訳ありません、マルジン殿。せっかく機国と帝国の同盟を予知していただいたのに、結局何も出来ませんでした」
アース王は申し訳なさそうに頭を下げる。
「良いのじゃ。戦いの準備をさせることが出来ただけでも十分価値はあったじょ」
マルジンは気にした様子もなく答えた。
しばらく沈黙が流れた後、マルジンはアース王を真っ直ぐ見つめる。
「アース王よ。そなたには死相が見える。決して前線には出るんじゃないじょ」
その言葉にアース王は苦笑する。
「私が国民に何と呼ばれていると思っているのですか?」
アース王は窓の外に広がる城下町へ目を向けた。
「臆病王ですよ。前線になんて出ませんよ」
そう言って笑うアース王の横顔を、マルジンはどこか不安そうな目で見つめていた。




